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#88

昭和の面影を大切に残した池上本門寺のそばの家

五反田と蒲田を結ぶ東急池上線は、日蓮聖人入滅の地・池上本門寺への参拝客を運ぶために大正11年に開業しました。池上駅から続く参道には古くからの商店が立ち並び、今も変わらぬ賑わいを見せています。
 今回は、そんな池上に建つ、昭和初期の懐かしい趣あふれるお宅を訪ねます。こちらのA邸には、ご夫妻と3人のお子さん、そしてお父様の6人が暮らしています。Aさんが子どもの頃に、お父様が知人から譲り受けたこの家は、洒落たダイニングや高い天井、ステンドグラスなど、和洋折衷の意匠を残した美しい造りでした。しかし、およそ80年の時を経て、水まわりの設備は痛み、隙間風からくる冬の寒さは厳しく、また間取りはAさんご家族の生活スタイルに合わないものでした。さらに構造面では、所々で歪みや沈下がみられ、耐震面に大きな不安があったのです。建て替えも検討したAさんですが、お父様の代からこの家に残る思い出や、古い家に愛着を抱いていたお子さんたちのためにも、リモデルすることにしました。家全体から漂う、時間の経過でしか造りだすことの出来ない味わいを大切にしながら、快適で安心して暮らせる家を目指したのです。
 木製の窓枠にはめられた型板ガラスや天井の名栗仕上げ、黒光りする建て付けの家具たち。Aさんご家族が集うダイニングには、まるでタイムスリップしたかのような空気が流れ、来訪者を和ませます。建築当初の面影を多分に残したこの場所は、以前は隙間風が入り込み、朝には外気温と同じくらいまで温度が下がっていたそうです。しかし、既存のサッシの外側から新たにサッシを取り付けて二重サッシにしたり、家の雰囲気に合わせて風合いを出したタモのフローリングの下に床暖房を取り入れたりするなどして、かつての家の雰囲気を大切に残しながら、快適な住空間を実現しました。
 ダイニングの隣にあるライブラリーは、親子5人それぞれの勉強スペース。天井に施された舟の底のような意匠は、もともとこの場所が浴室だった頃の名残です。長い年月を経て、黒く汚れていましたが、リモデルを機に丁寧に磨き直し、生まれ変わったA邸のシンボルとなりました。
 ご自身が育ったこの家の環境を、子どもたちにも味合わせたかったとおっしゃるAさん。歪んだガラスや傷の残る建具を愛おしみ、大切にする心は、家中を元気に駆け回る子どもたちに、しっかりと受け継がれているようでした。
 
設計担当:リオタデザイン http://www.riotadesign.com

【平面図】

before

after