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#262

“反プーチン政権”組織の動きは!?モスクワや国境地帯で謎の攻撃

モスクワの中心部クレムリンに対し、5月3日未明、ドローンによる攻撃がありました。誰が仕掛けたのか、真相は不明ですが、ロシア国内では謎の爆発や火災が相次いでおり、“反プーチン政権”組織が犯行声明を出しているケースがあります。2023年5月7日『BS朝日 日曜スクープ』は、ウクライナによる大規模な反転攻勢が取り沙汰される中、ロシアの“反プーチン政権”組織を注視しました。

■“反転攻勢”本格化前に補給拠点を攻撃か

菅原

「“反転攻勢”の最重要作戦か?ロシア領内の補給路攻撃が激化」、詳しく見ていきます。

実は、ウクライナ軍によるロシア国内や支配地域の補給路を狙った攻撃が相次いでいます。こちらのフリップで見ていきます。10日ほどの間に、ウクライナ軍が関与した可能性が報じられている燃料施設への攻撃が6件も起きているということなんです。

クリミア半島のセバストポリの石油施設での火災や、クリミア半島の対岸にありますクラスノダール地方での石油タンクへの攻撃、これが3回あったとされています。また、北のほうに目を移しても、ロシア領内のブリャンスク州で石油製品などを積んだ貨物車両が爆発し、脱線するといったことがありました。

ウクライナ側は直接の関与を認めていないんですが、ウクライナ軍のフメニュク報道官はこのように話しています。「敵の兵站が損なわれているという事実 これは誰もが見込んでいる、広範で本格的な反攻の準備だ」。山添さん、報道官の発言のように、こうした攻撃は反転攻勢の一環と見ていいんでしょうか?

山添

やはりこれは大きな戦いになりますので、兵站を叩くことは重要です。ロシアに対するウクライナの戦い方として、昨年の8月も11月も、ハイマースでロシア軍の後方の補給拠点を正確に打撃し、ロシアの軍需物資を破壊、あるいは移動を妨害しました。

ハイマースが届く80km圏内だと、やはり補給基地は叩かれてしまうということで、ロシアが補給基地を後ろに下げることを強いる効果もあります。そうして補給の速度が落ちるということを狙っていると思います。

【山添博史】
防衛省防衛研究所 米欧ロシア研究室長 ロシア安全保障等を研究 共著「大国間競争の新常態」(インターブックス)を3月出版

■「クレムリンの映像を見ると、遅くて小さい飛行体」

上山

こうした中で、大きく注目されたのが5月3日未明の、クレムリンに対するドローン攻撃でした。実はこちらに示したように、モスクワ近郊に対してはドローンが飛来することはありました。

例えば去年12月5日、モスクワからは約200kmということになりますが、ジャギレボ空軍基地が爆発して、ここでは3人が死亡しています。さらにその近郊になりますが、2月28日にもモスクワから約100kmという地点にドローンが墜落しています。

山添さん、今回、誰がやったかということが非常に注目されていますが、モスクワ近郊ということで見てみますと、これまでもドローンをここまで飛ばすということについては不可能ではなかったということが言えるのですか。

山添

サラトフ州のエンゲリス空軍基地に対する攻撃については、「Tu-141」という旧ソ連式の、6tくらいある、かなり大型で、1000km/hくらいの速さの無人機が使われたと言われていますけれども、こういった手段は、あると言えばあります。

ただ、今回のモスクワの場合は、Tu-141には見えません。

上山

もう1枚、こちらのフリップをご覧いただきたいんですけれども、クレムリン近郊の衛星写真です。この灰色のラインは環状道路ですが、モスクワ中心部の防空システムがどうなっているのか。

実は「パーンツィリS1」という近距離防空システムが今年の1月、ロシア国防省の屋上などに、このように多数設置されたと報じられたんですね。ここがクレムリンですから、中心部の防空システムがかなり強化されたという報道がありました。この「パーンツィリS1」に関しては、射程が20km、例えばクレムリンとこの地点で言うとおよそ8kmということです。

周囲に置いてある「パーンツィリS1」でも何重にも防空システムがかけられているといった中で、今回ドローンがかいくぐって、クレムリンまで行ったのかどうか。山添さんはどのようにご覧になっていますか?

山添

これは、いくつか何層かある防空システムの1つで、一番、近距離のものが「パーンツィリ」です。S-300など、長距離のものもあります。これらは遠くから飛んでくる、主に巡航ミサイルのような速くて大きいものをレーダーで捉えて、それを撃墜するということなんですけれども、今回、クレムリンの映像を見ていると、割と遅くて小さなものが飛んで来ています。

この範囲内の、市内のどこかから夜中に発進されて、ふわっと飛んで行ってあそこで爆発するということであれば、なかなか、このシステムでは探知できないのかもしれないですし、単純に本当に見落としてしまったという可能性もあるかもしれません。

上山

つまり、今おっしゃった話ですと、遠方から撃ったドローンが接近していったわけではなくて、クレムリンの近くのあたりから飛ばされてクレムリンを狙っていったんではないか、このような見方もある?

山添

あと、レーダーは、高度が高いものを遠くから見つけることができますが、ずっと低空で飛んできた場合になかなか見つけることができないといった問題もあります。低空、低速で来て、複雑な軌道をたどってクレムリンの上空に到達したと、こういうことはあってもおかしくはないと思います。

■「モスクワ市内のアパートから、とも」

上山

名越さんはどうお考えでしょうか。クレムリンにドローンが飛来した重大性は、どういった影響があるとお考えですか。

名越

山添さんが言われたように、ロシアの軍事ブロガーの間では、モスクワ市内から撃たれた可能性が強まっている。あるブロガーは、犯人はアパートを借りて、アパートの中で小型のドローンを組み立てて、爆薬を詰め込んで、窓から発射したと書いているんです。

結局、誰がやったかは、自作自演説からウクライナがやったとか、色々出ていますけど、うやむやになる可能性が強いと思うんですね。当面、ロシアでのタカ派の政治家の間では、戦術核で報復すべきだとか、ウクライナの大統領府を攻撃すべきだとか、強硬論が出ている。プーチン大統領が不思議なのは、5月3日からこれまでいまだに一言もこの件について喋っていないんですね。

上山

そこが不可解なんですよね。

名越

昨日、安保会議を開いているんですけれども、5月9日の式典の準備を討議したという発表だけで、まだ一言も発言していないんです。大統領報道官は、アメリカが計画して、ウクライナにやらせた大統領暗殺未遂事件だと言っています。

【名越健郎】
拓殖大学特任教授 元時事通信記者 モスクワ特派員などを経験 専門はロシア研究 著書「独裁者プーチン」(文春新書)

上山

このあたりも含めて、末延さんはどのようにご覧になっていますか。

末延

やっぱり大事なのは、ドローンはアフガンで登場しましたけど、今回、ドローンが主力武器のようになっています。これは、民間の人も割と手に入れられて使えるという意味で、戦術とか、ゲリラ戦を非常に変えていったということがあります。そういう意味で言うと、反体制派の人でも十分、小規模のグループが手にいれて撃つことができる。

モスクワの防空態勢は、昔からよく冗談で言われて、空港に着いてクレムリンに向かったら、GPS通りに行ったら飛行場に戻ってくるっていうくらい、近づけないようにGPSも操作されていたと。そういう話がよく言われているくらい気を使っている象徴的な場所ですよ。あそこで、あのようなことが起きたのは、まさに、市内からゲリラ的な形で撃ったか、自作自演で全体の状況を変えるためへのイベントとしてやったか。今ずっと伺っていて、やっぱり新しいツールが出てくると、戦術とか、それが変わってくるっていうのを悪いほうの意味で、今回すごく感じますよね。

【末延吉正】
ジャーナリスト/東海大学教授 元テレビ朝日政治部長 永田町や霞が関に独自の情報網 湾岸戦争など世界各国で取材 国際情勢に精通
ロシアの首都モスクワには、5月30日未明にもドローンによる攻撃がありました。ロシア国防相は、計8機による攻撃と発表し、全機を撃退したとしています。ロシアメディアによりますと、このうち3機は、プーチン大統領の公邸など、要人が邸宅を構える、モスクワ郊外の地域から数キロの地点に墜落したとのことです。

■地方都市で相次ぐ軍事パレード中止

上山

今、お話にも出ました、ロシア国内の不穏な動きをテーマに捉えたいと思います。「戦勝記念日を控えロシア国内で異変 “反プーチン体制派”影響力は…」。

ロシア国内では戦争の長期化に伴い、謎の爆発が相次いでいます。そうした中、今年は軍事パレードの縮小、そして中止の動きが出ています。

上山

戦勝記念日での軍事パレードは、国民の愛国心を高めるための重要な行事だとされています。去年は28の都市で行われました。しかし、今年は安全上の理由などということで、少なくとも21の都市で軍事パレードが中止になりました。

モスクワでは行われますが、(画面の地図の)オレンジの点のところでは、軍事パレードが中止になったということです。軍事パレードが今年、中止になった都市は、ウクライナの国境の近く、それからモスクワの周辺辺りに多く見られるんですが、ただ、ウクライナからはかなり遠く離れた場所も含まれています。

なぜ軍事パレードを見送るのか、ウクライナの国境に近いベルゴロド州の知事は、このように話しています。「大切なのは住民の安全であり、誰も危険は冒さない」。ウクライナ側による攻撃への警戒を強調しました。山添さん、ロシア側の主張、「安全上の理由」ということで軍事パレードの中止を決めた地域もあるということなんですが、これが本音なのかどうか、どのようにご覧になっていますか。

山添

地域の知事・行政府が軍事パレードを運営する主体になるので、そちらがあまりやらないほうがいいなと思えば、安全の理由というのは言いやすいわけです。ウクライナがこういう行為をしているというのは、ロシアで言い続けているわけですし、ベルゴロド州とかこういうところであれば、ウクライナから攻めてきたときに守れるような防衛線も張っているんですよね。

今、我々が見ていると、ウクライナがロシアのベルゴロド州に攻めていくとか、そういうことはあまり思えないんですけど、安全上の理由があるからということで、危険を強調することはできるわけなので、それで何が起こるかわからないイベントというのは、ここは避けておきましょうという力学が働いてもおかしくはないと思います。

■謎の爆発と犯行声明「世相と治安が悪化」

上山

5月3日には、クレムリンへのドローン攻撃がありました。真相はまだわからないのですけれども、ただ、ロシア国内では謎の爆発や火災が相次いでいます。その中には、反プーチン政権を掲げる組織が犯行声明を出しているというケースもあるんです。

実は昨日も起こったんですけれども、5月6日、日本時間の昨日となりますが、モスクワの東部の村で爆発があります。作家のザハール・プリレーピン氏が乗った車が爆発。運転手が死亡して、プリレーピン氏本人は負傷ということです。これに対しては、「国民共和国軍」と名乗る組織など、実は複数の組織が犯行声明を出しました。これに対し、ロシアの捜査当局は30歳の男を拘束しました。

ロシア当局によりますと、この男は「ウクライナの特殊部隊の指示を受けた」と供述しており、供述する映像が公開されているんです。ウクライナメディアによりますと、ウクライナの治安当局は事件への関与について、肯定も否定もできないとコメントしています。

現時点では真相が全く判然としませんが、ただ、謎の爆発事件で、しかも、犯行声明が出ているというものは多数あるんです。まず、1つ目が4月2日にサンクトペテルブルクのカフェで、軍事記者が死亡した爆発がありました。これは、先ほどのプリレーピン氏の乗った車の爆発で犯行声明を出したのと同じ名称の、「国民共和国軍」という組織が犯行声明を出しています。

一方で、3月にロシア南部のロストフナドヌーで、FSB(連邦保安局)の庁舎で爆発があった件ついては、「黒い橋」という組織が犯行声明を出しています。

さらに、もう1つ、3月にウクライナに近いブリャンスク州でも、監視塔などがドローンで攻撃されました。武装グループが周辺を襲撃しまして、市民2人が死亡しましたが、ここでは「ロシア義勇軍団」という組織が犯行声明を出しました。

名越さん、このように不審な爆発、襲撃というのは相次いでいるんですが、しかし、それに対して様々な名称のグループから、犯行声明が出ています。これはまず、異例なことなのかどうか、どのように見ていますか。

名越

昨年から200件以上、謎の火災、爆発が起きていますから、異例なことですよね。

上山

様々組織が犯行声明を出している。これもかなり珍しいことではあるんですか。

名越

そういうことですね。組織にどのような実力があるのかなどは、不明な点も多いですけども、次々にこういう声明を出しています。今、ロシア国内でも真偽不明なテロ警報がSNSで飛び交っているらしく、世相と治安が悪化してきた感じがしますよね、戦況が長期化する中で。

■犯行声明を出した“反プーチン政権”の組織は…

菅原

こうした組織、反プーチン政権を掲げていますけれども、名越さんによりますと、それぞれ異なる背景、それから特徴があるということです。順に見ていきたいと思います。

まずは「国民共和国軍」です。サンクトペテルブルクのカフェ爆破のほかに、去年8月にモスクワ郊外で起きました、右派の思想家ドゥーギン氏の娘の爆殺事件でも関与を主張しています。ただ、その正体に関しては不明、わからないということです。

そして2つ目が先ほどもありました、「黒い橋」です。反戦を掲げるロシアのレジスタンス運動で、暴力的な抵抗によるプーチン政権の破壊を最終目標に掲げているといいます。

そして、犯行声明を出している組織の3つ目が、「ロシア義勇軍団」です。ドイツメディアによりますと、創始者はドイツ育ちのロシア人で、格闘技のイベントを主催してきたというデニス・カプースチン氏だとみられているということです。プーチン政権打倒を掲げ、今回もウクライナ側で戦い、ロシアにも越境して攻撃を行ったり、武装決起を呼びかけているということです。

名越さん、こうした組織が犯行声明をそれぞれ出しているわけですが、自分たちがやったという、その声明に関しては、信憑性はあるんでしょうか。

名越

ロシアで開発されたテレグラムというSNSがあって、そのアカウントを調べてみたんです。そしたら「国民共和国軍」、これはポノマレフという野党の下院議員がウクライナに亡命して作ったと言われています。

昨日の爆殺未遂事件、昨年8月のドゥーギン氏の娘の爆殺、それから4月2日のペテルブルクのカフェの爆破ですね、「国民共和国軍」は毎回、犯行声明を出しているんですが、ただ、声明しか出していなくて、あまり実態はないんじゃないかなという気もしました。プロパガンダ機関じゃないかなと思うんですね。

それに対して「黒い橋」ですが、3月にロストフナドヌーというロシア南部軍管区司令部のある町で、FSB(連邦保安庁)の建物が爆破されたんですね。これは爆破の前からカメラを設置して、爆発後まできちんと撮影しているんです。動画を撮影してそれをアップしているんです。建物自体は崩壊しているんですけれども、それは3kgぐらいの爆弾を建物の中の武器庫に仕掛けて大爆破させたとし、爆弾の形態や成分も公表しています。だから、この組織は、実態はわかんないですけども、活動はやっていると思うんですね。ただ、このテロしかやっていない。

次の「ロシア義勇軍団」、これはドイツのメディアが詳しく書いているんですけれども、ドイツ育ちのロシア人で極右のカプースチンという人が作って、ロシア人だけで活動しているというんですね。彼らのアカウントを見ても、実際に戦闘の模様を撮影して動画でアップしているんですね。戦死者の名前もきちんと書いていて、追悼している。これもやっぱり実態はあるような気がします。ウクライナ軍と協力して、提携して戦っていると書いていますね。

上山

山添さんはどうでしょうか。様々なグループが反プーチン政権と掲げて、活発に動いているとされていて、さらに、このように犯行声明も出している。こうした状況はどうご覧になっていますか。

山添

それぞれは別々の個別の背景があるんだと思いますし、それぞれ、よく分からないところがあるんですね。ロシアが発表すると、ロシア人がやっていたと思われる場合でも、ウクライナや、アメリカにそそのかされたウクライナがやったというように、大体、敵を非難するような結論にしてしまうので。実際に、ロシアの中のロシア人がこんな破壊活動をしているということになったら、ロシアのどこで何が起こるかわからないという社会不安になってしまいますし、統治の不全ということになってしまいますので、それは言わないようにしている。

そういった形でちょっと分かりにくい事例があるんですけれども、一部にはウクライナがロシア占領地域の不安定化を狙っている、ウクライナの利益になるようにやっていると見えるものもありますし、ロシアの中の反体制派という人が単独でやっているのかなと、グループかもしれないですし、個人かもしれないものもあります。そういったいろんなものがあって、ロシアの統治機能自体は不安定化しているとは言えると思います。

■“反プーチン政権”組織とウクライナ軍の連携は…

菅原

こうした“反プーチン政権”の組織がウクライナと本当に連携しているのか、できているのか。先ほどお伝えした「ロシア義勇軍団」に関しては、今回もウクライナ側について戦っているという指摘がありますが、名越さんによりますと、他にもウクライナと連携している可能性のある組織があります。それがこちら、「自由ロシア軍団」です。

ウクライナ軍に投降して、反プーチン政権に転向したロシア兵、約500人で結成されたということです。ウクライナ軍とともに今回もロシア軍と戦いまして、一部がロシア国内で放火などの破壊活動を続けているということなんです。さらに去年6月にはロシアの銀行であるガスプロムバンクのボロビエフの元副社長が、「自由ロシア軍団」に加わったといったことが発表されているわけです。名越さん、こうした“反プーチン組織”ですが、やはり中にはウクライナと密に連携をとって動いているということなんでしょうか。

名越

「自由ロシア軍団」という組織は捕虜になって転向したり、戦場で投降したロシア軍兵士で構成されているんですね。彼らがウクライナ軍に寝返って、ウクライナ軍の一部として活動しているらしいですね。欧米のメディアでは、500人 から 1000人ぐらいいると伝えられています。これはロシアの最高裁が昨年、テロ組織と認定しているんです。ということはもう存在するということですね。一部はロシア国内に戻って活動しているという報道もあって。

菅原

ウクライナの軍から指示を受けているということなんですか。

名越

その辺はわからないですけれども、連携して活動しているという説明ですね。ホームページやSNSのアカウントもあるんですよね。きちんとして、戦場や戦死者の名前も公表したりしていますよね。それから、ロシア国内には200万人のウクライナ系がいるとされています。この中にはウクライナ侵攻に反対する人も多く、テロ予備軍が生まれかねません。

上山

実体があるもの、そして、よくわからないものも含めて末延さん、様々な組織が“反プーチン政権”を掲げ、ロシア国内で活動している様子ですけれども、どのようにご覧になっていますか。

末延

ロシアの場合は、中国共産党のような形の、例えばデジタルを使った、そういうデジタルファシズム体制と言われるような、きっちりした抑え込み方はできていないと思うんですね。一応、形は民主主義の選挙がある体制をつくっていますし、その中での長期政権で、無理くり、こういう戦争をやっていく中で、かなり色んな理由でそこから逃げた人もいるし、体制の転覆ということを考える人もいる。

特にドイツなんか、かつて東ドイツと統一するまでは、そういうソ連の影響下にあった。例えばサイバー研究なんかでも大体ドイツを舞台にして、色々モスクワ大学なんかでも、そこで人を集めて研究をやるという。だから、そこに色んな形のネットワークというのは、ヨーロッパの中で、ドイツなんかでもできていっている。それが色々動いているし、ウクライナ自体がかつての旧ソ連を構成している主力の国ですから、もともと西側にあった国ではないですから、ロシアと同じような諜報機関や情報戦というのは当然やっているわけなんで、そこには何らかのリンクができているものもあるだろうし、単純に情報戦として流している実体のないものもあるんだろうと。

戦争になると、特にSNSの時代の戦争になると、まずフェイクから始まって、あるものとないものの見分けもなかなか難しいというので、一つずつ潰さなきゃいけないだろうし、逆にロシアから言えば、すべて発表しちゃうと、体制がそこまで揺らいでいるのかと見られるから、発表しないケースもおそらくあるんだろうと思います。その辺も含めて9日にプーチンさんが本当に出てきて、何を言うのかというのは、まずそこからまた解きほぐしていけるのかなと思っているんですけどもね。

ウクライナと国境を接するロシア・ベルゴロド州に、5月22日、武装組織が装甲車で侵入し、2日間に渡って戦闘を繰り広げました。この戦闘に「自由ロシア軍団」と「ロシア義勇軍団」が関与を表明しています。
ベルゴロド州では、6月1日にも、武装組織による、国境を超えての攻撃があったとされており、同じく「自由ロシア軍団」と「ロシア義勇軍団」が関与を表明しています。

■「今のモスクワの状況を聞くと…」

上山

名越さん、素朴な疑問なんですけども、こうした反プーチン政権を抱える組織がロシア国内で、プーチン政権の転覆まではいかないとしても、何か影響力を増して、政権を揺るがすような存在に、こういったグループがなっていくということはあるんでしょうか。

名越

いや、それは考えられないと思います。規模も数100人、数1000人、せいぜい数1000人だと思うんですけどね。ウクライナで今、戦っているロシア軍は、37 万人とウクライナ軍は発表しているんです。規模としてはまだ小さい。

ただ、最近モスクワに一時帰国した在京のロシア人と話していたら、今のモスクワの状況は、スーパーの品物はそんなに昔と変わらないんだけれども、街を歩いている人が少なくて、活気がなかった、笑顔がない、みんな緊張していると。仲間同士では侃々諤々の、ウクライナ戦争をめぐる議論をやっていたということで、やっぱり社会の雰囲気が緊張して、世相が悪化していると思うんですね。経済の打撃というのは、それほどまだ及んでいないと思うんですけれども。治安の悪化で社会が動揺している気もします。

末延

国内監視が今、相当きついわけでしょう。

名越

そうですね。

末延

そういう意味ではじっとしているという形で、目に見えて動くのはやはりこういう小さなものだと思うんですよね。

名越

それと選挙の季節になると、ロシア人もじっとしていないと思いますね。社会が不安定になり、政権も緊張する。戦闘長期化の中で、来年3月の大統領選挙に向けた動きが注目点だと思います。

■「チェチェン人同士が戦う構図に」

上山

歴史的に反プーチン政権の強い感情を積み重ねてきた集団も、ウクライナと連携しているという情報があります。しかも激戦地のバフムト、ここでウクライナ軍と一緒になって戦っている集団があるんです。亡命していたチェチェン人たちの部隊だということです。

このチェチェン兵については、一般に、ロシア軍に参加するカディロフ首長が率いる私兵部隊というのが、2 万人以上いるとされていますが、その一方でウクライナ軍に参加するチェチェン兵もいるということなんです。ロシアの独立系メディアによりますと、ウクライナ側のチェチェン兵は1000人以上いるということで、5つの大隊に分かれていて、そのうちの4つの大隊が、ウクライナ軍に所属していると。残る1大隊が独自の活動を行うとのことなんです。

では、どういった人たちが参加しているのか。第2次チェチェン戦争を体験した元兵士、さらには父親をロシア軍に殺害された子供たちが参加しているということで、実はその一部がバフムトでの防衛にもあたっているということなんです。

さらに、きょう(日本時間の5月7日)夕方入ってきたニュースをご紹介しますが、CNNによりますと、バフムトをめぐってワグネルのプリゴジン氏が6日、バフムトで確保した陣地などをロシア、チェチェン共和国のカディロフ首長が率いる部隊に引き渡す意向を明らかにしました。つまりバフムトにおいて、チェチェン人同士が戦うという構図がより鮮明になってきてしまったということが言えます。

菅原

そして先ほど、触れました第2次チェチェン紛争の経緯も、こちらで確認していきます。

1999年、チェチェン共和国のロシアからの独立を主張する武装グループが蜂起をしました。当時首相だったプーチン氏は地上軍を派遣し、首都グロズヌイなどを空爆しました。武装グループのテロ活動は過激化して、プーチン氏の大統領就任後、2002年にモスクワの劇場を占拠する事件。それから、2004年には北オセチア共和国のベスランの学校占拠事件も起きています。プーチン大統領は2009年に独立派の掃討を発表しました。チェチェン人20 万人以上が死亡したとも言われています。

上山

名越さん、バフムトにおいて、ウクライナ側で参戦しているチェチェンの義勇兵。どういう意図で参戦しているんでしょうか。

名越

チェチェン人と、プーチン大統領は複雑な因縁があって、プーチン大統領は第2次チェチェン戦争を成功させたおかげで、大統領に押し上げられたわけです。その結果、チェチェン人の独立派政府が解体されて、30 万人ぐらいヨーロッパに逃げたらしいんですね。プーチン時代初期、僕は記者としてモスクワにいたんですけれども、地下鉄とかコンサート会場、あるいは劇場占拠事件など、ソフトターゲットを狙ったテロが起きたんですね、大規模テロが。

あの当時、ロシア人みんな戦々恐々としていたんですけれども、テロを起こしたのは、夫をロシア軍に殺された未亡人が多いんですね。要するに、チェチェン人は部族意識や血統意識が非常に強い民族で、ヨーロッパに逃げた人たちも、父親がロシア軍に殺されたとか、そういう子弟が今、ウクライナに入って、ロシア軍と戦っているわけですね。だから同じチェチェン人同士が戦う構図になりつつあるということです。

上山

もう本当につらい構図だと思いますが、末延さんはここまでご覧になっていかがですか。

末延

今、名越さんが言われたのはすごく重要で、あの当時プーチン大統領が成果を挙げたけれども、いろいろ爆破が起こっているのも、自作自演説なんかも流れるぐらい、彼はそれを利用してすごく指導力のあるリーダーとして出てきた。

逆に下手をすれば、チェチェンの人はプーチン大統領によって、かなり酷い目に遭っている。そこら辺はやっぱり重要なキーワードとして僕は覚えておいた方がいいんだろうと思いますね。

プリゴジン氏のバフムト撤退をめぐる発言とロシア軍の対応は、その後も変遷をたどりますが、5月20日、プリゴジン氏がバフムトを完全制圧したと主張。翌日21日、ロシア国防相も「バフムトを完全に解放した」と発表しました。プリゴジン氏はさらに、制圧地域をロシア軍に引き渡して、5月25日から部隊を撤退させると表明しています。ワグネルから制圧地域を引き継ぐロシア軍の構成は、明らかになっていません。

■「治安が悪化したロシアは…」「日本の安全保障もリアルに」

上山

ウクライナへの侵攻を、山添さんは今後どのような点に注目しているんでしょうか。

山添

今、ロシアが公言してしまっているんですけれども、1年前と比べても、ロシアは安全ではなくなりました。政権も不一致が目立ち、治安がおかしくなっている。それであるからこそ、ロシアの政権としては、何とかこれが失敗にならないように、倒れないようにしていく。

それを続けるために、憎しみをウクライナに向ける発信をやりながら、政権の中の色んな人がバフムトで酷いことをするとか、キーウに酷いことをするとか、西側を震え上がらせるような工作をやるとか、それぞれ動いて、そういった不安定な要素がどんどん広がっていく。これが長く続くと思いますので、ウクライナにとっても長い戦いになると思います。

名越

名越さんはどんな点に注目されていますか。

名越

近く始まると言われているウクライナ軍の反転攻勢です。これはウクライナの将来だけじゃなくて、ヨーロッパ全体の安全保障を左右するような、重要な天王山になると思うんですね。成功すれば、追加支援ができると欧米は考えると思うんですけども、これは失敗する可能性も十分あると思うんですよね。

その場合、欧米諸国、NATOは、もうそろそろ対話をしてもいいんじゃないかと、タオルを投げ入れる可能性もあるということで、ウクライナ軍がどう戦うかで、非常に重要な局面になると思いますね。

上山

末延さんはどの点に注目していますか。

末延

今度のウクライナによる反転攻勢によって、政治的な解決へ流れを作っていく、さらに言えば、それがヨーロッパの新しい秩序をつくるし、そのことは中国を抱えているアジアにもまた波及してくる話です。

そこはやはり、人ごとだと思わずに、日本の安全保障をどう守るかというのを、やはりリアルに我々は考えていかなきゃいけないっていうのは、きょう改めて感じましたね。

 

(2023年5月7日放送)