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米中覇権争い 軍事的圧力の現場
■異例!!中国軍機が大挙 台湾の防空識別圏
山口
米中の覇権争いは、国際政治や経済だけでなく、軍事的な牽制の応酬も激しさを増しています。次期自民党総裁、つまり日本の総理がどう対処していくのか、考えます。ゲストは、ワシントンと北京で合わせて9年間特派員をしてきた、朝日新聞編集委員で北海道大学公共政策学研究センター研究員の峯村健司さんです。宜しくお願いします。
峯村
よろしくお願いいたします。
山口
そしてきょうは、ここから加わっていただきます、前統合幕僚長の河野克俊さんです。宜しくお願いします。
河野
よろしくお願いいたします。
山口
気になる中国軍の動きからお伝えします。
上山
台湾の国防部によりますと、多数の中国軍機が9日から10日にかけて、台湾南西の防空識別圏に進入しました。台湾メディアは2日間で少なくとも40機が進入し「異例の多さ」と伝えています。中国の軍事演習は、最短で台湾まで90カイリ、およそ166キロしか離れていなかった、ということです。9日の演習は中国軍戦闘機30機と艦艇7隻が参加。うち戦闘機21機が防空識別圏に進入し、台湾軍機が緊急発進するなどして対応しました。10日もほぼ同様の規模だった、ということです。台湾の蔡英文総統は「領土と主権は一寸も譲らない」「民主主義と自由を堅く守る」と語りました。
山口
今回の中国による台湾の防空識別圏への進入、峯村さんは、その理由をどう分析されますか?
峯村
私はこの十数年、中国軍の動きを見て来ていますが、戦闘機の数の多さは異例というか、おそらく最多と言っていいのではないかと思います。どういう意図なのかと、先日、中国の研究者に尋ねたら、台湾は中国の領土の一部とする「一つの中国」という、中国側の原則についてのレッドラインをアメリカが越えたことに対する警告であると言っていました。ここ最近、アメリカが武器の売却、例えばF16とか戦車を108両、台湾に売却したり、アザー厚生長官という断交以来最高位の閣僚級が台湾を訪れたりということで、確かに、中国側のレッドラインを超えるようなことに対する警告だったと理解していいと思います。
山口
河野さんの経験からご覧になっても中国軍の動きというのは異例だと言えますか?
河野
異例だと思います。米中の対立がやはり日本周辺海域にまで迫ってきているという状況にあると思うんです。それで1996年のことを思い出していただきたいですが、あの時の李登輝総統が普通選挙を実施されて、李登輝総統が当選するという状況が生まれつつあるときに、中国がその時ミサイルを撃ったんですね台湾に。
山口
台湾海峡危機ですよね。
河野
台湾を超えるミサイルを、台湾を挟むように撃ったわけです。その時にアメリカは何をしたかと言うと、クリントン大統領でしたがニ個空母群を台湾に送り込んだです。そして、中国はこれに対して非常に震え上がり鉾を収めたんですよね。それは1996年。ところが今や、最近でも空母が行動していますけども、全くそれにひるむことなく、こういう状況をやってきている。この間の中国の軍事力の増強がいかに進んだかということと自信をつけたかということの表れだと思います
上山
杉田さん、今回の中国軍機の進入を受けて、アメリカが中国に圧力を強めることは考えられますか?
杉田
アメリカは中国、北京政府に対しては総合的な形で圧力を強めているわけです。特に中国が嫌う台湾に関して言えば、いまアメリカは台湾との自由貿易協定(FTA)交渉に入ろうとしているんですね。アメリカは中国に対して様々な制裁をかけているわけですけども、その制裁の究極的な目的というのは、中国経済を孤立化させるということです。中国と台湾の関係に関して具体的に言うと、アメリカの制裁のために、中国に出て行っていた台湾の企業がどんどん引いて台湾に戻ってきています。その一つが台湾の半導体企業です。台湾の半導体企業は世界トップレベルですけども、この企業は、アメリカの制裁のために中国のファーウェイとかに半導体を売れなくなっています、その結果、中国経済は苦境にある。アメリカが色んな形で圧力を高めているのに対して、中国としては軍事力、特にミサイル、あるいは防空識別圏への侵犯、こういう形で逆襲をしているだと思います。これに対してアメリカは、さらに制裁などの圧力をかけて圧力をエスカレートさせていくということになるんだと思うんです。
■中国が南シナ海に・・・ 弾頭ミサイル発射の深層
山口
米中対立が続く中で、先月には中国が南シナ海に中距離弾道ミサイルを発射しました。
上山
改めて地図で、場所を確認しますと、こちらが沖縄や尖閣諸島などがある東シナ海です。その東シナ海のすぐ隣が南シナ海なのですが、今、こちらの海域で米中の軍事的牽制の応酬が激しさを増しています。アメリカ国防総省の関係者は先月26日、中国が本土から南シナ海に中距離弾道ミサイル4発を発射した、と明らかにしました。ミサイルが着弾したのは海南島と西沙諸島の間の海域です。香港メディアによりますとミサイルは、内陸部の青海省からグアムキラーと呼ばれる最大射程4000キロの「東風26」が発射され、浙江省から空母キラーと呼ばれる最大射程1500キロの「東風21D」が発射された、ということです。峯村さん、そもそも中国はなぜ緊張が高まっている南シナ海に、4発ものミサイルを撃ったのでしょうか?
峯村
今、ご紹介あったミサイルに全部「キラー」という名前がついていて、中国がすごく強気に出てきているというイメージがあると思います。大方の専門家の方も、これは中国側の挑発行為だと説明していますが、私は少し違う見方をしています。この「窮鼠猫を噛む4発」ではないかというふうに見ています。
「鼠」が中国だという意味なんです。皆さんまだご記憶にあると思いますが、3月にコロナが蔓延したときに、アメリカの空母、特にセオドア・ルーズベルトの乗務員に感染が広がって、動けなくなった時期がありました。その後に中国側がまさに力の空白を挑発するように、空母や爆撃機を東シナ海や南シナ海一帯に派遣しました。これに対し、アメリカ軍は報復というか、倍返し的に中国に圧力をかけているわけです。これを見て頂くと分かると思うんですけども、例えばこの7月の17日と4日ですね。ここに3つの空母艦隊が派遣されて、2つの艦隊がこの南シナ海に突っ込んで、航行の自由作戦をしているんです。この3隻の空母のインパクトって相当強くて、中国は相当なプレッシャーを感じたはずです。さらにはこの8月18日、アメリカの駆逐艦がこの台湾海峡を通過しているんですが、普段、通過するときは、この中間線と呼ばれているところの台湾寄りを遠慮して通ることが多いんですが、今回に関しては中間線よりも中国よりを通ったと言われています。アメリカ軍が中国に対して極めて強い軍事的圧力をかけていると見ていいと思います。
上山
今回の弾道ミサイル発射は中国側が追い詰められて出た行動ということですか。
峯村
そうですね。特にとどめを刺したんじゃないかと思うのが、こちらです。中国にとって空母も恐ろしいんですけども、爆撃機の動きというのが非常に重要になってくると思います。まず8月17日なんですが、このグアムの米軍基地からB1爆撃機というのが飛び立ちました。そして東シナ海とか台湾あたりを威嚇的に飛行しています。さらには私も驚いたんですが、ディエゴ・ガルシア島というこのインド洋にある島なんですけど、ここは実はアメリカ軍の基地が置いてあるんですね。ここに、8月の中旬、アメリカ軍が最新のB2の爆撃機を3機、配備していました。その配備した直後に2機を南シナ海の方に派遣しています。さらには、この同じタイミングでアメリカの本土にあるB1爆撃機2機も飛来してきた。つまり8月17日に、6機の爆撃機が同日に中国を包囲したのです。朝鮮半島危機の2016年にも、米軍の2機の爆撃機が北朝鮮領空をギリギリ飛んで圧力をかけた結果、北朝鮮側が相当恐怖に感じていた。今回はその3倍なので、中国側は圧倒されたはずです。こうした圧力を受けて「これ以上レッドラインを超えてくるな」という意味で、先ほどの「猫を噛む4発」を撃たざるを得ない状況に追い込まれたと分析しています。
山口
背景にはこういう米軍側の圧力プレッシャーがあったと。
峯村
そうですね、追い込まれた中国側が発したアメリカ側に対する警告に近い形だと思っています。これ以上レッドラインを越えると攻撃することも辞さないという警告だと分析しています。
山口
河野さん、今回発射されました中距離弾道ミサイルは、そもそもなんですけど、やはり中国から見れば、アメリカに近づいて来るなよという意味で保持している、持っている戦力ということになりますね。
河野
これは防衛白書にも出ている地図で、よく見られているかも分かりませんけど、再度おさらいというか、申し上げたいんですけども、中国海軍の海軍戦略と言われているものでありまして、第1列島線の内側ですが、ここは絶対、彼らにすると、もう排他的に自分たちがコントロールするという、そういう位置付けなんです。したがって、ここには絶対、米軍の影響力は排除すると、台湾を、彼らの言葉で言うと解放する場合においても、絶対ここを阻止する、コントロール下に置かないといけない線なんですね。そして第1列島線、第2列島線というのがありますよね。この間で、要するにアメリカ側が攻め込んできた場合、この間で殲滅をすると、したがってこの間に撃ち込む兵器がいわゆるグアムキラー。それから空母キラーという位置付けになります。
そして最近ですね、ひょっとしたら第3列島線があるのではないかという話になってきたんです。これは何かと言いますと、太平洋二分論、要するに、東側アメリカでもいいですよ、そのかわり西側はちょうだいねっていう、極めて勝手な話なんですけど。それで今これに沿って何をやっているか、と言うと、南太平洋地域に、どんどん進出しているんです。ここに台湾との国交が結構ある国が沢山あったんですが、一つ一つ切っているんですね。そこで今、こうやって第3列島線戦略を。最近、台湾の国防部が発表しましたけども、ハワイに相当、海軍艦隊が近づいているという分析もあります、そういったことなんですね。それで戦史を遡りますと、山本五十六連合艦隊司令長官はブーゲンビルで亡くなっているんです。だいたいこの辺りなんです。なぜ山本長官がこの辺りにいたかと言いますと、太平洋戦争中で日本の連合艦隊はこの辺りを本拠地にしていたんです。なぜかと言うと、アメリカとオーストラリアを分断するためなんですよ。したがって、中国がここに進出するということは、アメリカ、オーストラリア、日本を分断するグットポジションなんです、ここが。
山口
戦略的な要衝になっているわけですね。
河野
そうです。だからそういう見方もする必要があるのと。もう一点加えさせて頂くとグアムキラーというのは、グアムをやっつけるミサイルですね、グアムは島ですから固定目標ですから、普通のミサイルでいいわけ。ところが、空母キラーは動き回っている空母に命中させなければいけないので、これは相当な技術力が必要なはずで、今、どこの国もまだ確認できていないです。中国が完成したかどうか、ですから、ここは今回ミサイル撃って、アメリカ側もそれに対するデータを必死になって取っているのではないかと思います。
■中国が弾道ミサイル その時、米軍が動いた
山口
峯村さん、今回、その中国側が中距離弾道ミサイルをこの海に向かって撃ったということになりますよね、この海に向かって撃ったというのはどんな意味があるのか、そこはいかがですか。
峯村
そうですね、これまではだいたい、内陸部のこの新疆とか甘粛省とかで砂漠に向かって、陸地の中でミサイルを撃つ、つまり自国の領土内で打つのが一般的だったんですけど、今回、最新鋭のミサイルをわざわざ、各国が領有権を主張している南シナ海に向かって撃ち込んだという意味は、緊張が1つ上がったとみていいと思います。と言うのは、中国軍の内部文書によると、最初、陸に向かって撃つと、段々エスカレーションが上がってくると海に向かって撃つと、と記されています。そういう意味では相当、中国側としては緊張感が上がってきていると理解していいと思います。
山口
なるほど。中国側がその海上に撃った時に、アメリカ側がどういう対応をしたのか、そこはいかがですか。
峯村
実はですね、アメリカ側はミサイルを撃った日の26日朝に嘉手納、沖縄にある米軍の嘉手納基地から、コブラボールという観測機を飛ばしているんです。ほぼ同じタイミングで飛ばしているということはアメリカ側はこのミサイル発射をある程度、予期していたと考えられます、今、河野元統幕長がおっしゃったように、もう南シナ海を、ちょうどミサイル撃ったところに偵察機が、観測機がいたわけですから、事前に情報を取っていたと考えていいと思います。
山口
そうすると、おそらく事前に察知してこのコブラボールを米軍側が飛ばした、そこでいったいどんな情報を収集したのかそこはいかがですか。
峯村
先ほど河野さんからもご説明があったように、おそらくこのDF21Dの情報を注目していたのではないかと私は見ています。普通のミサイル、弾道ミサイルというのは、弧を描いて着弾します。なので空母がここにいるなと示したら、そこに向かって撃つんですけど、実は空母は、あんなに大きいですが、速ければ時速60キロくらいで洋上を動いてしまうんですね。そのため当たらない。
ところが、DF21Dの「空母キラー」の場合は、まず人工衛星でこの空母の位置を把握しながら飛んで行って、最後の当てる段階では、弾頭の先ついているセンサーで空母をキャッチして命中させるというものなんです。
山口
軌道を変えられると。
峯村
そういうことですね。例えば、アメリカの軍関係者や研究者と議論していても、おそらくDF21Dはもう実戦配備されているし、もう運用できるだろうと。ただ、彼らも本当に最後に命中できるのかというところは分からないままなんですね。そういうことを考えると、おそらく今回、コブラボールはこれが命中できたかどうかという情報はきちっと取れているだというふうに思っています。
山口
そうすると、中国側としても、アメリカがコブラボールをアメリカ側が飛ばして観測、分析をしているわけですよね、それをわかって撃っているのか、その辺りは、どうとらえればいいですかね。
峯村
普通に考えると、何となく中国側がアメリカの罠にはまったんじゃないかと。まんまと情報を取られてしまったと私も思っていました。ところが先日、中国軍の関係者に話を聞いたんですけど、もうそんなのは百も承知だと言われました。つまり、アメリカの偵察機に見られているのも分かっていると。逆に、むしろ見せつけることによって、この性能の高さと精度の正確さというのを見せつけることによって、アメリカ側に警告を与えたかったようです。そういう意味では、先ほど河野さんがおっしゃった通り、ミサイルの性能というのは上がっているのではないかと見ていいと思っています。
山口
河野さんいかがですか。空母キラー、実際に、軌道を変えて動く空母を標的に命中する精度を持っているのか、どう分析されますか。
河野
一般論で言えば、非常に難しい技術のはずなんですね。まだ日本側も確証を取れていない。アメリカ側も確証を取れていないと思うんですね。そうやって今回、海上に打ったということを好機に捉えて、峯村さんが言われた通りコブラボールを発射して、データを取って、彼らの技術のレベル、本当に空母に命中するところまで行っているかどうかを確認したんだと思います。
上山
杉田さんは、お互いがお互いに戦略的に牽制しながら軍事的に緊張が高まっている状態、どのようにご覧になっていますか。
杉田
そうですね。アメリカは、とにかく中国が中距離ミサイルに関しては圧倒的に大国であると理解しています。これまでは中距離核戦力(INF)廃棄条約があったので、アメリカは中距離射程のミサイルを持っていませんから。米中間ではミサイルギャップという言葉がありますけど、圧倒的に中国に負けているわけです。
ですから、中国の戦力がどの程度なのか、チェックすることと同時に、ミサイルでは負けている分だけ、政治的にも経済的にも圧力をかけていますので、総合的な対中圧力の一環としての動きをしているんだと思います。アメリカとしては、中国のミサイルの力をできるだけ低下させたいということがあるので、そこは、色んな戦略的な牽制をしつつ、同時にロシアに対してアメリカが働きかけているのは、中国を巻き込んだミサイルの軍備管理の枠組みを作ろうということです。そのために米ロ間で中国のミサイル戦力についての機密情報を交換することで、米ロで一緒になって中国に圧力をかけるということをやっています。
■日本の自衛隊も対応 米中の軍事的対立
山口
日増しに緊張が高まっている南シナ海の米中の軍事対立なんですが、実は日本の自衛隊もすでに関わっているんです。
上山
日本の自衛隊は6月から8月にかけてアメリカ海軍と東シナ海だけでなく南シナ海でも共同訓練を行っていました。こちらをご覧ください。6月23日と7月7日は南シナ海で米海軍と、7月19日からの訓練はオーストラリア海軍も参加して行われています。8月15日~18日にかけて沖縄南方海域で行われたアメリカ海軍との訓練は、空母ロナルド・レーガンや米海兵隊のF35B、航空自衛隊のF15などの航空機も加わり、大規模に行われています。自衛隊の制服組のトップ、統合幕僚長を去年の3月まで務められた河野さんから見て、一連の南シナ海などにおける、日米の共同訓練、回数はかなり多くないですか?
河野
もちろん私が現役の時も南シナ海、東シナ海で日米共同、日米豪の共同訓練をやっていましたけども、印象としては、やっぱちょっと多いですね。数が多いと思います。それだけ今、頻繁にやっているのかなと思います。
山口
それだけ緊張が高まっているということになると思いますけども、日本の自衛隊の活動範囲、東シナ海、南シナ海と広がっていく中で、その負担にどう向き合うのか、新しい政権はそこも問われことになるわけですね。
上山
日本は現在7隻のイージス艦を保有しており、来年には8隻の態勢になります。このイージス艦を運用して、日本海で北朝鮮の弾道ミサイルの警戒に当たっています。その防衛機能を陸上に移し、イージス艦の負担を減らす目的だったイージス・アショアの導入計画は中止となりました。
安倍総理は11日、ミサイル阻止の新たな方針についての談話を発表しました。「与党とも協議しながら、今年末までにあるべき方策を示し、厳しい安全保障環境に対応していく」と次の政権にイージス・アショアの代替策を含む検討を委ねました。
山口
このように見ていきますと、やはり河野さん、これから自衛隊の役割、負担が大きくなっていく重くなっていくと思いますけど、いかかですか。
河野
特にイージス艦に関してはですね、こうやって中国が非常に海上における進出が激しさを増してきていますので、今、言いましたように、イージス艦も総動員で今やっているわけですね。したがって北朝鮮のミサイル防衛もやらなくてはいけないのですが、それをやって尚且つ中国の海洋進出に対応するということについては、やっぱりイージス艦の負担っていうのは相当ある、大きいですよね。そういうこともあってイージス・アショアという選択肢を取ったのですけれども。今回、やめたということなので、新たなどういう対応をするのかは、今後、政府の方で検討されますので、それを見守りたいなと思っております。
■どうする!?新政権 米中対立“緊迫度”は・・・
山口
先ほどもお話に出てきましたが、IMFがあった、それによってアメリカとロシアの中距離弾道ミサイルがものすごく減っていて、中国が突出していた、そのバランスが東アジアにおいて均衡が崩れてきているわけですよね。こういう中で米中の軍事バランスに差が出てきていると。これが東アジアの軍事情勢の中でどんな影響を及ぼすのか?峯村さん、どのように取材で感じていらっしゃいますか?
峯村
私も取材の中では、冷戦期を意識して比べて、今の米中関係ってどうなのだろうかと取材をしているようにしています。その過程で先日、シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授という、いわゆるこの現実主義の国際政治の大家の先生にインタビューしました。
我々も国際政治を勉強する時に必ず読む本なのですけれども、この方に冷戦期と比べて今の米中関係どうですか?と率直に聞きました。そうすると、ミアシャイマー先生によると、冷戦期というのは、特にヨーロッパを中心に、アメリカとソビエトがほぼ同じ核とミサイルを持って、いわゆる抑止という形で、相互抑止という形で向き合って安定していて、なかなか戦争が起こりづらかった。それに比べて見ると、アメリカと中国に関して言えば、例えば先ほど話していた南シナ海だけではなくて、東シナ海そして台湾でも、いわゆる戦争が起こりそうな場所は3つ以上あると。さらには先ほどの画面にも出た通り、ミサイルの数が完全にアンバランスになっているという状況を考えると、冷戦期よりも危険な状況だというのが先生の説明でした。先生の見立てでは、最悪の事態では限定的な核を使った戦争が起こる可能性すらもあると危惧をされていました。
山口
限定的な核を使った戦争とは、具体的にはどういうことですか?
峯村
例えば先ほどの南シナ海、DFシリーズを撃ち込んだような形で、直接敵地に向かって撃つというわけではなくて、海に向かってとか、例えば近海に向かって核を搭載したミサイルを撃つ可能性があるっていうのを、ちょうど先月のインタビューでおっしゃっていました。
山口
それはアメリカ側が撃つと?
峯村
中国側が撃つ。中国側が追い込まれて撃つ可能性があるだろうということでした。
山口
あんまり考えたくないですけど、その時、河野さんどういうことが起きると思いますか?
河野
ここは、だから戦争は抑止しなくちゃいけないですよね。中距離核からいきますとね、これも歴史的な話で、西ドイツがどういう考え方をしたのかと言うと、中距離核SF-20っていうのはソ連が配備したのですよね。西ヨーロッパにはなかったわけですよ。西ドイツはアメリカに頼み込んで、パーシング2というINF(中距離弾道ミサイル)を配備してもらったわけです。それで両方、配備したねということで、それで撤廃と、ゼロオプションっていう話にしたのですよね。今、アジアではアメリカに中距離ミサイルがないわけですよ、中国は持っているわけですよ。今、アメリカがアジアに中距離ミサイルを配備したいという意志を持っているわけですね、どこかはわかりませんけど。いずれにしろそれを配備しないことには中国との軍縮交渉さえできないという考えのもとにやっているのではないかと思います。
山口
そうしないとアメリカとしてはバランスが取れない?
河野
昔のヨーロッパでは対抗してやって、そして両方撤廃という話に持っていきましたから。配備しないことには、中国もその話に乗ってこないだろうということを思っているのではないかと思います。
山口
そういう中で日本にも中距離弾道ミサイルを配備するという流れも?
河野
アメリカはそういう希望を持っているかもわかりません。日本に配備するかは別の政治問題がありますので。
山口
そうですね。峯村さん、新しい政権は米中の狭間で大変難しいわけですが、どのように今、感じていらっしゃいますか?
峯村
私、色んな所で講演会とかやらせていただいた時に南シナ海とか台湾有事と言っても、皆さん大変ですねというリアクションが結構多いんですけれども、どちらの危機にしても、日本にある米軍基地が主な拠点になります。これはどうやっても巻き込まれるというところをまず意識することが大事だと思っています。あとやはり一昨日(9月11日)の安倍首相の安全保障についての談話にも、肝心な中国についての言及がなかったというのは、違和感を覚えました。次期政権にはそのあたりも含めた対中戦略を考えて欲しいと思っております。
山口
最後に杉田さんお願いします。
杉田
やっぱり日本の次期政権の最重要課題は、日米の間で中国の脅威についての認識をきちんとすり合わせることが重要です。情報交換はやっているのですけれども、やっぱり峯村さんおっしゃった通り、日本の対中脅威認識がまだ弱いので、そこは本音できちんとすり合わせておく必要があります。
(2020年9月13日放送)
■解説者プロフィール
【河野克俊】
前統合幕僚長。歴代最長となる4年半、自衛隊制服組トップを務める。今月、初の著書『統合幕僚長 我がリーダーの心得』を出版
【峯村健司】
朝日新聞編集委員。ワシントンと北京で9年間、特派員を務める。近著『潜入中国 厳戒現場に迫った特派員の2000日』(朝日親書)
【杉田弘毅】
共同通信社特別編集委員。テヘラン支局長、ワシントン支局長などを歴任。近著『アメリカの制裁外交』(岩波新書)
日本の新政権が直面することになるのが、米中、アメリカと中国の覇権争いです。2020年9月13日の『BS朝日 日曜スクープ』は、激しさを増す軍事的な牽制の現場で何が起きているのか、特集しました。日本は既に巻き込まれているという指摘もあります。