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#173

熊谷6人殺害「証拠品」返却 今なお訴え続ける理由

2015年9月、埼玉県熊谷市で起きた連続殺人事件、熊谷6人殺害。妻と2人の命を奪われた会社員、加藤さんは警察から「証拠品」の返却を受け、事件当時、妻と娘が身に着けていた衣服などの遺品を直視しました。2021年5月2日『BS朝日 日曜スクープ』は、加藤さんと中継をつなぎ、「熊谷6人殺害その後」を特集。裁判員裁判での死刑判決を取り消した司法はこのままでいいのか、そして、逃走中のペルー人の男を参考人として手配していた警察は住民に十分な情報を提供したのか、今なお訴え続ける理由をお伝えしました。

 
2021年5月2日の放送内容は動画でもご覧いただけます。
⇒ 熊谷6人殺害 殺害された妻と娘の遺品
テレ朝news
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⇒ 熊谷6人殺害その後 今なお続ける闘い
テレ朝news
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遺族の加藤裕希さん本人のブログや、支援の呼びかけはこちらです。
⇒ 熊谷市6人殺人事件遺族 加藤 裕希
⇒ 熊谷6人連続殺人事件 国賠訴訟でのご寄付の受付について
 
「熊谷6人殺害その後」の特集は、こちらもご覧になっていただけます。
⇒ 2023年3月12日放送 熊谷6人連続殺害 “警察の対応を問う”遺族 控訴審が結審
⇒ 2023年1月22日放送 熊谷6人殺害その後 遺族が問う“新たな矛盾”県警幹部の法廷証言
⇒ 2022年10月23放送 熊谷6人殺害“警察の対応を問う”控訴審開始 遺族の決意と争点
「これ以上、遺族を見捨てないでください」熊谷6人殺害事件の遺族、加藤裕希さんの意見陳述全文
「地域の安全と安心を守るために…」熊谷6人殺害・国賠訴訟控訴審 橋本大二郎さん意見書全文
⇒ 2022年4月17日放送 熊谷6人殺害“遺族の訴え棄却”判決の論理
⇒ 2019年12月22日放送 熊谷6人殺害で死刑破棄 遺族が出演「司法にも心を殺されました」

■命を奪われた妻と娘の遺品

こちらは2013年9月29日の映像です。乳歯をいじる春花さん。

後ろで応援する姉の美咲さん。母親の美和子さんが撮影している映像には、幸せな家族の日常風景、仲睦まじい姿が記録されています。

そして2015年4月1日の映像。撮影しているのは同じく母親の美和子さん。この5か月後、3人は帰らぬ人となりました。

埼玉県・熊谷市の閑静な住宅街で起こった凄惨な事件。3日間で住宅3軒の住人、合わせて6人が殺害されました。

加藤さんの妻・美和子(みわこ)さんは、学校から帰ってくる娘たちを待っていたところ、自宅に侵入してきた犯人によって殺害され、その後、帰宅してきた美咲(みさき)ちゃん、春花(はるか)ちゃんの2人も犠牲となりました。

事件があった日付には子供の時間割なのか・・・、美和子さんが「5時間」と書きこんでいました。

ペルー国籍のナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン受刑者、当時30歳。民家の敷地に侵入したとして、熊谷警察署で事情を聞かれていたところ逃走。翌日以降、連続殺人事件を引き起こしていました。1審の裁判員裁判では死刑判決が言い渡されましたが、続く2審では犯行時、心神(しんしん)耗弱(こうじゃく)だったとして無期懲役。これに、検察側は上告せず無期懲役が確定しました。

検察の上告見送り後、『BS朝日 日曜スクープ』に出演した加藤さん。「被告人にも心を殺され、さらに今回、司法にも心を殺されました。(被告を)死刑にすることしか、父親として、家族3人のために、それしかできなかったので本当に今回は悔しいです」加藤さんは、記者会見やメディアの取材に応じ、「この国の司法は間違っている」と訴えてきました。2審判決では、長女・美咲ちゃんが性的被害を受けていたことについても言及していませんでした。

事件当初から取材してきた犯罪ジャーナリストの小川泰平さんが今回、改めて話を伺うと・・・

加藤

「やっぱりきちんと無期懲役なら、きちんとした、質問に対しての説明をやっぱり聞きたいと思いましたけど」

小川

「納得できてない?」

加藤

「はい。出来てないです」

事件で1人残され、裁判では納得いく判決が得られなかった加藤さん。今年に入り、改めて、犯罪被害の現実に直面しました。

加藤

「警察の方から連絡ありまして」

警察からの連絡。押収していた証拠品を返却するため、2月11日に受け取りに来て欲しいというものでした。3人の遺品です。

加藤

「事件起きた当初すぐに、そういった衣類品を預かってるっていう話はお聞きしてて。ゆくゆくは警察の方でお返しするって言ってたのを」「物は物だけに。ちょっと。一人で見るのもちょっと、辛すぎるかなと思って。一緒に行っていただきました。」

返却には事件後のケアをしてきた尼僧、齋藤寂静(じゃくじょう)さんが同行。今は、寂静さんが遺品を保管しています。

齋藤

「是非その時の思いというか、真実を見て欲しいと思います」

今回、加藤さんに許可をいただき、特別に遺品を見せていただきました。

小川

「これ奥さんのものだったのかな?」

齋藤

「これね。春花ちゃんと美咲ちゃんが その日に着ていたもので、包丁で切られた跡があるんです」

齋藤

「美和子ちゃんのはこれなんです。包丁の切った穴が後ろと前に開いていて。」

返却された数々の遺品。その一つ一つが犯行の凄惨さや残忍さを物語っていました。

齋藤

「やはりまだ切ないということで、じゃあ私は、ご納得するまで、ここに収めておきますということで。当初は紙袋に入れられて戻って来たんですけど。」

小川

「警察で受け取った時は、どのような感じで受け取ったんですか?」

齋藤

「(加藤さんは)あの徐々に、顔色が悪くなって、どうにかなっちゃうんじゃないかって見ていて思ったので、最後の最後の血液に染まった衣類とかを、子供たちの血痕がついた洋服を見た瞬間に、顔色が変わって倒れちゃうんじゃないかなっと私思って、もう止めてくださいって警察の方に言ったんですが」「でも、いかんせん本人しか確認できないので、ちょっと辛い時間を過ごしましたね。」

さらに、返却された遺品とは別に壁に飾られているものがありました。

齋藤

「加藤さんに聞きましたら、美和子さんが将来着たかったということで、ウェディングドレスを縫っていたということで」

結婚式を挙げていなかった加藤さん夫婦。妻の美和子さんは手縫いのウェディングドレスを作っていました。しかし・・・

齋藤

「見せていただいたら、裾の部分がまだやりかけだったので、未完成の部分を仕上げていただいて、綺麗にクリーニングさせていただいて、それでここに飾っているんですね。」

美和子さんが着ることが叶わなかったウェディングドレスを披露できたのは、四十九日の法要でした。

返却された遺品について加藤さんは

加藤

「服を見たときは本当に・・・、すごい怖い思いをして亡くなってたんだなって、悲惨な思いをしながら、亡くなっていたんだなと」

小川

「(遺品を)家に置いとくのはつらいですか?」

加藤

「そうですね。思い出してしまう。今も想像しかできないんですけど、そういったことも多分・・・」

ある日突然、何の前触れもなく奪われた幸せな日常。

小川

「こんなこと言うとあれですけど・・・、あれから5年半じゃないですか?」

加藤

「はい」

小川

「(美咲さんが生きていれば)もう高校生」

加藤

「2年生ですね」

小川

「春花ちゃんと同級生の子たちはもう中学生になってるわけですよね」

加藤

「うん」

5年5か月ぶりに家族の遺品が返ってきた加藤さん。犯罪被害の現実と、今なお続く戦いに向き合います。

■今なお問い続ける司法と警察の理不尽

上山

冒頭、ご覧頂いた VTR の中で、ご家族の方々、亡くなられた方々の、本当に穏やかな日常が広がっていて、そこから突然、命を奪われたという、その思いに至ると、本当に言葉が出なくなります。きょうは、ご遺族である加藤さんと一緒に改めて、この司法と警察、二つの理不尽について向き合っていきたいと思っています。加藤さんは、きょうは中継でご出演いただきます。加藤さん、冒頭からお辛い思いをさせて、本当に申し訳ありません。きょうは、どうぞ宜しくお願い致します。

加藤

宜しくお願いします。

上山

そしてスタジオにはですね、もう一方、加わっていただきます。この事件を発生当初から取材している元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平さんです。小川さん、どうぞ宜しくお願い致します。

小川

お願いします。

上山

まずこの事件ですけれども、発生から5年半余りが経ちましたけれども、被害者の遺族、加藤さんは、今なお戦い続けています。主に2点あるんですけども、一つが、刑事裁判の制度改正を訴えています。そしてもう一つが、事件当時の警察の対応。これをめぐって国家賠償請求訴訟を起こしています。

この二つについては後ほど改めてお伝えしますが、まずは加藤さん、事件から5年以上が経ちました。今なお訴え続けていらっしゃるのは、その心の底にどういう思いがあるからなんでしょうか。

加藤

そうですね。自分の命よりも大切な妻と娘のために、このままでは終われないという気持ちで、これからもどうにか報われるように頑張っていかなくてはいけないかなと思い、今も戦っています。

■「次女の犬のぬいぐるみが戻ってきて…」

上山

加藤さんのところには、今年2月、警察から証拠品の返却という形でご家族の遺品が戻ってきました。

菅原

戻ってきた証拠品ですが、事件当日に妻の美和子さんや長女の美咲さん、次女の春花さんが身につけていた衣服、それからバイロン受給者が犯行現場の血痕をぬぐうのに使ったタオルなどです。返却しますという加藤さんへの連絡は、1月の後半にあったということなんですけれども、加藤さんはこの連絡があった時には、どのようなお考えがありましたか。

加藤

まだ全部証拠品が戻ってきてないのは分かっていたんですけど、ようやく全部これで返ってくるのかなと思い、ホッとはしてないですけど、また辛い気持ちも蘇ってきますけど、その中で、次女が特に大事にしていた、この犬のぬいぐるみなんですけど、これを何回も警察の方にどこにいったんですかって聞いても、無いって言われてたんですね。それがようやく手元に帰ってきて、今、お仏壇のところに飾ってあるんですけど、これでようやく身につけていたものは、すべて帰ってきたんだなって実感が湧きました。

上山

その一つ一つ、ご家族の方々が身につけていたものが、関係していたものが、手元に戻ってきたということだと思うんですけども、事件の当日にお嬢さんが身につけていた、お二人お揃いワンピース、それから奥さまのお洋服ですとか、エプロンなども手元に戻ってらっしゃったそうですが、それについてはどのようにお感じになりましたか。

加藤

そうですね。見るのが本当に悲惨なほど、辛くて、なかなか1人で見ることができなく、当初から一緒に寄り添ってもらった支援センターの人と、一緒に行ったんですけど、衣類についた血痕から見たところ、妻も娘たちも恐怖と痛さの痛みの中で戦って亡くなっていったんだなと思うと、悲しみがすごく湧いてきて、言葉にならないくらい切なく思いました。

上山

本当にお辛い気持ち、話していただいて、本当に申し訳ございません。そういうこともあって今は、信頼できる方にその遺品の一部についてはお預けになさってるということです。

■遺品の状況からも「責任能力100%」

上山

きょうは、熊谷6人殺害事件のご遺族でいらっしゃる加藤さんとともにお伝えしています。加藤さんの元には、ご遺族の遺品、証拠品が手元に戻ってきたわけなんですけども、小川さんは、この返却された証拠品、元刑事としてご覧になって、どんなことをお感じになりましたか。

小川

はい。私なりに、この証拠品を見たときにはですね、この現場の様子と言うんですか、それがつぶさに、見えてきたという感じがしました。美咲ちゃんと春花ちゃんのお揃いのお洋服にはですね、包丁での傷の跡が、痕跡があるんですが、非常に数少ないんです。

上山

数が少ない。

小川

はい。そんなに、むやみやたらに刺しているのではない。しかし、よく見るとですね、襟の部分、つまり頚部ですね。そこをピンポイントで刺してるんです。非常に冷静だったんだろうな、容疑者は。奥さまの美和子さんの洋服を見るとですね、前面の胸の部分、もちろんなんですけど、背中からも刺されてました。多分、逃げたんだと思います。しかもトイレに逃げたということを後から聞きましたけども、そういう中で刺されていたと。それを見るとですね、この容疑者は、物の善悪はもちろんですけども、どこを刺させば殺害することができるかっていうことをよく分かってやってる。責任能力は、もう100%あるわけです。それはもう、これを見ただけでも明らかだなと私は思いました。

上山

そういうことをお感じになった。今回その責任能力というところが、裁判でも一つポイントになったわけですよね。

菅原

はい。小川さんがおっしゃっていました、ものの善悪、責任能力というところなんですけれども、東京高裁の判決を確認していきますと、責任能力、善悪を区別し行動する能力が著しく低下し心神耗弱だったとして減刑されていまして、一審の死刑判決を取り消したということになるわけです。加藤さん、小川さんはこの遺品の状況からバイロン受刑者、責任能力はあったんじゃないかと見ているわけです。加藤さんはこの点、どのようにお考えなんでしょうか。

加藤

そうですね。小川さんの話された通り、責任能力はあると思います。やっぱり娘たちに対しては、急所を狙った部分もありますし、とても責任能力がない人の行動ではないと思ってます。

上山

小川さん、最高裁でバイロン受刑者の無期懲役が確定したのが去年9月、そこから証拠品の返却となったわけですけれども、これは改めて、裁判が終わったということを意味する…。

小川

そうですね。色んな証拠品があるんですけど、それはやはり公判でいつ使われるか分からない。裁判員裁判ですから公判前整理手続というのを行ってはいるんですけども、その中で最高裁まで行くということを想定して、それは警察の方、検察庁の方で保管、お預かりをしているということだと思います。

上山

ただ加藤さんの思いとしては、ここで本当は、裁判を終わらせたくないという思いがあるわけですよね。

■「被害者にも上告権を私は望んでいます」

上山

加藤さんは司法制度の見直しというのを訴えていますけれども、まずこの事件をめぐって、加藤さんのお宅でのバイロン受刑者の行動を確認したいと思います。

菅原

一部聞くに耐えないような、おぞましい行為もあるのですけれども、確認していきたいと思います。まず、9月16日午後、受刑者は加藤美和子さんを殺害しました。その後、美和子さんの遺体を1階のクローゼットに運び、毛布をかぶせて、折り戸、扉を閉めて隠します。そして、学校から帰ってきた美咲さん、春花さんを2階で殺害。2階のウォークインクローゼットに2人の遺体を移動し、敷きパットをかぶせて隠します。午後5時27分頃、警察が加藤さんの自宅にいる受刑者を発見。2階の窓から転落したところで拘束しました。死刑判決を言い渡した一審では言及されていたのですが、高裁判決では言及されていなかったことがあります。受刑者は美咲さんの両腕を紐のようなもので縛り、口には粘着テープを貼りました。そして、殺害前後のいずれかにおいて、美咲さん着用の短パンと下着を脱がし、下着に精液を付着させました。代わりの短パンや七分丈のズボンを履かせたということです。検察は「適法な上告理由を見い出せない」ということで上告を見送りましたが、加藤さんは、判決があった時から本当に納得していないと、司法に心を殺されたとおっしゃっていましたけれども、今。現在もそのようにお考えでしょうか?

加藤

そうですね。今もその気持ちは変わってないですし、もちろん上告できない理由を私は、何回もその都度、聞いてきましたけど、結局、聞く耳を持たず、答えられてもらえてないという現状なので、そういった意味で、被害者にも上告権を私は望んでいます。

上山

この裁判では被告は上告しているけれども、被害者の遺族に関しては、いま日本の司法では上告権がないということなのですよね。そのあたりも詳しく後ほどお伝えしたいと思うんですけれども、小川さん、バイロン受刑者の卑劣な行為というのは、本当に遺品からも見て取れるわけですよね。

小川

そうですね、先ほどは小学校5年生10歳、美咲ちゃんの下着を脱がしてという表現でしたけれども、実際はですね、脱がしたのではなくて、ちょうど股の部分を包丁で切り裂いているんです。そういった中で、しかもこれは埼玉県警に一つ言いたいことがあるんですけれども、その証拠品に矢印がつけられているんです、黒いシールで。これはそこに精液の跡があるということなんです。それは、警察の中ではわかります、我々もやりました。ただ、それを返却する時は、「なんでそれ確認しないの?」と、そんなバカなことがあるのかなあと。その黒いシール、ココとココに精液の跡がありますよみたいなのを残したまま返却しているんです。それは非常識すぎると、ちょっと配慮が足らない。多分ビニール袋に入れたまま返したのだと思うんですけれども、そういったところで加藤さんはそれを見て、またショックになる。

あとは先ほども出てましたけれども、一審ではこのこと当然、触れられました。被害者参加制度を使って加藤さんがこのバイロンに質問したんです。同時通訳ですから、ヘッドホンしているんですね。加藤さんがこの娘についた精液について埼玉地裁で質問したらですね、その男がすぐにヘッドホンを外したんです。要は聞きたくない、わかっているんです。何を言われているか。しかし、高裁ではこのことに触れられないんです。このことさえ何も言わない。じゃあ裁判長によって、もちろん地裁と高裁は違いますけれども、裁判長が違う裁判長だったらそうなのかな、これ逆の裁判長だったら死刑になったのかな、こんな理不尽なことってあっていいのか。実際に6人殺害されているわけです。そういったことを考えると納得いかないのが当たり前。でも本当、何から何まで納得いかない。なんかこう悪い方悪い方に行っていると、私はずっと当初から話しているから、加藤さん派と言われたら加藤さん派なんですけれども、だけどやっぱり納得いかないなという気持ちはずっとありました。今もあります。

■“検察の自信喪失”司法と国民との乖離

上山

その納得いかないという気持ちを本当に、私も全く同じ気持ちを抱いているところなのですけれども、改めて、東京高裁としては死刑判決を取り消して、検察も最高裁へ上告というのは見送ったわけです。では、どうしてこういうことになったのか、その背景についてですね、『安倍・菅政権VS検察庁』の著者、ジャーナリストの村山治さんにお話を伺いました。「検察が自信をなくしている。自負心、気概のようなものを失っていると感じる。国民と距離感のある裁判官もいる。かつては検察が裁判官に問題提起をして、国民の治安を求める要請、ニーズを裁判官に提示してきた。しかし前例踏襲の幹部が増えていて、国民から見た相場観を伝えることができていない」。村山さんとしては、検察の官僚化と実力の低下というのを指摘されていた。今回の事件に関しても、検察の自信喪失を感じると指摘をなさっているわけです。

菅原

そして加藤さんは、死刑判決が取り消されて以降、司法制度の見直しを訴えて続けています。ひとつ目が一審だけでしか行われていない裁判員裁判を高裁でも行えるようにしてほしいというものです。そして、ふたつ目が検察官が上訴しない時には被害者遺族の上訴権を認めてほしいというものです。犯罪被害者を支援している髙橋正人弁護士によりますと、フランスでは高裁でも裁判員裁判を導入しています。ドイツでは一定の条件のもとで被害者遺族にも上訴権を認めているということで、海外ではこういった事例が実際にあるわけですね。

上山

どうでしょうか加藤さん、ジャーナリストの村山さんは、検察の気概がなくなっている、司法の場で国民の意識とズレ、乖離があると指摘しているわけなのですけれども、加藤さんもご自身も同じことをお感じになったからこの制度の見直しというのを訴えていらっしゃるのでしょうか?そのあたりいかがですか?

加藤

そうですね、やっぱり一市民として感覚がすごいかけ離れているなあと、そういったものをすごく強く思います。

上山

裁判は誰のためのものなんだという思いですか。

加藤

そうですね本当、裁判中もずっと思っていたのですけれども、“仕事上の流れ”でこうやっている感覚があって、被害者のための裁判という感覚が全くありませんでした。

上山

ここまでご覧になっていて、河野さんとしてはどのようにお感じになったのでしょうか。『アンカーの眼』をお願いできますでしょうか?

河野

「被害者の人権」って書いたんですけど、これは私が子供の頃ですね、両親がよく言っていたんです。日本っていう国は犯人の人権を守ろうという声はあるのに、被害者の人権についてはあまり言わないって。私の子供の頃ですから、昭和30年~40年頃だと思うのですけどね、今までずっとそういうこと、私も本当にそう思います。死刑廃止とかっていうことは一生懸命やられる方、おられると思うのですけれども、被害者の方の人権について語るというのはあんまり聞かれないのは不思議だなって思うのと、それと小川さんが今回の件は冷静に犯行に及んでいるという見方されていますよね。やっぱり責任能力は、白黒はっきり付けにくいですよね、これ見方によって違うわけですけれども。完全に心神喪失だったら別ですけど、そこの境界線のところというのがなかなか見分けがつかないから、やっぱりそこは罪の重さと比較すべきだと思うんですよ。今回、6人を殺害しているわけですから、そちらを重視すべきなのが人間の常識じゃないかなと思いますけど。

上山

そうですね、一般市民としては、河野さんの意見に同意いたします。

■連続殺人…防ぐことはできなかったのか

上山

改めて確認しておきますけれども、こちら加藤さんの自宅で起きたのは3件目の殺人事件ということになるんです。実はその2日前に起きた1軒目の殺人事件に対する警察の対応、これ次第では実は第二、第三の殺人事件これを防ぐことができたのではないかと加藤さんは訴えていらっしゃいます。

加藤さんは、事件当時の警察の対応にも疑問を投げかけています。加藤さんは「埼玉県警が住民に十分な情報を提供していれば、家族は殺されなかった可能性が高い」ということで、埼玉県を相手取っておよそ6400万円の国家賠償請求を求めています。2018年の9月に提訴して、現在も審理中ということです。

菅原

この裁判での加藤さん側の主張を確認していきます。

まず警察は事件直前9月13日の任意同行時にバイロン受刑者を「困りごと相談者として取り扱っていた。不審者としてではない」と主張しているのですが、警察からバイロン受刑者が逃走した後、20名の捜索態勢を敷くなど、犯罪防止のために追跡・捜索していたと考えられるとしています。そして1件目の田﨑さん殺害の現場には、外国語の血文字が残されていて、警察は翌日15日の未明には「殺人事件の参考人」として全国に手配をしていました。にもかかわらず、警察による15日の熊谷市教育委員会への連絡は、「殺人事件が発生、不審者がいたら通報を」。これにとどまっていたんです。以上の点からも警察は周囲の住民に対して、任意同行していた外国人が逃走していることや、外国人を田崎さん殺害事件の参考人として手配したことなどを告知して、不要不急の外出を控えたり、戸締まりを確認するよう警告すべきだったという主張になっています。

上山

そして一方の埼玉県側の主張ですが、こちらです。「住民に必要以上の不安を与えることになるので、特段の事情がない限り告知するべきではない」と。加藤さんが国家賠償請求訴訟を通じて、一番訴えたいこと、どんなことなのでしょうか?

加藤

そうですね、今までの裁判のやりとりの中で、警察の方では全く謝罪という意識が今のところありません。むしろ自分の身は自分で守れ的な、そんな発言すらある状態です。そうですね一番、訴えたいことと言うと、やはり命の大切さ、尊さをやはり知った上で警察の方はやってもらいたかった。そうすれば3人の命は奪われなかったのではないか。今でもすごい強い気持ちで変わらずにいます。

菅原

警察の対応次第で防げたのではないかというお話、今ありましたけれども、小川さん、第一の田崎さん殺害の後にですね、警察は殺人事件の参考人としてバイロン受刑者を全国に手配しているんですよね。この時点で何かしらの対応を取っていれば、第二、第三のようなことにはならなかったんじゃないかと?

小川

全国に手配というのは、これは指名手配ではないので参考人として…、実はこれには埼玉県の事情、とんでもない事情があるんです。

実は9月12日土曜日に、埼玉県の警察本部長がある事件で謝罪会見をしました、土曜日に。それで13日、日曜日に外国人に逃げられました。警察犬まで導入しているわけです。警察犬なんてそんな簡単に呼べるものではないです。ですから、ちゃんとした単なる困りごと相談ではないんです。逃げられた、月曜日に殺人事件が起こりました、田﨑さん夫婦。それが昨日逃げられた者というには簡単には発表できませんよね。発表すれば警察何やってるんだって、また本部長が謝らなければならないんです。そんなことをやっていたのでこうなったんです。ですから本来は、後で出てくるかもわかりませんけど、もっと周囲の人に認知してもらう。教育委員会もそうですけど、私は実際に石原小学校というところに行って校長先生と会ってきました。校長先生は、教育委員会から止められているのですけど、私は大事な子供さん2人を亡くした、先生もそう言っていました。ですから会ってくれたんです。「教育委員会からは、そんな話は一切ない。もしあったら私が登校を自由に認めるわけないじゃないですか、もし授業中にあれば、必ず親御さんなり先生が送っていく」と校長先生は言っていました。当たり前のことです。それを日曜日に逃げられて、月曜日に殺人事件があった。火曜日も水曜日も普通に登校させて、普通に下校させているんです。本当に亡くなった美咲ちゃんと春花ちゃんには申し訳ないですけど。途中、このバイロンと出会っている成人男性いるんです。その者は被害には遭ってないんですね。なんかマネーマネーとか。だからこのバイロンはこの人が弱者か強いかわかっているんです。そのわかった上で当たっているのです。

上山

河野さん、今、小川さんがおっしゃっていたように、緊急時の情報共有は本当に大事ですよね。

河野

これですね、日本の欠陥、弱点を暴露しているんですよ。住民に必要以上の不安を与えないっていうのがありますよね。これは最悪のシナリオを国民に伝えるとき、必ずこういう意見が出て、こういう意見の方が勝つんですよ。国民に知らせない。東日本大震災の時もそういう傾向があったんですね。ここのところは、本当に日本の危機管理上の欠点だと思って再認識する必要があると思います。

■「被害者の立場になって考えてもらいたい」

上山

加藤さん、本来なら長女の美咲さんが高校生に、それから次女の春花さんは中学生にそれぞれなっていたはずだですが、国家賠償訴訟を続けていく中で、加藤さんが改めて訴えたいこと、それはどういったことでしょうか?

加藤

一番はやっぱり被害者の立場になって、もうちょっと考えてもらいたい。本当に1日1日が毎日辛くて、その中でも少しでも被害者の方が少しでも気が楽になるような判決だったり、そういったことを私は今望んでます。

上山

小川さんは、この加藤さんが訴えたいと思っていらっしゃる点については、どのようにお考えですか。

小川

加藤さんに私はいつも何をして欲しいか、いま望むことをよく聞くんですけれども、最初の頃は何もないっていう話から始まって、つい最近も加藤さんにお会いしてやっぱり同じような質問をしました。加藤さんは奥さんと娘2人を返してください。それが一番の希望です。今こうやって色々と動いてますけど、そんなものはいい。娘さん2人と妻を返してくれればもう満足なんです。いま加藤さんは、以前は死刑にして欲しいとか、そういう色んなものがありましたけれどもこれが最終結論だと、それ以上でもそれ以下でもないということを加藤さんはおっしゃっています。

上山

その部分が叶わないというのが非常に残酷だなと思うんですけれども、河野さんはどのようにご覧になっていますか?

河野

先ほども申し上げました通り、やっぱり被害者とそのご家族の人権をないがしろにするべきではない。そうした日本になってもらいたいと思います。

上山

この事件を見ていて、冒頭にVTR見て頂いたと思うのですけれども、本当に穏やかな日常が広がっていて、もう奥さまの声とかすごく綺麗なんですよね。こういった日常が広がっていたところの、楽しかった、穏やかな日常があったところで、突然断ち切られて、3人の方々が命を失ってしまったということで、実はこれは、加藤さんに起きたことだけではなくて、私たちにも起きた可能性があることなんだと思いました。一人一人が考えていくべき内容だと思います。加藤さん、小川さん、ありがとうございました。

(2021年5月2日放送)