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小泉進次郎・環境大臣が語る「脱炭素」への戦略
■コロナ禍での豪雨被害 被災地では
山口
きょうのゲストの方をご紹介いたします。小泉進次郎環境大臣です。
小泉
こんばんは。よろしくお願いします。
山口
きょうは、小泉環境大臣が力を入れている気候変動対策やコロナ後の日本の社会の在り方についてじっくりとお話を伺っていきます。よろしくお願いします。
小泉
よろしくお願いします。
山口
そしてもう一方です。東京大学未来ビジョン研究センター教授の高村ゆかりさんです。高村さんは温暖化問題をはじめ、国際的な環境問題に関する法や政策を研究し、世界や日本の再生エネルギーの動向や政策に関する研究にも取り組んでいます。どうぞよろしくお願いします。
高村
よろしくお願いします。
山口
今年の夏は本当に異例の夏となっています。新型コロナウイルスへの対応が必要な上に、猛暑にもなると言われています。上山さんお願いします。
上山
気象庁はきょう、北陸と東北の南部で梅雨明けをしたとみられると発表しました。日本列島も広く真夏の暑さになりまして、東京の最高気温は31度を越えました。一方、フランスのパリでは31日、最高気温が39.3度を記録しまして、パリの近郊では40.3度にも達しました。フランスでは屋外でも人が密集する場所でのマスクの着用が呼びかけられているんですけれども、この暑さのために外す人も多く見られた、という状況です。
山口
本当に日本だけではなくて今年の夏、世界各地で非常に猛暑になってきている。小泉大臣どうでしょうか。今、コロナへの対応をしなくてはいけない、さらに気候変動の問題がある。つまりコロナの危機と気候の危機、この2つに私たちは直面していると思うんですね。どのようにお感じになっていますか。
小泉
私も先日、令和2年豪雨の被災地である熊本県人吉市、そして球磨村、芦北町に伺いました。このコロナの中での災害の現場は、ボランティアもなかなか入れない、予想以上に大変なものがありますね。そしてこの2つの危機に、どうやって同時に取り組んでいくのか、じっくり議論させていただきたいと思います。
山口
小泉大臣は、この気候危機とこのコロナについては、共通点があると指摘していますね。
小泉
そうですね、根っこは同じだと思います。つまり、このコロナの発生源を考えれば自然の領域、野生生物の領域にどんどん人間活動が入っていった結果、家畜などを通じて今、我々が直面する危機になっている。そして、このことと、気候変動に取り組んで、より持続可能な我々の生活を、より地球に負担をかけない形でやっていくか、これは同じです。そしてまた、解決方法も同じなんですよね。日本だけがやってもダメ。アメリカだけがやってもダメ。世界で協調体制を作って地球規模の課題に取り組まなければ解決しない。きょうは、そういったところを多くの方と共有する機会になれば嬉しいです。
山口
この新型コロナに関しましては後ほど、コロナ後の日本の社会の在り方などについて、さらに詳しくお話を伺いますが、ここからは国連の持続可能な開発目標、いわゆるSDGsの観点でも非常に重要視されています気候変動問題について、考えていきたいと思います。上山さんお願いします。
上山
もう毎年のように豪雨災害が発生する状況になってきているわけですけれども、例えば先月の令和2年7月豪雨の被害状況です。九州と中部地方を中心に大きな被害をもたらしました。現在までに分かっている被害の状況は、亡くなられた方が82人、4人の方が未だ行方不明ということですね。そして建物に対する被害も全壊、半壊、浸水ということで、大きな被害が出ているわけです。
さらには、7月下旬にも、28日の深夜から翌朝にかけて東北地方で今度は記録的な大雨となりました。山形県の最上川、53年ぶりの氾濫が起きました。今回は、この時には亡くなった方というのはいらっしゃらなかったのですが、やはり床上浸水などの建物の被害が出ているんです。
小泉さんは先ほどのお話にもありましたけれども、被害の深刻だった熊本県の人吉市、ご覧になったとおっしゃっていましたけれども、具体的にはどんなことをお感じになりましたか。
小泉
今まで私も東日本大震災の復興の現場にも行っていますから、被災地の景色、現場の様子っていうのは体感がありますが、今回やはり違うなと思いましたね。それは、ボランティアの方が圧倒的に少ない。そして、私が現場に行くその数日前に、残念ながら他県から応援派遣職員で来られていた方が被災地の方でコロナの陽性反応が出るということもあったので、現場に入ることをかなり環境省としても神経を使って、異例ではありますが、私とSPともう1人の秘書官、この3人だけで、小人数で伺おうと。そして現場では、私が自らスマホで、Face Timeで現場の状況を動画で環境省の本省に映しながら、私の秘書官もタブレットで現場の様子を移動中の車なども撮りながら、情報共有していきました。必要に迫られてそういったことをやりましたが、必ずしもそれがマイナスなことばかりではなくて、結果スピード感を持って様々な対応をすることにも繋がって、視察の翌日に財務省など関係のところと調整をして、災害廃棄物、これら環境省の担当ですから、半壊の家屋でもこれからは補助金を出すと、この異例の対応を翌日に決断したことは、この件に関する政府全体の対応のスピード感を上げることに繋がったのではないかと思いますね。
■気候危機を宣言「日本が最も災害の影響」
山口
小泉大臣は6月12日の会見で、初めて「気候危機」宣言、「気候危機」という言葉を環境白書に盛り込んだと発表しました。その文言を確認します。「今年の白書を契機として環境省としてここに気候危機宣言をしたいと思います。今後多くのプレーヤーとこうした危機感を共有して社会変革を促していきたい」。どんな思いでこの宣言を出したんですか。
小泉
まず申し上げたいのは、私が出したその前に、多くの自治体は既に出しているんですね。例えば象徴的なのは去年の千曲川の氾濫の被災をした長野県。
山口
台風19号ですね。
小泉
そうですね。長野県は、きょう、お話しをするテーマの一つでもある、Co2の排出を実質ゼロにするという宣言と同時に、気候危機宣言を出されました。私の思いも、私よりもさらに若い人たちの声をもっと国の政策に取り入れたい、それが強かったですね。どういうことかと言うと、去年、意見交換をした、いわゆるグレタ世代と言われる若者のグループが気候危機宣言をして欲しいと言われました。常日頃から若い人たちの声を聞きたいと言っている政治が、聞くだけではなくて本当に政策という形に繋げられるように。そんなヒントをいつも探しているので、この気候危機宣言というのは、特に次世代に関わる問題がこの気候危機ですから、その皆さんからの提言、これを私は形にしたいと。その思いが強かったですね。
山口
特に若い世代の方々はこれからの人生が長いわけで、仮に温暖化が進んでいくとしたら自分たちの住む地球はどうなってしまうんだろうという、やっぱり危機感が非常に強くあると思うんですよ。実際、私も色んな被災地を10年以上、被災地の取材続けているんですが、どこに行っても皆さん大変な中で、こんな雨経験したことなかったと、同じ言葉を発するんですね。明らかに私は雨の降り方が大きく変わってきている。まさに気候変動は実際に、着実に起きているんだと思うんですよね。そこを詳しく見ていきたいと思うんです。今年の令和2年7月豪雨の背景にあると考えられているのが、もちろん温暖化の問題なんですが、そこを詳しく分析していきます。上山さんお願いします。
上山
今回の九州での豪雨は積乱雲が次々に発生して並ぶ「線状降水帯」が出来たことが原因とされています。南シナ海や、東シナ海からの水蒸気が日本列島の上空に流れ込んでいるのが確認できます。気象庁は地上500メートルほどの高さに流入した水蒸気量は、西日本豪雨や九州北部豪雨を大きく上回った、としています。さらに筑波大学、釜江陽一助教によりますと、運ばれた水蒸気を水に換算すると、アマゾン川の約2倍に相当する「大気の川」が出現していたと、いうことです。その長さは3000キロ、幅600キロと分析しています。「大気の川」が出現した原因の1つとして東シナ海南部と南シナ海の海水温が平年より1度ほど高かったため、水蒸気が大量に供給されたことを挙げています。
山口
この東シナ海、南シナ海の海水温ですが、気温が1℃上昇すると大気中の水蒸気量がおよそ7%増加すると言われています。そういうことも関係しているんだと思われますが、大気の川が日本列島の上空に流れ込んでいた。この日本近海の海面水温の変化をここで確認しておきます。30年前と比較してみますと、左側が今年なんですね。このピンクの部分が日本列島に接近してきています。つまり、ピンクのところほど、海面水温が高い所ですから、日本近海の海面水温は明らかに上がってきている。
気象庁によれば日本近海の海面水温の平均水温は、この100年で1.14℃上昇していると、これは世界平均の倍なんですね。小泉さん、つまり日本は非常に熱くなっている太平洋を南に抱えている、水蒸気量がとんでもない量が毎年毎年この6月7月に入ってくる、まさにこういう危機と隣り合わせにあることは、私たち日本こそが温暖化対策をしっかり取り組まないとその被害を被ってしまうということになりますよね。いかがですか。
小泉
昨年、ドイツのあるNGOが世界のどの国が一番気候災害の影響を受けているかという、そういう結果を出したんです。なんと日本です。ただ我々日本の中で全体としてその意識があるかと言うと、その意識がまだないと思います。私がこの石炭火力の政策の変更とか、様々問題に強く旗を振っているその理由は、その意識を日本の国内に広げたいという思いです。そして海水温の話ありましたが、海面も上がっています。私の地元、横須賀は海に囲まれた街ですが、砂浜でやっていた地域の行事などをやるのがどんどん厳しくなっています。
山口
海面上昇ということですね。
小泉
海面上昇とかね、どんどん砂浜がなくなっていますから。そして、なんとこのまま温暖化が止まらなければ、今世紀中に日本の砂浜の9割がなくなると言われています。考えられます?これから日本の砂浜9割なくなるんですよ。私は自分の地元の横須賀、三浦が将来、砂浜のない三浦半島になる、こんなことを座して待っているだけで行動しない、こんなことはあり得ないですね。
山口
そのあたりの、足元の感覚が今、小泉大臣を突き動かしているということはありますか。
小泉
それは私も大臣になってから様々な経験をしました。そして勉強もしました。様々なことを学ぶ出会いがある中で、最近会った若者が「未来はもう始まっている」と言ったんですね。この気候危機はコロナの前からあって、そして日本は京都議定書というものをまとめ上げた国であって、その環境先進国と言われたはずの国が何故これだけ今、国際社会から石炭のことで叩かれているのか。それを私は、このままを続けるわけにはいかないと、こんな不利益を続けるわけにはいかないと思ったから石炭の政策に取り組みました。
■去年の台風19号は世界最大の経済損失額
山口
高村さん、やっぱりこの自然災害が年々激しくなってきている。これを他人事にしてはいけないのは、つまり私たちの経済活動にも非常に深刻な影響を及ぼしていますよね。この辺いかがですか。
高村
世界の気象関連の災害の損害、経済損失額が非常に大きくなっていまして、ここ30年間で3倍になっています。気象関連の災害が大きな経済損失を与えているというのが分かります。2018年、19年は日本でも非常に大きな災害、気象災害が続きまして、損害保険の支払額はそれぞれ1兆円を超えています。これは東日本震災時に損害保険会社が支払った保険支払額よりも大きな数字です。北米の保険会社のAONのデータですけれども、2018年の台風21号、そして西日本豪雨だけで、およそ2兆5000億円。19年の台風15号と19号ー19号は2019年世界で最大の経済損失額を記録した気象災害ですけれども、これでおよそ2兆7000億円です。そういう意味では私たちの命、生活、そして企業活動にも非常に大きな影響を及ぼしている。今まで私たちの孫、子の問題だと思っていた気候変動の問題、温暖化の問題が現実の損害を与えるリスクになっていると思います。
山口
私、去年台風19号の際に多摩川付近の住宅を取材しまして、新築なんですよ、一見綺麗に片付けられているんです。これが壁の中が断熱材で、それが全部泥水を吸ってしまっていて、これを直すのに1000万円かかると。ただ保険では500万円くらいしか払えないと言われたそうなんですね。残りは自費なんだと。結局、こういうように不利益を被っている方、実は沢山いるんだと思うんですね。このあたりいかがですか。やっぱりこの他人事だと思っちゃいけない、身近な危機が迫っていると思うんですよね。
小泉
まずは7月の九州の水害もそうですけれども、これから東京であってもどこであってもその可能性がある中では、まずは国民1人1人にもやはり知ってもらいたいと思います。例えばハザードマップというのは、それぞれの自治体でもう既に開示をされています。この最近の被害額が、いま高村先生、そして上山さんからもご紹介ありましたけれど、被害を受けた地域のハザードマップと実際に浸水被害があったところを重ね合わせてみれば、かなりの部分で重なっているわけです。ですから、まだまだ未然に出来ることはいっぱいある。そういった中で決して諦めることなく、国ももちろん全力でやります。自治体も皆さん頑張っています。そして民間会社も含めて今、防災の取り組みやっているところ、多いです。さらには、やはりこの問題は、もはや国任せ、行政任せだけで多くの国民の方の命を守ることは出来ない。やはり1人1人の皆さんのご協力、そしてご理解、これも不可欠だなと思っています。
山口
もちろん国にも動いていただきますが、それぞれの地域がどういう風に災害に備えるのか、本当に大事なポイントだと思います。杉田さん、これから台風のシーズンを迎えるわけですよね。この気候変動の問題についてはどんなことを感じてらっしゃいますか。
杉田
やはり次元が違う気候危機になっていますので、これまでの旧来型の災害対策では足りないということを感じますよね。それからあともう一つ、小泉大臣がおっしゃったことで、やはり若い世代を巻き込んで対応するということは重要です。つまり、今の日本の政治というのは、どうも世代間の乖離があって、若い世代は、政治というのは年金問題を象徴として常にシニアのために政策をやっていると不信感があるけれど、やはり若い世代が環境への関心を持つのは大事です。高村先生がおっしゃった経済が大きな問題となるわけで、これはまた大きな問題として若い世代が将来背負う問題だと感じている。その辺がやはりマッチしていくと、凄くいい政策遂行になっていくのではないかなという気がします。
■経産省&環境省 石炭火力で政策転換
山口
こうした温暖化問題の対策としてカギになって来るのが、いかに脱炭素化社会へ移行していくかということになると思うんです。この7月は、石炭火力をめぐって大きな動きがありました。7月3日、梶山経済産業大臣は今後10年の間に、二酸化炭素を多く出す低効率の石炭火力発電所の9割を休止や廃止することを表明しました。さらに、7月9日に小泉環境大臣は、政府は今後、石炭火力発電所の新たな輸出は「支援しないことを原則とする」、と発表しました。
小泉さん、経産省と環境省とほぼ同時に国内、輸出に関して石炭火力削減に向けた大きな動きがありました。この意義についてどのようにお考えになっていますか。
小泉
これ大きいですよね。ほんとに梶山大臣のリーダーシップに感謝しています。エネルギー政策を所管しているのは、これは梶山大臣、経産省ですから。いくら環境省が石炭政策の見直しを問題提起しても、最後、経産省サイドがOKを出さなければ、この問題は動かなかったわけです。もちろん環境省から強く昨年からずっと訴え続けていました。ただ、それを動かすという気持ちを、いち政治家として持っていただいたのは梶山大臣です。そういったことを考えると、これが連動した形で私が海外の石炭火力の輸出を原則止めるという、こういった方向に一つ形をつけて、梶山大臣は国内の石炭火力について2030年非効率のものは止めていく。ここはいい意味で政策の切磋琢磨を経産省、環境省で出来ている。私は非常に感謝しています。
山口
この転換点に至るまでに、どんなことがあったのか?
去年12月に行われた国連の環境会議・COP25。
その時の演説で、小泉環境大臣は、石炭火力廃止についてこう語りました。
「もちろん世界で日本の石炭関連政策などに批判があることは承知している」
「残念ながら石炭火力発電の新たな政策をこの場で共有することはできない」
小泉さんは、去年のCOP25で日本の石炭火力について、かなり厳しい批判を世界から浴びました。日本の電力構成を見ますと2018年度、石炭火力は32%を占め、2030年目標も26%と日本は石炭火力大国です。小泉さん、COP25の時に、あえて取り組みが進んでいない日本の石炭火力に言及したのは、どのような判断からですか?
小泉
COP25は去年の12月ですよね。しかし12月から今年の1月以降スケジュールを見定めた時にこれを一つのチャンスに変えるにはどうすればいいかなと考えましたね。それで石炭の政策の見直しを去年の12月に間に合えば良かったんですけど、残念ながらそこは上手く調整ができず、そして、その石炭の政策の変更を国際社会に持って行くことは出来なかった。ただ、そこで戦いは終わりではないということはもう海外でも言っていたので、じゃあこの中でどうするかと考えたら、むしろ石炭という問題を真正面から触れることで、なんだ今回政策の変更が出来なかったのかという批判を日本の国内で巻き起こすことで、結果、石炭という問題が多くの方に議論される環境を作ることにつながれば、この敗北は次に必ず生きるだろうというそういう思いはありました。今の結果を予想していたわけではありませんが。
山口
小泉大臣だったからこそ今回、あの時はバッシングがひどかったですけども、あれだけの注目を集めて日本の石炭はこんななんだというのが周知されたと思うんですよね。
小泉
そうですよね。あれだけ叩かれるとそれはこっちもへこみますけどね。だけど結果として国内でこれだけ、あれ以降、国会でも本当に石炭政策の議論が真っ盛りになったんですよ。そして今、こうやって私がテレビに出て石炭政策を話しているんですよね、もしかしたら見ている方でいったい石炭とは何なんだと、そういうふうに思っている方も多いと思うんです。だから、まず石炭政策がテーマになってテレビ番組に出られるということ自体、相当変わったなと思いますね。
■石炭火力“輸出見直し”に向けて
山口
COP25で世界から厳しい評価を受けた後の小泉環境大臣の動きです。上山さんお願いします。
上山
小泉大臣は今年1月、日本の民間が投融資するベトナムの石炭火力発電事業「ブンアン2」について「石炭火力輸出支援4要件」への違反を指摘しました。ベトナムの石炭火力発電事業「ブンアン2」は日本の商社が出資し国際協力銀行も融資しています。プラントはアメリカ企業が作り、据え付け工事は中国企業が行う予定になっています。しかし、当時の日本の石炭火力輸出支援4要件でも「日本の高効率石炭火力発電への要請があった場合」と定められていました。2月、「石炭火力輸出支援の4要件の見直しについて 次期インフラシステム輸出戦略骨子に向け環境省など関係省庁で議論し結論を得る」ことで合意します。小泉大臣は3月、環境省内に、有識者からなる「ファクト検討会」を立ち上げると表明しました。
山口
そうですね、こちらのフリップをご覧ください。政府のインフラシステム輸出戦略は、官房長官をトップとして経済産業省、財務省、外務省、環境省が関わっています。
小泉さんが3月に立ち上げた「ファクト検討会」は、今日、出演して頂いている高村さんが座長です。小泉さんどうして、こうした中で「ファクト検討会」を立ち上げたのか。その狙いは何だったんですか。
小泉
まずその前に、今、上山さんからもご紹介いただきましたが、なぜ私がベトナムの案件についておかしいと言ったのか、これ一言だけ触れさせてもらうと、去年のCOP25、12月のスペインのマドリードに行く前も関係省庁と調整している段階で、私が色々聞いた中で相当言われていたのは、日本が海外に石炭火力発電所を売らなければ中国がやっちゃうよと、それを見ているわけにもいかないから日本はやるんだという、この主張が結構ありましたね。ただ、今、ご紹介いただいた通りなんです。これを見て頂ければわかる通り、その要件の中には下の矢印の所にある通り「日本の高効率石炭火力発電への要請があった場合」なんです。要件は「日本の高効率石炭火力」ですよ。しかし、ブンアンはプラントがアメリカなんです。据付工事は中国なんです。
山口
矛盾しますね。
小泉
これが日本の高効率石炭火力と言えるのかと思うじゃないですか?私はこれ今まで言われていた話とわけが違うじゃないか、おかしいじゃないかという問題提起をしました。それを公に言った時にも相当ハレーションがあったんですが、そこからですね、関係省庁が、まあちょっとこれは、う~ん確かに…という話になって、議論のテーブルにつかざるをえないという動きになり、関係4省で議論をしよう、じゃあ議論の場をどうしようか、となりました。その時に、これは各省が言いっぱなしで終わったら絶対に前進は見られないだろう。そう思ってじゃあどうしたらこの問題に前進がみられるんだろうかと考えて、これは各省立場もあるし好き嫌いもある。時には事務方同士、また大臣に対しても決して良いと思っている人ばかりではありませんよ。そういう人間関係や感情も抜きにして、好き嫌いを超えてイデオロギーを超えて、前向きに問題を議論しようという形にするには、事実やデータ、そういったものをベースにする、いわゆるファクト。この「ファクト検討会」と名付けてみんなの意識を好き嫌いではなくて事実とデータに集中しようと、そのもとで今後を判断しようじゃないかというところに持っていけないかという発想でした。
山口
今のお話は多分、民間会社にも当てはまって、この部署とこの部署が仲が悪い、怨念みたいになり、変な方向に会社が進んでしまうということもありますよね。
小泉
さっき控室で話していたら、テレビ朝日も「ファクト検討会」やろうかなという声が聞こえて来たぐらいですよ(笑)。高村先生が座長やってくれたのもすごく大きかったです。
山口
高村さんはどういう思いで引き受けたんですか。
高村
ご依頼いただいたときに大変難しいお仕事だなと思いました。というのは、大臣が9月に就任されてからずっと調整の努力をされていて、それでもなお、合意できていなかった、そういう問題だと認識をしていました。ただ、石炭火力輸出への支援の問題は、日本が昨年、策定をしたパリ協定の長期成長戦略、こちらは国連にも提出していますけども、この戦略策定の懇談会、有識者会合で最後まで大きな議論になって宿題になっていた、そういう問題でした。この有識者会合に参加していたものですから、この宿題にどうやったら答えを出せるか、というつもりでお引き受けをしました。大臣のリーダーシップでつくられた検討会ですけども、結果的に、ファクトを客観的・中立的に集めて整理をする、この検討会の造り付けは、とっても良かったと思います。どのような政策がよいのか意見が違うということを認識していましたので、意見が違う中で建設的に議論するためのベースをつくるという点でもそうです。もう一つの理由は、エネルギー周りの状況が非常に大きく動いている。しかも、社会も脱炭素社会に向かって非常に大きく動いている中で、このインフラ輸出、石炭火力輸出への支援の政策が、場合によっては数年前、正しかったものが、今はひょっとしたら適切な政策ではないかもしれないというような、そうしたファクト、データ、事実というのを確認するということは、先ほど言いました建設的に議論する上で非常に重要な意味があったと思います。
■「原則、支援を行わない」方針の重み
山口
やはりファクトに基づいて有効な対策、有効な方向、道筋を選んでいく、本当に大事な事だと思います。ですから今回、政府も大きな決定に至ったということになると思うんですけど、7月9日に小泉環境大臣は、石炭火力の輸出を「政府としての支援を行わないことを原則とする」と発表しました。こちらが骨子の文言から抽出したんですが、特に下の4行ですよね。「我が国が相手国のエネルギーを取り巻く状況・課題や脱炭素化に向けた方針を知悉(ちしつ)していない国に対しては政府としての支援を行わないことを原則とする」。小泉さん、こだわり、どういうところですか。
小泉
まず知悉(ちしつ)って聞いたことないですよね。正直、私も生まれて初めて見た言葉でしたよ。一体この言葉、どういう言葉だと調べて、私も山口さんと同じように、この知悉(ちしつ)というのは、とにかく徹底的に理解をしていないと、ということなのです。相手の国のことをエネルギー政策の数字ぐらいはわかっていますよ、ということではなくて、様々な総合的な観点から、相手の国の状況、政策を本当に細かい所まで理解をしている。その上でやらないとだめですよ。それぐらい、この言葉は重いのだと噛みしめると、知らなかった言葉が意外に愛着を持って見えてくる。これ不思議なものなのですけど。
山口
これはキーワードになってきているのですよね?知悉がね…
小泉
ただ、それ以上に一番大事なのは、原則支援を行わないと明記したことなんですよ。これ何がすごいかというと、政府がインフラの戦略を作って、このインフラの戦略は何のために作るかっていうと、日本が海外に売りたいインフラをリストアップするために作るんですよ。そこに政府の支援を向けますよ、これが政府のインフラ輸出支援の今回の戦略です。そこの中に、たった一つだけ支援をしないというものを書くんですよ、それが石炭だったんです。これは本当に前代未聞で、もうこれからもそうはないのではないですか。支援すべきものをリストアップする中に支援しないものを書く、これ以上パワフルなものはないと思いますね。
山口
なるほど。具体的に見ていきたいのですが、4要件見てみましょうか。このように変わったんですね。新方針は右ですね、やっぱりこの脱炭素化を前提にする、脱炭素移行の一環である、この大きな方向性に縛りがかけてあるというのが重要だと思うのですが、いかがでしょうか?
小泉
そうですね。これ左が従来の元の4要件、そして右が新しいもの、一つ一つ説明すると長くなるのでしませんが、要は今までよりもさらに厳しい要件をかけて、この中で例として挙げると一番上ですね、このエネルギー安全保障、経済性の観点から石炭を選ばざるを得ない国というのが左側の今までの4要件だったのですね。これが今回どうだったかというと、エネルギー安全保障と経済性の観点からということに加えて、脱炭素化を前提としていなければダメ。つまり2つの要件が3つの要件に、さらに要件が上乗せされているのですよ。だから、こういったことをもうクリアしなければ支援はできない、ということを、さあこれは、もう原則支援をしないのだとそういうふうに言うか、いやこれをクリアすれば支援ができるんだということか、支援をするサイドのJBIC(国際協力銀行)の前田総裁の答えで明らかだと思います。
山口
そこなんですよね。今おっしゃったように見ている方はね、そうは言ったって原則って付いている、だから輸出できちゃうのではないかっていう突っ込みを入れる方も多いと思うのですが、いかがでしょうか?
小泉
JBICってなんだ?と思っている方いるかもしれませんが、ここが融資をするんです。この融資をする組織のトップがもう新規の融資は事実上ないだろう。あとは前田さんを番組で呼んでください。私が言うよりも一番客観的で、私はその通りだと思いますよ。
山口
結局、JBICの前田総裁がこのようにお話される背景には、やっぱり金融の動向も脱炭素ということを非常に重要視している面があると思うのですよね。そのあたりいかがですか?
小泉
今、この映像にも出ていますがメガバンクですね。結局はJBICだけに限らず民間の金融機関も融資をするわけです。その民間の金融機関は、結局は国の動向を見るんです。国の動向を見ている金融機関がこの三井住友・みずほ・三菱UFJ、全部見てください。「原則として実行しない」「原則おこなわない」「原則として実行しない」、次々に世界の中の脱炭素、この動きを見て、そして今回の我々環境省含めて取り組んだ政策の見直しを受けて、ここまで厳しくなっています。ですので、融資をするサイドもやる気がないんですよ。
山口
そうですね。
小泉
前に動きましたね。これマーケットの環境が変わってきた。その証左だと思います。
■「環境先進国日本の復権を果たしたい」
山口
やはり、このESG投資って言いますよね。やはり環境を重視する、社会、企業統治、こういう大きな流れの中で、やっぱりお金の持っていき方が持続可能でないと、もはや投資できないような国際的な環境がかなりできていますよね。
小泉
今回、日本の石炭政策の見直しが国際社会にどう評価されているかというと、例えばフィナンシャル・タイムズの社説で日本がポジティブなステップを踏み始めたと。そのことは日本では報じられないのですけど、国際社会からの見え方は間違いなく変わっています。
山口
もちろん、完全な脱炭素化ではないわけですが、ただ、私もこの分野を取材していて、今回の決定というのは間違いなく大きな一歩だと言っていいと思うんですよね。ここで海外の状況を確認しておきたいのですが、なぜ日本が石炭火力で大きな批判を集めるのか、このフリップに書いてあるのは、石炭火力発電からの撤退、脱石炭を表明した国々ということで、これからどんどん脱石炭という国が増えていくということですが、なぜこうした脱石炭の国が増え続けるのか。
これはもちろん、環境のことも大きいわけですけれども、それと同時にこれに変わるものと言えば、再生可能エネルギーです。この再生可能エネルギーのコストが急激に下がっているという実態があるんです。上山さんお願いします。
上山
こちらは、ブルームバークNEFが調べたデータをもとに世界の発電コストを地図で表したものです。2014年においては、世界の多くの国で石炭など化石燃料の発電が最もコストが安くなっていました。それが2020年前半には、化石燃料が最もコストが安い国は世界のごく一部です、黒い部分ですね。青の陸上風力やオレンジや黄色の太陽光発電が最もコストが安い、という国が3分の2を占めています。
さらにブルームバーグNEFが調べたデータによりますと、日本では、太陽光、風力より石炭火力のコストが低くなっていますが、ドイツやアメリカでは石炭火力のコストは風力や太陽光などより高くなっています。
世界ではすでに石炭火力より風力、太陽光などの再生可能エネルギーのほうがコストが安くなっている、というのは驚きでした。さらにブルームバーグNEFによれば日本でも2025年を過ぎた頃には、事業用太陽光や陸上風力の発電コストは新規の石炭火力の発電コストより安くなる、と予測されているんです。高村さん、ここ数年で大きな変化が起こっているんですね。
高村
本当にこの数年で再生可能エネルギーコストが下がったんです。さらにこれからも下がる見通しです。このことが、再生可能エネルギーが経済合理性の観点から拡大をしていき、従来の火力発電から再生可能エネルギーへの、エネルギー転換のドライバーになっています。ただ、それだけではなくて、エネルギー転換に伴って、クリーンエネルギー分野に非常に大きな投資が流れています。2014年以降で見ますと、年3000憶米ドル以上の新規投資がクリーンエネルギー分野に流れているというのがわかります。合わせてこちら、もう一つフリップがあるのですが、化石燃料など他のエネルギー源との比較を紹介しています。緑が再生可能エネルギー投資、そして青が化石燃料投資です。見ていただきますとわかります通り、再生可能エネルギー、送電ネットワークへの投資が大きく増えています。これは先ほどの「ファクト検討会」の中で確認をしたファクトの一つでして、ヒアリングに協力いただいたエネルギー事業者の皆さんや商社の皆さんから提出いただいた資料でも、こうした市場の変化、あるいは脱炭素に向かう社会の変化に敏感に反応して、すでに経営戦略、ビジネスの方針を変えていらっしゃるということも「ファクト検討会」の作業の中でわかった内容です。
山口
杉田さんはどうでしょう?このあたり本当にめまぐるしく世界の情勢、エネルギーのコストがだいぶ変わっている、お金の流れも変わっている。どのようにお感じになっていますか?
杉田
世界は、我々が10年、20年前に考えていた状況と、全然、変わってきているんだと驚くばかりですよね。日本では依然、環境政策というと独立したものとしてあって、環境重視は理想論であるけど経済やエネルギー政策とは両立しないという固定観念がものすごくあると思うんです、政府の中にも国民の中にも。しかし今は、これは全く一体化したものであるという認識が必要です。環境・エネルギー・経済これ全部一体化したものであると。この発想で立てなくてはいけないなというのがまさに知悉(ちしつ)という言葉と同じように、このことをまず知らないと始まらないと思うのですよね。それで大臣に伺いたいのは、そうなってくると、やっぱり日本だけで脱炭素を言っても、それが果たしてどんな効果があるのか。日本は確かに国際的にこれで評価されているし、これからどんどん評価されるべきだと思うのですけれども、本当に脱炭素が国民生活にとって、実のある形で温暖化阻止という具体的なベネフィットというか、利があるためには、やっぱり日本だけでなく国際社会全体での体制づくりだと思うのですけど、その辺はいかがですか?
小泉
そうですね、おっしゃる通りで、日本だけでやっても気候変動は止まりません。だからこそ国際社会が取り組まないといけない。だったら日本がより利益を得る形でどうやって国際的な枠組み、ルールづくりをやっていくのかといえば、国際社会の中で日本の影響力を高めなくてはいけないわけですよね。この石炭の問題は、もしも今までのように動かなかったら国際社会で日本がリーダーシップを発揮することは絶対にできなかったと思います。今回、このことを受けて世界中が注目していたんです。日本が果たして石炭で動くのかどうか。そのことを今回動いたとなれば日本が言うことを少しは聞こうということになるわけですよ。そもそも京都議定書をまとめた国が、なぜここまで国際社会の中で、「日本イコール環境」と思われなくなってしまったか、私は悔しいですね。だからこの環境先進国日本の復権を果たしたい。私は実際に自分で国際社会の環境外交の現場に立っていますから、この世界だったら日本は影響力を行使できるぞという確信があるんです。ですから9月3日には、京都議定書以来となる日本が議長を務める閣僚級の世界が、みんなが集まる「オンラインプラットフォーム」という場を作って、私が議長やります。
山口
オンライン会議ですよね?
小泉
はい、オンライン会議です。実際に集まれないので。しかし、こういったことを通じてですね、日本が国際社会でリーダーシップを発揮していく。新たなスタートになっている。それがなければやっぱりこれから日本の利益に繋げることもできないので、その新しいスタートが今、始まったということじゃないですか。
■「2度の原発事故をやったら終わり」
山口
こちらを見てください。これは日本の電源構成です。最新は今、2018年度なのですが、再生可能エネルギーは16.8%、その他の石炭・天然ガス・石油いわゆる化石燃料ですね、これで77%を占めている。2030年度のエネルギーミックスで、再生可能エネルギー22~24%と今は決められているんですが、いやこれ低すぎるだろうと、もっと上げられるのではないかっていう声が私も色々な再エネ業界を取材していて皆さんおっしゃるんですけども、実は経済界からこれをもっと上げるべきだという声が出てきているのです。上山さんお願いします。
上山
経済同友会は29日、国内の電源構成について、2030年時点に太陽光や風力発電など再生可能エネルギー比率を40%へ引き上げるべきだとするエネルギー政策の提言を発表しました。気候変動に対する危機感が世界中で高まり、日本政府も30年に、原子力発電と再生エネを合計した電源比率44%を目標に掲げていますが、同友会では、原発は再稼働が進まず、再生可能エネルギーの比率を引き上げないと達成できないとしています。
山口
小泉さん、経済同友会の提言する再生可能エネルギーの比率40%、この数字についてどう思われますか?
小泉
良い意味で意外でしたね。むしろ、この石炭政策の見直しが進み始めて、国内の石炭も2030年までに非効率のものは閉じていくと。これから日本のエネルギーどうするんだってときに、原発やりたい人たちは、原発を進めるチャンスだと思っているわけですよ。基本的には経済界も原発とかをやりたいって人たちのほうが間違いなく多いですから、そのときに、まさか経済団体の有力な一つの経済同友会という団体が、そうではなくて原発はなかなか進まないから、再エネ40%まで上げるべきだ、というこの提言をこのタイミングで出されてきたことは、私にとっては良い意味で意外でした。しかも、これは同友会の中だけに限らずに、経済界の特に経団連、この経団連の企業の中で、気候変動の取り組みを前から頑張っている企業が集まっているJCLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ)の皆さんは、もう前から再生可能エネルギーだと言っているんですよ。ですから、この同友会の提言で改めてよくわかったのは、経済界イコール原発だとか、そういった発想ではなくて、経済界も多様なんです。その多様な声に耳を傾けて今後のエネルギー政策をひとつひとつ前に進めていかなければいけない。この提言はものすごく意義があると思います。
山口
なるほど。やっぱり経済界もどんどん変わってきているって事ですよね。そういう中でやはり皆さん聞きたいところだと思うんですが、原発について小泉大臣はどんな想いを持ってらっしゃるのですか?
小泉
これは、私は福島の政策・復興にずっと関わっている中で、1つの国で2度の原発事故をやったら終わりだと思っています。ですから今後、大いに議論をすべきだと思います。原発の議論も、そして再生可能エネルギーの議論も。これから石炭が、事実やデータをベースに、このように政策が前向きに動いたように、原子力の政策も再生可能エネルギーの政策も好き嫌い、イデオロギー、こういったものを廃して、しっかりとした最新の数字、そして環境の変化、これを踏まえて議論すべきだと思っています。私は環境大臣という立場で、原発から出る最終的な高レベル放射性廃棄物と言われる、いわゆる核のゴミ。これは環境省の所管ではありませんが、やはりこの廃棄物がどこに持っていくかが見つからない、どうすればいいかわからない。この問題をどういうふうにとらえていくかは間違いなく、今後、しっかり議論されるべきことだと思います。
山口
原発については、将来的にどうすべきだと思ってらっしゃいますか?
小泉
2030年には20から22%とありますね。これは間違いなく無理です。そして今が6%ですから。この中で間違いないのは再生可能エネルギー22%から24%。同友会は40%と言いましたが、24%の上限、これは上限じゃないですから可能な限り引き上げる。そして石炭、天然ガス、石油、これ全部を化石燃料由来の電源だと見たときに、一番大事なことは、なぜ世界でこの化石燃料を由来とする電源が批判をされるのかと言うと、 CO2を最も排出するからなんです。であれば、日本はすぐにゼロにはできない。その中で開発・研究、進めるべきところは、このCO2が出てしまうから批判をされる火力発電というものを、 CO2をより出さない形にする。高効率をより高効率に。そしてさらに最終的にはCO2排出をしない火力発電というもの、これはいわゆるゼロエミッション火力とも言われます、こういったものに対して環境省はこれから後押しをするつもりです。例えば、今も石炭火力、もしくはLNGの火力発電所。この中に水素を混ぜる、バイオマスを混ぜる、アンモニアを混ぜる、こういう形でするとCO2の排出が入れた分だけ減るという技術はすでに実証されています。あとはそれをどれだけ高められるか。それでも出てしまう二酸化炭素を最終的には地中の中に貯留をする。そしてまた農業とかに利活用を進める。こういったことをしていくことで、結果として全体で考えればCO2の排出はゼロにできる。この開発も進められています。ですので、将来的には再生可能エネルギー、そしてまた火力の中でもCO2排出のないゼロエミッション火力、こういったものを環境省としては、しっかり後押しをしていきたいと考えています。
山口
つまり小泉さんとしては、再生可能エネルギーをもっと増やすべきだ、それから化石燃料の脱炭素化をもっと進めていくべきだ。原子力もそうするとある程度減らしていくべきだというご意見ですか?
小泉
減らす方向は、これは私の思いではなくて、原発の依存度をできる限り下げる、これは政府の統一見解です。今は6%ですよね。さっき言ったように、2度の原発事故をやったら終わりです。これから仮に原子力をやるとした場合、本当にもう、あのような事故を起こさないと言えるだけのデータ、環境、ファクト、これを示せるかどうか。その上で国民の皆さんの理解のないエネルギー政策は進みませんので、まさにこれは来年のエネルギー政策の大きな変更を見据えて、基本計画の見直し、この過程の中でそういった観点で議論を私はしたいと。経産省もそういった観点で議論をしたいと思っていると思います。
山口
高村さんはどうでしょうか?日本の電源構成、今後どうあるべきだと思いますか?
高村
電力市場は今、自由化されていますので、すべて数字を決め打ちで決めるというのはどうだろうかとも思います。ただ、あるべきエネルギーシステム、電力システムがどちらの方に向かっていかなきゃいけない、というのを示すための電源構成を示すこと、これは必要だと思います。ひとつの軸はやはり先ほどからありますように、再生可能エネルギーについて導入を拡大することを明確に示すできるだけ野心的な目標が必要だと思います。先ほどの経済同友会の提言では、2030年40%、大変野心的な目標だと思いますけれども、こうした目標が必要です。もう一つはやはり温暖化の観点から、国際社会は2050年ゼロエミッションに向かう動きが非常に強くなっていますので、火力発電、特に排出の多い石炭火力について、30年、40年そして50年に向けて、ゼロエミッションに向かうそうした道筋をきちんと示すような、そうした電源構成のあり方というのを示す必要があると思います。先ほどの経済同友会の動きなどを見ても、電力の需要家の関心がすごく変わってきていると思うんですね。金融機関や投資家も、脱炭素社会に向かってちゃんと対応して移っていける企業かどうかを注目している。サプライチェーンの下流企業もそれを注目している。そういう意味では、できるだけ再生可能エネルギーを使って排出をしないで普通に企業活動ができる環境を、エネルギーシステムを、作っていくことが非常に重要になっていています。これは、エネルギー政策の問題だけではなくて、日本の産業の、経済の競争力の問題、経済政策の問題であり、産業政策の問題として、きちんとこの脱炭素化、再生可能エネルギーの主力電源化を進めていく必要があると思います。
■「再エネで循環型、分散型経済を」
山口
まさに、持続可能性、SDGsということになってくるかと思うんですけど、ここからはポストコロナの日本の在り方を考えていきたいと思います。小泉さんは、コロナ後の日本社会のテーマとして3つの移行をあげています。脱炭素に関しては、先ほどまでの石炭火力の削減という大きなテーマがありました。残りの2つ「循環経済」と「分散型社会」について伺っていきます。鍵を握るのは地方で今、取り組みが進んでいる自然環境を生かした再生可能エネルギーによる発電です。日本の再生エネルギー潜在力は電力需要の2.2倍と言われており、赤い部分、都市部はあまりないのですが、こちらの青い部分が示す地方により多く存在していることがわかります。
私も、日本各地の地方で取り組まれている再生可能エネルギーを取材してきました。まず映像でご覧ください。
【福島県土湯温泉】
こちらは福島県土湯温泉です。温泉の熱を活かした地熱バイナリー発電などで売電収入は年間1億2千万円、東日本大震災から観光客数はⅤ字回復を果たしました。今、コロナで大変な状況ですが、この再エネがあるから頑張れているということです。
【岐阜県石徹白集落】
そして続いて岐阜県の石徹白(いとしろ)集落です。人口減少で地域消滅の危機にありましたが、住民がお金を出し合って建設した小水力発電で、売電収入が年間2400万円。これを元手に耕作放棄地を整備してトウモロコシを栽培。若い移住者が相次ぎ活気が戻りました。
【岡山県真庭市】
さらに次です、岡山県の真庭市。ここは地域の製材業者が中心となり、放置されていた森林資源を活かした大規模なバイオマス発電所を建設、売電収入は年間24億円、森が再整備され、新しい建材も開発され町も元気になりました。
【沖縄県宮古島】
そして、沖縄県の宮古島市です。太陽光パネルとエコ給湯器を無償で市営住宅の屋根に設置、太陽光のエネルギーでお湯を沸かし、夜間に使うことでエネルギーの需給バランスを取っています。さらに各家庭をネットでつないで遠隔操作することで、天候に左右される再エネの弱点を補っているんです。
私がこうした地方の取り組みを本にまとめまして、小泉大臣がたまたま手にとって読んでくださいました。ありがとうございます。
小泉
これですね。私、本当にびっくりしたんです。アナウンサーの方で、再エネで本を出される方がいたっていうのは、私にとってものすごく意外で一度、お話伺いたいなと思っていたので、きょうはお会いできてうれしいです。
山口
この各所の取り組みは、大臣がいつもおっしゃっている循環経済、分散型社会に当てはまると思うんです。まさに今、コロナで(東京)一極集中の限界って出ていると思うんですが、こうした取り組みがコロナ後の社会に当てはまってくるんじゃないかと思うんですが、いかがですか?
小泉
これ山口さんも現場を相当見ていますよね。山口さんが現場に行かれた1つの岡山県の真庭市、あそこ私も数年前に伺いました。現場の方のエネルギーすごいですよね。とにかく、これが日本の地方を元気にすると頑張っている。だから循環型の経済、これは、新たな資源を投入することなく、有効な資源を循環させる形で地域の中にお金が落ちていく、それが循環をしていく。分かりやすく言うと、例えばメルカリがやっているようなことも循環型経済の新たな仕組みとも言えるわけです。そういう経済をそれぞれの地域が自立型で、分散型で、経済的にも回っていくような社会を作る。これが脱炭素を含めてすべてが横につながっているんですね。日本の将来をどういうふうに元気にするか。山口さん、私も現場を見ているタイプですから、どういう環境を整えると現場が頑張ろうって元気が出るかというと、地域の良さを生かすこと。
山口
その通りですね。
小泉
この地域の良さを生かすのは、この脱炭素社会への移行、分散型そして循環型。こういった方向への移行をする政策をひとつひとつ進めていくことで自分たちが動こう、そして、自分たちがやることで地域が元気になる、そういう方向に繋がっていくと私は思いますね。
山口
ひとつ、さらにご紹介したい取り組みがあるんです。今おっしゃったように、地域は様々なこの潜在力を持っているんですね。それを都会が支援することができるんです。これは青森県横浜町や北岩手の地域の再エネを横浜市内の会社で使うようになっているんですね。どういうことかというと、これ、たまたま同じ名前の青森県の横浜町というところなどの自然エネルギー、再エネの電気を送って、この小売事業者(みんな電力)がとても頑張りまして、ブロックチェーン技術でここの電気だという紐付けをしているわけですね。
それを都会で買うことができる。そうすると「地域循環共生圏」という言葉が環境省にありますが、地域の中でも循環するし、それが都会との間でも循環する。そうすると日本中が元気になってくるという取り組みだとも思うんです。そのあたり、いかがでしょうか?
小泉
これは横浜町と横浜市の連携、「横横」連携ですけど、横須賀市の私は、「横横」というと横浜と横須賀だと思っていたのに、青森県の横浜町と神奈川県の横浜市の連携だ。これは新しい「横横」連携ですね。
山口
さらに一言だけ足させてくいださい。ここの横浜市内の大川印刷さんというところが自前で太陽光パネル、これも0円で設置して光熱費1割削減できている。やはりこういうことも、やればできる時代になっていると思うんですね。
■広がる「脱炭素」再エネ活用
山口
小泉大臣は、再生可能エネルギーは高くないだということをよくおっしゃいます。私も取材を通して、それを実感しているんです。環境省と経産省が支援する「PPA=第三者所有モデル」は、事業者が電力の消費者の屋根などに初期費用0円で太陽光パネルを設置して、その発電した電気を自家消費してもらい、事業者は余った分を売電して利益を得ます。減価償却の済んだ10年後に無償でパネルは消費者に譲渡されるという仕組みです。個人宅用では、電気代が最大2割安くなる(20年契約)というプランや、スーパーマーケットの屋上に設置すると電気代の5%を削減でき1店舗で年間100万円節約できるケースもあるそうです。
やはりコストが下がっている再エネは高くない。ここは大事なところだと思うんですが、いかがでしょうか。
小泉
今、ご紹介のあったPPAモデル。これは経団連の加盟企業のいくつかが集まっている、先ほど私が紹介したJCLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ)さんが提言を、この前、私の方に寄せられて、その提言の中に入っていたのがこれです。まさに経団連を含める経済界の中からも、こういう事業を、政府を挙げて後押しをしてもらいたい、その声が上がっているので、今、環境省としましてもこのPPAをより後押しできる形はないかというのを、いま前向きに検討を進めています。そして例えば、スーパーマーケットをやっているイオンさんとか、デパートをやっている丸井さん、いま例えばイオンさんでも再生可能エネルギー100%の店舗、そして丸井さんでも新宿の丸井は再生可能エネルギー100%。そういう形で本当に世の中が、企業が、再生可能エネルギーをもっと求めている。この環境変化というのが今までとは違って、そして、それがどんどん進んでいけば再生可能エネルギーは価格が高いという、今までの固定観念が、再生可能エネルギーは必ずしも高くない、安い、この世界の情勢に追いついてくると思うので。現実に今、私たち環境省が所管している新宿御苑は今年から再生可能エネルギー100%にして電力料金変わらなかった。こういう実例を一つ一つ増やして行きたいですね。
山口
杉田さんはいかがですか、この辺りだいぶコストが下がってきている。社会の構造が少しずつ変わっていくんだと思うんですね。いかがでしょうか。
杉田
脱炭素時代、再エネ時代を引っ張っていく。あるいは、その世界で日本が勝ち抜いていくには、小泉大臣が先ほどから何回もおっしゃっている技術力、ここの部分が大事だと思います。それから高村さんがおっしゃっている産業政策としての再エネという位置づけが必要ですよね。これまで日本は再エネを言いながらも、結局、政策目標が途中で変わったりして、それで起業家の人たちが断念してきました。例えば風力発電、あるいは水素エネルギー開発も、これまでは日本が圧倒的に技術を持っていたのに、今やヨーロッパのグリーンリカバリー構想に代表されるようにでドイツが非常に大きな技術力を持っています。政治の力、政策目標の設定はすごく大事だと思うんです。この辺は環境省の所管ではないのかもしれないですけども、やはり小泉大臣の発信力というか政治力に大いに期待したいと思います。その辺はいかがですか?
小泉
ありがとうございます。少しずつ政治の状況も変わって来ていると思います。私が去年の12月に石炭であれだけ批判をされてから、与党の中でも自民党の中でも後押しをしてくれるメンバーも、いっぱいいます。そして公明党もきょう、先ほど少し触れましたけど、政府の目標をさらに高く上げるべきだと。そして石炭火力も非効率なものは止めていくべきだと。これは、いち早く公明党からも言われました。野党からも言われています。本当に与党野党含めてここまで石炭の問題、環境の問題、エネルギーの問題、これが脱炭素型で議論されることになったのは、おそらく今年がターニングポイントだと思うので、これを次のさらなる目標の引き上げなど上げていきたいですね
山口
そうですよね。まさに、ここのところのお話を伺っていきたいんですけども、そのEUなどは2050年に脱炭素社会を実現すると打ち出していますよね。気温上昇を1.5℃に抑えるためにはやはり排出量ゼロを2050年に達成しなければいけないと、その必要性が指摘されています。一方で日本は、2050年の目標は80%減というようにヨーロッパなどに比べると低いという現実があります。こうした中で上山さん地方から色々な動きが始まっているんですよね。
上山
そうなんです。東京都・京都市・横浜市を始めとする148の自治体が「2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロ」を表明しました。このオレンジ色の自治体は都道府県として表明しています。さらに市区町村として表明しているケースもあります。表明した自治体を合計すると人口は約6,997万人 、GDPは約330兆円となり、我が国の総人口の半数を超えました。小泉さん、地方から変化は始まっているのでしょうか?
小泉
そうですね。私が大臣になった去年9月、その宣言をしていた自治体の数はたった4だったのです。その4がいま148です。そこまで来て今年の目標6500万人まで行けば、ということで、頑張っていたんですけど、なんとそれを一気に超えて、今、目標達成しちゃいましたね。これを考えれば、もう日本の人口の過半数を超える地域が、今の政府の目標よりも高い数字の目標を掲げている。もう前提が一変したわけですから、私は政府の目標も上げる段階に来たのではないかと、これを政府の中でも働きかけを始めまして、これを実現に向けてさらに取り組みを強化していきたいと考えています。
■「環境政策にリベラルも保守もない」
山口
小泉さん。来年9月は自民党総裁選が予定されています。ずばり出馬されるか、いかがですか?
小泉
そんなこと考えていたら石炭政策の見直しもできなかったと思いますよ。改革をやると必ず敵は出来るんです。その敵が出来るけど日本にとっては必要なことだと思って、改革を常に私はやりたいと思っています。しかし、どんな改革も仲間がいなきゃ出来ません。一人では出来ません。ですので、一つ一つの改革に挑みながら仲間が出来て、その仲間たちと一緒に一人だけでは出来ない新たな課題に向けても頑張っていきたいと、それは来年のことだとか全く関係ありません。
山口
そういう小泉さんを押し上げたいという声はあるんじゃないですか。
小泉
そういうふうに支えたいと思ってくれる人がいるかどうか、これで将来は決まりますから、そういうふうに思ってもらえるように頑張りたいと思います。
山口
本当はもっともっと動く潜在力が日本にはあると思うんです。そうすると、その政策を進めるためには、やはり総理大臣にならないと未来の理想の国造りというのは出来ないと思うのですが、そこへの思いというのはいかがですか。
小泉
総理にならなかったら解決出来ない課題はいっぱいあります。環境政策も私は一番早いのは自民党が変わることだと思います。自民党が環境問題に取り組む政党になったら日本の環境政策は一変しますね。環境政策やっているとリベラルとか、そういうふうに言う人いるんです。しかし、もう環境政策にリベラルも保守もないんですよ。
山口
関係ないですね。
小泉
特に、このまま地球環境が変わって行ったら、日本から季節、四季が無くなるんですから。そしたら、日本の伝統文化は変わりますよ。国家の安全保障も変わります。そしたら、保守とかリベラルを抜きに、環境に取り組むのは、どの政党でも当たり前。そういう時代だと私は考えています。
山口
本当にそうですね。日本人全員が正面から取り組む問題だと思います。きょうはどうもありがとうございました。
小泉
ありがとうございました。
(2020年8月2日放送)
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再生可能エネルギーを主力電源化へ!!日本の挑戦
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毎年のように豪雨災害が発生する日本。2020年8月2日の『BS朝日 日曜スクープ』には、小泉進次郎環境大臣が生出演。温暖化の脅威に向き合い、石炭火力発電の輸出厳格化や、再生可能エネルギーの活用など、「脱炭素」社会への移行を議論しました。
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