番組表
おすすめ情報
スペシャルアーカイブ一覧
熊谷6人殺害“遺族の訴え”またも棄却 最高裁に上告
■控訴審判決「家族には報告できない」
上山
日曜スクープで繰り返しお伝えしてきた「熊谷6人殺害事件その後」です。妻と2人の娘の命を奪われた加藤裕希(かとう・ゆうき)さん。当時の警察の対応を問う裁判に臨んでいます。しかし、6月27日の控訴審判決は、一審と同様に加藤さんの訴えを退けました。その判決の前日、加藤さんはSNSでこのように苦しい胸の内を投稿していました。
「明日は判決日になります。法廷に立つことが苦しいです。刑事裁判からですが、司法は1番大事な部分に一切触れず判決を言い渡すからです。もうこれ以上裏切らないで欲しい。私にはもう耐える力がありません。」無差別の連続殺人の危機に際して、司法はどのような論理を展開したのでしょうか。
6月27日東京高裁
妻と2人の娘の命を奪われた 加藤裕希さん(50)
「良い結果になればいいと思いますけど、ちょっと今は不安とかそういったもので…、精神的に一杯一杯なんです」
6月27日、加藤さんが当時の埼玉県警の対応を問う裁判の控訴審判決が行われました。
妻・加藤美和子さん「おっ、みーちゃん乗れてるじゃん。すごいじゃん。」
加藤裕希さん「そうそうそう、それでいいんじゃないか」
妻・美和子さん「みーちゃん」
長女・美咲さん「(笑い声)」
妻・美和子さん「乗れたね!」
この日、補助輪の無い自転車に初めて乗れたという長女の美咲さん。自宅近くの公園で撮影した映像には、家族の仲睦まじい姿がありました。
2015年9月、埼玉県熊谷市の住宅街で6人が相次ぎ犠牲となった連続殺人事件。9月13日、民家の敷地に侵入したとして、熊谷警察署で聴取されていたジョナタン受刑者が逃走。その翌日50歳代の夫婦が殺害され、16日には84歳の女性の遺体が発見。さらに加藤さんの妻と2人の娘が、相次いで犠牲となりました。
犯行に及んだペルー国籍のジョナタン受刑者は、死刑判決が取り消されて、無期懲役が確定しています。
2018年、加藤さんは埼玉県を相手取り裁判を起こしました。最初の殺人事件が起きた際のことです。埼玉県警は熊谷署から逃走中だったジョナタン受刑者を「参考人」として全国に手配していました。しかし、県警はジョナタン受刑者の逃走については、加藤さんの事件が起きるまで明らかにしていません。防災無線などを用いて注意を呼びかけることもありませんでした。
加藤さんが訴えてきたのは、〝最初の殺人事件が起きた後、埼玉県警の近隣住民への注意喚起が不十分だった〟という点です。
去年4月の一審判決は、「加藤さん宅に危険性が切迫していたとは認められず、埼玉県警の対応には問題がなかった」として、加藤さんの訴えを退けていました。さらに…。
妻と2人の娘の命を奪われた 加藤裕希さん(50)
「私の主張が認められなかったということで、家族にはまだ報告できません。」
■“危険性”認定しつつも…控訴審判決の論理
6月27日の控訴審判決も、加藤さんの訴えを退けました。その判決理由です。まず、ジョナタン受刑者の犯行について、「逃走を継続するための金品を奪取する目的で、民家に侵入し居住者を刃物で殺害」と位置付けて、最初の殺人事件が起きた翌日には、「ジョナタン受刑者が周辺で同様の凶悪犯罪を起こす危険性が切迫していた」と認定しました。つまり、無差別の殺人事件が起きる危険性を認めたわけです。
しかし、控訴審判決は、埼玉県警の対応には問題なかったと結論付けました。「県警が最初の殺人事件の容疑者を特定の人物に絞るまでは困難だった」として、「事件が連続発生することを県警が認識できたとはいえない」としたのです。
加藤裕希さんの代理人・髙橋正人弁護士
「(裁判官が)〝危険の切迫性については認識可能性が捜査機関にはなかった〟と言ったわけです。これちょっと皆さんなんか変だと思いませんか?捜査のプロでもない裁判官が〝危険が切迫していた〟と言っているわけなんですよ。なんで捜査のプロがそれを認識できないのか、非常に不思議なんですよね。」
さらに、加藤さん側は、埼玉県警がインターネットで防犯情報を提供する「犯罪情報官ニュース」についても裁判で問題にしてきましたが、判決は一切言及していませんでした。
加藤裕希さんの代理人・髙橋正人弁護士
「大きな事件はもとより、痴漢とか引ったくりとか、そんな小さな事件まで含めて、すべて情報官ニュースに公開して、皆さんに注意を呼びかけていたんです。ところが、この平成27年(2015年)9月のところは、田﨑事件(最初の殺人事件)だけは省いてあるんですね。そこも100%スルーされてしまって(控訴審判決には)何も書かれていないんですね。」
加藤美和子さん「はい、初めてのおうちプールでーす。」
美咲さん「もうちょっと、お水入れた方がいい。顔つけるから」
美和子さん「ダメ―!もったいないから」
美和子さん「春ちゃん、動かないと!写真じゃないんだから」
美咲さん「は?」美和子さん「いいよ。潜って」
美和子さん「潜れないじゃん」
美咲さん「あ?」
家族4人での暮らしが一変してしまった事件から7年10カ月。今年に入り、SNSを通じて加藤さんに新たな情報が寄せられたといいます。
妻と2人の娘の命を奪われた 加藤裕希さん(50)
「熊谷の方からのメッセージがありまして、ちょうど3カ月くらい前ですけど、第一事件の殺人事件が起きた後に、ちょうど夕方、ご近所に住んでいた方ですけど、バイロン(受刑者)を見たという方がいたんですよ。ちょうど自転車に乗っていたと。もし熊谷署の方が不審な外国人とかの情報を提供していたら、『私 通報してました』と言ってたんですよね。」
〝周囲の住民への注意喚起が十分にされていれば、事件は未然に防げたのではないか〟この思いは加藤さんの頭から離れません。
妻と2人の娘の命を奪われた 加藤裕希さん(50)
「妻は本当に注意深い人だったので、防災無線(を使った注意喚起)とかもちろん、バイロン(受刑者)が警察署から逃げた時点で、何かしらの情報をもしわかっているのであれば、おそらく妻の方も子どもたちを外に出すこととかもしなかっただろうし、命の危機を守れたのかなと今でも私は思ってるんですけど」
■「普通の人が普通に疑問に思うことには…」
上山
司法は無差別の連続殺人の危機に対して、どのように向き合ったのでしょうか。「熊谷6人殺害事件」の経緯を改めて確認します。
菅原
2015年9月13日にペルー人のジョナタン受刑者が埼玉県警の熊谷警察署から逃走したところから事件は始まりました。14日に熊谷市内で田﨑稔さんと美佐枝さん夫婦を殺害。15日から16日にかけて白石和代さんを殺害、加藤美和子さんと長女の美咲さん、次女の春花さんの3人を殺害した後に、身柄を拘束されました。
上山
6月27日の控訴審判決から4日経ったきのう(7月1日)、加藤さんはSNSで、「判決文の認識は間違っている」と投稿しました。
一つ目は午後5時5分の投稿です。「私は事件当日の朝、美和子から『殺人事件があったみたいだね』『身内によるお金目当てかな』と聞いていました。連続発生を警戒する態度も言葉も聞いておらず、妻は何も防犯対策をできずに命を落としました」。
控訴審判決は、「地域住民においても、当該事件が必ずしも身内や知人間で発生したものではなく、警戒を要する状況であることを理解できるものであった」としていますが、加藤さんは、、“無差別殺人が起きたという情報にご家族誰も一切、接していなかった”ということです。
さらに加藤さんは、午後5時15分の投稿で「事件後、しばらく経ってから近隣住民にアンケートを取りました。その結果、危険の切迫を認識している回答者はいませんでした」と、周辺でも同様の認識だったと明かしています。加藤さんは心身ともに疲れ果て、現在休職中で、最高裁に上告するかどうか、検討中です。末延さんは、この裁判の意義をどのように見ていますか?
末延
テレビ朝日の『ワイド!スクランブル』で、この問題にコメントしました。2つのことを言いました。どうして防げなかったのか。ただし外国人だからということで差別はあってはならないということを言ったんですが。あれからずっと考えると、報道がどんどん減ってきて、しかも控訴審では、危険性は差し迫っていたと言っている。そこは(一審判決から)変化しているのに、なぜ警察に対してこういう判断なのか。
例えば僕は、アメリカでも随分取材していましたが、陪審員が中心のところであれば、普通の人が普通に疑問に持つことについては、もっと違う判断が示されるのではないか。そういう意味では皆のサポート、特にメディア、そういうことが僕は必要だと思います。決して、このままにしてはいけないと思います。
上山
そうですね。日曜スクープの取材に対して加藤さんは、「裁判を通して、司法にも埼玉県警にも、私の訴えはかわされるような気がして、凄くつらい気持ちになった」と気持ちを明かしてくださっています。
(2023年7月2日放送)
放送内容は動画でもご覧になっていただけます。
■【熊谷6人殺害・国賠判決】危険切迫を認定も“控訴棄却”遺族の無念
「熊谷6人殺害その後」の特集は、こちらもご覧になっていただけます。
⇒ 2023年3月12日放送 熊谷6人連続殺害 “警察の対応を問う”遺族 控訴審が結審
⇒ 2023年1月22日放送 熊谷6人殺害その後 遺族が問う“新たな矛盾”県警幹部の法廷証言
⇒ 2022年10月23放送 熊谷6人殺害“警察の対応を問う”控訴審開始 遺族の決意と争点
・「これ以上、遺族を見捨てないでください」熊谷6人殺害事件の遺族、加藤裕希さんの意見陳述全文
・「地域の安全と安心を守るために…」熊谷6人殺害・国賠訴訟控訴審 橋本大二郎さん意見書全文
⇒ 2022年4月17日放送 熊谷6人殺害“遺族の訴え棄却”判決の論理
⇒ 2021年5月2日放送 熊谷6人殺害「証拠品」返却 今なお訴え続ける理由
⇒ 2019年12月22日放送 熊谷6人殺害で死刑破棄 遺族が出演「司法にも心を殺されました」
埼玉県熊谷市で2015年9月に起きた連続殺人、熊谷6人殺害事件の遺族、加藤裕希さんが当時の埼玉県警の対応を問うている裁判です。控訴審の判決は、最初の殺人事件が起きて、「凶悪犯罪の危険性は切迫していた」と認定したものの、「事件が連続発生することを県警が認識できたとはいえない」と結論づけて、県警の対応には問題なかったとしました。2023年7月2日『BS朝日 日曜スクープ』は、控訴審判決が無差別殺人の危機どう捉えたのか、判決理由の論理を詳報し、またしても訴えを退けられた加藤さんの苦悩をお伝えしました。加藤さんは放送後、最高裁に上告しました。
放送内容は動画でもご覧になっていただけます。
■【熊谷6人殺害・国賠判決】危険切迫を認定も“控訴棄却”遺族の無念
⇒ テレ朝news
⇒ ANNnewsCH
日曜スクープが放送した「熊谷6人殺害その後」の特集は、ページの最後にご案内しています。