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#53

明るく介護できる五反田の家

JR山手線と都営浅草線が交差する五反田は、東京駅へも新宿駅へも電車で約15分。交通の便の良さから、ビジネス街や繁華街として栄えてきました。近年は副都心の一部として再開発が進められている注目のエリアです。今回は、日々刻々と変化を遂げるこの町で、親子3代に渡って酒屋を営むKさんのお宅を訪ねます。
90年以上前に祖父がこの土地で店舗を構えてからKさんで3代目。以前は店舗の近くで奥様と3人のお子さんと暮らしていました。1階が酒屋の倉庫、2階から上が住居部分になっているK邸。時代の流れと共に家の周りを囲む高層ビルの陰になり、日が当らず湿気がたまりやすいという問題を抱えていました。また、3人のお子さんの独立後は、店舗の上に住む高齢のご両親のことが気がかりでした。そこでKさんご夫妻は住居をリモデルしてご両親と同居することに。家の問題点を改善しながら、車いすが必要になってきたお父様の介護を、家族みんなで楽しみながらできる家を目指しました。
ビルの陰に隠れ、昼間でも暗く、冬は特に寒さが厳しかったK邸。床には断熱材を敷き詰めることにしましたが、それでは天井高が低くなってしまいます。そこで、天井の筋交いが作る三角形をデザインとして活かし、折り上げ天井にすることにしました。これにより空間に広がりが生まれ、さらに天井に吸湿性の高い漆喰を塗ることで、同時に湿気の問題も解消しました。また、天井に仕込まれた間接照明が部屋全体を照らし、日差しが差し込まなくても明るい空間が実現しました。リビングと父母の部屋は、ルーバーを縦に取り付けた扉で仕切り、キッチンやリビングで作業をしながら気配を感じられるようになっています。
お父様の介護がしやすい工夫も随所に施されています。車いすでの移動が中心となるため、バリアフリーにすることはもちろん、コンセントを床の一部に埋め込むことで、ケーブルが床を這うこともなく、スムーズに移動ができます。また、水回りでも介護がしやすいよう広いスペースを確保し、車いすに乗ったまま入浴や洗面ができるようになりました。
明るく快適になった家には、3人のお子さんたちもよく集まります。うまれたばかりの孫を囲むKさんご一家には、素敵な笑顔がとてもよくお似合いでした。
 
設計担当:冨川浩史建築設計事務所
http://www.siestaweb.jp/