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台風19号の猛威 温暖化と巨大台風
■台風19号 なぜ被害は拡大したのか
山口
各地に甚大な被害をもたらした台風19号。実はこうした巨大な台風が、今後次々と日本に上陸する可能性があるということです。地球温暖化の影響で、変化しつつある「日本の台風災害」。どのような危険があるのか?きょうは専門家の方々と読み解いてまいります。では本日のゲストをご紹介します。地球温暖化の台風への影響や日本への影響などを研究している気象庁 気象研究所 研究総務官、高薮出(たかやぶ・いづる)さんです、宜しくお願いします。
高薮
気象研究所の高薮です。私は15年くらいこの温暖化の研究に携わっていまして、近年、非常に気候の変化が速いので、びっくりしているのですが、頑張って、色々やっていかないといけないなと思っています。宜しくお願いします。
山口
宜しくお願い致します。そしてお隣、地球温暖化に伴う豪雨、洪水、水害を研究している京都大学 防災研究所、気象・水象(すいしょう)災害研究部門教授、中北英一(なかきた・えいいち)さんです。宜しくお願い致します。
中北
どうぞよろしくお願い致します。
山口
東日本を中心に大変大きな被害をもたらした台風19号。日を追うごとに被害が拡大しています。2019年10月19日午後3時現在の数字ですが、この台風19号によって亡くなられた方々79人、行方不明の方11人、そのうち、半数以上にあたる47人の方が、浸水や洪水などの水害で命を落とされているのです。特に、最も多くの方が命を落とされた福島県では、26人のうち20人(共同通信・16日報道)が水害で亡くなっています。まさに、記録的な大雨が人々の命を奪ってしまったと言えます。では、台風19号について確認してまいります。12日の午後7時前に静岡県の伊豆半島に上陸、東京上空を通過し、13日の未明、太平洋上へ抜けました。この間8時間ほどです。そして、東日本各地で本当に甚大な被害が出ています。まず人命にかかわること、特に被害者が多かった東北、福島県で29人、宮城県で17人の方が命を落とされています(19日午後3時現在)。そして、この黄色の小さなマルの地点、半日間の雨量が観測史上1位だった場所を示しています。東日本中心に120地点、特に山間部に多いことがお分かりいただけるかと思います。そして、下流域×で記しているのが、河川の堤防が決壊した箇所になります。71の河川、130カ所で決壊が起きました。山間で降った大雨が河川に流れ込み各地の堤防決壊に繋がったのです。高薮さん、台風19号のような、広範囲に被害を及ぼす台風が日本に上陸するということは、専門家の間では想定されていたのですか?
高薮
台風に限らず、近年の雨の降り方が変化しているということは皆さん認識していました。特に観測などからも、それは分かってきておりましたので、時間降水量が80ミリと50ミリとか、非常に強い雨ですが、その回数を勘定してみますと、近年増加しているということが分かっておりました。それから、気温が上がりますと、大気中に含むことのできる水蒸気量が増えるんですね。1度上昇すると7%ほど増えると言われています。それだけの水蒸気量が、例えば、山にぶつかって水になり雨になりますと、当然、降水量も7%増ということになりますので、将来、雨に影響が出るということは、危惧されていたということでございます。ただ、今回の台風に関しては、今、一生懸命、皆さん研究を始めているところなので、それについてお答えできるのは、もうちょっと先かなと思います。
山口
千曲川、相模川、多摩川、那珂川、久慈川、阿武隈川など、黄色で示した6つの川では、『計画降雨』という降水量を超えた川になります。大木さんお願いします。
大木
『計画降雨』とは、河川整備などを行う時に基準とする雨の量です。意味合いとしては、「これ以上の雨は降らないだろう」という、いわば想定される最大降雨量なんです。しかし、今回の台風19号では、久慈川で109%、多摩川で104%、そして、堤防が決壊し大きな被害が出た千曲川では104%と、この『計画降雨』の量を超える雨が、こうした川の流域に降ったわけです。中北さん、こうした降雨量だと、現在のインフラでは受け止めきれないということなのでしょうか?
中北
はい。もともと想定している『計画降雨』というのは、流域によって違います。例えば、利根川ですと平均的に見たら200年に1度程度、堤防があふれたりする、それをもたらす大雨の基準ということで、それより上は、まだなんぼでもあるわけです。温暖化で、またさらに、それより怖くなることがありうると。200年に1度、あるいは、100年に1度というのは、それぞれ、危険な場所に沢山の人が住んでいるかとか、資産が多いか等により、100年とか(数値も)変わっています。全国まんべんなく公平に決められている量で、普段から雨量が少ない東北では、同じ100年に1度と言っても、西日本の量とは違うんです。そんな中、西日本並みの雨が降ったということが、今回一番怖かった点だと思います。
台風19号の被害 11月12日現在
死者 91人(福島30、宮城19、長野5、岩手2、静岡3、東京1、神奈川16、埼玉3、千葉1、栃木4、群馬4、茨城2、兵庫1)
行方不明 4人(宮城2、長野0、神奈川1、茨城1)
■大雨特別警報解除後、河川氾濫の恐怖
山口
河川の氾濫や決壊が相次いだ今回の台風19号。しかし、今あることが問題になっています。大木さんお願いします。
大木
今回、大雨特別警報が各都道府県に出されたのですが、実は、特別警報が解除された後に、氾濫が起こったケースが報告されています。例えば、福島県の阿武隈川ですが12日、午後7時50分、福島県に大雨特別警報が発表、翌13日午前4時に大雨特別警報が解除されました。しかし、その後、阿武隈川に午前6時30分と、午前10時20分、そして午後1時20分に氾濫発生情報が出されました。さらに、阿武隈川流域では41カ所で決壊が起きていました。大雨特別警報が解除されて9時間以上たってから氾濫が起きた。住民からすると、ひと安心したところに水が来る状況になったわけですが、中北さん、警報の解除は問題なかったのでしょうか?
中北
まずは、どういう現象が起こったのかを先にお話ししします。台風は、非常に広い範囲で雨をもたらしますので、大きな河川流域、お椀(のような地形)に降った雨が、川に全部流れていきます。ちょっとした狭いところの雨だと、上流の沢だけが崩れたり、小さな川が鉄砲水になるぐらいです。しかし、大きな川の場合、降った雨がじわじわと全部、血管のような網の目状の河川、小さな河川を通り、最後、大河に流れて海に注ぎます。そこに出てくるのに、1日かかったりとかするわけです。大きな川、利根川とか阿武隈川のような大きな川であるほど、時間が遅れて出てくると。一番、極端な場合、台風一過の、本当に晴れて気持ち良い中で、洪水の注意報とか、そういうのが続いていると。例えば、近畿でも、上流の琵琶湖で沢山水をためた後に、徐々に下流の方に流すんですが、下流で晴れているのに、なぜ、洪水注意報が出ているのかということが、まさしくそれです。今回の特別警報解除というのは、どちらかと言うと、上流の危ない土砂災害とかも含めて、あるいは、小さな川の鉄砲水も含めての危険性として、多分、解除されたんだろうということになります。基本的には、注意報、警報関連については、大雨特別警報とかありましたが、河川そのものの危なさというのはまた別です。洪水の予報する河川というのは決まって、そこではこういう情報が出るのです。そこらのところがまだ上手く使いきれていないということが今回ひとつ、大事なところとして出てきた感じはありますね。
大木
大雨と氾濫の危険性は、時差が完全にあると?
中北
時差と場所です。(水は)上流から下流に流れますので、上流で大雨が降っただけでも、下流で大洪水になる場合があります。遅れてやってきて、違う場所で溢れるという危険性とともに、今回、改めて私たちに認識させたということになります。
山口
結局、この大雨特別警報には、洪水は加味されてないんですね。大雨特別警報と、河川の洪水は別の情報で、大雨特別警報が解除されたと言っても、河川の氾濫発生情報は続いていたわけですね。私どももお伝えする上で、大雨特別警報が解除されたから安心だという印象を持たれぬよう、実は、河川は時間差で氾濫が続いたり、氾濫する恐れもあるので、注意しなければいけないということを、今後しっかり伝えなければならないということですね。
中北
多分、大雨特別警報とかでも河川氾濫を考慮して出されていると思うんですが、これだけ広い範囲、違った場所で洪水を引き起こす時間差があるというのが、まだまだ表現しきれなかったと。
川村
ただ、受け止める側というか、地域に住んでいる人たちは、大雨特別警報が解除されたと聞くと、これ以上、大雨は降ってこないから避難場所から自宅に戻ってもいいのかなと、思いがちですよね。しかし、実際には、上流から下流へ、水かさが増えて、堤防が決壊するまでの間には時間差があると。それでは今後、どのように知らせるべきなのでしょうか?
中北
ですから、まずはこの(気象庁の大雨警報・土砂災害警報と、国土交通省の河川氾濫情報と)2つをもっと周知をする。それから、今まで情報の伝え方が改良されてきたように、2つあるとややこしいので、どう加味しながらお伝えするかということを考えないといけない。下流の洪水ばかり強調していると、今度は上流の本当の危なさが見えなくなりますから、これを融合させた形で。
山口
そうなんですよね。本当はこれが1つになると、多分、皆さんもわかると。
中北
そのぐらい、やはり川の水の出かたというのも、だんだん皆さんも認識しておかないといけない時代になってきているということは、確かなことだと思います。
■日本周辺の“海水の温度”に異変
山口
台風19号ですが、なぜ、これほど強い勢力になり日本に上陸したのか、その背景を見て参ります。こちらをご覧ください。日本近海の異変がありました。今月上旬(2019年10月上旬)の日本近海の海面温度ですが、ピンクが非常に高い所、30℃になるところです。日本の本州の南側ギリギリぐらいまで迫ってきていますよね。これをちょっと記憶した上で、30年前(1989年10月上旬)のものと比較してみます。よく見ると違うんです。ピンク(海面温度が30℃)のところが最も南に下がっています。今はピンクが上がってきている。つまり、30℃の海面水温が日本近海にまで迫っていると言えます。さらに、平年と比較した海面水温のデータがあります。赤色がついたところは全部高いところ。特に濃い赤の部分は、2℃、3℃高いところで、日本周辺の海域は、ほとんど今、平年差で比べると海面水温が高い状況になっています。なぜこれほど台風が発達したのか特徴を見ていきます。この勢力が増強されたということなんです。どういうことが起きていたか分析しますと、台風が発生した直後6日、中心気圧は992hPa、台風の強さは『強い』というランクだったのです。しかし、わずか24時間後の7日には、中心気圧が915hPaと、77hPaも下がってしまった。そして、台風のランクも『猛烈』な台風に発達。世界中の科学者もこの異変に注目しているそうですが、台風19号は急速発達したと言えるわけです。さらに急速発達したメカニズムを考えていきます。海面温度が高いことが台風にエネルギーをどんどん供給して、台風は強くなって行くという流れだそうです。高薮さん、日本近海の海面水温の高さが、台風の「急速発達」に影響しているのですか?
高薮
「急速発達」したのは、実はかなり南の海域で、ピンク色の(海面温度)30℃のところです。「急速発達」に関しましては、そこで、ものすごく高い水温があって、しかも、あまりその上の方で強い風が吹いてなかったということがございます。上と下の方で風速が違いますと、積雲が立つのですが、どうしても傾いてしまいます。イラストにありますように、垂直に立つことがすごく発達に重要です。77hPaは本当に驚くべき数字です。文献によりますと24時間で42hPa以上の変化が「急速発達」なのですが、専門家によりますと、今回の「急速発達」は、十数年なかった、近年、稀に見る現象だと聞いております。
山口
それでは特徴の二つ目を見て参ります。『勢力が維持された』ということなのです。強さを保つためには27℃以上の海面水温が必要だということです。海面水温だけではなく、海の中も確認しておきましょう。実は、水深50mの温度を示しした図(2019年10月11日現在)、赤い所(温度の高い部分)が結構多いですね。これを30年前のもの(1989年10月上旬)と比較してみます。そうしますと、やっぱり30年前は、より色が薄い黄色がこういう所にもありますよね。でも、今は水深50mで黄色が減って赤が多くなっている。つまり、水深部分もだいぶ(30年前に比べ)水温が上がっていると言えるわけで、ここに巨大な台風に繋がるポイントがあると。大木さんお願いいたします。
大木
先ほど、お話にもありましたが、台風は海の温度が高いと勢力を維持しますが、自らの風によって(海水を)吸い上げるように混ぜるそうです。海中温度が低い海水と、表面の温かい海水が混ざって、結果的に海面温度が下がります。気象庁が出したデータにも、風速40mを超えると28℃あった海面温度が、24℃まで下がっていることがわかります。つまり、海面温度を台風自身が下げることでブレーキになるのです。高薮さん、海中温度まで上がってしまうと、事情が変わってしまうということですね?
高薮
そうですね。有名な現象でして、エクマンポンピングと言いますが、水温が下がるため、通常、台風は日本に近づいてきますと、どうしても台風の力は弱まってきます。ところが、今回は、台風が急速発達し、915hPaになった後、4日間ずっとこの勢力を維持し続けました。その間、ノロノロと北上したんですが、そこも1つのカギでして、その時の海水温がどうだったか見ますと、吸い上げてしまう、水深の深いところの水温が高かったわけですね。そうすると台風は弱まらず、どんどん北上すると。その期間があったということが、もう一つのポイントですね。この台風の強さの。
■海中まで“高温” 勢力維持の脅威
山口
11日の部分(11日の水深50m部分の海水温の図)なんですが、結局、下がっていないということですよね。海中も高いままと。
高薮
海中の温度も高いので、この水をもち上げてきても、全然、台風は弱くなりません。実は、『ハイアン』(2013年11月4日午前9時、トラック諸島近海で発生した、平成25年台風第30号)という、ご記憶あるかもしれませんが、フィリピンで7000人の方が亡くなられた台風がありまして、あの台風は(最低中心気圧)895hPaまで行ったのですが(2013年11月8日時点)、実はこの効果が起きなかったと言われています。スピードが速かったため、起きず、そのまま強さを維持したと言われています。つまり、海水温が何度かということがものすごく大事です。
山口
そうしますと、海中の温度が高い、海面の水温も下がらなかった、そういう海面の水温が高いところをずっと移動してきて、台風19号は、強い勢力で日本に来てしまったということなのでしょうか?
高薮
その通りです。
山口
中北さん、海中の水深50mの温度がこんなに上がっているというのは、海の温暖化が進んでいるという事になるのですか?
中北
そのように考えることができますよね。少し水深の深いところまで、暖かいエネルギーが染み込んでいっているということで、温暖化の兆候が出ている可能性はあるということですね。そうなると、今、おっしゃったように、急発達しなくても、物凄く中心気圧が低いのが来ます。例えば、コンパクトでも怖かったのが、去年の台風21号で、風災害と高潮災害を及ぼしましたね。今回の15号の千葉県の強風とか。温暖化のせいであれば、増えていく危険性があるというふうに、私たちは思っておいた方がいいだろうと思います。
山口
新しい動きがあるんですね。気になるニュースが入ってきています。現在、台風20号と台風21号がさらに発生しまして、日本へ接近してきています。特に台風21号につきましては、今、お伝えしました海面水温が高いところを通って、勢力が増しながら北に上がってきているということは、高薮さん、言えるんでしょうか?
高薮
台風21号、私も今朝、海面水温の画を見てきたんですけども、実は結構、あの辺まだ高いです。27℃、台風が発達する勢力維持の閾値(しきいち)があるのですが、結構、今のコース、割と北の方までとなっておりますので、940hPa位まではいくのではないかと言われています。ただコースがまだ定まっておりません。台風は西に入ってから東に(進路を)変えるのですが、向きを変えるコーナー辺りから(コースの)絞り込みが出来ますので、まだちょっとわかりませんが、かなり強い台風が既にダメージを与えている、東北地方、関東地方に接近するということは、警戒しておいていただきたいなと思います。
大木
中北さん、まだ進路は定まっていないとのことですが、ダブル台風という状況、気を付けなければいけない点はどんなところですか?
中北
今の日本に到達する時間、日付を見ると分かりますように、先週、沢山、雨が降った後に、まだ河川に山の水が全部、出きらない時点で、まだ山はびしょびしょな状態、満身創痍な状態になっていますので、そんな中、次々と台風が来るということは、湿っているところにまた雨を降らして、今度はすぐ水が出てきますし、出水の高さですね。水位の高さも高くなると。あるいは土砂災害も起こりやすい、水浸しですので。そのようなところに気を付ける必要があると思います。
■災害を巨大化する「水蒸気」
山口
提供 筑波大学 釜江陽一助教
お話を続けてきます。なぜ台風19号がこれほどの雨を降らせたのか、その原因を紐解く衛星画像があります。これは、11日、台風が上陸する前日午後4時の雲画像です。この赤い丸で示されている場所、ずっと雲が(一筋に)伸びています。これは実は水蒸気の帯だという事です。どういうことかと言いますと、台風が反時計回りの動きで、水蒸気をポンプのように吸い込み引き込んでいく動きがあったのではないかと見られています。つまり、台風は本体が雨を降らせるんですが、水蒸気の帯が大雨につながったとも言えるわけです。では実際に、台風19号とともに水蒸気の帯がどう動いたのか。筑波大学の釜江陽一(かまえ・よういち)助教が作成した動画をご覧ください。太平洋を北上する台風19号、東側の薄い青の部分、これが水蒸気の帯です。台風が水蒸気の帯を引っ張り上げるようにして同化して、そのまま日本列島に接近し、そして上陸、大変な雨を降らせてしまったということになるわけですね。改めてこちらのパネルで説明いたします。10日の午前3時の段階では日本の南海上に台風19号がありました。11日の午後3時にこの薄い青の部分、これが水蒸気の流れという事になります。水蒸気の帯です。これが今、台風とくっ付いて、数字の9が横になっているような形になっています。ここで台風に引き寄せられ、くっ付いているわけです。それが12日午後9時、台風が上陸した後一緒になり、13日午前3時、同化したまま東北に抜けていったということです。結局、水蒸気の帯から大量の水蒸気がどんどんどんどん日本列島に引き寄せられ、日本列島、東北など山地の南東斜面にぶつかって雲になり、相当な量の雨を降らしてしまったということが言えるわけです。中北さん、今回、台風19号のとんでもない雨というのは、この水蒸気の帯が影響していたと言えるのでしょうか?
中北
基本的には、台風がポンプ役になり、南からどんどん水蒸気を日本列島に放り上げているということが、総雨量が多くなった大きな要因だと思います。これは一般論ですが、鹿児島あるいは宮崎、それから高知、近畿南部というのは、台風が南にいる時からでも、このポンプアップの水蒸気で山に大雨が降るというのが、地形性の雨という典型的なパターンで、総雨量もかなり多くなりますね。今回は、レーダーの総雨量分布を見ると、必ずしも山に綺麗に沿ったわけではありません。それ以外の風の集まり具合によっても、集まると上昇気流ができますので、そういう現象も両方起きたというのが今回の雨の特徴じゃないかと思っています。
山口
なぜこれだけ大雨に繋がったのか。台風19号の大変な大雨の背景には、水蒸気の帯の存在があったということなのですが、高薮さん、結局、海面水温が高いことが影響しているのですか?
高薮
水蒸気の帯そのものは、海面水温が高いか低いかということとは別にあるのですが、近年、海面水温がどんどん上がって、その上の空気も暖められ、空気が持っていられる水蒸気の量も温度によるわけです。温度が1℃上がると7%ほど含める(保持できる)水蒸気の量が増えると言われております。この水蒸気の帯というのは、当然パワーアップして日本にやってくることになります。実は、先ほどの図は、日本付近、割と狭い領域だけしか示しておりませんでしたが、その水蒸気はどこから来たかと申しますと、熱帯の方から延々とやってきております。熱帯の方で高い水温で起きた水蒸気の固まりが、どんどん供給されているというわけです。パプアニューギニア辺りから来ているのではないかと言われております。
山口
提供 筑波大学 釜江陽一助教
この水蒸気の帯は大量の雨を降らせた。まさに、水蒸気が今後の日本の豪雨災害の鍵を握るとも言われているのですが、この水蒸気に関しまして、他にも研究されているものがあります。それが、この長い水蒸気の帯、『大気の川』と呼ばれているものです。特徴は、長さ1500km以上、つまり、鹿児島から札幌ぐらいまでの距離があります。1500km以上の水蒸気の流れ、長さに対し横幅が狭い。ですから、あたかも川のように見える。それで、この『大気の川』というように呼ばれているということなのですが、実際に、去年(2018年)のあの大災害でもこの『大気の川』が表れていたのです。それが、去年7月の西日本豪雨です。死者が224人、行方不明者8人、負傷者459人という大変な災害でした。この時、西日本の上空でどんなことが起きていたのか、こちらをご覧ください。去年7月6日の西日本豪雨当日午前9時の水蒸気量を示しています。赤や黒、色の濃いところが、水蒸気量が多いことを示しているのですが、日本の南の海からと東シナ海を通り西日本に『大気の川』が伸びている様子が見てとれますよね。異常な水蒸気量というのが、西日本豪雨に影響したと言われています。その規模は、長さおよそ3000km、幅800km、厚みが数kmほど(最大時)もあったと言われているのです。そして、この『大気の川』ですが、どのくらいの水量だったのか、水蒸気ですが、水の流れに換算しますと、毎秒48万立方メートル。ちょっとイメージが付きにくいと思いますので、あえて、世界一流域面積の広い川と比較してみます。なんと、南米のアマゾン川の2.4倍の流量に当たる水が、水蒸気として西日本に流れ込んでいたということが言えるわけです。この『大気の川』、西日本豪雨以外にも、2014年に77人の方が亡くなった広島の土砂災害もありました。この時も大量の雨を降らせる要因となっていたということです。中北さん、水蒸気が集中的に集まる。これがこの豪雨災害を引き起こすということになるのでしょうか?
中北
特に梅雨の時期は、昔は湿舌(しつぜつ)とか呼んでいたものですけれども、その先で、線状降水帯と言われるものが起きる。今、説明のあった広島の豪雨もそうですし、一昨年の九州北部豪雨、大土砂災害、土石流ありましたけれど、沢山の方がお亡くなりになりました。それも同じようなことになります。この『大気の川』の東の端は、どんどん東へ、また、より北へ行くというのが、将来予測としては科学的に言われていると。
山口
これがどんどん伸びてくるということですね?
中北
はい。そうなると梅雨の線状降水帯的な豪雨も、関東エリア、東北エリア、北海道エリアでもより起こりやすくなるということも出ています。
大木
中北さん、通常の雨と『大気の川』がもたらす豪雨は、降り方が違うものなのですか?
中北
これが昨年みたいにずっと停滞していた場合は、広い範囲で沢山の総雨量もたらしますし、それが少し、局所的に細くきている場合だと、本当に狭い範囲での豪雨となる。その場所にとっては、700mmとかの大変な豪雨をもたらすというものが起きます。普通の豪雨は、2つのタイプに分かれると思って頂いたら良いと思います。
■温暖化で高まる水蒸気リスク
山口
先ほど高薮さんからもお話ありましたが、気温が一度上がると水蒸気を7%多く含む、日本がおよそ100年前に比べ、1.21度ですか上昇していると言われていますよね。ですから、今はもう7%多く含まれているということになるのでしょうか?
高薮
実は「平成30年7月豪雨」(平成30年6月28日以降の台風第7号や梅雨前線の影響によって、西日本を中心に全国的に広い範囲で記録的な大雨となり、全国各地で甚大な被害をもたらした豪雨。西日本豪雨ともいう)の際に、産業革命前の環境に大気の場を戻して、数値シミュレーションの実験をしましたところ、この地域での総降水量が6.5%ほど減りました。というわけで、「平成30年7月豪雨」についての実験結果からいうと、既に現在7%ぐらいは温暖化の上乗せが来ているということが言えるかと思います。
山口
それでは、気になります温暖化と水害のリスクを考えていきます。気候変動がどういう影響を及ぼすか、仮に産業革命前と比べて2℃上昇した場合、4℃上昇した場合を記してあります。降雨量が1.1倍、1.3倍に増えます。川を流れる水の量が1.2倍に1.4倍になる。そして、洪水の発生頻度が2℃上昇で2倍に、4℃上昇で4倍にもなってしまうというシナリオが考えられています(国土交通省「気候変動を踏まえた治水計画の提言」から)。中北さん、産業革命前よりも、2030年には1.5℃上昇が避けられないとも言われています。そうすると、これが本当に現実に近づいてくると思うのですが、いかがでしょう?
中北
はい、そうだと思います。これは、国土交通省さんが、気候変動に対応した治水計画の技術検討会で、将来、予測情報、科学的な予測情報を使って、全国の河川について調べ、平均的に出した答えなのです。現実としてありうると。これに対して真摯に取り組もうというのを、7月ぐらいに宣言されていると。さらに、2℃上昇は、CO2緩和でも2℃ということで、2度上昇という目標をあげられているのですが、さらに、今のペースで(CO2排出して)いくと世紀末は4℃上昇になる危険性が高いので、治水としても4度上昇のことも考えながら、より2度上昇は現実なものであるというふうにして、今、動き出さないといけない。時間かかりますので、いろんな河川整備はですね。そうすると、後悔しないためにも、今から決断して動くということが、大事だというふうに思います。
山口
川村さん、この現状をどんな風にご覧になっていますか?
川村
やはり、今の説明を聞いていると、日本はもう亜熱帯地域に入ってきているのかなという感じがするのと、京都議定書の時から言われていた、地球温暖化という問題に対し、日本はある程度発信はしてきたけれど、予算の問題もあるでしょうし、少し疎かになってきたのは否めないのではないかという感じがします。
山口
そうですね。IPCC国連気候変動に関する政府間パネルの第5次報告書が出ました。それによりますと、今後、温暖化が進みますと、台風の数は実は減少するのですが、勢力が猛烈な台風は発生確率が上がるというような予想が出されたのです。さらに、海洋研究開発機構(JAMSTEC)と東京大学がスーパーコンピューター『京』を使って、将来の台風のシミュレーションを行いました。そうしたところ、温暖化が進んだ将来、2075~2104年の頃、台風の規模が現在より約2割も大きくなってしまうというデータもあるのです。そして、最大風速67mというスーパー台風が日本に上陸する可能性もあるという予測も示されました。さらに、こういうデータもあります。
大木
高薮さんが気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会に出された資料になります。このように、日本付近の平均海面水温が上昇すると、台風の進路が東寄りになって、2095年の予測では日本に一直線で向かってくるような進路に少し変わってくるということなのです。19号も一般的な台風よりは東で発生しました。高薮さん、この温暖化とコースはやはり関係があるのでしょうか?
高薮
発生の場所が東に動くということが、IPCCの報告書の中で言われております。つまり、世界のいろんな気候モデルで計算した結果を比べましても、どのモデルも将来台風の発生域がどんどん東に行ってしまうということなので、それと矛盾しない結果と思います。海面水温の比較をしてもわかりますように、どんどん上昇すると。それに伴い台風はどんどん東に動きながら北上する。それと図の中の赤い線が、そこが59m/s以上、つまり、スーパー台風になっている時期ですね。猛烈な台風に。赤いまま上陸している台風がCの図(2095年の図)では多いのが分かると思います。ということで、まあいろんな研究から海洋研究開発機構(JAMSTEC)と東京大学(AORI)がやっている研究結果もサポートできるということでございます。
■「スーパー台風」時代にどう備えるか
山口
そのスーパー台風の脅威はすでに日本に来ているのかもしれません。先月の台風15号最大瞬間風速は57.5m(千葉市)。これは関東で島しょ部を除いて観測史上1位。今も千葉各地でブルーシートですよね。そして、去年の台風21号関西空港が水に浸かったり、トラックが横転するなどありました。この時の最大瞬間風速は、58.1m(関西空港)。実は、大阪湾で停泊していた船は、最大瞬間風速73.8mを計測していたのです。中北さん、スーパー台風はもう現実のものになってきていると言えませんか?いかがですか?
中北
去年の大阪の台風。高潮も史上最大だとかいうのもありますので、温暖化で来ると言われているようなのが来たのかなっていう風に思わすような台風であったという風に思っています。
山口
そして、実は、こういう社会への影響もあるのです。過去の風水災害の保険会社の支払額ですが、去年の台風21号1兆円を超えています。この中には、今年の台風15号・19号は入っていませんが、19号はこの21号を上回る恐れも十分にあるわけです。そして、保険会社も対応しなくてはいけません。実は、今月1日から保険会社4社が平均4%火災保険の保険料を値上げしました。こうして備えなくてはいけない時代になってきました。そしてこの研究がさらに進んでいます。温暖化対策になると思われますリチウムイオン電池。これはもちろん、再生可能エネルギーが不安定な部分を蓄電することができるわけですから、温暖化対策になるわけです。ノーベル化学賞の受賞が決まりました、吉野彰さんはこう語っています。「地球温暖化は非常に深刻な人類の問題と思っています。リチウム電池が電気を蓄えることができ持続可能な社会にとって、非常に適切だと思う。」とおっしゃっています。では今後、対策はどうしたらいいのか。高薮さんからは、「強い台風のリスクが高まるので、国民も国も常に備えを!」これどういうことでしょうか?
高薮
雨の降り方が変わってきているという事をもう皆さん言われておりますので、それも含め、台風に限らず、中北先生からもありましたように、梅雨を含めて、今後注意していかなきゃいけないということを、皆様に警鐘を鳴らしたいと思います。
山口
そして、中北さんからもお話をいただきました「温暖化によって生じる豪雨に対応できるような治水事業を早急に行うべき」だと。お願いします。
中北
温暖化にこれから対応する、適応と言うのですけども、そのためには『インフラ整備』と『危機管理能力を上げる』と。発電施設もちゃんと上へ上げておくのを含めてです。それから『逃げる力をそれぞれの地区で養う』という、三つ、大事なことなのですが、やはり、これだけ堤防が切れたりして、多くの人が被害を受けるのを見ると、インフラの整備というのは、それだけで全部ができるわけではないのですが、土台としてより大事なものと考えることができます。例えば、今回、狩野川台風(1958年9月21日発生、最低中心気圧:877hPa、最大風速:75m/s、昭和33年台風第22号)並みと言いましたが、狩野川は、沼津の方で洪水があったのですが、今回は起こらなかったですね。弱かったからじゃなくて、あれ以降に治水として、途中で水を抜いて駿河湾に抜けるような放水路を作っていたのですよね。それで下流の水位が2mぐらい下がったとか。あるいは、ラグビーで横浜にスタジアムありますね(横浜国際総合競技場)。すぐ横に鶴見川の貯水池(鶴見川多目的遊水地)が地下にあることによって洪水に今回は浸からなかったのです。色んな意味で、こういうもので守られたというのがより見えてくる時代であると。今までの基準では駄目だということがわかりかけているので、これから上げていくということも含め、より真剣に国民の皆さんもお考えになっていく必要があると思っております。
山口
そうですね。そして私たち報道もしっかり多くの方に、命を守るように具体的にどういうふうにお伝えしていけばいいのか、しっかり考えていきたいと思います。高薮さんと中北さん、ここまでどうもありがとうございました。
高薮・中北
どうもありがとうございました。
(2019年10月20日放送)
⇒ 2020年7月12日放送「列島を襲う豪雨被害 温暖化の影響は・・・」はこちら
列島を襲う豪雨被害 温暖化の影響は・・・「大気の川」の猛威
各地に甚大な被害をもたらした台風19号。温暖化によって日本に迫る台風が勢力を増しているという指摘があります。2019年10月20日のBS朝日『日曜スクープ』は、毎年のように日本に上陸し、深刻な被害をもたらすようになった「狂暴化する台風」に、最新の研究で向き合います。