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#57

そこかしこに居場所のある凸凹の家

東京都練馬区石神井台は、武蔵野の豊かな自然が残る石神井公園や、のどかな畑が広がる緑あふれる街です。今回は、この街にご夫婦で暮らすMさんのお宅を訪ねます。
築25年、木造3階建てのお宅にお住まいのMさんご夫妻は、お二人で建築事務所を開いています。共に関西のご出身ですが、7年前、ご主人が東京の大学で教鞭をとることとなり、この街に越してきました。当初は賃貸マンションで暮らしていましたが、「そろそろ持ち家を」と考えたMさん。関西に比べて土地の値段が高い東京では、新築を建てるより中古住宅を改修した方がコストもかからず、また、ご自身のアイデア次第で面白いことができると考えていました。物件探しのポイントは、ズバリ「へんな物件」。そこで出会ったのが、マンションのすぐ近くに建つこの家でした。以前の所有者も建築家だったというこの家は、増改築が繰り返され、とても奇抜なつくりをしていました。そんな家を見て、建築家としての創作意欲が掻き立てられたというMさん。リモデルで、ご夫婦共通の趣味である本や音楽、アートが楽しめる家を目指しました。
中2階に玄関があるM邸。そこからは、吹き抜けから明るい光が差し込む2階が見渡せます。すでに改修が施されていた2階と3階は、使えるものはそのまま残し、キッチンなど一部分をリモデルするのみに留めました。ご主人が大学の講義で作成した椅子や家具が、既存の間取りにアクセントを加えています。
細かく仕切られ、昼間でも暗く湿気がこもりやすかった1階は大胆に間取りを変更することに。可能な限り壁を取り払い、ワンルームのようにしました。柱と柱の間には棚板を取り付け、見せる収納にすることで、風がよく通り、視線も抜ける快適な空間へと生まれ変わりました。また、階段の蹴込み板を外したり、室内から庭まで伸びるテーブルを設置したりするなどし、各階や外とのつながりも大切にしています。
斬新なアイデアがたくさん詰まったM邸は、学生たちにとってこれ以上ない教材です。ここを訪ねる学生たちに先生の想いがしっかりと受け継がれ、さらに面白いものを私たちに届けてくれるのではないでしょうか。
 
水谷俊博建築設計事務所
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