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#169

米中対立の中での日米首脳会談 台湾有事のとき日本は…

バイデン政権、そして菅政権にとって初となる日米首脳会談。米中覇権争いが鮮明になる中、日本の外交姿勢が問われています。2021年4月4日『BS朝日 日曜スクープ』は、米国が警戒を強める台湾有事、そして、そのとき日本はどのような対応を取りうるのか、特集しました。

■「米中対立…日米同盟がフロントライン」

上山

ここからは激しさを増す米中対立の中で、アメリカが警戒感を強めている台湾有事について、16日の日米首脳会談を軸に、日本の外交戦略を考えていきます。それではゲストの方です。元外務審議官で日本総研国際戦略研究所理事長の田中均さんです。よろしくお願いいたします。

田中

よろしくお願いします。

上山

菅総理とバイデン大統領の日米首脳会談は16日、ワシントンで行われます。加藤官房長官は「各国首脳に先駆けて菅総理がバイデン大統領と初となる対面での首脳会談で、日米同盟の結束を対外的に示し、インド太平洋地域へのアメリカのコミッションを示す上でも意義深い」としています。田中さん、バイデン大統領が対面で臨む最初の首脳会談に日本の菅総理を選んだ理由をどう分析しますか?

田中

当然、日本との関係が重要だから真っ先に日本の首脳と会うということだと思うんですけどね。ちょっと、もう少し長い目で考えてみたら、昔、東西冷戦っていうのがありましたね。まさに米ソの対立。あの時のフロントラインというのはヨーロッパだったんですね。ですから、NATOっていう北大西洋条約機構がまさに主要の抑止力だったんですね。ところが、これから10年20年30年と、この国際関係で一番大事なのは、米中対立。日本、日米同盟関係というのは、実は、それのフロントラインなんですね。ですから米国にしてみれば、日本との同盟関係なくして、中国と向き合うことができない。だから、できるだけ日本の協力を得たい。したがって日本を最重視して、首脳会談をやろうと。そういうロジックですね。

上山

外交戦略が変わってきて、今、アジアが本当に舞台になってきているということですか。

田中

間違いなく、アジアが舞台だし、どこが重要だという話じゃなくて、これからどこが最も対立が厳しいところになるか。要するに、戦争と平和ということから言えば、やっぱり米中対立というのが、かつての冷戦、米ソ対立のように、今後の世界を左右しちゃうんですよね。ですからそういう意味で、日本の役割というのは、日本自身は、その経済的にはより停滞していく可能性はあるけれどもね、日本の役割は、さらに大きくなるわけですよね。なお且つ、その冷戦、東西冷戦の時と違って、米中の対立というのは、日本自身の利益に関わるわけですね。というのは、中国は日本にとって最大の経済的なパートナーでもあるわけだし、米国は、日本の同盟国である。だから果たして、それをどういうふうに組み合わせていくのかという、日本にとってみれば極めて大事な課題を抱えてる。その最初が、今度の日米同盟関係、日米首脳会談だと。

上山

まさにその狭間でどう行動していったらいいのか、きょうは、田中さんにお話を伺いたいところだと思います。

■バイデン政権 アジア外交のキーマン

菅原

確かに、バイデン政権なってからの外交の動きを確認してみますと、ブリンケン国務長官のアジア歴訪、そして、日本、アメリカ、オーストラリア、インドによる戦略対話「クワッド」の開催がありました。こうした動きに対して田中さんは、仕掛け人がいると指摘していらっしゃるんです。どういった方なんでしょうか。

田中

このホワイトハウスの中に、新しいポストですけども、インド太平洋調整官でカート・キャンベルという人がいるんですね。彼は元々1990年代の半ば、私が北米局の審議官だった時に、私のカウンターパートだった。彼は国防総省の次官補代理だったわけですね、それでその後、国務次官補になったわけです。それでオバマ時代にアメリカのアジアへの回帰「ピボット」という概念を作った人ですね。そういう意味では、彼は日本のことも中国のことも韓国のこともASEANのことも極めて詳しいし、私も2年間一緒に仕事しましたけどね、野心家ですよ。

上山

そうなんですか。

田中

野心家だけどね。非常に頭がいいし、彼は、要するにアメリカでの特色ですけれども、実行力ある人か、ない人かということで、相手を判断する。ですから日本もよっぽどしっかり自分の戦略を持って、バイデン政権と向き合っていくことをやらないと、一方的にアメリカの戦略に乗っかるということであってはならないと思うんですね。やっぱり日本とアメリカというのは、それなりに同盟であるけれども、100%利益が一致するわけじゃないから、従って日本は日本の戦略を持って臨まなきゃいけないというふうに思いますね。

■中国紙「台湾の一節が含まれていれば…」

上山

なるほど。実は、今月16日に行われる、日米首脳会談なんですけども、ここに来て、非常に気になる記事が出てきたんです。菅原さん。

菅原

中国の環球時報が「首脳会談後の共同声明に台湾の一節が含まれていれば打撃は深刻になるだろう、中国は対抗策を講じる。日本としては得るものよりも失うものの方がずっと大きいだろう」と牽制をしているわけです。

上山

田中さん、この表現ですよね。日本としては、得るものよりも失うものの方がずっと大きいだろうって非常に強い主張だなというふうに思ったんですけれども、この中国の意図、もし共同声明の中に、台湾の一説が含まれていたとしたら、中国としてはどのような行動がありうるのでしょうか。

田中

中国が環球時報なりなんなりを使って言うことは、それなりに相手を牽制することですから、あんまりそれを真剣に受け止めて政策を作っていくということではないと思うんです。ですけど、例えば2+2の時もそうだったと思うんですけれども、要するに台湾海峡の安定というのは、日本にとって極めて重要だし、アメリカにとっても重要だと。台湾“海峡”ですよ。

昔は佐藤、ニクソンで台湾“地域”と書いたこともあるけれどもね、ここのところがよっぽど気をつけて見ていないと、例えばアメリカの台湾に対する立場、日本も台湾に対する立場、これはいずれも両国が中華人民共和国、いまの大陸中国との国交正常化をやった時に、中国は1つの中国だって言うわけですね。台湾は中国の一部だと、こういうことを言う。それに対してアメリカは、アクノリッジ(acknowledge)する、要するに「了知しますよ」ということを言った。日本は、中国側が1つの中国という政策を持っていることを理解し尊重すると言ったんですね。

 

しかしながら、アメリカも日本も、この問題が平和的な解決が必要なんだということを言っている。だから全ては、その政策の延長なんですよ。要するに、中国が台湾は自分たちの一部だと言っていることは理解しますよと。だけど軍事的な侵攻をかけるといったようなことがあると、それはアメリカも日本も然るべき行動をとらなきゃいかんということを、明確ではないけども、意味しているわけですよね。だから、我々が言っている台湾の問題というのは、もしも中国が台湾に侵攻してくるといったようなことになると、それは絶対に困るという前提なんです。絶対に困る。だからそれに対して、今まさに中国と台湾の間で色んな駆け引きが行われているということですね。

だから、台湾海峡の安定を望むということが全然おかしなステートメントではないと思う。台湾海峡というのは通っているわけですからね、その安定を、130キロあるだけだから。その安定を望むということは決して悪いことではないですが、それは中国を刺激することは間違いがない。中国を牽制することは間違いがない。それはやってもいいと思うんですよ。だけど、それはやっぱり今の状況の中でそれをやることが、適切か否か。最高レベルですからね、日米のね。それはきちんと判断された方が良いと思いますね。

上山

首脳会談の共同文書に記載した方がいいのか、やっぱり今の状況を見て記載しない方がいいのか。

田中

それは判断の問題もあると思いますけどね、実態は変わらないんですよ。実態は、もしも中国が台湾侵攻といったような行動を取った時に、私はアメリカが台湾関係法という国内法に基づいてアメリカは行動すると。行動するということは、軍事介入するということです。ここは明確にしないことが、曖昧戦略にしてきた。そうなった時に日本は当然にアメリカを支援しなくてはいけないと思うんですね。だから、その実態は全然変わらないんですよ。その実態は変わらない。

上山

河野さんは、この16日に決まった日米首脳会談共同声明で、台湾問題について両首脳はどのくらい踏み込むとお考えですか。

河野

2+2でも文書に明記されましたから、従ってあえてそれを外すというのは、逆にちょっと誤ったメッセージを与えるんじゃないかなと思います。おそらく首脳間の政治メッセージですから、そんな具体論は出てこないと思いますが、台湾関係は、日米にとって非常に重要であるというようなメッセージはおそらく出ると思いますし、それは出すべきだと思います。台湾については日米が関心を有し続けていることを中国側に発信し続けることが、彼らの行動を抑制させる意味で重要だとは思います。

■米国が警戒 中国による台湾への武力行使

上山

台湾海峡を巡って、あまり想像したくないんですけども、有事があった場合に、日本としてはどう対処するべきなのか、この後分析していきます。今月16日の日米首脳会談を前にアメリカが警戒を露わにしているのが、中国による台湾への軍事力行使です。

菅原

アメリカ・インド太平洋軍デビッドソン司令官は、先月9日「早ければ6年以内に台湾に対する軍事行動が起こり得る」と上院軍事委員会で証言しています。さらにアキリーノ次期司令官も、先月23日「台湾侵攻の脅威は深刻で多くの人が理解しているよりも切迫」と公聴会で証言しました。

上山

では、台湾有事が実際に起こった場合に、アメリカがどこまで軍事的に対処するのか?なのですが、その手掛かりともいえる文書が今年1月に公開されました。アメリカのインド太平洋における戦略文書です。そこでは「急速に軍事力を拡大する中国に対抗するため 第一列島線に位置する国・地域を守るための防衛戦略を立案・履行する」とし、具体的に「台湾を含む第一列島線に位置する国を防衛する」と明記しています。田中さん、この戦略文書ですけれども、2018年に出された、策定された、トランプ政権のもので、退陣する直前の今年1月に公開されたものですが、バイデン政権でもこういった考え方が引き継がれてると見ていいんでしょうか。

田中

考え方はそうだと思いますね。これを公表するかどうかっていうのは、トランプ政権独特の牽制作戦みたいなものがあるんじゃないですかね。中国に対する明らかな牽制だと思いますしね。とりわけトランプ政権の最後2020年、昨年ですね、やっぱり相当、台湾について踏み込んだんですね。要するに、これまでアメリカが自制してきたこと、先ほどの1つの中国政策、これをアクノリッジするという政策に基づいてね、一定の距離を保てたわけです。それを自分たちはもう外すんだと、自制はなくすんだということをポンペオ国務長官は言ったわけです。ですから、そういう意味で、台湾を巡る米中の緊張は高まってきているわけですね。だけど、米国の基本は、もしも中国が武力で台湾を進行するようなことがあれば、明確にはしないけれども適切な措置をとると。私が聞かれれば、それは軍事的な介入ということだと思います。

上山

河野さんにもここは伺いたいところなんですけれども、これはやっぱりトランプ政権が策定したものですけれども、バイデン政権でも引き継がれてるという風に思っていいんでしょうか。

河野

思います。それでちょっと話が戻りますが、6年以内と言ったんですよね、デビットソン司令官は。なんで6年以内か、私の想像するに、6年後というのは2027年なんですね。それは、習近平総書記が3期目なんです。3期目のお尻のところなんですね。今回、来年の共産党大会で3期目就任するためにはですね、これ元々、鄧小平の不文律の2期10年、毛沢東の独裁が良くないということで、それがずっと生きてて、今までは2期10年でみんなやってきたんですね。それをあえて3期目に挑戦するということは、それなりの成果をやっぱり打ち出さなきゃいかんと思うんですよ。

■西太平洋の軍事バランス 米国が危機感

上山

習近平国家主席の3期目就任は来年決めるんですかね。

河野

そう、来年決めます。従ってデビットソンなんかは、この3期目というのが、習近平の、非常に危ないんじゃないかと。というのと、もう一つは軍事的にですね、そのバランスが、段々段々アメリカが不利になってきてるんじゃないかという分析をしているわけですよ。全世界で見たら、それはアメリカの方が大きいんですけど、アジア太平洋地域において、特に数量的には、中国優位に拡大してきてるわけですね。

上山

西太平洋においては、ということですよね。

河野

そうです。西太平洋においてはです。そうなるとですね、全世界からかき集めるのは大変なので、今の、ここの西太平洋の舞台で対応するということになると思うんですが、中国側は第一列島線なんですよね。「A2AD」という言葉よく聞かれると思うんですけど、「接近阻止・領域拒否」と日本語で訳してますが、要は第一列島線内には絶対にアメリカを入れませんよと。

上山

それが中国側の考えですね。

河野

中国側が。という勝手な線なんですが、だからアメリカとしては、どうしても対中戦略上、軍事戦略上ですよ、第一列島線を絶対に突破する力を維持しておかないといけないということの表れなんですね。従ってこの文章はそのことを言っているんですよね。

上山

なるほど。

河野

だから第一列島線を突破できないとなったら、要はもう台湾も尖閣も米国の支援は期待できないという話になりますので、完全に中国側が有利に立つということになるんですね。

上山

そういったことも想定している、この文書。

河野

だからこの文書は明らかに第一列島線を我々は絶対に突破する力は維持するんだということを述べているわけですね。そういう文書だと思います。

上山

これ振り返ってみると2018年ですから、これ河野さんにとってはまさに統合幕僚長の在任中にこれを目にされたと。

河野

これは、マクマスター大統領補佐官の署名があると聞いてるんですけども、おそらくそうであれば、官邸とホワイトハウスの間の文書だと思います。私はこの文書をどうやって扱っているのかは言及は避けますが、ただですね2017年~18年は我々の関心はどちらかと言うと朝鮮半島ですね。台湾についてそれほど私どもは関心を有しているという時期ではありませんでした。

上山

弾道ミサイルとかもありましたしね。そういった時期にこういったものが策定されていたということですね。

河野

そうですね。やっぱりそれは米中の軍事バランスが非常にアメリカに不利に傾いてきたという危機感の表れだと思いますね。

■「日本も誰かが有事のことを考えておかないと」

上山

アメリカ軍としては非常に準備をしているという中で、河野さんに伺いたいのは、このアメリカが台湾を防衛する時に、自衛隊の出動はあり得るのかということなんですけれども。

河野

ちょっと議論を整理させていただきたいんですけど、台湾問題、基本的に外交で平和的に解決する、これはもう大前提です。従って「自由で開かれた太平洋構想」も、Quad(日米豪印戦略対話)も、これに対してヨーロッパが支援をするという形をとるのも、すべて中国に対してメッセージを送り、あなた方が力による現状変更をやれば、国際的に非常に不利な状況になりますよというメッセージを与えているわけですね。抑止して解決するというのが一番いいわけです。これが大前提。今から申し上げるのは、残念ながら抑止が崩壊をして、次に中国が力による現状変更、すなわち一番ホットな状況であれば、台湾に対して軍事侵攻を決意したと言ったところ、そうなった場合どうなるかという議論なんですよ。ここの議論の時に、いやいや日本はまだまだ米中の仲介をすべきであるとかですね、外交で平和的に解決すべきだと言う議論が入ってくると、そこがまた、ごちゃごちゃになるんですよ。そうなってくるとどうなるかと言うと、いやいや、いかなることも平和に解決するべきだと。 だから有事のことは考えちゃいけないと。有事を考えると有事は起こるという言霊信仰みたいになって、結局、想定外って話になるんですね。日本においても誰かが有事のことを考えとかなきゃいかんということなんです。それが前提ですから、今から申し上げることは。

上山

そこを提言して頂きたいんです。

河野

外交で処理するのが大前提で、それでもし崩壊した場合どうするかと言うと、法的には安全保障法制にありますように「重要影響事態」。これが適用される可能性はありますね。もう一つは、米中が軍事衝突して、アメリカ側が攻撃受けてますと、それが日本の国民生活を根底から崩すような影響が出てきたということになると、要件上は「存立危機事態」ということになり得るわけですね。もう一つは、これがだんだん拡大していって日本も巻き込まれたということになると、これは「武力攻撃事態」と。まさに『日本が当事者になる』ということなんです。

上山

それは日本が軍事行動を行うことになると?

河野

重要影響事態のときに日本に何が出来るかとなると、後方支援なんですよね。ここで日本の国民の方々に理解というか覚悟を求めたいのは、日本であれば後方支援だから平和国家の枠組みは揺るがず、中国も理解してくれるだろうと思うかもしれませんが、ただ後方支援をやるということは、戦闘行動そのものなわけです。国際的な常識として。したがって、日本がアメリカ側に後方支援するということは、もう中国から見れば、日本もアメリカ側に立って参戦したと。こう認識するのは普通なんですよ。したがって、ここはやっぱり外交が崩れて、そして台湾有事になったということ、これはすなわち、日本の安全保障問題だということなんですよ。他人事ではないということです。

■日米安保条約が想定する“6条事態” 在日米軍基地

上山

ここまでのお話なんですけども、田中さんはどのようにお考えですか?

田中

明確にしておかなきゃいけないのは、台湾有事は、日本は避けたいと思っているということですね。やっぱり台湾有事になると、好むと好まざるとにかかわらず、日本は大きな被害を受ける。だから、今おっしゃったように外交の力、もろもろの力で台湾有事は止めなくてはいけない。これは一つの大前提。しかしながら、実際にそうなるかどうかは中国の意思に関わるわけだから、中国がそういう意思を持たないような抑止力はきちんと作らなければいけないということなんですね、抑止力。今の議論は、みんな抑止力なんですよ。抑止力がきちんとしていれば、相手が冒険心を起こすことはないだろう。ですから、そういう意味で中国の侵攻、軍事的な行動のコストがもの凄く高いんだろうということを、きちんと相手にわからせなければいけない。その時に果たして、日本の役割はどうかというのは当然問題になるわけです。今、安全保障法制の話をされたけど、私はそれ以前の話だと思うんですよね。それは何故かと言うと、日米安保条約というのがありますよね。安保条約の中に6条事態というのがある。

上山

6条事態ですか。

田中

5条というのは、日本が攻撃を受けた時に日米が共同して防衛にあたる。例えば尖閣というのはまさにそれなんですよ、5条事態ですよ。6条事態、これは、より大きな極東の平和と安全にかかわる時に、米国は日本の基地を使って、その平和と安全を守るということになっている。そうすると、どういう事が起こるかと言うと、沖縄の基地とか日本の国内にある基地から台湾海峡での軍事行動のために実際に飛行機が飛んでいくわけですよ。そういう形でそれを戦闘作戦行動というんですが、そういう戦闘作戦行動に出るためには、日本に事前協議しないといけないことになっている。今まで一回もないんですよ。1回もない。だけど朝鮮半島とか台湾については、大いにあり得るわけですね。日本に聞かれるわけですよ、嘉手納から戦闘機を飛ばしたいと、日本はうんと言ってくれるかと。その時にNOと言ったら多分、日米安全保障条約は成り立たないと思うんですね。台湾の平和と安全っていうのは、日本の平和と安全に直結するわけだから。だから、そこで日本は好むと好まざるとに関わらず、巻き込まれる。巻き込まれるというより日本の安全に関わることだから、日本として主体的に判断しないといけないということですね。だから、私が申し上げているのは、そういう覚悟は持っていないといけない、覚悟はね。日本がそういうことに関与しないで済まされるんじゃないかなんてことはないですよ。ない。だから覚悟は持ってないといけない。だけど、そういうことに至らないように日本は最大の努力をしなければいけない。それは外交的な努力とか、もっといわゆる大きな戦略ですね、その中で中国によこしまな考えを持たせないように、この問題は平和的な解決なんだということを徹底しなければいけない。ですから、これはいま言われたような外交の力いうとのがものすごく必要なんだと思います。

上山

今、お話伺っていると、河野さん。まさに生々しく感じてしまうんですけど、でも、それは起こりうるかもしれないってことは想定しなきゃいけないわけですよね。

河野

繰り返しになりますが、今、田中さんも言われました通り、やっぱりこれは外交で処理をして、そして明らかに平和的に絶対に中国がそういうことをしないようにさせるのが大前提。ただそれでもなおかつ中国がやってきた場合、日本はどうするかということなんですね。それはやっぱり考えておかないといけないっていうこと。そういうのをもう考えないでいいという話はやっぱり駄目だということ。日本人とにかく最悪のシナリオを考えるのはなんか避ける傾向に、色んな災害でもそうだと思うんですけども、そこはやっぱり日本の少なくとも特定の部署は絶対、考えておかないといけないということなんですね。

それでもし台湾に侵攻して軍事的に中国が取るとなった場合なんですけども、やっぱり民主国家である台湾があそこに存在しててくれた方が日本にとっては国益に絶対にプラスですよね。中国のような価値観の違う国がいわゆるシーレーン(重要な海上交通路)の要所に位置する台湾をコントロールするようになれば、日本の国益を害するわけですよね。もし戦端が開かれた場合、日本の国益のためにどういう選択があるかとなったら、やっぱり台湾を救うという選択になると思うんですよ。あまり日本では考えたくない話なんですけどね、国益上はやっぱりそういう回答に、おそらくなるはずなんですよね。見捨てるなんて回答はおそらくないと思うんです。

上山

私たちも本当に当事者意識をもって接していかないといけないということなんですよね。

■「日本は戦略をもって米国と対話を」

上山

16日の日米首脳会談で、日本は台湾有事の時も含めて中国にどのように向き合うのか、アメリカ側からその姿勢を問われる可能性があります。そこで田中さんは、今後の日本の外交戦略として『多層的外交戦略』が重要としています。これはどういうことなのでしょうか?

田中

今度の日米首脳会談というのは、ある意味、もの凄く重要だと思うんですよね。それは要するにやっぱり米中対立の問題、日本との対中関係もそうですが、日本がやっぱり相当大きな役割を果たさざるを得ないので、大きな役割を果たすというのは、追随するのではなくて、日本の戦略をもってアメリカと話をしなければいけないことというですね。だからそうすると、アメリカが一体何を言うのかを聞くということもさることながら、日本として自分の戦略、こういう考え方で中国に対処していきたいということを、きちんと説明するべきだというふうに私は思いますね。当然、同盟関係というのはそういうもんですよ。一方的に何かを強い圧力をかけられて、それをやるかやらないかという話ではない。

だからそこで日本としての考え方を明らかにするという観点から考えてみれば、まず日本はアメリカの同盟国だということですね。ですからアメリカに協力して、中国がこの地域で覇権を取らないように何とか抑止力を発揮したいと。そのためには日米安保体制の中で、日本としてより積極的な役割を果たさなきゃいけない。これまでずっとやってきたんです日本はね、ある意味、今の安保法制もそうですけど、それから米軍に対する支援とか、それから防衛費の拡大、こういう事も含めてそれなりの事はやってきているわけですね、それが一つ。

もう一つはね、やっぱりその地域でいろんな国との間のパートナーシップを強化していきましょうと。そのパートナーシップの中には、インドやオーストラリア・日本・アメリカのQuad(クアッド)と言われている、そういう国々とのパートナーシップ。それから私は当然に韓国ともパートナーシップを組まなきゃいけないと思うんですが、ですからそういう意味では、日韓関係も改善していかなくてはいけないということですね。それから先ほどから出ている外交、抑止力を強くするということと、それと同時に外交をやらなくてはいけない。外交とは何かと言うと、1つはやっぱり中国も入っている枠組み、例えば東アジアサミット、これは中国も入っているわけですね。それから東アジア経済連携協定、中国も入っているわけですよ。だから日本の基本的な考え方は中国にルールに従わせるということですね。今の東アジア経済連携協定なんていうのはまさにルールに従った貿易投資関係を作りましょうということで中国も入れてるわけですね。だから、こういう事をやっていかなくてはいけない。もう1つ、非常に重要なのは信頼醸成なんですね。信頼醸成というのは、突然、戦争が起こるなんてことは、どうしても防止しなければいけない、だから、お互いがお互いを理解する。例えば事故に対して協力をするとか、そういう信頼醸成という枠組みを作ってやっていかなくてはいけない。例えば東アジアにおいて、北朝鮮の核廃棄をさせるための六者協議というのがありました。それは将来的には、やっぱりこの地域のメジャーな国々が集まった信頼醸成、confidence building。お互いに防衛計画を明らかにしたり、そういうことも含めて信頼を醸成していくということをやらなければいけない。

こういう事を申し上げていると、それぞれの枠組みでメンバーが違うんですよ。メンバーは、そのパートナーシップを組むメンバーは違う。それはアメリカであったりね、Quad(クアッド)であったり、四者であったり、あるいは六者であったり、それからASEANという枠組みであったり。だから、そういうものを組み合わせて、この地域の平和と安定に努めていきましょうという考え方なんですね。もう1つ重要なことは米中というのは対立だけじゃないんですね。お互いが共通の利益を持っていることもある。例えば、気候変動であるとか、それから北朝鮮の非核化。中国だって北朝鮮が核兵器を持って行動することは止めたいと思ってるわけですね。これは、アメリカにとっても日本にとっても同じ。実は、米ソ冷戦の時代に、中国との関係、凄く良かったんですよ。なぜ良かったかと言うと、ソ連という共通の敵がいたから、共通の戦略的利益があったんですよ。だから、そういう戦略的な利益について、米中の協力関係を強化させるにため日本が役割を果たす。こういう非常に複雑なんだけど、重層的な戦略を組み立てていかないといけないと思います。

■「日本は当事者 肝に銘じるべき」

上山

16日に迫る日米首脳会談。最も重要なポイントというのは何なのか、2人に伺いたいと思います。河野さん、どのようにお考えですか。

河野

今、お話にありましたけど、台湾問題というのは非常に注目されると思います。ちょっと整理させていただくと、台湾というのは軍事侵攻だけではなくて、中国側も戦わずして勝つ、政治的に屈服させるということが彼らにとっては最上だと思うんですよ。そういう事もあり得ますし、ロシアがクリミア半島でやったように、親中武装勢力みたいなものを結成させて内乱を生起させて、それを支援するとかですね、最後が全面的軍事侵攻というものがあり得ると思うんです。先ほど言いましたように、抑止、懸命にやった外交が失敗をして実らず、そして中国の軍事侵攻を招いた場合、これはもう日本の安全保障問題だということです。日本が当事者意識を持つことだと思います。アメリカに巻き込まれるんじゃないかとかですね、地理的な位置からして、そういうことは望めないと言うか、日本は当事者にならざるを得ないということなのです。このことはやっぱり日本は肝に銘じるべきだと思います。

上山

なるほど。田中さん、ポイントはどのようにお考えですか。

田中

やっぱり対中政策の協調ということだと思います。別に台湾だけじゃなくてね、香港とか新疆ウイグルの話もあるし、それから南シナ海、東シナ海、それからハイテクの話がありますね。そういう中国との関係で、全般的な情勢をどう分析、評価して、米国と日本が共同で何をやっていくかということについて、政策調整してもらいたいと思います。台湾はその一部であってね。長い目でこれから10年、20年続きますよ。だからやっぱり最初のところできちんとした問題意識をぶつけ合うということだと思います。

(2021年4月4日放送)