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#90

アパート2戸を取り込んだ 図書館のような神楽坂の家

戦前から続く花街、神楽坂。最盛期には150軒を越える料亭が立ち並んでいたこの街も、時代と共にその様子を変え、路地裏に残る石畳が往時の賑わいを今に伝えています。
今回は、そんな神楽坂の細い路地に囲まれた住宅街を訪ねます。Kさんご夫妻と2匹の猫が暮らすのは、もともとご主人の祖父母が住んでいた家。かつては平屋の隣に2階建てが増築されており、その一部を2戸のアパートとして借しだしていました。Kさんご夫妻は、ご主人が学生時代を過ごしたそのアパートで新婚生活を始めましたが、夫婦二人での暮らしには十分な広さとはいえず、しばらくしてお二人は都内のマンションに越すことに。そして7年前、Kさんはこの物件を譲り受けることになり、再び神楽坂に戻ってきたのです。しかし、築50年以上が経つ平屋部分は老朽化が激しく、アパートの方も耐震面で不安を抱えていました。建て替えも視野に入れたKさんでしたが、ご家族の思い出がたくさん詰まったこの家を大切に残すため、リモデルする事にしたのです。隣家が迫り、風通しや採光の問題も抱えていたK邸ですが、アパートを住居に取り込むことで広さを確保し、思い切って古い平屋建てを減築することに。そこに庭を造ることで、家中に光や風がまわり、本好きのご夫妻が家のどこにいてもゆっくりと読書を楽しめる、まるで図書館のような贅沢な空間に生まれ変わりました。
昔ながらの家々が軒を連ねる住宅密集地にぽっかりと現れた、日だまりのような庭。そこに揺れる柳が、神楽坂の街になんともよく似合います。かつては2戸のアパートと住居部分に細かく区切られていたK邸ですが、それぞれを仕切っていた壁を取り払い、明るく開放的な大空間に。1階は、平屋を取り壊して出来た庭との一体感を出すため、およそ10帖ほどもある土間をつくりました。ここはK邸の重要な生活動線となっているため、土間の下には全面床暖房をいれ、冬場でも快適に過ごせるようになっています。
一方、2階の床は幅広の杉材を選択。階段や吹き抜けを通して上がってくる1階からの暖気や、南向きの窓から差し込む陽光がもたらす暖かさを、しっかりと維持してくれる素材です。そんな2階の壁をぐるりと取り囲むのは、ポプラ材の棚板。そこにはご夫妻のお気に入りの本がずらりと並び、まるで図書館の中で暮らしているかのような気持ちにさせてくれます。棚の最上段はキャットウォークになっており、愛猫たちが元気に家中を駆け回れるようにしました。
ご自身のライフスタイルに合わせ、あえて減築することで豊かな暮らしを手にしたKさんご夫妻。日々表情を変える庭の緑を愛でるのが、新たな楽しみになったようです。
 
設計担当:荒木毅建築事務所
http://www.t-araki.co.jp/

【平面図】

1F before

1F after

2F before

2F after