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#84

スパイラルルーフが光を招き個性を奏でる鎌倉の家

古都・鎌倉の象徴、鶴岡八幡宮を南に下れば、そこに広がるのは由比ヶ浜の海。冬の澄んだ空の下には、波を待つサーファー達や砂浜を歩く人々の姿があり、夏の賑わいとはひと味違う、落ち着いた湘南の景色が広がります。
 今回訪ねるのは、そんな由比ヶ浜から程近くの閑静な住宅街に建つお宅。こちらにはKさんと奥様、そして建築家の息子さんとピアニストの娘さんの4人家族が暮らしています。およそ60年前にKさんのお父様が建てたこの家を、Kさんのご結婚やお子さんの誕生など、家族構成の変化に合わせて増改築を繰り返しながら住み継いできました。しかし時は流れ、ご両親は他界し、家の老朽化も目立ってきました。さらに、K邸の周囲にはマンションが建てられ、それによって日差しが遮られるだけでなく、上からの視線が気になるようになってしまいました。また、自宅でピアノ教室を開く奥様のレッスン場が家族の生活動線上にあり、公私の境がつけられないという問題も抱えていたのです。そこでKさんご家族は息子さんの設計により、リモデルすることに。これらの問題をすべて解決するため、息子さんがひねり出した答えは、なんとも大胆なものでした。既存の建物をベースにしながら、かつてご両親が暮らしていた平屋部分を解体し、そこに螺旋状にせり上がっていく棟を増築することにしたのです。この斬新なアイデアで、湘南の潮風と陽光をうまく取り入れ、家族それぞれが自分の時間を満喫できる家が生まれました。
 中庭を囲むように、上へ上へと螺旋を描きながら建物が伸びていくK邸。「スパイラルルーフ」と名付けられたこの構造により、周囲からの視線を遮りながらも、風が通りぬけ、家中に光がまわるようになりました。スパイラルの出発点は、かつて家族の憩いの場となっていたLDKです。壁の一部を取り払い、広々と使える息子さんの建築事務所にリモデルしました。以前はリビングの隣にピアノが置かれていましたが、スパイラルの一部として練習室と、発表会も開けるホールを増築。奥様も娘さんも、音漏れを気にすることなく、好きな時間に好きなだけピアノを弾けるようになりました。このホールから徐々にスパイラルの上昇が始まります。ホールの階段をあがった先は、書斎スペースに。奥様の奏でるピアノが聴こえるこの部屋で、中庭の緑を愛でながら本を読んだりアルバムを整理したりと、ご主人の寛ぎの空間が出来ました。そして書斎からさらに階段を上がれば、寝室へとたどり着きます。その寝室から繋がる屋上がスパイラルの最高点。鎌倉の山々や由比ケ浜を見渡す、贅沢な場所です。
 家族それぞれがそれぞれの場所で、それぞれの時間を楽しみながらも、螺旋というひとつながりの空間でしっかりとつながっている。ひとつの理想の家の形を実現させた、素敵なリモデルでした。
 
設計担当:工藤宏仁建築設計事務所
http://kojikudo.com

【平面図】

1F before

1F after

2F before

2F after

中2F after