番組表
おすすめ情報
スペシャルアーカイブ一覧
香港デモ激化 中国軍の介入はあるのか
■緊迫!!香港デモ 長期化の深層
山口
大規模なデモが続いている香港です。きょうもデモが行われているのですが、中国政府が制圧に踏み切るのかどうか緊張が高まっています。実は、きょうのゲストの方々に伺ったところ、非常にその危機が迫っているということなんです。きょうは、この問題を深く読み解いていこうと思います。では、ゲストの方々お願いします。
大木
元通産省で日米貿易交渉に携わり駐中国大使館で参事官を務めました、日本国際問題研究所客員研究員・津上俊哉さんです。津上さんは『米中経済戦争の内実を読み解く』はじめ、現代中国研究の著書を数多く出版されています。宜しくお願い致します。
津上
宜しくお願いします。
大木
そして、朝日新聞国際報道部記者で、ワシントンと北京で合わせて9年特派員を務めました、峯村健司さんです。峯村さんも9月13日に『潜入中国 厳戒現場に迫った特派員の2000日』(朝日新聞出版)本を出版されます。アメリカと中国の覇権争いの特集記事『米中争覇』を担当されています。宜しくお願い致します。
峯村
宜しくお願いします。
山口
早速ですが、今、この時間も香港でデモ、それから集会が行われています。逃亡犯条例改正案などに反対デモが続いている香港ですが、きょうは数十万人規模の抗議集会が開かれました。きょうは、元々デモ行進が行われる予定だったんですが、警察はデモ行進には許可を出しませんでした。このため、市民たちは雨が降りしきる中、近くの広場で集会を続けていました。サッカー場が6面ほど続く大きな場所です、実は、集まった人がこの場所に入りきらず、一部の市民の方々は移動を始めたということです。幹線道路でデモ行進を行っているという情報もあります。きょうのデモが一体どうなるのかということですが、主催者は香港の伝統的な平和の抗議の声を届けようと呼びかけているということです。峯村さんは、きょうのこのデモについて、どのようにご覧になりますか。
峯村
先ほど参加した数人の方に伺ったんですが、特に今回呼びかけていたのは「和」。平和の「和」ですね、「和」と「理」。理性の「理」。あと「非」。非暴力の「非」。このスローガンを極めて重視していたと。特に先週8月13日の空港を占拠したデモはかなり緊迫していまして、その反省から、少し今回は、できるだけ抑えていこうというのが一番の特徴だったそうです。
山口
実際に、今デモ行進が行われているようなんですが、詳しい情報は今のところまだわかっていないんですよね。後ほど新しい情報入りましたら、すぐにお伝えいたします。この逃亡犯引き渡し条例への反対で始まりました香港のデモ。長期化して、激しい衝突も起きています。
大木
事の発端は、今年2月15日に香港政府が逃亡犯を中国に引き渡すことができるようにする「逃亡犯引き渡し条例の改正検討」を表明したところでした。これに反対した市民がデモを起こし、6月9日には103万人が参加しました。12日にはデモ隊が立法会を包囲し、警察が催涙弾で排除する事態となります。そして、6月15日に香港政府のトップ、林鄭月娥行政長官が法案審議の無期延期を発表しますが、ここでは反対の声は収まらず、翌16日には200万人がデモに参加しました。7月に入りますと、デモ参加者の行動が激化します。1日には若者らが立法会に突入し一時占拠しました。そして、9日に林鄭月娥行政長官は、「改正案は死んだ」と述べましたが、廃案を明言しなかったことや警察の暴力を問題にして、抗議デモは続きます。8月5日、ゼネストの呼びかけに35万人が応じました。8月12日と13日、香港国際空港をデモ隊が占拠。夕方から全便欠航となりました。この時も警察とデモ隊の激しい衝突の映像が放送されました。
山口
ここで津上さんに伺いたいのですが、デモがどんどん激しくなってきていますよね。このデモ、きょうも行われていますが、どんなところに注目されていますか。
津上
直近のデモというよりも、この1~2ヶ月の間を振り返って思うことは、やはり、例えば学生とか、集まった人々が200万人とも言われますと、これだけの広がりというのは、言ってみれば香港のエスタブリッシュメントと言われるような人たちも含めて、今の香港政府じゃダメだと。この林鄭月娥さんという長官は、自分たちの代表ではない、あれは北京から派遣されている人間だ、というふうに、香港政府とトップが地元の信任を失ってしまったことが、この運動を長続きさせ、大きな広がりを持たせている大きな原因のひとつだと思うのです。
山口
根底として信用できないということですかね。
津上
はっきり不信任という、ただ、おそらく、この人も、辞めたくても辞められないという、そこもまた含めて、すべては北京からの指示に従わなくてはいけない人なんだという、非常に冷たい目で見られている感じがするんです。
山口
峯村さんはそのあたり、このデモについて、どんなふうに分析されていますか。
峯村
香港で大きなデモが起きたのは3回目になります。2002年50万人デモ、2014年の雨傘デモ、そして今回のデモです。私は、決定的に前回の2回と今回が違う点があると思います。今回のデモの特徴は、『反中国』『反中国大陸』だということです。前回2回に関しては『民主化』。あくまで『香港の民主化を求める動き』でした。ところが、今回は中国に取り込まれたくない、中国はもう嫌だというのが大きな特徴だというふうに考えています。
■香港市民が抱く危機感
山口
香港市民の反発を見ていく上で、香港のこれまでの歴史を確認しておきます。
大木
1898年にイギリスが99年の期限付きで中国から香港を租借します。第二次大戦中、1941年からは日本が香港を占領しましたが、戦争が終わった1945年、香港はイギリス領に復帰しました。そして1997年、香港が中国に返還されます。この時に香港の憲法ともいえる香港基本法。一国二制度として50年間は資本主義を維持、そして外交と国防を除き「高度な自治」が認められました。「言論・報道・出版の自由」が保障され「集会やデモ、信仰の自由」も認められています。大切なのはやはりこの部分だと思うんですが、返還後も香港は、一国二制度で資本主義が認められて、自由もある程度保証されていたはずなのに、というところが峯村さん、根幹にありそうですね。
峯村
そう思います。特に、言論の自由、報道の自由というのが大事だと思います。一つの例ですが、こちらは私が以前出版した『十三億分の一の男 中国皇帝を巡る人類最大の権力闘争』(小学館)の台湾版です。ここを見ていただくと「中央宣伝部 出版禁止」という文字が分かると思います。中央宣伝部というのは、中国共産党でメディアを管理する部署です。中央宣伝部は出版を許さないというのが帯に入っているわけです。権力闘争など共産党幹部がいやがる内容が書かれているので、大陸では絶対に出版が許されないものです。ところが、香港の書店やブックショーでは置かれているのです。だいぶ大陸とは違うと言えると思います。
山口
まさに言論の自由が脅かされるということへの、非常に危機感があるわけですよね。そのあたり、峯村さん、先ほど、おっしゃいましたけれども、これまでの運動とは根本的に違うということだと思うんですが、これまでと今回の大きな違い、香港の方々が中国に対する恐怖心ですが、それは、どこから来ているのでしょうか。
峯村
やはり今、話題になっている一国二制度が揺らいでいることへの危機感だと思います。一国二制度を支えている法律が香港の憲法である香港基本法です。これがあと28年後、2047年にはこの法律の期限が切れてなくなってしまうわけです。この後は一体どういう国の形、香港の形になるのかというのはまだ決まっていないわけです。今回のデモというのは、28年後の生存をかけた戦いなのです。その意味では、かなり私は長期化するだろうと考えています。
山口
つまり、将来に対しての不安があるわけですよね。それが当初は50年後でしたけれども、もう28年後に迫ってきていると。そうすると、自分たちの生活への影響というのが実際に現実になってきていると思うんですが、やはり、香港の市民の方々が中国化を恐れているというところがあるのでしょうか。
峯村
非常にその要素は強いと思います。今回、香港デモに参加した方々の約半分が20歳から29歳の方々です。特に、香港大学が調査した帰属意識「あなたは一体何人ですか?」という調査です。自分は香港人だと答えた人が75%、中国人だと答えた人は15%。さらに、18歳から29歳に限っていうと2.7%しかいなかったと。そういう意味では我々は中国人ではない、香港人であるという人たちが28年後を見据えて、今から戦わなきゃいけないのだというのが今回のデモだというふうに考えています。
川村
このことはね、私は1997年、香港が中国に返還されるときに、カナダに行って取材をしていたんですけれど、カナダに大量に香港から、いわゆる投資という形で、移住してきた人がものすごく多かったわけです、カナダ・アメリカに。それは、今を見据えていて、一国二制度が中国の大陸に組み込まれていくのがもっと早くなる、そうすると、言論の自由もなくなるし、自分たちがしたいことができなくなるから、今のうちに、持っているお金があれば、それを投資してカナダに移住する。そういう人たちがものすごく増えていた。それを実際に97年当時、取材しました。早くも見抜いていたという感じがするわけです、今の局面を。香港に留まって中国化を防ぐ、今のようなデモ行為で実際に一国二制度を維持するのだというグループと、さらに、海外に出ていく、もう香港をあきらめ、ヨーロッパ、あるいはアメリカ・カナダに出ていくような人たちも増えてくると思うんです。かなり分極化の時点に今あるのではないかと。だけど、中国は一国二制度と言っても、最終的には中国が支配して統治していくのだという体制がさらに強まってくるのではないかと思いますね。
大木
そもそもは、逃亡犯の引き渡し条例の改正が発端だったにもかかわらず、根幹にある我々は中国人ではないという思いが強くなってきてしまうと、津上さん、この騒動はどこまで続いてしまうのか。やはり長期化が懸念されるなという気がするんですが。
津上
そうですね、運動が今後どう展開するかというのはあるんですが、その根幹にある、今の中国みたいになるのは嫌だという意識というのは凄く広く共有されていると思うのでこれはずっと根雪みたい残ると思うんです。
大木
そもそもこのデモの参加者たちのゴールはどこなのかなというのが見えなくなっている気がするんですが、その点は。
津上
例えば、その逃亡犯引き渡し条例を完全に撤回をする、あるいは、林鄭月娥行政長官には引責辞任をしろというような話、そんなふうなものは、具体的に理由として挙げられているけれども、それを上司である北京が香港政府に「しょうがない、いいだろう」という可能性はほとんどないと思うんです。要求が何も実現してないのに、これだけ拡がりを見せた抗議運動がそのまま自然と尻すぼみになっていくなんていう可能性がどれくらいあるのだろという気がしますね。
■“中国が武力行使”の懸念は・・・
山口
まさに解決の糸口が見えないまま続いている香港のデモ、中国政府は武力行使に出るのではないかという緊張が高まっているんです。このあたりを詳しく伺っていきます。これまで中国政府はどのように対処しているのでしょうか。
大木
中国政府は、5月21日に逃亡犯引き渡し条例の改正を支持することを表明しました。その後、8月に入りますと中国の最高指導部メンバーや引退した長老が集まる北戴河会議が行われました。その内容は明らかにされていませんが、香港のデモ対応についても話し合われたのではないかと言われています。12日、デモ隊が空港を占拠したことに対して、香港政策を担当する報道官がテロリズムの兆候が出始めていると非難しています。そして、15日には香港に隣接する深センで、武装警察がデモ隊の制圧を想定したとみられる訓練を行っています。津上さん、こうした状況を見ると、中国の武力行使というのが近づいているのかなとも考えられるんですが。
津上
私自身は、習近平さんをはじめ、今の、直接政府等の執行部にあたるような人たちというのは、武力行使には行きたくないだろうと、本音では。その後に起きる副作用というのが目に見えますから。ただでさえ米中とか色々大変なときに、もうこれ以上は勘弁してくれと。だから脅しというか、「行くぞ、行くぞ」という、それで収まってくれるのが一番だと、お祈りしているのではないかと思うのですが、問題は、中国は、決して習近平さんの執行部の下で一枚岩なわけじゃないですから。そういう目で「党内世論」を見渡すと、“かっか”来ている人も相当いると思うんです。そういう人たちが、これは明らかに一線越えたというふうに判断したときに、なお且つ、慎重姿勢を取っていると、そんな腰抜けはお前が退場しろと、習近平さんに矛先が向く可能性もあると思うんですよ。
山口
弱腰だとみられるということですね。
津上
自分に矛先が向くことになったら、好むと好まざるとに関わらずもう行くしかないと。そういうふうな引き金を引かれるんじゃないかという不安が私はあるんです。
山口
峯村さんは、中国当局が、武装警察が介入してくるのかどうか、どう思いますか。
峯村
私は、十分可能性はあるのではないかと考えています。特に重要な転機だと考えているのが、8月7日に香港の対岸にある深センというところで開かれた、香港情勢座談会という会合が重要なポイントだったのではないかというふうに考えています。この会合は、中国政府の高官、香港の議員も含めて550人が参加したそうです。その中では、香港情勢がこれから一層悪化し、香港政府が制御できない動乱が生じた場合は、中国中央がそれを静観することは絶対にないという、かなり強い決議を出しています。そういう意味では、もう十分、状況としては、香港政府がコントロール出来なくなったら中国中央が何か介入するのではないかという、一つのシグナルだと考えていいと思います。
津上
動乱という言葉は嫌ですよね。天安門の時もまさに動乱だと。そういう認定で武力鎮圧みたいなことに至ったわけなので。今回も、動乱というふうに認定されると、おそらく戒厳令とか、香港駐留の解放軍が全面出てくるとか、そっちの方に行く号令が動乱認定みたいな感じになると思うんです。
川村
確かに、動乱、暴乱という言葉が『人民日報』の一面に出てきたりすると、天安門事件の時も、まさにそういう事が起きて、私は中国の天安門事件のときに現場で取材していましたけど、分からないような形で近づいてくるのが人民解放軍の手法だったんですね、地下からとか。香港から深センまで33~34km。そこに人民武装警察が来ているということは、何かあった場合には、介入しないわけにはいかないよということを示している。天安門のときのように、人民解放軍が人民に直接銃撃するということでないにしても、何かのきっかけで人民武装警察が催涙弾とか一斉に発射して収めないと、今の行政長官は香港の人たちは収めきれないということを示すという意味の警告で、深センにまで来ているのではないかということですから。完全に条例案を撤回する、廃案にする、二度とこういうことはやりませんということと、同時に、民主的な選挙を行いますと確約できるのか。この人は辞めようと思っても自分では辞められない立場ですからね。
■10月1日は建国70周年の「国慶節」
山口
香港政府のトップ、林鄭月娥さんはこのような発言をしています。14日「今、しなければいけないことは、暴力への抗戦 法治の維持と社会の秩序の回復です」とは言っているものの、実際にデモは全く収まっていないんです。津上さん、林鄭月娥さんで対処できていない現実がちょっと怖いですよね。
津上
そうですね。今回の抗議運動は、明確なリーダーがいないと言われていますよね。SNSの時代なのかもしれませんが、抗議側は明確なリーダーがいない。香港政府には統治能力がない。ものすごく怖い事態ですよ。暴力のどうのこうのと言いますけれど、もちろんメディアが切り取って来る画像は、すべてを表していないかもしれないけれども、今、暴力的と我々が思うのは明らかに警察側ですよね。本当に収めたいのであれば、何でこんな反感を買うような、手荒な鎮圧をするのかなという気がします。
山口
峯村さん、いかがですか。香港の行政のトップではもう抑えきれないような状況になっているわけですね。それが中国側の武力介入を招いてしまいかねない現状に直面していると思いますが、いかがでしょうか。
峯村
あり得ると思います。先ほど申し上げた、今、もう制止できない状況という意味では、一つステップが上がっていると言えます。特に私が重視しているのは、香港の空港でデモがあったときに、中国メディアの『環球時報』の記者を名乗る男性が暴行されたという事件がありました。それについて、香港の連絡弁公室の報道官が「これは明白なテロである」という言葉を使った。実際に調べてみたら、どうも環球時報の記者ではなくて、中国の当局者ではないかという情報もありました。そういう意味では、中国側がテロであるという方向に持って行こうとしているとすれば、かなり危険が高まっているのではないかというふうに警戒しています。
山口
テロだというふうに中国側が意味づけをできれば、介入する大義は出てくるということですね。
峯村
そういうことですね。テロを制圧するんだという大義名分ができると、新華社の評論記事で「国際的なテロの定義とは何だ」というようなものを出したりして、それと符合して「今のケースというのは決して国際的な定義でもおかしくないよね」というような評論記事を出したりとかしているので、少しずつ情勢を作っているのでないかと思います。
川村
テロと認定すると、アメリカの方も多少困るわけですよ。テロだという形のときに、それならば、という形で中国は新疆ウイグル自治区もテロだと。そして、ロシアもある意味で、テロならば我々も国内の弾圧をしますよと、反ロシア政府。そういう意味で、アメリカも一方、今、言われていることは、おそらくと言っていいと思いますけれど、何らかの形で情報収集のために、中国から言えば内政干渉だと言う、外交官あるいは情報当局の人たちが市民の中に入って行ったりして、情報収集という形でデモを煽っていると。それによって、何か中国側に対して自分たちの意志を表明しようとしていることも、あり得ないことではないんですよ。この場合、必ず香港の中にアメリカの情報当局が入っていますから、その辺がお互いの探り合いという意味では、中国当局が「ここは我々の領土なんだ」ということを決断した場合には、私は何らかの形で介入する形が早いと。ただ、このところの今後のスケジュールで言うと、8月25日からフランスでG7がありますから、今のような形が拡大して行くと、必ず香港の問題は人権問題としてG7で取り上げられますから、アメリカを含めて、中国に対する非難が起こってくる可能性もあると思うんですね。それを中国は睨んでいると思います。10月1日が建国70周年ですから。
山口
もし中国側が出てくるとすれば、いつなのかというあたりが大変気になるのですが、実は、8月22日から全国人民代表大会常務委員会が開かれます。9月11日には香港で『一帯一路サミット』10月1日に中国建国70周年の「国慶節」が開かれるということです、峯村さん。
峯村
一帯一路という構想自体は習近平指導部の最も重要な政策です。さらに、それが香港に要人が集まってくる会合がデモの参加者によって取り囲まれるという事態は避けたい、というのが中国指導部の本音ではないかと見ています。
山口
津上さんは、今後の動きとして、どのあたりに注目されていますか。
津上
建国70周年の10月1日。もうあとひと月ちょっとです。ということは、ものすごく時間が切迫してきているんですが、さっきのお話の中で、アメリカも香港で色々やっていて、それを中国の目から見れば明らかな内政干渉だと。経済戦争だけではなく主権にかかるところまで戦線を広げようと、中国人から見ればそう見えるわけです。トランプ大統領にそんなつもりはないでしょうから、この問題に関する米中両国の受け止め方は非対称な感じですが、中国の中は、相当今回の問題で、かっかしてきているんだと思うんです。その一つの表れというのは、海外にいる中国人留学生が各地で、香港の抗議デモに対して抗議する、反対するという運動をあちこちでやっているんです。これは北京からの指令でやっているのかと、僕はそうではなく、中国人全体がこの問題を相当政府の側に立っていると思います。それはある種の民意ですからね。政府がそういう民意で背中を押される部分だってあり得ると思います。これを気をつけないといけないと思うんです。今、可燃ガスがどんどんどんどん溜まっているんですが、そこでアメリカの介入だとか、正体不明の人が空港で暴行されてテロだ云々だと。習近平政権がやらせていることなのかと。ひょっとしたら習近平政権を快く思っていない、どこかの人たちが中国でああいうのをやってやれと、そそのかしているかもしれないわけですよね。そんなふうに言うと、陰謀・謀略みたいに聞こえますが、でも十分あり得ると思うんです。だとすると、どこかで引き金が引かれることになって、これは一線を越えたと党内世論みたいなものが盛り上がってくると、習近平さんは出たくなくても出なきゃと。出ないような腰抜けは退場しろと言われるようなことになると、本当に行ってしまう可能性はあると思うんですね。
■中国紙「(天安門事件の)再現はない」
大木
こうした中、今回、中国メディアがその天安門事件にも言及しているんです。まずは、こちらです。『人民日報』傘下の国際情報紙『環球時報』は、「香港情勢が1989年6月4日に北京であった政治騒動の再現となることはない」としています。天安門事件、このとき、中国は国際的に孤立の道をたどりました。津上さん、このときの経験は武力行使を抑制することにはならないのでしょうか。
津上
私はこの『環球時報』の社説というのは「もっと今回はうまくやれる」という意味にもとれると思いました。射殺していくみたいな、そんなことはしないと。けれども武力鎮圧というのは色々と方法はあるんだよ、みたいな。それだけの装備も備えているということである可能性もありますよね。
大木
時代も違いますから、峯村さん、衆人環視という状況の中で、さすがにやらないだろうと信じたい気持ちもあるんですが、いかがでしょうか。
峯村
先ほどの『環球時報』の評論の記事を見て、ちょっと思い出した言葉があります。それは中国の当局者が言っていた、我々は第3の方法があると。平和的でもない、武力行使でもない、第3の方法があるという、意味深な言い方をしていたのを思い出しました。今、津上さんがおっしゃったように、直接的な武力行使はしないまでも、何かもっと洗練されたやり方で制圧するのかなということをこの評論記事から感じ取りました。
大木
ちょっと私には想像がつかないんですが、どういった意味なのでしょうか。
峯村
かなり難しいのですが、見えない形で、先ほどの『環球時報』の記者を名乗った人のようなやり方。ああいう形で、テロの制圧なんだというやり方で、「平和的」というお題目のもとに制圧をするというやり方を考えているのではないかなと考えています。
大木
イメージ戦略みたいなものも含めて世論が反デモ、これはもうテロなんだと持っていくとか、様々な方法がありますが、表だって第二の天安門事件にはならないけれども、実は中国の中央政府が裏にというような形ですか。
峯村
そういうようなこともあると思いますね。天安門事件でタンクマンと言われている、戦車の前に立っている、あの方のような露骨な形にはならず、見えないところで、何か制圧に向けた動きをするという可能性は十分、今、北京では考えている可能性があると思います。
山口
仮にそれができたとすれば、まだ習近平政権としては良かったとなるのかもしれませんけれど、先ほどから指摘が出ている、SNSがこれだけあって、失敗する可能性もありますよね。それはいかがですか。
峯村
実は、一番の抑止は制圧に失敗することだと思っていまして、失敗の定義には二つあります。
一つ目の失敗は、かなり無理をしてしまってSNSで色んな画像が出て、国際世論で色んな反発が起こるという失敗です。一番ありうると思います。もう一つの失敗が制圧に失敗することです。中国が武装警察を投入したのに制圧できなかったとなると、香港政府の問題ではなくて中国共産党の統治能力が問われるとなれば、先ほど、津上さんがおっしゃったように、習近平国家主席の責任問題につながりかねないと考えています。
津上
天安門事件の記憶が抑止力になるかということについて、一つ私が不安に思っていることを言うと、世界の今の権力バランスは30年前とは全然違っているということです。天安門事件の頃は、まさに西側が世界を主導していたんですよね。だけど今はもう違います。もう西側にそれだけの力がないので、しかも、西側のリーダーはトランプさんで、北京と香港の間で「うまくやってください」みたいな。そういうツイートをするような人がアメリカのリーダーですから。逆に言うと、学生側が天安門の記憶に頼って、「国際世論があるから天安門みたいな手荒な真似はするまい」と思っていたら危ないと思います。30年前と情勢が違っているんだということをね。
大木
中国の経済力がこれだけ大きくなってきたときに、もしも第二の天安門事件みたいなことを起こしたとしても、世界がそっぽを向くことができない状況になってしまう。
津上
西側が批判をしても、西側の比重はもう随分小さくなっているんですよ、30年前に比べて。それは中国だけじゃなくて第三世界も全部含めると、西側って本当にパートでしかないんですよね。だとすると、30年前の再現ということで色んなことをイメージするときに、それが大きな抑止材料になるだろうというのは勝手読みになる可能性があって怖いんですよ。
■国際社会ができることは・・・
山口
香港をめぐる対立ですが、中国側の武力介入がいつあってもおかしくないというお話を伺って参りました。こういう時に日本を含め国際社会は何かできないものなのか?峯村さんいかがでしょうか。
峯村
やはり最大の抑止というのは、国際世論が関心を持っていますよと発信していくことで、一番効果的だと思います。そういう意味では今、アメリカ、イギリス、台湾も指導者たちが、中国に対し平和的かつ冷静に対応するように求めるメッセージを出しています。そんな中、日本政府が沈黙しているのは、非常に理解ができない。やはり何らかのメッセージというのを出す時期にきているのではないかと思います。
山口
津上さん、このあたり、いかがですか。
津上
この間、安倍総理はテヘランに飛びましたよね。相当、米イランの対立がきな臭くなっているときに。ちょっと妄想だと笑われているんですが、それこそ北京に飛んで、「本件は平和裏にやりましょうね」みたいなことを、効果がなくてもいいからやってもらいたいなと思うことがありますね。
山口
川村さん、天安門事件を間近で見ているわけですから、その再来になることだけはないようにして欲しいですよね。
川村
天安門事件の後も世界が経済制裁に踏み切って、世界から非難されながらも、日本が最初に中国と和解し、それで中国は経済復興してきたわけですから。今こそ日本が中国に対して、言うべきことは言うと。近くトランプ大統領と習近平さんの電話会談があると言われていますけれど、その前にトランプ大統領にも日本政府として働きかけできる事はできた方が良いと思いますね。
山口
世界中が自国優先主義になってしまっているので、今の世界の中で見ると、香港の発言がもし国と国とのパワーバランスで無視され消されてしまうことがあったら絶対に良くないと思うんですよね。峯村さん、そのあたり、ずっと取材していて、いかがですか。
峯村
中国も今、大国になったんですが、そうは言っても国際的な評価はまだ気にしているので、そこは非常に重要なことだと思います。
津上
もし本当に恐れるような事態になると政治だけではなく経済的にも大変なことが起きます。何とか避けてもらいたいなと思います。
(河野外務大臣(当時)は8月20日、中国を訪問中、王毅国務委員兼外相に、香港情勢の憂慮を伝え、早期に対話を通じて、問題が沈静化することを期待する旨を伝えました)
(2019年8月18日放送)
香港情勢の緊張が高まっています。週末ごとに大規模なデモや集会が続く中、香港境界には中国の武装警察が集結しています。2019年8月18日のBS朝日『日曜スクープ』は、中国軍が介入に動くことがありうるのか、専門家を交え、検証しました。