スペシャルアーカイブ一覧

#170

駐日ロシア大使「米国との敵対、我々が選んだ道ではない」

バイデン大統領は6月16日、スイス・ジュネーブで、就任後初めて、ロシアのプーチン大統領と対面での首脳会談を行い、核軍縮やリスク軽減措置を話し合う「戦略的安定対話」の創設で合意しました。2021年4月11日の『BS朝日 日曜スクープ』には、駐日ロシア大使館のガルージン大使が生出演。ガルージン大使は「米国との敵対関係は我々が選んだ道ではない」と強調していました。

■「プーチン大統領はご存じの国の大統領と違って…」

上山

さっそくゲストを紹介します。ミハイル・ガルージン駐日ロシア大使です。2018年3月に大使に着任、日曜スクープには過去にも、たびたび出演して頂いています。よろしくお願いします。

大使

こんばんは、よろしくお願いします。

上山

きょうは、ロシアが世界各国に供給している、新型コロナのワクチン、さらに、日本との平和条約交渉やバイデン新政権との今後を伺います。アンカーの杉田さんは、プーチン大統領が主宰する世界各国の通信社代表との会見に5回出席しています。プーチン大統領を直接取材して、どんな印象でしたか?

杉田

当然ながら非常に頭のいい方で明快明晰に質問に対してすべてお答えになる。よく政治家でいらっしゃるように、答えをはぐらかしたりとか、そういう事をされないです。その答えの内容は言うならばロシアの国益をストレートにおっしゃる方です。ですので当然ながら北方領土の問題や日本との平和条約の問題については、原則的で硬い表現になって、あまり我々が喜ぶようなことは言って下さらないんです。ただ、プーチンさんは柔道をやられてますし、日本のことを親日家というか、好きなんだろうなって思います。必ず私とのやり取りの最後には、安倍さん、安倍総理との友人関係と言いますか、リーダーシップを評価すると、尊敬するということもおっしゃってですね、そういう意味では云うならば、対外的に国益は貫くけれども、友好関係は悪化させないということをよく配慮された方だと思います。

ただ日本領土問題で求めている前向きなことは一切言ってくれませんね。

上山

いかがですか、大使。

大使

そうですね、プーチン大統領の外交経験が極めて豊かな経験でありまして、そして今、杉田さんのご発言にもありましたように、やっぱり相手国のことを肯定的に評価すると、相手側に礼儀正しく対応するということは、プーチン大統領のやり方でありまして、プーチン大統領は人間的にも政治的にも、とても礼儀正しくて丁寧な方で、ご存じの国のご存じの大統領と違って暴言をしていない性格です。

■「『スプートニクV』承認の60カ国で15億人」

上山

日本では明日(4月15日)から、高齢者への新型コロナのワクチン接種が始まります。一方、世界では、ワクチン不足が叫ばれ、ロシア製ワクチン「スプートニクV」に注目されています。イギリスの医学誌「ランセット」は、91.6%の感染予防効果を確認したという結果を掲載しています。

菅原

スプートニクVを承認している国を緑色で塗ってみたんですけど、例えば中南米ですとか、南アジア、アフリカ諸国などもありますし、さらにEU内で見てもヨーロッパ国内、スロバキアやハンガリーがすでに承認しています。さらにEU全体としてもすでに審査を始めていまして、先月30日には、プーチン大統領、ドイツのメルケル首相、フランスのマクロン大統領がテレビ会談を行い、スプートニクVの供給、それからEU内での共同生産について協議したということで、また広がってくる可能性があるわけです。

上山

どうなんでしょう?大使、この地図見ましてもロシアのスプートニクV、すでに59の国と地域で承認されているということです。いま感染症という緊急事態の中で国際協力のあり方、どのようにお考えですか?

大使

まずですね、若干修正をしたいと思いますが、先ほど入ったニュースによると、一つ増えました。すでに60カ国に承認されることになっています。ロシア側としては、すでに60カ国と協力を進めているわけです。その60カ国の人口は10億、15億人でありまして、かなり大きな規模であります。

ロシアの目的は、その各国とワクチンについて協力を進めることによって、この国際社会全体が直面しています新型コロナウイルス感染拡大というチャレンジにですね、効果的に対応する上で役割を果たすことであります。そして、我々が提案していますのは、ただ単にワクチンの輸出だけではなくて、それに伴う技術移転と現地生産の実施も提案しているわけです。もうすでに中国・インド・韓国・セルビアなどの6カ国とか、7カ国でですね、もうすでに現地生産について合意が出来ているか、あるいはもうすぐ合意ができそうです。もうすぐ製造が始まるというわけです。

■「ロシアは“ワクチン外交”やらなくても…」

上山

大使、これだけ国際的にワクチン提供をしていると、一方でロシアが影響力を強めるためとか、いわゆるワクチン外交ではないかという声も上がってくるとは思うんですけども、そういった声に対して大使はどのようにお考えですか?

大使

まずロシアはですね、いわゆるワクチン外交をやらなくても、世界的な影響力が十分高いと思います。例えば、シリアで国際テロをほぼ制圧することに成功したのはロシアであります。さらに、この間、南コーカサスで発した紛争の調定役を効果的に果たし、そして、その紛争を落ち着かせたのはロシアです。ですから、別にワクチン外交を使ってさらに影響力を高める必要はないんです。でも、もし、「〇〇外交」について言うと、私はこの間、こういう事を思い出しました。例えばアメリカでですね、アメリカが空母の大きさを念頭に置いて、外交の9万トン(=大型空母を象徴する言葉)という表現があるんです。つまりアメリカが「空母外交」を行なっているということに対して異議、異論がおっしゃった国々の中で聞こえてないと思います。ですから「空母外交」とワクチン外交という二者択一となると、私はやっぱりワクチン外交の方がはるかにいいと思います、「空母外交」より。

上山

平和ではないかという風な事なんでしょうかね?

菅原

そのワクチンという点で、日本に関しても伺いたいんですけど、先月、日本記者クラブで行われた大使の会見の中で、日本にもスプートニクVを供給したり、日本国内で生産することも協力できるという話がありました。現在の状況はいかがですか。

大使

まずですね、もうすでに新型コロナウイルスを叩く上で、日本とロシア両国が既に効果的に協力していることをまず申し上げたいと思います。昨年3月に日ロ合弁で対コロナウイルスの検査キットの開発と製造に成功しているからであります。

そして、私どもはですね、去年から日本政府に向かって、ワクチンの調達、技術移転、そして現地生産を進める上で協力する用意があるということを正式にお伝えいたしまして、日本政府の方から、日本国内で関心を示す企業がありましたら、登場しましたら、どうぞ協力してくださいというお答えがあったと私は思います。私もそういうふうに受け止めています。大変、肯定的な態度が示されて、日本政府に感謝したいと思います。そして今、その企業、関心を示し得る企業を我々は探そうとしているところでございます。

■“脱炭素”時代 ロシア経済の行方は!?

上山

杉田さんは、ここまでご覧になってていかがですか。

杉田

日本とロシアのさまざまな協力のことが常に話題になって、私もそれは重要だと思うんですけれども、今、世界では、脱炭素化の動きが凄く進んでますよね。そういう中で、最近、私が興味深いなと思ったのが、イギリスのシンクタンクが今年の2月に出したレポートで、脱炭素化によって大きな影響を受ける国々はどうすればいいのかということをアドバイスしているんですね。その中でロシアは化石燃料、つまり石油や天然ガスが大きな収入源になっていますので、今の脱炭素化、世界の脱炭素化のスピードで進んでいくと、2040年、20年後にはロシアの歳入、つまり国家収入は、5割近く減ってしまうという見通しを出しているんですね。その中で、ロシアは、脱炭素化への取り組みが遅いんじゃないかという指摘をしていて、そういう中でですね、日本も脱炭素化、これから進めようということでやってますので、そういう形での日ロ協力ですね、新しい脱炭素化の分野での日ロ協力というのは何か、良いアイデアじゃないかと思うんですけど、大使はどう思われますか。

大使

もちろん、日ロ両国が効果的に合理的に協力できる分野がとても多いです。今、おっしゃった分野、つまり脱炭素化という分野は、その1つだと私は思っております。ロシアはパリ協定の締約国でありまして、パリ協定に従って、自分の義務をこれから実施していきたいと思います。そして協力の有望な分野について言うと、それは化石燃料以外のエネルギー資源の開発、あるいは宇宙平和利用でありますけれども、ちなみに明日(4月15日)、世界で初めて宇宙飛行を行いましたロシアの宇宙飛行士ユーリ・ガガーリンの、世界初めての宇宙飛行の60周年記念日になっています。

そしてロシアのですね、日本とヨーロッパを結ぶ交通路をより効果的に活用する上で、日ロ協力もあり得るのではないかと思いました。例えば、シベリア鉄道とかあるいは北極海航路とか、そういうような分野が沢山あるんです。そして、「ロシア(経済)は困窮する」と言うことを西側の方からよく言われています。例えば、今おっしゃったロシアの化石燃料の輸出削減で、ロシアの収入が減っていくんじゃないかという議論が英国あたりにありますけれども、もうすでに7年ぐらい前に、ある国のある大統領はですね、ロシアの経済がボロボロになると予告をしていましたけれども、実際には、ロシア経済は大丈夫だというのは、発展のための能力、発展のためのポテンシャルが十分豊かですから、人材もあるし、教育体制もあるし、制度もあるし、経済問題の協力を政治問題化せずに我々と協力してくれる国もありますから、大丈夫だと思います。

■「日ロ関係の路線継承に満足」

上山

バイデン政権がスタートして世界が動き出しています。ここからは、日本とロシアの平和条約交渉の進捗について伺っていきます。

菅原

プーチン大統領は去年9月、就任直後の日本の菅総理と電話で会談しました。菅総理は「北方領土問題を次の世代に先送りすることなく終止符を打ちたい」と述べ、プーチン大統領は「2国間のあらゆる問題に関する対話を継続していく」と語った、ということです。そして両首脳は1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させる、とした、安倍前政権での「シンガポール合意」を確認したとしています。

上山

1956年の「日ソ共同宣言」では第9条で、「平和条約締結後にソ連は歯舞群島及び色丹島を引き渡す」としています。日本では、この9条に注目が集まりますが、ガルージン大使は、過去に日曜スクープに出演したとき、この第1条の「日ソ両国は戦争状態を終結し、平和及び友好善隣関係が回復される」という部分が重要と指摘してきました。ロシアと日本との友好善隣関係の進み具合、どのようにご覧になっていますか。

大使

まずですね、ここ8、9年間にわたりまして、日ロ関係が確か大きく前進してきましたということを、満足を持って申し上げたいと思います。それはまずプーチン大統領と安倍前総理との間の信頼対話の結果であると言っていいと思っております。そして今、上山さんが言及されました、プーチン大統領と菅総理との電話会談で日本側から、安倍総理とプーチン大統領との間に合意された日ロ関係の発展を目指す路線の継承性が確認されたことについて、私は満足の意を表明したいと思っております。

■「日ロ“発展”のポテンシャル まだ完全には…」

大使

プーチン大統領と安倍前総理との合意に従って、日ロ関係が大きく前進していました。例えば、政治・安全保障分野について言いますと、安全保障会議事務局長級の戦略安全協議が行われていますし、外務・防衛大臣の2+2会議も行われていますし、さらに外務省同士で、政治安全保障問題全般について協議が定期的に行われているなど、お互いに安全保障政策に関する認識が、大きく深まってきたと言っていいと思っております。それは地域の安全保障のためにも、日ロ間のさらなる関係の発展にも、とても有意義であると思っております。さらに経済分野について言うと、コロナの影響で去年ちょっと貿易高が減ってしまいましたけれども、貿易高が増えつつあった2020年まではエネルギー安全保障という分野において特に日露関係が大きく動きだしたと思います。ロシアはエネルギー協力を政治問題化せずに、責任ある、信頼できる輸出国・供給国であるということをヨーロッパでもアジア太平洋地域でも示しています。例えば、日本国内で消費されますエネルギー資源の6%ないし7%ぐらい、ロシアからの輸出によるものであります。そしてさらにロシアの北極圏で、日本とロシアの企業が豊かなガス田を開発し、LNGを北極海航路を通じて日本へ調達するというプロジェクトが開始、実施されつつありまして、2年後ぐらいに追加的に200万トンのLNGが日本に入るなど、日ロ関係が肯定的に動いているということをまず申し上げたいと思います。そして日ロ間の強力の有望な分野として、エネルギーだけではなくて、例えば交通分野における協力、先ほど申し上げましたロシア経由の協力も有望です。つまり日本からヨーロッパへシベリア鉄道とか、あるいは北極海航路を通じて輸出品を運ぶ、輸送するというのは強力の有望な分野であります。さらにIT分野においても協力ができると思います。例えばロシアと日本を結ぶ、ヨーロッパと日本を結ぶロシアを横断する光ファイバー線の敷設というプロジェクトも協議されています。さらに農業という分野も有望であります。ロシアから日本への食料品も輸出されるようになりました。

上山

様々な分野で経済協力が行われていて、友好善隣関係が進展してきたと…。

大使

本当は、日ロ両国の発展かつポテンシャルが完全に活用されているとはいえないのです、残念ながら。例えば2009年、2010年あたりは、日ロ貿易高は300億ドル以上でしたけれども、今は200億ドル以下になりまして、つまり、これから日ロ関係を発展させる、そして合理的な協力を進めるための余地が十分あると私は思っております。

菅原

日本側としては、今後の展開として気になるところは、平和条約交渉が進展してくるとなったときにどの段階から、国境の画定、この議論に入っていくのか、そのあたりのお考えはいかがですか。

大使

まずですね、シンガポール合意の趣旨を思い出してみますとね、日ソ共同宣言を基礎にして平和条約交渉を加速させるということなんですが、その日ソ共同宣言を見ますと、きょうもご発言がありましたように、共同宣言は日露友好善隣関係の回復、そしてその延長線上でいけば、そのさらなる発展をまず明記していると思っております。そして、まず友好善隣関係を積極的に進めなければならないと思っております。

さらにですね、日本で最も注目されています第9条を見ますと、平和条約の締結が必要であるということが明らかであります。その平和条約について、まず対話しなければならないのではないかと私は思います。その平和条約というものは戦争直後に結ばれている平和条約ではなくて、今まで日ロ両国間関係が65年間に渡りまして発展してきた実績、精神を反映させるような平和友好善隣協力条約、つまりもっと幅広い中身を持つ、もっと充実した中で条約であるべきなのではないかなと我々は思っております。そしてまず、その条約を締結するために、対話を進めなければならないんじゃないかと私は思っております。

■日米同盟の強化にロシアは!?

上山

まだまだ対話が必要だというお話がありましたけれども、日本とロシアの平和条約交渉、杉田さんはプーチン大統領にもインタビューされましたが、どのようにご覧になっていますか?

杉田

私はですね、今、新しい局面に入ってきていると思うのですね。先ほどガルージン大使もおっしゃられましたけれども、日本とロシアはかつて2+2をやっているんですね。これはまさに日本はアメリカやオーストラリア、あるいはヨーロッパ、アメリカの同盟国とやっているのですけれども、その枠組みをロシアとやっているんです。それはなぜやったかと言うと、やはり中国が非常に拡大してくるので、それに対して何らかの安全保障面でもロシアと協力できないかということが一つの狙いだったと思うんです。ところがその後、私がプーチンさんと色々お話した印象では、一つはロシアによるクリミアの併合という問題があって、ロシアに対してアメリカが制裁をかけましたた。日本はアメリカに付き合っていくということで、さらにはヨーロッパもロシアに対する制裁をかけると。アメリカとロシアの関係がどんどんどんどん悪化していったわけですね。一方で、中国はどんどんどんどん拡大しているということで、そういう中で中国とロシアとの関係が深まっていくと。日本は中国が正面にいますので、アメリカと関係を深めざるを得ないと、これは抑止力という意味で必要です。つまり日米関係はどんどん強まっていくと。一方で米ロ関係はなかなか問題があって前に進まないと。プーチンさんは日米同盟、日米安全保障条約があるということは、日本はアメリカと非常に関係が深いと、そういう日本との領土の問題も含めてですね、関係っていうのはなかなか難しいとおっしゃるわけですね。現状は、日米同盟はこれからどんどんどんどん深まっていって強化されていくわけなんですね。こういう東アジアの環境の中で日ロ関係は、どうあるべきかということなんです。つまり日米同盟が強固になればなるほど、ロシア側の立場からすると日本との関係を前に進めていくということは難しいとロシアの方は皆さんおっしゃるわけですね。そうなってくると、今の日本としてはなかなかロシアと関係を深めていくということが難しい状況に置かれてしまっていると思うんです。その辺りは、ガルージン大使はどのようにご覧になっていますか?

大使

まずですね、日本は主権国家でありまして主権国家としてどういう国と同盟をつくるか、どういう国を同盟国とするかを独自に決めるわけです。そのロジックでおそらく日本が米国と同盟関係を締約していると私は思います。しかし、我々にとって重要なのは、この日米同盟の一員でありますアメリカは、もう数年間に渡りましてロシアに対して敵対的な政策を行っているということです。そして、アメリカが日本も含めて世界各国で世界の多くの国々で、自分の軍隊を配備していますけれども、アメリカの敵対的な対ロ政策に照らして、軍隊がどの国で配備されているとしても、ロシアに対して安全保障上の脅威であるというのは明らかであります。それこそ日ロ関係を巡りまして、一つ、突出的な雰囲気を作り出しているのは確かです。

■「米国との敵対関係 我々が選んだ道ではない」

大使

アメリカとの敵対関係、対立関係というのは、我々が選んだ道ではないんです。ですから我々は、アメリカと協力する用意が十分あります。しかし、その協力は我々が本当に関心を持っている分野に限って行われるわけなんですね。そして、我々の利害関係、我々の国益を優先した形で行われるわけです。そして、アメリカとの関係を進めるために、やっぱり3つの原則が守られることが必要です。それはまず、内政不干渉、そして同等な対話、そしてお互いの正当な国益への尊重であると。その3つが守られればアメリカと協力ができます。そしてもう既に、そういう協力が可能であることをロシアが十分はっきりと示しています。

例えば、我々は数年間に渡りまして、この軍備管理において唯一な法的手段として残っていた戦略攻撃兵器削減条約の無条件の延長を提案していました。結局、アメリカ側が同意しました。それで今年2月、その条約が延長になりました。そういう形でアメリカと今後とも協力していきたいと思います。アメリカの方において準備があれば。

上山

16日には日米首脳会談が行われます。注目点は杉田さん、どのようにお考えになってますか。

杉田

ここはやはり中国に対してどういった共同歩調を取るかということになってくると思うんですね。その中で日ロ問題も、やはり今の議論にもあったように、やはり米ロ関係というのは、新STARTを突破口にして改善していかないと、米ロ関係である程度の信頼関係ができないと、なかなか日ロ関係が前に進むことは難しいと思うんですよね。ですので、そういった、この地域における戦略的な環境について議論をして欲しいなと思いますし、やっぱりバイデン政権が言うように中国が最大の課題であるという認識がアメリカにあるのであれば、その中で日ロ関係というのはどのように位置づけられていくのかと。つまり、日ロ関係を決定していくロシアとアメリカとの関係というのが、これまでのように敵対的な関係で果たして良いのだろうか、ということが重要な議題になっていくんだと思います。

上山

大使は、この日米首脳会談についてはどんな点について注目されていますか。

大使

それはまず、ロシアがそもそも参加してない首脳会談ですから。もちろん、その首脳会談がどういう結果をもたらすかということを、大使としてもちろん注視していきたいと思っております。先ほどの我々の米国の外交に関する考え方が、この日米首脳会談の結果の如何によって変わるかどうか、という観点からも注目していきたいと思います。

上山

日本としては今回、バイデン大統領が対面で初めて首脳会談をするのに日本を選んで、世界的にもメッセージとしては日米同盟というのはかなり強く打ち出されると思います。そういった点はやはり気になさるわけですか。

大使

それは日本が主権国家として選んだ道なんですが、我々が注目していますのは、アメリカが対ロ外交を、対ロ政策をどう進めていくか。引き続き、対立的で敵対的な政策を進めていくか。あるいは頭を冷やして冷静に対応していくかを注目したいと思います。

バイデン米大統領とロシアのプーチン大統領は6月16日、首脳会談を行い、新戦略兵器削減条約(新START)の5年後の失効を見据え、核軍縮やリスク軽減措置を話し合う「戦略的安定対話」の創設で合意したました。共同声明では、「核戦争に勝者はなく、決して行われてはならない」との原則を守るとしています。一方で、対米サイバー攻撃について、プーチン氏はロシア政府の関与を改めて否定しました。

■ナチス・ドイツによるソ連侵攻から80年の意味

上山

きょうはミハイル・ガルージン駐日露シア大使にスタジオで直接お話を伺っております。歴史を振り返ってみますと、ソ連に対してナチス・ドイツが侵攻したのが1941年の6月22日でした。凄惨を極めたとされる独ソ戦の開始から、今年6月で80年となるわけです。大使、ロシアでは、この2021年はどのように位置づけられているんでしょうか。

大使

おっしゃったように、祖国大戦争が始まった80周年記念日になりますけれども、それはロシアで「記憶と悲しみの日」として記念されています。なぜそういう名称を持っている日となっているかというと、ナチス・ドイツと同盟国を破って、戦争で勝利を挙げるために、2700万人のソ連共和国の国民が戦死した、あるいは死んだからであります。そして、その中で1900万人は文民でありまして、そしてその中で1300万人はドイツ軍、あるいはドイツ軍への協力者に殺された人たち、あるいは強制労働収容所で殺された方々などであります。ですから、残念ながらウクライナ、バルト諸国、ポーランド等々でその戦争への記念を消そうとする動きが見えています。特にナチス及びネオナチス思想を言伝し、ソ連兵士の記念碑を破壊する動きは許されないものであります。

(2021年4月11日放送)