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#191

中国軍機が台湾防空識別圏に… 統一シナリオの中身

中国軍機が台湾の防空識別圏に、過去最大規模での進入を繰り返しました。中国の習近平国家主席は改めて「統一は必ず実現」と明言しています。2021年10月10日の『BS朝日 日曜スクープ』は、中国軍機侵入の状況を分析し、中国が描く統一シナリオを分析しました。

台湾有事については、こちらの報道でも特集しています。
■2021年4月4日
米中対立の中での日米首脳会談 台湾有事のとき日本は・・・
https://www.bs-asahi.co.jp/sunday_scoop/interview/80/
■2021年4月18日
日米首脳会談で「台湾」言及 中国はどう見たのか!?
https://www.bs-asahi.co.jp/sunday_scoop/interview/82/

■「LINE個人情報」報道が新聞協会賞の意義

上山

中国軍機が台湾の防空識別圏へ過去最大級の進入を繰り返しています。きょうはそこから見えてくる、中国側の狙いを分析して日本の安全保障を考えていきたいと思います。ゲストは朝日新聞編集委員の峯村健司さんです。よろしくお願いいたします。

峯村

よろしくお願いいたします。

上山

峯村さんと言えば、こちら3月17日朝日新聞の1面トップのこの記事です。タイトルが「LINE個人情報保護 不備 中国委託先で閲覧可に」。このスクープから始まった朝日新聞社のLINEの個人情報管理問題、そして関連報道が今年度の新聞協会賞を受賞しました。この一連の調査報道を担当してきたのが、きょうのゲストの峯村さんです。改めて新聞協会賞の受賞、おめでとうございます。

峯村

ありがとうございます。

上山

LINEのアプリは私たち非常に馴染みがあって、便利だなと思って使いながらも、確かに個人情報はどうなっているのかなと思っていたところでした。中国の委託先から閲覧可能になっていたことが非常に驚きだったわけですが、これを通して中国との向き合い方、関係性は考えさせられました。

峯村

そうですね、米中担当のあなたがなぜこのLINEの報道をしているんだというツッコミを皆さんからいただきました。でも実はこの問題は中国問題と経済安全保障に関わる問題なんです。実際、朝日新聞の「経済安保 米中のはざまで」という企画の取材過程で見つけたんです。

上山

1つの情報、疑問を端緒に、徹底して調査した結果のスクープということでしょうか。

峯村

そうです。いわゆる調査報道という泥臭いやり方です。中国のインターネットを調べまくった結果、、報道後、「自分たちのデータが中国に閲覧されてもいいじゃない」と言う人も結構いたんです。しかし、実は1つ大きな問題があって、2017年に中国が国家情報法という法律を作っているんです。国がやるスパイ活動に、個人も企業も協力しなさいという法律があるところから、アクセスが出来ていたということが問題なのではないのかというのがこの報道の最初の端緒でした。

上山

この問題は非常に奥が深いと思います。機会があればぜひ、この問題も深堀りしていきたいと思います。

■習近平国家主席「統一は必ず実現」

きょうは中国報道のスペシャリストの峯村さんと、そして、前統合幕僚長の河野克俊さんもいらっしゃいますから、危機感の高まっている台湾情勢について、しっかりと解説をしていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。まずはこちらの映像をご覧ください。こちらは台湾での軍事パレードの様子です。きょうの映像です。きょう10月10日は、台湾が建国の日としている祝日なんです。

きょうの祝賀式典で蔡英文総統は「我々の主張は現状維持だ。我々は攻撃的にはならない。だが、台湾の人々が圧力に屈するとは決して考えてはならない」このように話しました。

菅原

その一方で昨日、中国の習近平国家主席は、清王朝が倒された辛亥革命から100周年を記念する式典の中で「祖国の完全統一という歴史的任務は必ず実現しなければならず、必ず実現できる」と語りました。

上山

まずは中国の習近平国家主席のコメントですが、祖国の完全統一は必ず実現できるとなっています。どのように受け止めていらっしゃいますか。

峯村

強いメッセージだなという印象があります。ただ、習近平国家主席はこうも言っているんです。「中国人民の国家主権や領土を守り抜く不屈の決心や強大な能力を見くびるな」と、こういう強い調子でも言っているところがかなり印象的です。特に中国は、習近平氏が一番、権力を握っている、「一強」と呼ばれている状況。この習氏が必ず統一すると言ったら、皆、下の人は、軍も含めてやらなければいけないというモードになってしまうというところがこのコメントの一番、肝だと思っています。

菅原

台湾側としては非常に危機感を持つ場合もあると思いますが、河野さんは蔡英文総統の言葉をどのように見ていらっしゃいますか。

河野

極めて今まで通りの、常識的な、アメリカとも、おそらくコミュニケーションを取った上でのコメントだと思いますので、そういう意味では新たなものを打ち出しているわけではないですね。極めて常識的な、台湾の立場を説明したということだと思います。

■過去最多の中国軍機が台湾の防空識別圏に

上山

その台湾ですが、ここのところ中国軍機による防空識別圏への大規模な侵入で、台湾では緊張感が高まっています。きょうはここを詳しくお伝えして、中国側の、台湾に対する具体的な軍事圧力の姿勢に注目したいと思います。

菅原

台湾国防部の発表に基づいて説明します。まず侵入した軍用機の種類から見ていきたいと思います。まずは左上からです。戦闘機であり地上爆撃も可能なJ-16戦闘爆撃機、そして右です。旧ソ連が開発し、中国が採用したSu-30戦闘機。左下に行きます、地上の施設を爆撃するためのH-6爆撃機。右に移りまして海の中の潜水艦を探知するためのY-8対潜哨戒機も加わっていました。さらに右上です、迫ってくる戦闘機をいち早くレーダーで見つけるためのKJ-500早期警戒管制機。こういうものが侵入してきたということです。

続いて侵入ルートを確認していきます。こちらも台湾国防部の発表ですが、色分けされています。4日間に分かれています。10月1日から4日となりますが、それぞれ真ん中やや右下に見えるのが台湾です。侵入してきた方向と戻った方向をそれぞれの戦闘機が表しています。

例えば10月1日の場合は中国機、台湾の南西部の防空識別圏に侵入してその後南東方向に進みました。ある地点で折り返しまして、同じ方向に引き返していることが分かっています。赤と黒の線が2重に重なっていますけれど、赤がJ-16戦闘爆撃機、黒がH-6爆撃機。これがほぼ同じルートを飛行していたことが発表で分かっています。

そして後の3日間、2日、3日、4日ですが、南西部のみの侵入で引き返しているということです。ただ左下の10月3日からはY-8対潜哨戒機が加わりました。翌日4日もY-8対潜哨戒機も含めて5種類の軍用機が侵入しているということです。

では侵入した中国機の数と時間帯、その内訳を見ていきます。10月1日から38機、39機、16機、56機と1日辺りの侵入数が過去最多を更新しました。時間帯別で見てみると、3日を除いて、夜間にも防空識別圏に侵入していることが分かります。4日間の合計では149機に上りました。

■峯村氏独自取材“編隊を組んで進入”

上山

中国軍機の防衛、台湾の防空識別圏への侵入、本当に多様な航空機が使われていました。爆撃機、戦闘機、それから潜水艦を探知できるような飛行機なども組み合わせて飛行しているということですが、峯村さんは、中国軍機が複数侵入するときに、飛び方と言いますか、編隊について、新たな情報を取材の中で得たということです。それは一体どういうことなんでしょうか。

峯村

先ほど、ご説明があったルートと数、特に飛行機の種類と数でいうと極めて異例です。これまで私は、北京の特派員時代からあわせて16年間中国軍の動向を取材していますけれど、前例のない飛び方と言えます。数が相当多いというのが1つ。あともう1つ気になったのは飛び方ですね。今回、台湾軍とアメリカ軍の関係者から聞いた話を総合すると、今までは爆撃機が飛ぶときも、この爆撃機が単独もしくは少数の戦闘機が一緒に飛んでいたのがこれまでの中国軍の主な訓練だったそうです。

ところが、今回、爆撃機を中心に円陣を描くように、数多くの戦闘機J-16やSu-30が一緒に飛んでいるんです。先ほど、ご説明があった潜水艦を見つける対潜哨戒機も飛ぶ。周りに何が起きているかを見る早期警戒管制機も飛ぶと。いわゆる編隊を組んでいるわけです。これまで中国の中ではあまり出来ていなかった部分がこの訓練でかなりやっていたというのが1つ言えます。

あともう1つは夜間飛行です。特に夜間、夜に飛んでいる数が多いというところで考えると、河野前統合幕僚長、夜に飛ぶというのは昼よりも相当難しいんですよね。

河野

飛び方によって若干違ってきますけれど。

峯村

そうですよね、これまでの演習は昼がほとんどでした。台湾に爆撃機を飛ばす時も。昼は目で見ながら、おおよその距離を取っていたのが、夜飛ぶとなると見えないので、レーダーなどで距離を図らないといけないということは、相当難しい。実は、日本も米軍と夜間飛行で共同訓練をやったというのが、私の記憶では2017年の東シナ海でB1というアメリカ軍の爆撃機と自衛隊のF15が夜間訓練をやったのが初めてです。日米でも難しい夜間訓練を今回、中国軍が特化した実施したことが特徴だと思います。

上山

編隊を組んでいたというのは、何を意味するんでしょうか。

峯村

やはり本気度を示しているとみていいと思います。単純に爆撃機と戦闘機だけで飛んでいる時は見世物、相手にプレッシャーをかけるだけというところがあります。一方、編隊をやるということは、実戦を想定した、戦うことを想定した動きだと見ていいと思います。

■「日米英の訓練を意識」「明らかに戦闘訓練」

上山

具体的な軍事的な行動を意識した上でのフォーメーションに見えると。

峯村

そうですね。特に先ほどの飛行ルートがすごく気になっていることがあります。10月4日が1番多く飛んでいたというところを見ていただくと分かると思いますが、10月1日と1つ違いがおわかりだと思います。1日の時は少し曲がって台湾の南側を飛んでいるんです。

菅原

南西側から南東側に回り込むようになっていますね。

峯村

10月4日にどうして台湾の南側まで飛ばなかったのか。実は同じタイミングでアメリカ、イギリス、自衛隊などの艦隊が演習をやっていました。艦隊はちょうど10月1日くらいが沖縄から台湾の東側を通っていました。10月4日くらいになると台湾のちょうど南側、フィリピンとの間のバシー海峡から南シナ海に入った時だったんです。10月4日を見ていただくと、まさにバシー海峡に入ろうとしていたアメリカを中心とした艦隊に対するプレッシャーをかけていた。逆に言うと、台湾の南東のほうまで回り込めなかったのは、そこまでアメリカの空母艦隊が来ていたことが理由だったようです。

上山

こういうことも読み取れるということですが、河野さんは、峯村さんの取材で様々なポイントが明らかになりましたが、どんな点に注目されていますか。

河野

私が受ける印象は、明らかに戦闘訓練をやっていると思います。

上山

戦闘訓練をやっていると。

河野

はい。台湾を対象にした戦闘訓練をここで実施したということだと思います。

上山

ズバリそういう風に言えるんですか。

河野

はい。そういうフォーメーションを組んでいるということもありますし、爆撃機を護衛するような形の編隊で動いていますよね。爆撃行動に対する戦闘訓練をしたんだと思います。

上山

峯村さんはどうなんでしょう、ここ最近になってこういう変化があったということなんですか。

峯村

かなり増えていますね。特に編隊訓練は私が見ていると、数年前までは中国の沿岸部分をちょこちょこと演習していて、多分自信がなかったんですね。それが段々段々、海洋に繰り出してきていると考えると、練度が相当上がってきているということが言えると思います。

■元米国防総省高官が警戒する“電撃的占領”

上山

今回の、中国軍機の台湾の防衛識別圏での大規模な侵入について、台湾の対応ですが、非常に危機感を強めています。

菅原

台湾の国防部長は、「中台関係は過去40年で最悪の状態で偶発的な攻撃が生じるリスクもある」「中国はすでに台湾侵攻の能力を持っており、2025年までには、台湾を全面的に侵攻する能力を持つ」としています。

上山

峯村さん、先ほどご紹介いただいたように、今回、台湾の防衛識別圏に侵入している中国軍機は、フォーメーションを組んでいると、それが非常に具体的な軍事行動を意識した、実戦的なものだと分析していますけれども、台湾への軍事行動に踏み切る場合のシミュレーションと考えていいんでしょうか。

峯村

そうですよね、これは明らに台湾を軍事侵攻するための演習、シミュレーションをやっていると見ていいと思います。先日、私、アメリカの国防次官補代理をやっていたエルブリッジ・コルビーに取材をしました。

彼は、中国というのは戦略的な競争相手であると認定した国家防衛戦略を作ったアメリカ政府高官です。彼が言っていたのが、いったい中国はどう軍事侵攻を台湾にするんだろうかと尋ねると、中国軍が電撃的に台湾を占領して、台湾の政権を崩壊させる。あるいは屈服させるだろうと言っていたんですね。なので、やはり爆撃機とかを使ったりして、電撃的に短期間で軍事行動を起こして台湾の政権を歯向かえないようにするということを考えてるんではないかということを、アメリカの政府の高官も考えていると見ていいと思います。

上山

軍事的な行動というのは起こってほしくないなと思うわけなんですけれども、今、お話にあった、電撃的に台湾を占領する場合、アメリカとしては具体的にはどういったシナリオを想定してるんでしょうか。

峯村

そうですね、アメリカの軍や自衛隊もそうだと思うんですけれども自衛隊とかと一緒にいわゆるウォーゲームという戦争のシナリオをやっています。私も中国軍の色んな資料とかを読み解いたうえで言うと、おそらく最初は、いきなりミサイル撃つとかそういう話ではなくて、海上封鎖、自由に船が移動できなくしたりとかする形で、少しずつ圧力を上げていったうえで、中国は今、ミサイルの能力を非常に上げてますので、まずミサイルによって台湾の重要な軍事施設ですね、空港とか港とか、あとは、軍事のレーダー施設とかをピンポイントで破壊すると。それによって台湾軍が自由に船に出したりとか戦闘機を飛ばしたりできなくする状況において、爆撃機が大規模な攻撃をすると。その上でおそらくパラシュート部隊とか、揚陸船を使って中国兵を台湾に上陸させるというような、3ステップのシナリオを考えているんではないかと見ています。

上山

先ほど、国防に関するアメリカの政府高官が、その電撃的な戦略・占領というのを想定しているというお話ありましたけれども、電撃的な、と言うのは、どのくらいのスパンを考えているのでしょうか。一回オペレーションが始まったら、どのくらいで終了するイメージなんでしょうか。

峯村

なかなか難しい、分かっちゃうと電撃じゃなくなっちゃうんですけども、なかなか難しんですが、あえて言うと、私はおそらく一週間弱じゃないかと見てます。

上山

短期なんですね。

峯村

はい。根拠は2つあります。1つは、中国軍が2019年の7月から8月にかけて、史上最大規模の台湾進行演習というのをやったんです。これが大体、6日間かけてやったというシナリオでやってるんですね。最初の3日間から4日間かけて、先ほどのミサイルとか爆撃機を使って、台湾の軍事施設を破壊すると。2日か3日遅れて、その後上陸する訓練をやるという形でやってるんで、計6日間ぐらいだろうと。6日から7日間だろうと見てます。先ほどのコルビー氏も言っていたのは、なぜ電撃的じゃなきゃいけないかと言うと、実はポイントがアメリカ軍。中国が一番気にしているのは、米軍が助けるかどうかということなんです。なのでアメリカ軍の支援が来る前にさっさと終わらせてしまうというのが中国軍の一番の狙いだと思います。

上山

6日間ぐらいであればやっぱりアメリカの支援は難しい。

峯村

なかなか間に合わないと思います。距離的に中国の方が米軍よりもはるかに有利なので、中国軍の作戦はもっと早いかもしれません。

■「離島奪取の可能性も」焦点の東沙諸島

上山

台湾の空軍基地をまずは、無力化するというのが最初のポイントだというお話がありましたが、こちらが台湾の主な空軍基地です。一番大きいのがこちらですね、清泉崗飛行場が台湾最大の空軍基地、こういったところ、要所要所を押さえていくのがオペレーションのポイントということですが、河野さんは今、この峯村さんが示した台湾有事のシナリオについてはどんな展開を想定してらっしゃいますか。

河野

中国としてはですね、こういう電撃的な台湾本島への進行、一番手っ取り早いですよね。これは可能性としてはあります。あると思います。ただ色んな条件が揃わないと、なかなか踏み切れないことがあると思います。それとですね、あとはハイブリッド戦とか色々言われてるんですが、ひとつは離島奪取というのがあるんですよ。離島奪取というのは、台湾の南西のところに、まさに爆撃機が戦闘訓練やっていた、ほとんど下ぐらいのところに東沙諸島というのがあるんです。ここには民間人はいなくて守備隊が350人くらいいるらしいんです。ここだったら一気に占拠できますよね。ただ、ここは台湾の主権下にあるわけです。

そうなったときにどうなるかと言うと、ここは簡単におそらく中国は獲れると。となると台湾政府は自分たちの主権が犯されたわけですから、当然、奪回するというのが台湾政府の態度になるのがオーソドックスですよね。ただ、ここの時に台湾国内で、本当に離島のために、大陸中国と戦争するのかという反対勢力が出てくることが考えられるわけですよ。ここで台湾国内において、非常な、世論の分裂、そしてこのゆくゆくは、台湾政府に対する統治機構の問題等が問われて、臨時なんたら政府というのができ、それで中国を来てくださいというような形も考える。まさにさっき飛行ルートの真下にあるのが東沙諸島なので捨てきれないなと。

上山

10月4日の飛行ルートを見ると、防空識別圏の南西のところ、すぐ近くに東沙とありますね。ここから見ると、東沙諸島に対する軍事行動するためのシミュレーションと…。

河野

とも見えますよね。

上山

と考えて。

河野

分かんないです、そこは断定できません。とも見えるわけです。

上山

断定はできないけど。

河野

断定はできませんけどね。

菅原

この辺りに飛行ルートが集中していますね。

河野

だから、なぜ南西なんだという問題提起がありましたよね。一つの要素としたら、東沙諸島がそこに位置するということが事実なんですよね。しかも、これ東沙諸島というのは、台湾よりも大陸中国への距離が近いんです。なので中国として離島を奪取するとした時に、一番狙いやすい島だということは言えますね。

上山

そういうシナリオの確率というのは。

河野

あると思います。

上山

何%くらいっていうのはあるんですか。

河野

これであれば、なかなかアメリカは介入できないですよね。離島の問題で中国だ。これある意味の、一つのグレーゾーンということも言えますので、アメリカの介入を防ぐということもできますので、本格侵攻より、あるいは可能性は高いかも分からないですね。もちろん本格侵攻もあり得るんですよ。ただ、いろんな条件が揃わないとなかなかできないという面もあるので、色んな手を考えていると思います。

■強襲揚陸艦の就役と対潜哨戒機の進入

上山

一方でですね、中国は着々と海軍力の強化も進めています。

菅原

中国は今年4月に、ヘリコプターを30機搭載できるアジア最大級の、中国海軍初となる強襲揚陸艦を就役させました。上陸作戦の能力を向上させるとされています。さらに、大型ミサイル駆逐艦や原子力潜水艦を就役させています。河野さんは、中でも強襲揚陸艦の運用にあたっては、今回の防空識別圏侵入に加わった、Y-8対潜哨戒機が重要な役割を果たすと指摘していますが、どういうことですか。

河野

まず強襲揚陸艦については明らかに上陸するためのビークルなんですよね。

上山

規模大きくないですか。30機のヘリコプターが搭載可能。

河野

大きいです。ですから本格的な強襲揚陸艦ですよね。

上山

これ世界的に見ても。

河野

大きいです、立派なもんです。従って、これが使われるとなると、今、考えらえるのは、台湾以外にあまり考えられないですね、中国が使うとしては。だからまさに台湾用だということが言えます。あと対潜哨戒機につきましては、潜水艦が台湾海峡にいたら、部隊が上陸するにも潜水艦にやられちゃう。例えば強襲揚陸艦が行っても、そこに潜水艦がいたら沈められる可能性があるわけです。従って台湾海峡には、台湾の潜水艦もしくはアメリカの潜水艦がいないということを確認する必要があるわけです。そういう意味で対潜哨戒機で役割を果たすと。

菅原

ある意味セットということですよね。なので10月3日と4日にもY-8が飛んでいたというのが。

河野

やっぱ台湾侵攻する場合には、そこに潜水艦いるというのは非常に危険、不確定要素ですから、中国側にとっては。非常に危険な状況ですので、それはやっぱり潜水艦を見つけて、もしいたら叩く。あるいは、いないことを確認すると。

■「要請を受けた形で“内政”と…」グレーゾーン戦略

上山

中国軍機による、台湾の防空識別圏への侵入、河野さんは、軍事的な行動を想定しているだけでなく、政治的な狙いもあると指摘しています。『アンカーの眼』でお願いします。

河野

峯村さんが言われたように、本格侵攻、この可能性はもちろんあるんですが、これは内政問題だという色合いを出すためには、やはり、このグレーゾーンと言いますか、要は、台湾に臨時なんたら政府というのを作って、そして台湾側から要請があったという形にすれば、なかなかアメリカも介入しにくいということなんですね。香港の場合も、香港政庁の要請という形をやっぱり取っているわけです、香港にああいう法律をどんどん科していったということは。やっぱり内政問題で、お前ら絶対に関与するなという態勢を取るためには、このグレーゾーン。要は、内政の色合いを出すためには、そこに別の政府を立てて、その政府の要請で介入を求められたという形にするということも十分考えられますので、ここら辺も視野に入れた方がいいと思います。

上山

つまり国民の不満を高めていって、台湾内部から。

河野

そうですね。臨時革命政権とかですね。だから、先ほど言いました離島の防衛につきましても、国論が二分すると。そこにおいて、新たな政府を立ち上げるみたいな、当然、中国の工作で立てるんですよ、もちろん。選挙ではなくて。そういうようなやり方ですとか、色々と政治的なアプローチをかけてくる可能性もあるということですね。

上山

なるほど。そういった選択肢もありうるのではないかということなんですが、軍事的行動に至るのを防ぐためにも、抑止力の維持、向上が重要になってくるということです。峯村さんは、アメリカ軍の作戦も転換期を迎えていると指摘していますね。

峯村

今、河野統幕長がおっしゃったことは非常に重要なポイント、臨時政権の樹立というのは非常に重要なポイントだと思います。先ほどの習近平国家主席の宣言の中でも、台湾問題は純粋な中国の内政だと言っているんですね。ということは、あくまでこれは内政問題なんだと、これはあくまで台湾省の問題。究極で言うと、例えばミサイルを台湾に撃ってもこれは自分の領土の中で実験しただけですよ、ということも言いかねないわけですね。先ほども私、軍事侵攻と言いましたけど、おそらく中国が考えているのは、孫子の兵法がいう「戦わずして勝つ」やり方。つまり、血を流さないでどうやるかということを考えると、結構、台湾の、軍の、特にOBの方に色んな中国に呼んできたりとかして、いわゆる取り込み工作をやっているので、先ほど、河野さんがおっしゃったようにそういう臨時政府みたいなのを立てて、そこを助けに行く名目というのは、私も実は、一番可能性としては高いと見ています。

■中国軍のミサイル配備 米軍は原潜で対抗か

上山

アメリカ軍が今後6年以内に中国が具体的に動き出す可能性があるという話がありますよね、台湾について。まさにそういう事が今後、想定されるという事なんでしょうか。

峯村

十分ありうると思います。特に、単純にもう軍事バランスで見ていても、非常に台湾、もしくはアメリカ、日本を足したものと、中国を比べても、かなり中国が優位な状況になってきているんです。一番気になるのが、これをまず見て頂きたいんですけど、第三次台湾海峡危機というのが1996年にあったんですね。この時は、中国がここにミサイルを撃って演習をしたことに対して、アメリカ軍が空母2隻をここの台湾海峡の方まで派遣をして、それで中国がビビッてしまってやめたというのがあったんです。

ところが、じゃあ今、それが出来るかと言うと、かなり私は難しいと思ってまして、この中国のミサイルが相当、発達してますので、この第一列島線と呼ばれている、ここまではもう簡単にミサイルが届く。

上山

それは中距離ミサイル?

峯村

そうです。ここで言うと、空母キラーと呼ばれているDF-21Dと、空母を後から追いかけて破壊するミサイルも、ここだったら届く。さらにはDF-26という、グアムキラーですね。グアムまで射程に届くミサイルもあることを考えると、第二列島線内すらも今、アメリカの空母は入れない状況になりつつある。

上山

つまり水上から入ろうとしても、もう入れない。

峯村

そうですね。なので、これをじゃあどうするか、と言うと、潜るしかない。となってくると今、原子力潜水艦というのが非常に重要になってきているという流れになってきています。

上山

原子力潜水艦が非常に重要ということなんですけども、河野さんは、峯村さんの分析をどのようにご覧になっていますか。

河野

一理あると思います。アメリカも今、色々と戦略を考えてまして、海兵隊を、大部隊を集中的に運用するんじゃなくて、分散配備をして、脆弱性を分散させるとか、アメリカも今までにないような戦術を考えております。第一列島線の中に絶対にアメリカを入れないというのは中国の戦略なんですね。逆にアメリカは絶対にそこを突破したいと、今、そのせめぎあいだということですね。そういう中で原子力潜水艦というのは有効なものだということです。

菅原

その動きで言うと、先月、アメリカ・イギリス・オーストラリアによる軍事同盟であるAUKUSが発足し、アメリカの原潜技術がオーストラリアに供与されることになりました。この第一列島線から少し離れているオーストラリアも重要になってくるということでいいですか

河野

オーストラリアが太平洋問題に一枚噛んで来るかっていうのは、私はあまりないと思うんですよね。ただ、南シナ海のパトロールについて、オーストラリアの原潜がローテーションに入ってくるということは、アメリカと交代交代で、というようなことは、私はあるんじゃないかなと思うんですけどね。

菅原

峯村さんはどう見てらっしゃいますか。

峯村

そうですね、やはりアメリカ1国だけではなかなか厳しい状況になっています。今、まだ原子力潜水艦はアメリカ側が優位なんですけど、オーストラリアの原潜というのは、2030年以降を念頭にやっているですね。2030年代に入ると相当、中国も追い上げてきて、アメリカ側が抜かれるという焦りがこのAUKUSだと思ってます。それで言うと、本当に日本も他人事ではなくて、最大の抑止というのは、もう中国に、もし軍事的な行動に出たら失敗してしまうよと思わせることしかないと思ってるいので、そのための、いわゆる抑止力を上げることは、非常に重要な事だと思っています。

上山

河野さんは、こういった選択肢としての原子力潜水艦、日本について、どのように、ご覧になっていますか。

河野

やっぱり持つ場合は、アメリカの技術支援は必要になると思いますし、色んなこれを支えるためのインフラとか、物凄いかかるんですよ。だから、そういうのをトータルに、総合的に判断する必要はあると思います。

上山

今後、日本として安全保障の問題にどう対応していくのか、引き続き、岸田新政権になっても注目です。

(2021年10月10日)

台湾有事については、こちらの報道でも特集しています。
■2021年4月4日
米中対立の中での日米首脳会談 台湾有事のとき日本は・・・
https://www.bs-asahi.co.jp/sunday_scoop/interview/80/
■2021年4月18日
日米首脳会談で「台湾」言及 中国はどう見たのか!?
https://www.bs-asahi.co.jp/sunday_scoop/interview/82/