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#125

“唾液によるPCR検査”実用化の道

新型コロナ対策で重要とされる、PCR検査の拡充。2020年5月10日の『BS朝日 日曜スクープ』は、医療従事者の安全を確保しつつ検査を拡充するために、唾液によるPCR検査の実用化を研究する、北海道大学の豊嶋崇徳教授と中継をつなぎました。

■検体採取の人員確保も困難な現状

山口

PCR検査の拡充を求める声は高まっていますが、拡充できるのか考えていきます。大阪府の吉村知事はこう話しています。「検査の枠を広げるのは賛成だが検査の担い手の確保もきっちりやってもらいたい」。検査の担い手の確保ということなんです。その1つの事例として専門家会議もある問題を指摘しています。 「検体採取者及び検査実施者のマスクや防護服などの感染防護具の圧倒的な不足」検体を採取する人、そしてその人を守る道具が圧倒的に不足しているということなんです。こうした問題を解決できるかもしれない技術があります。唾液によるPCR検査です。上山さん、お願いします。

上山

日本医師会の横倉義武(よこくら・よしたけ)会長は7日、PCR検査について唾液から検体を採取する方法を実用化するよう加藤厚生労働大臣に申し入れました。横倉会長は理由として「医療従事者の感染リスクを減らすことが期待できる」としています。

山口

この唾液によるPCR検査の実用化を研究している北海道大学血液内科、豊嶋崇徳(てしま・たかのり)教授と中継がつながっています。豊嶋さん、宜しくお願いします。

豊嶋

よろしくお願いします。

山口

豊嶋さんが、唾液によるPCR検査を必要だと思われたきっかけ、非常に難しい現状があると伺っています。なぜ必要だと思われたのか。そこから教えて頂けますか?

豊嶋

今、PCR検査を拡充しようということで、各地にドライブスルーの検査場ができていますよね。しかし、そこで採取する人がなかなか探すのが大変だという声を沢山聞いています。 もう一つは、院内感染を防ぐために、大きな病院ではこれから手術だとか、処置をする前に、PCR検査をしたうえで処置をしていこうという動きになっていますよね。そこも非常に大量の検査が必要なんですけども、北海道大学でもそれをやろうとしたときに、結局どこがネックになったかと言うと、この採取する人が見つからないんですね。そういったところがあって、まず意外なところにPCR検査ができない最初の障害があったということになります。

山口

豊嶋先生、採取する人が見つからないというのは具体的になぜなのでしょうか?

豊嶋

やはりこれは採取する時というのは、顔も本当に近いところまで近づけた上での採取をしますね。だからやっぱ怖いですよね。それから必ず防御具が必要になってくるんですけども、 それも病院に足りないんですね。私たちは貴重な防御具ですから、診断の場面ではなく、本当に病棟の中で、そういうところに集中的に使いたいんです。そういったこともあって、なかなか進まない現状があると思います。

山口

これは 、開業医の方々に手伝ってもらってドライブスルー検査をやるということだと思いますが、開業医の方々も手伝いたいが、ちょっと手伝うのを辞退してしまうような難しい現実もあると伺っています。どんなことが考えられるのでしょうか?

豊嶋

やはり、もしそこで感染をしてしまったりすると、自分たちの病院の業務ができなくなってしまいますよね。また、そういう色んな風評の問題もあると思いますし、なかなか現実には難しい状況になっていますね。

■安全に検体採取・・・唾液によるPCR検査

山口

ドライブスルーをやるということは、車の窓越しにやりますから、そして防護具も着ますから、当然、感染するリスクは下がるとは思うんですが、それでもやはり躊躇する方が多いという現実があると思います。その時、唾液で検査できるというのは画期的ですよね。

豊嶋

そうですね

山口

唾液で採取するのは、これまでの検体採取と比較していかがですか。

豊嶋

例えば唾液ですと、こういったカップがありますけど、このカップですね、ただ単にふたを開けて、ここにペッとするだけで(唾液を出して)ふたをして、置いてもらえば済むんですね。

山口

それだけですか?

豊嶋

ええ、そうするとだからテントのような設備も必要ありませんし、人も必要ないですね。ただ単に置く、もうそれだけなんです。非常にシンプルになります。

山口

ここで、これまでの検体採取の方法を改めて確認しておきます。

上山

新型コロナのウイルス検査では綿棒で喉の奥の粘膜をこすり検体を採取します。豊嶋さん、通常はこのように喉から検体を採取するわけですが唾液でも、ウイルスを検出する精度は変わらないのですか?

豊嶋

それを調べるために北海道大学で研究をしてきたんですね。その結果、唾液の中のウイルス量というのは、北大もそうですし、海外もそうですし、発祥の早期ですね、早い時ほど多いということが分かっています。だからこそ、症状がない時に、唾を介して人にうつしたりするという現象が起きているんですね。或いは味覚異常もそうだと思うんですけども。そういったことで、北海道大学で調べた限り、症状がでてから2週間以内であれば、ほぼ100パーセント唾液で検出できます。

上山

実際にそれは、ご自身で研究されてそういう経験を得られたということですか?

豊嶋

はい。この検出率は北海道大学で、約10の検体でそうなんですけども、香港・イタリア・アメリカの研究、それぞれ10とか20とかですけども、一致しているので、ほぼ国際的に間違いないだろうと思います。

■可能性を秘める“唾液による検査”

上山

口の中でウイルスが増えやすいということですが、今回の新型コロナウイルスでよく言われているような、味がわからないとか、そういう味覚障害にもつながってくることと考えていいのでしょうか?

豊嶋

ええ、おそらく研究の結果によると、アンジオテンシン転換酵素Ⅱという受容体にコロナウイルスはくっついて感染するらしいんですけどそれがたくさん口の中にいる、特に舌にいるということが分かってきたんですね。だからこそ、人にうつしてしまったり、味覚異常が出るというのも、関係しているだろうとも思いますし、そういったとこに唾液検査が有用ではないかと言う実はヒントがあったんではないかなと思っているところです。

山口

こうやってお話を伺っていると、色んな事が繋がってきます。実際にこの唾液検査がもっともっと日本に浸透していけばいいと思いますが、アメリカなどでは非常に進んでいるという実情があります。そこを確認しておきます。アメリカのニュージャージー州のケースなんですけども、ドライブスルー検査が行われていまして、唾液を使っているということなんです。48時間以内には結果が出る。およそ2週間で9万件の検査を終えまして、今後はこの唾液の検査だけで1日3万件の対応を目指すとも報じられています。それから香港でも国際空港で到着するすべての入境者に対して、唾液の検査を義務付けているということなんです。さらに、アメリカのFDAです。食品医薬品局なんですが、これ大変注目されるんです。自宅で採取した、唾液で、新型コロナに感染しているか調べられる検査キットが認可されました。 検査を希望する人は、自分で唾液を採取して、キッドを開発した大学に送るだけで感染の有無がわかるということなんです。豊嶋さん、こういう(唾液検査)キットのようなものが、アメリカのように日本で広がってくれば、皆さんお医者さんが検査する時に、大変な危機感を覚えて、 リスクを背負ってやっているわけですけれども、そこからも解放されるし、検査も一気に広がっていくことも考えられると思のですがいかがでしょうか?

豊嶋

そのとおりですね。今のやり方で行くと、例えばこれから手術を受けようとする方は、手術の前に一回病院に行って、鼻の綿棒検査をして、一回家に帰って待機をして、陰性だから来ていいですよ、ということになるはずなんですね。そこにもしもカップを渡すだけですむなら、カップを郵送してもらうだけで済むわけですね。そうすると、人の移動もなくて、流通を利用して、送って、そして結果が出て、入院してください。とこういったシステムができればいいなと思ってみています。

■「検査拡充で接触5割減でも・・・」との試算

山口

ちょっとここで、ですね、このPCR検査の必要性に関して注目されている研究があるのでそれをご紹介いたします。

上山

九州大学の小田垣孝名誉教授の研究なんですが、こちらです。小田垣さんは感染者を一括りにせず2つに分けて考えたんですね。1つは、検査を受けずに生活を続ける感染者の方々。つまりこの方々は人に感染させる可能性がある市中感染者というグループと、検査を受けて陽性と判明したらすぐに隔離された人。つまりこの人たちは感染をさせる可能性が少ない、感染させる可能性が無い、隔離感染者の2つのグループに分けました。

PCR検査を増やすと、市中感染者をより多く見つけて隔離することができます。これを前提に収束までの日数を計算で出したということなんです。検査数を現状のまま増やさない場合、例え接触を8割減らした場合でも、1の緑の曲線のようになって、収束までには23日かかるということなんですね。これに対して、現在行われている検査数を倍増させます。2倍に増やしたとすると、より多くの感染者を隔離することができますから、ブルーのような2の曲線になるわけです。接触は5割削減でも収束までには14日しかかからないという計算結果になりました。さらに検査を4倍にすると、ピンクの曲線のようになるわけです。接触制限をしなくても8日で収束するという計算結果がでたということなんですが、ただしこのPCR検査を4倍にした場合は、考えなきゃいけないことがあって、隔離しなければいけない感染者の方々が大量に増えるわけですから、例えば医療崩壊ですとか検査体制の崩壊の恐れがあると指摘しています。

そして、こうした計算はウイルスの感染力を30日続くと仮定して、数理モデルの妥当性をチェックするために行ったということなんですね。小田垣名誉教授は、さらに検査を増やす場合隔離された人たちへの支援が必要、としています。そして、『現在の対策は市民生活と経済を犠牲にするもので、検査態勢を構築せず、政府が「接触8割減実現」のみを主張するのは責任放棄に等しい』とも指摘しています。

山口

改めて豊嶋さんに伺いたいんですけれども、こう見てきますと市民生活と経済、これと別に感染防止をしなくてはいけない。この両立を図る必要があるわけですよね。その場合にはやっぱり日本でもPCR検査をもっともっと拡充していかないとダメなんだということが言えると思うんです。豊嶋さんが今、始められているこの唾液を使ったPCR検査、本当に画期的だと思うんですが、これがもっと日本中に広まるためには、例えば国などがどういう対処をしてくれれば、唾液を使った検査が普及されることになるのかここはどうお考えになりますか。

豊嶋

今ですね、保健所に聞きますと、この判断をするのには、やはり喀痰か、(鼻咽頭)ぬぐい液という風に一応決まっているらしいんですね。ですから、そこにやはり喀痰といっても肺炎の患者さん、特にこういったコロナ肺炎というのは痰が出る人、実際に少ないんですよね。だから、その唾と一緒に出すことに多分なると思うんですけど、そういった拡大解釈をしていただければスムーズにいくようになると思うんですね。そういったところが一番の問題だと思うんですね。例えば感染症法によりますと、色んな痰だとか、色んなサンプルが書いてあるんです。最後に「等々」と書いてあるんですよね。だから、そういった拡大解釈していただければ広がっていくんだろうと思います。

山口

なるほど。それはつまりマニュアルを改定しなくてもそれをどうとらえるか、というのを変えるだけで行けるんじゃないだろうか、ということでしょうか。

豊嶋

はい。

山口

そういう意味では、国にしっかり動いてもらいたいですよね。いかがですか

豊嶋

結局だけど保健所が動くためにはですね、保健所のマニュアルがやっぱりどうも痰と(鼻咽頭)ぬぐい液しかないようなんですね。だから、そこをなんとかしていただきたいと思いますね。

山口

なるほど。ということは、マニュアルを改定するなり、しっかりそこは唾液も含めるというように変えれば、
もっとスムーズになるということですね。

豊嶋

はい。そこをきっちり明記していただければ、多分みんな動きやすいと思います。

■発症前の検出は?自宅検査の可能性は?

山口

非常にこの目から鱗が落ちるようなお話が沢山あったわけですけれども、二木さんから豊嶋さんに直接伺いたいこと、いかがでしょうか。

二木

昭和大学の二木ですけれども、非常に画期的な方法だと思います。ただ1つ、豊嶋先生に教えていただきたいのはですね。さっき発症してから2週間以内だったら百発百中だとおっしゃいましたけれども、無症状の方とか、それから発症の1日前2日前、あるいは逆に肺炎になってしまったような方、そういう方々の唾液の中のウイルスの存在っていうのは、まあこれからの課題なのかもしれませんけれども、何か先生情報お持ちですか。

豊嶋

はい。そこはですね、非常に重要なポイントを指摘していただきました。発病の前ですね、1週間とか早期の検体というのは北海道大学では集めることができないんですね。そこは海外の論文を元にすれば、むしろ発症する前よりも、こういった早期の1日目、2日目のほうが高いという論文は、海外で確かもう3つもでています。唾液中はですね。そしたらまあ間違いないだろう、とは思っています。ただ、うちのほうにはデータはありません。それから2週間を過ぎてきますね、それから症状が良くなってくると、唾液の方がどうも先にクリアされているようなんですね。鼻の方が残るのが長いです。だから、わたしは逆に言うと、最近、非常に今日本で困っていますよね、なかなか陰性確認しても消えなくて退院できない、ホテルから帰れない。最近、韓国から出たのは、鼻の中にあるウイルスの死骸が残っていて、ずーっとPCRに引っかかるんだと。そう考えてきますと、口の中っていうのは唾液で非常にクリアしますので、唾液の方がほんとは死菌が減っているというのは判断するのにはいいんではないかということすら、今、思っているところですね。

二木

先生ありがとうございます、大変勉強になりました。

山口

岡田さんいかがでしょうか。

岡田

非常に簡便でいいかな、と思うので、どうぞマニュアルの方を唾液っていうのを加えるとかで、初期の段階は柔軟に対応してもらいたい。もしかしたら、咽頭ぬぐいのサンプルに代われるんじゃないかと。そうすれば、医療従事者の方が感染が減ります。想定される秋冬の流行に向けて、簡便に実施できる方向で、ご検討をお願いしたいなと思います。

山口

なるほど。杉田さんからもし質問があればいかがでしょうか。

杉田

先生、共同通信の杉田です。ちょっと話は飛躍するかもしれないんですけども、この感染症は、いわゆる人類共通の病気、直面する課題となると、まさにこういう先生がやってらっしゃるような、唾液をカップに入れて郵送して分かるという簡便な検査方法は素晴らしいアイデアだと思います。これをさらにもっと進めて、将来的には自宅で検査結果まで分かる可能性はあるのでしょうか。例えば今、糖尿病の血糖値を自分で調べたりする。あるいは検温器を自分で使って温度が分かるというのと同じところまでいけば良いなとと思うんです、そういうものができたら、もっともっとコロナウイルスの検査が簡単になり日常化して、検査の対象もずっと広がると思うんですけど、そういった可能性というのはあるんでしょうか。

豊嶋

例えば、非常に先の話なんですけど、妊娠のキット見てもらえば分かると思うんですね。例えば、もしも唾液で済むんであれば、例えば15分で分かるような抗原検査のキットが出たとすると、それを妊娠反応のように自分で唾をそこにかけて、ということもできるかと理論的には思いますね。

山口

豊嶋先生、1点だけ。このPCR検査をやる上で、この検査の試薬、キットが不足しているという問題がありますよね。そこはいかがですか。

豊嶋

いいとこを指摘していただきましたけど、最近はもう綿棒も不足しています。それからPCRの試薬も海外産が多いものですから、なかなか確保が難しくなっているのが現状です。それからPCRの機械等々も、なかなか今手に入りにくくなってきていますね。そのあたりは、やっぱり国の方にしっかりしていただいて、確保するように努力していただきたいとお願いいたします。

山口

そうですね。豊嶋さん、きょうはお忙しい中、どうもありがとうございました。

豊嶋

ありがとうございました。

(2020年5月10日放送)