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#261

ウクライナ反転攻勢のポイント “ルビコン川を渡った”米国の決断

ウクライナが近く大規模な反転攻勢に踏み切るとされています。2023年4月30日『BS朝日 日曜スクープ』は、ウクライナが反転攻勢を成功させるための“4つのポイント”を分析。さらに、不退転の決意で“ルビコン川を渡った”米国の決意と懸念を特集しました。

■難しい作戦だからこそ「諸兵科連合を訓練」

菅原

ウクライナ軍は、どのように反転攻勢を成功させるのか。ここからは4つのポイントで見ていきたいと思います。まず、1つ目のポイントがこちらです。

ウクライナ軍が反転攻勢のために準備しているとされる、9個旅団をフルに活用して作戦を実施できるかどうか。というのも、ウクライナの、これまでのどの作戦よりも大規模になのです。去年の北東部ハルキウの反転攻勢の時にも4個旅団での攻撃でした。つまり、今回は、その倍以上の旅団で実施することになるわけです。

渡部さん、ウクライナにとっては、これほどの規模の軍事作戦は侵攻されてから初めてということになります。やはり9個旅団を使って、沢山の部隊を動かしてというのは、非常に難しい作戦になるんでしょうか。

渡部

まさに難しい作戦になります。そのために、まず9個の旅団を、イギリスとか、ドイツとか、あるいはポーランドなどの外国で、しっかりとコンバインド・アームズ・オペレーション、つまり諸兵科連合作戦の訓練を実施してきた。そして、しっかりとレオパルト2、西側の戦車ももらった。装備を沢山もらった。

プラスやはり米軍が絡んでいますよ。米軍と一緒にこの作戦を、図上演習と言って、実際に訓練をする前に、図上演習で米軍と密接な調整の下で、成功させる作戦を作ったのだろうと思っています。

菅原

綿密なシミュレーションを行っての作戦になっていくということですね。

渡部

そうです。

菅原

そして、ポイントの2つ目がこちらです。地雷除去能力です。やはりロシア軍が準備している防御陣地を、比較的迅速に移動するためには地雷除去能力が必要だということです。

かなりの場所に地雷が埋められていることが予想されるわけですね。渡部さん、やはりこの地雷除去というのも、迅速に機動的に攻めていく上では非常に重要になるということなのでしょうか。

渡部

その通りです。戦車の部隊の前に、実は地雷処理の車両があるわけですね。戦車の前に地雷処理ローラーというのをつけて、それで突進をして地雷処理をやっていく。そういうことで地雷処理というのは肝になります。非常に重要な作戦になります。特にスピードを上げた機動攻撃をやるために、これは不可欠になります。

菅原

実際にこういった装甲車、それから除去する装備なども欧米から供与されていると。

渡部

まさにそうです。

■ウクライナ反撃“速さが重要”

菅原

いかに地雷をこのように潰していくか。これも非常に重要だということです。さらにロシア軍の防衛線には、地雷原や塹壕とともに、「竜の歯」と呼ばれるものが設置されているとされています。戦車や装甲車の走行を妨害するもので、高さおよそ1.2mほどの三角錐のようなものが置かれていて、実際にこれが非常に進行を妨げる、難しくしていくということです。

渡部さん、実際に作戦としては、この「竜の歯」はどのように除去していくのか、いかがでしょうか。

渡部

これを100km以上作っているはずですよ。こういう障害には、火力をそこに向けなきゃだめなんですね、火力を向けないと。この「竜の歯」を見てください。テトラポットみたいなものを並べているだけです。それを除去してしまえば、そこを通ることができる。なおかつ、その正面にロシア軍の火力が向いていない、そういうところを、一番弱いところを見つけて処理して突進をしていくとことになります。

菅原

これは、歩兵が行ってそれを除去するということになるんでしょうか。

渡部

機械力になります。例えばドーザーとか、あるいは戦車で引っ張るとか、さまざまな手段、機械力を使って、テトラポットのような障害を除去していくのだろうと思います。

菅原

そして3つ目のポイントが、こちら、ロジスティクスです。スペアパーツや弾薬、交換部品など、適切なアイテムを適切なタイミングで到着させられるか。遅延しますと、戦闘効率が低下か停止するために、このロジも非常に重要になってくるということです。

ただ、例えば、この第21自動車化旅団を見ても、イギリスの追跡歩兵戦闘車、あるいはカナダ、アメリカ、ウクライナ、イタリアと、非常に多国籍な編成になっている部隊、旅団があります。22日のキーウポストは、「欧米諸国のウクライナ軍への装備に対する、断片的で、その場しのぎのアプローチは、ウクライナの供給の専門家にとって、その任務を頭痛の種にしている」。つまり、かなりロジが難しい状況にあると指摘しているわけですが、どのようにしていくのか。ウクライナはとっては非常に重要なわけですね。

渡部

まさにその通りです。このロジスティクスの問題を解決するためには、とにかく速く攻撃をして、目標を奪取してしまうことなんです。

これは、作戦が延びれば延びるほど、ロジが大きな問題になってきます。ですから、この作戦は努めて速く行ってしまう。それを追求するということでしょう。

■「プーチン大統領の視察を出迎えたのは…」

菅原

そして、4つ目のポイント、長距離攻撃による支援能力です。こちらに関しては、ウクライナ軍の機動作戦を支援する榴弾砲や、ハイマースの長距離精密攻撃システムが統合できているかどうかということです。

このように4つのポイントを見てきましたけれども、駒木さんは、ウクライナ軍が反転攻勢を成功させるポイントについて、どのようにお考えでしょうか。

駒木

ロシア側の備えですよね、そこは。つまり、ロシア側もかなり準備を進めている。プーチン大統領自ら、4月18日の発表ですけれども、前線を訪れて激励したと。ヘルソン州とそれからルハンシク州に行って、ルハンシクも手薄にはなっていないんだということです。

ただ、その映像も非常に興味深くて、ショイグ国防相とかゲラシモフ参謀総長のような、当然責任をとるべき司令官は連れていっていない。プーチン大統領しか行っていない。それから、ヘルソンで出てきたのが、テプリンスキーという空挺軍の司令官なんです。あとルハンシクで出てきたのがラピンという、彼は先ほどから話に出ている、東部の去年9月の大敗北の責任を問われて、非常にプリゴジンとも関係が悪い、あるいはチェチェンのカディロフから批判されたりとか。

テプリンスキー自身もゲラシモフと非常に関係が悪いということです。失脚が噂されたりとか、非常にケチが付いた人物が出てきて、これからの守りを任せられるという形で、プーチン大統領から直接、指示されている。

最後のチャンスを与えられたというか、これを失敗したら後はないんだというようなデモンストレーションにも見えるような形で守りに当たらせる。ただ、そういうアプローチが、じゃあ本当に効率的なロシア軍の守りの強化につながるかと言うと、これまで上手く行ってこなかったことの繰り返しになるような可能性も考えられると思うんですね。ただ、ロシア側がかなり守りに力を入れている、その成否というものが、ウクライナ側の作戦が成功するかどうかということにかかってくると思います。

菅原

秋田さん、欧米がウクライナの反転攻勢を本当に成功させたいと願うのであれば、もっと強い兵器、その数も増やした方がいいんじゃないか。こういった声もある中、欧米は今の支援の中で反転攻勢は成功できると踏んでいるのでしょうかね。

秋田

本来であれば、必ず成功させるために120%の兵器を供与した方がいいわけですよね、例えば戦闘機とか。でも、今、欧米がやっていることは、多分100%か、もしくは100%ギリギリ。

なぜかと言うと、おそらく120%供与してしまうと、一気にロシアにクリミアの手前ぐらいまで、仮に攻め入ったときには、後にも触れますように小型核の使用とか、ロシア側からエスカレーションして、そして全面戦争、欧州大戦みたいなことになってしまうということを恐れているので、非常に酷い話ではあるんですけれども、ギリギリの、負けもしないけれども、圧勝もしないというような兵器を提供しているという印象です。

■ゼレンスキー大統領 習近平氏と電話会談

上山

そういった中で続いては、欧米、特にアメリカの支援の覚悟というのを見ていきたいと思います。テーマがこちらです。「対ロシア“ルビコン川を渡った”退路を断つ米国…決断と懸念」です。

きょうの番組アンカーの秋田さんですが、アメリカがロシアに対して退路を断ってルビコン川を渡ったんだと指摘をしています。秋田さんの最新の取材をもとに、その決断と懸念を読み解いていきます。

まずはこちら、戦争の行方にどのような影響をもたらすのか、注目が非常にされていた会談です。4月26日に行われました、中国の習近平国家主席と、ウクライナのゼレンスキー大統領の電話会談です。侵攻後、初の電話会談ということになりました。ウクライナの求めに応じる形で行われたということです。

中国外務省によりますと、「中国は、できるだけ早い停戦や平和の回復のために努力する」と、仲介役として中国は建設的な役割を果たす姿勢を強調しました。さらに、中国政府の特別代表をウクライナに派遣する考えを示したということです。一方、ウクライナ大統領府ですが、会談はおよそ1時間に及んだんだとした上で、「ウクライナの独立、主権、領土保全に対する中国の支援に感謝した」と伝えています。この「領土保全」について、ゼレンスキー大統領は「平和は国際法の原則と国連憲章の尊重に基づき、公正で持続可能でなければならない。領土を妥協する平和はあり得ない」とコメントしました。

つまり、ロシアが占領している東部、そして2014年に一方的に併合しましたクリミア半島、これをウクライナとしては譲るつもりはないとしています。駒木さん、中国とウクライナの電話首脳会談は非常に注目されていましたが、どのように評価していますか。

駒木

もちろん、言い分はかなり隔たってはいるのですけれども、こうやって直接、首脳同士が意見交換して、お互いの主張に耳を傾け合うことは、非常に大きな意義があったと思いますね。ゼレンスキー大統領は、前向きに評価できる点として、核兵器の威嚇や使用、そういうものは認められないということを習近平国家主席が言ったとか、あるいは、穀物の輸出は続けなきゃいけないと。

それらは本筋の戦況、つまりロシア兵は撤退しなきゃいけないというところとは違うところではあるんですけれども、しかし、少なくとも、そういう一致点は見出せたと。そして、先ほど紹介があったように、領土を譲って和平を目指すことはしないと。しかもそれは、1991年のライン、つまりクリミア半島も取り戻すんだということをはっきりと伝えたということです。どの辺が食い違っているのか、それから、今後どうやって埋めていかなきゃいけないのか。その課題を直接語りあったことは、それなりの意味があったと思います。

上山

まずは、この話し合いの第1歩ということではあると思うのですが、秋田さん、中国はこれまでロシア軍の撤退を求めてきたわけではありません。どちらかというと、やはりロシア寄りだとも言われてきた中で、ウクライナは中国に対して、支援に感謝したいと、今回の会談については評価をしているわけなんです。ここがちょっとよくわからないんですが…。

秋田

まず今回、ゼレンスキー大統領が会談した最大の狙いは、フランスのマクロン大統領が、習近平国家主席にある意味ではお願いして仲介をやってほしいと言ったと思うんですよね、先月の北京の訪問で。そして、このまま放っておくと、中国が仲介する、それへの期待感みたいなものが高まってしまう。ただ中国は今、お話にあったように、全くロシアの撤退ということを和平の前提にしていません。

そうすると第1に、やはり自分の方から、和平は領土からロシアの撤退なしにあり得ないということを、釘を刺すということがあったと思います。ただ、もう1つは、大規模攻勢がどこかで行き詰まってしまう場合に、保険としてのロシアとのチャンネルが何もないというのは、ウクライナも望んでいないと思うんですよね。さらにもっと大きいのは、中国に何らかの形でこの問題に関与させることで、最終的には復興支援を中国から引き出すことを考えている面もあるんじゃないかと思います。

上山

ウクライナの反転攻勢が万が一、上手くいかなかった場合、それから、戦争後のことも視野に入れて、中国にアプローチじゃないかとかいうことですね。

秋田

はい。

■どう見るか!?習近平氏との会談の“意味”

菅原

では、中国とウクライナの首脳会談についての反応を見ていきたいと思います。まずロシアですけれども外務省のザハロワ報道官がこう話しています。

「我々は、中国側が交渉プロセスの確立に向けて、努力する用意があることを認識している。中国外務省が2月24日に示した立場」、これは中国が仲介役に名乗りを上げたときのことを意味しているわけですが、その「中国の立場と我々ロシアのアプローチは広く一致している」と述べました。

では、アメリカはどんな反応を見せているのか。アメリカ国家安全保障会議のカービー戦略広報調整官は、今回の電話会談を歓迎するとしつつも、それが「有意義な和平の提案などにつながるかは、今はまだわからない」と話しました。渡部さん、実際に中国が仲介役となって停戦交渉に結びつくのかどうか、この辺りはどう見ていますか。

渡部

いや、私は非常に厳しい見方をしています。中国が効果的な仲介者役を果たせるとはとても思えません。なぜならば、今まで中国はずっとロシアに軸足を置いて、ロシアを優先させる、そういう言動をやってきました。そういう立場でウクライナに対して、ゼレンスキー大統領が望むような方向での仲介というのはとても無理だろうと思います。いずれにしろ、交渉とか停戦とか、そういうことを考える場合に、ゼレンスキー大統領の立場からすれば、戦場における成果というものをまず出してから、そういうことはやりましょうと。

ですから、春から夏の大攻勢、これをやはり勝利させなければ、絶対だめだというのは大前提だと思います。それで、今回の電話会談というのは、ゼレンスキー大統領にとっては大人の対応をしたんだろうなというふうに私は思います。このような状況になったときにゼレンスキー大統領として、習近平国家主席と話をする意味というのは、1つだけだと私は思います。軍事的な支援を中国はロシアにしてはだめだよと、これを言い続けることだと私は思っています。

菅原

そういった面も含まれているということですね。駒木さんは、一方ロシアは、停戦交渉についてはどう考えているのか、いかがでしょうか。

駒木

今のところは全く応じる考えはないですね。それは中国が言おうと、そして3月31日にベラルーシのルカシェンコ大統領も即時停戦を年次教書演説の中で訴えたのですけれども、ロシア側は、今は我々の作戦を継続しているということで、ロシアの一番の味方であるベラルーシ、あるいは中国の呼びかけにも全く耳を傾けない。

少なくとも併合を一方的に主張した4州の領有については、議論の対象にしないというのがプーチン大統領の立場ですので、今はお互いの探り合いであって、応じる気配というのは一向にないということですね。

上山

秋田さん、首脳会談でセレンスキー大統領が「領土を妥協する平和というのはあり得ないんだ」と改めて言及しました。なぜ改めてゼレンスキー大統領が言及したのか、この辺りは、どのようにご覧になっていますか。

秋田

今、駒木さんと渡部さんからも話がありましたように、安易な停戦に応じるつもりは全くないと思うんですよね。ただ同時に、私がちょっと注目するのは「平和」という言葉を使っていますね。「領土を妥協する停戦はありえない」というのと、「領土を妥協する平和はあり得ない」というのは、意味合いが違うと思うんですよね。ですから、どこかで停戦すると思うんですよ。

ウクライナから見れば、大攻勢をやってどこかで停戦すると思うんですね。クリミアを全部取り返すことができれば一気にやるかもしれませんが、難しければどこかで停戦する。ただ、その時点では領土が妥協している状態ですから、逆に言えば全部取り返すまで和平は来ないと言うような前提で話していると。大攻勢が上手くいったとしても、それはノルマンディー上陸作戦で第2次世界大戦が終わったような形で終わるのではなくて、おそらく途中の第1フェーズか第2フェーズの戦いがとりあえず終わって、本当の和平というのはクリミアが帰ってくるまで実現しないと見ておいた方がいいのではないかと思います。

■秋田氏の米国分析①対ロシア“不退転の決意”

上山

ウクライナとロシアの戦い、出口がいまだ見えない中で、アメリカは不退転の決意でルビコン川を渡ったと秋田さんは指摘をしています。どういうことなのか。

きょうの番組アンカーの日本経済新聞の秋田さんは、アメリカのバイデン大統領は、「不退転の決意でロシアに向き合う覚悟を固めた」。一方で実は「その覚悟を揺るがしかねない事態も想定しておく必要」もあると、この2点を指摘しているんです。

バイデン大統領は4月25日、来年2024年の大統領選で再選を目指すという意向を正式に表明しました。その直前、4月19日には3 億2500万ドル、約440億円のウクライナに対する軍事支援を発表しています。今回の支援は、主に高機動ロケット砲システム「ハイマース」用の追加の弾薬、そのほか砲弾や対戦車地雷など、これは現在の戦況にとって不可欠な支援内容となっているということです。今回の支援も含めますと、去年2月の侵攻開始以降、アメリカによる軍事支援の合計額が354億ドル、日本円にしますと約4 兆8000億円にも上っています。

このように、軍事支援の金額に関しては、西側諸国の中では秋田さん、アメリカは群を抜いているわけですけれども、そういった中でバイデン大統領が「不退転の決意」でロシアに向き合う覚悟を固めたというのは、どういった分析からなんでしょうか。

秋田

これは私の考えというよりも、取材や色々な言動を見ていて、そうだというふうに強く感じています。その最大の転換点は、2月20日にバイデン大統領が自らウクライナの首都キーウに行ったことが大きいと思います。

やはり、単なる訪問ではなくて、アメリカの大統領が米軍の援護が期待できない戦場の国に入るというのは、おそらく史上初めてのことで、そこまでやって、そしてウクライナを支援すると約束して、もしもウクライナがそれで負けてしまったら、これは相当、政治的には敗北というリスクをバイデン大統領は承知した上で出かけていったと。

上山

言い過ぎかもしれませんが、アメリカの敗北と見られる可能性もあるんでしょうか。

秋田

アメリカが全面的に支援すると言って負けてしまったら、政治的、外交的にはアメリカの敗北というふうに見られてもおかしくないということを承知の上で出かけていって支援をしているというところが大きいと思います。

上山

秋田さんは、ウクライナ支援がメインテーマだった2月のドイツのミュンヘン安全保障会議にも参加しました。そこでもアメリカの覚悟が表れていた、感じ取ったということなんでしょうか。

秋田

ミュンヘン安全保障会議、ここに世界中の要人が、欧米などを中心に首脳、閣僚も来るんですね。私、そこに行く前は、バイデン大統領がキーウに行くと知りませんでしたし、アメリカの共和党の下院議員の中にはウクライナ支援増額に反対する声もあったので、アメリカの決意を正直、疑って出かけていきました。ところが、ミュンヘン会議で見たのは、まずアメリカの50人程度の民主党と共和党の議員が来ていまして、特に共和党の指導部、例えばマコネル上院院内総務などが演説をして、完全にウクライナを勝つまで支援するとコミットしていました。、補佐官なんかも自分たちはこのメッセージをここで発信しに来たんだということを言っていましたので。もちろんここに出ているブリンケン国務長官も同じメッセージを発信していました。

上山

ハリス副大統領も足を運んだと。

秋田

ハリス副大統領は、ロシアは人道の罪を犯していると批判しました。米政府として精査した結果、人道の罪を犯していると認定したというんですね。だとすると、もうアメリカはプーチン大統領が領土を返しても、全部返還してもロシアを許さない認めないということを言ったに等しい。その直後にバイデン大統領がキーウに行ったわけですから、これは本当にある意味で、ルビコン川を渡ったんだと私は認識を改めさせられた。

上山

それこそ、この会議にいたのは、ワシントンの本当に主要な人物が集まっていたということですよね。

秋田

特に議員団50人程度がそっくりミュンヘンに行くというのは、過去最大規模での参加だったということです。

上山

民主・共和党が一枚岩で支援をしていくんだ、そういったことを感じられたということですね。

秋田

そうですね。その理由は単純に言えば、ロシアによる侵略、そして人道の罪と認定したということですが、これは法的に国務省が、ロシアがやっていることを精査した結果、人道に対する罪であると、要するに虐殺とか民間人への攻撃とか、人道に著しく反することをやっていると断定したわけです。さらに理屈というよりは、これは許せないというような雰囲気がやはりミュンヘンに来ていた議員やもしくは閣僚、そして副大統領からひしひしと感じていましたので、ある意味ではもう本当に怒っているという感情の強さというものがあると思います。

■秋田氏の米国分析②覚悟を揺るがす事態とは

上山

そういった怒り、覚悟というのを感じたということなんですが、ただ一方で秋田さん、こちらにある「その覚悟を揺るがしかねない事態も想定しておく必要」があるというふうにご指摘なさっていますけども、この点についてはどういう事態なんでしょうか。

秋田

それは3月下旬にワシントンに出張しまして、色んな専門家や当局者、議会関係者、20数人ぐらいと1週間ちょっと、会う機会がありました。そこでまず確認したのは、今、言っているように、バイデン政権と米議会主流派はルビコン川を渡った。これは、きょうこの時点では間違いないなと感じました。

ただ、同時にウクライナが大攻勢をやって、ウクライナが成果を上げてくれればいいんですけれども、理想は少なくとも年末ぐらいまでには成果を上げて、ウクライナがある程度勝利したと言える形で、ひと段落の停戦をするのが理想というふうに、ワシントンは受け止めていると思いました。

上山

どうして年末までとか、そういった時間軸みたいなのが出てくるんでしょうか。

秋田

これを使って説明するのが良いと思います。まず大前提は今年の11月から米大統領選が本格化する。来年11月が大統領選の投票日ですから、選挙モードになるわけですね。その前に特にトランプ前大統領や、その支持者はウクライナに支援をこれ以上やることに反対していますから、この問題をある意味で、ひと段落したいというのがバイデン政権内にもあると思います。

その上でアメリカがどこまでどう支援するかというのは、「シナリオA」「B」「C」があり得ると思うんですね。「シナリオA」は、ウクライナの大攻勢の結果次第ということなんですが、一番いい結果でウクライナが大攻勢を成功させた場合は、おそらくクリミアの手前ぐらいまで、マックスで取り返す勢いで行くというシナリオです。その場合はもう大統領選が始まっちゃいますけど、成果を上げているということで、来年にかけてもこの勢いで支援していこうという勢いがワシントンでは保たれるのではないかと思います。反対できないと思うんですね。成果を上げているのに、もう支援を緩めちゃうのというふうにはならないと思うんですね。

「シナリオB」は年末までに、ウクライナがロシア併合4州の5 割以上くらいを取り返すけれども、それ以上はあまり思う成果が出ないというようなパターンです。この場合は、やはりこれ以上、ここまで支援をしているけれども、なかなか成果が出なかったねということで、多分、大統領や共和党指導部はそれでも支援し続けたいと思うんですけれども、アメリカの世論が、とりあえずこれで様子を見たいと考えるでしょう。、支援が息切れするというようなことが出てくるとすれば、選挙モードなので、ワシントンでも年内の停戦、ここで1つ停戦したらいいんじゃないのという声が出かねないというふうに思います。

「シナリオC」はもっと悪いケースで、大攻勢をかけたけれども、全然思うようにいかない。こういうことははっきり言って望みたくはないんですけれども、理論上、そういうことになった場合は、なおのこと支援をする意欲と勢いというものが、アメリカの世論を中心に鈍ってしまう。そうすると、議会指導部とホワイトハウスもどこまで大盤振る舞いを続けることができるのかということが非常に難しくなってくると。こういう時間軸があると思います。

上山

戦況によってシナリオがいくつかあるんじゃないかというご指摘なんですが、どのシナリオになる可能性が高いのか。この辺りはもう本当にひとえに戦況次第ってことなんですかね。

■ウクライナ反撃の勝算は…

秋田

希望はもちろん「シナリオA」ですよね。でも、むしろ渡部さんいかがですか。「シナリオA」「B」「C」で見た場合、ずばり、どれが一番可能性が高いと思いますか。

渡部

私もプランAを希望しますよね。ですけれども、やはり相対戦闘力から見て、なかなか厳しいものがあるというふうに思います。

上山

渡部さんから見ると、ウクライナの大攻勢の成功率というのは、どういうふうにお考えでしょうか。

渡部

私がいつも言っているのは、50%以上はあるということを言っています。

上山

50%以上というところで、このどのシナリオになってくるのか。

秋田

なので、ワシントンの識者、安全保障、軍事専門家の識者の間の相場観は、「シナリオA」は難しいだろうと。「シナリオA」を望むのはちょっと期待しすぎで、「Aマイナス」とか「Bプラス」がベスト。

上山

「シナリオA」と「B」の間くらい。

秋田

という相場観なのかなという印象なんですけれども、こればかりは本当にまだ始まっていませんので。

■「ロシアはトランプ氏“復権”に賭けている」

菅原

アメリカでは、来年11月に大統領選挙が行われますが、再びこの人物の動向が注目されているんですね。トランプ前大統領です。共和党の候補者指名争いに名乗りを上げていますが、トランプ氏はテレビのインタビューでウクライナ支援に消極的な姿勢を改めて示した上で、「バイデン政権はものすごく肩入れしているが、勝てない戦争だったらどうするのか」とバイデン政権を批判したんです。

注目はトランプ前大統領の支持率です。トランプ前大統領は4月30日に不倫口止め疑惑で起訴されたんですが、むしろ、その起訴をきっかけに支持率が跳ね上がったんです。大統領選の共和党候補者としての支持率は起訴後に10ポイント以上、上昇しまして、58%となったんです。2位のデサンティス候補を大きく上回っているんです。

さらに、アメリカ国内の世論調査にも変化が出ています。アメリカの民間調査機関が1月に行った世論調査で、アメリカがウクライナを過剰に支援していると回答した人が26%だったということで、去年3月の7% から 4倍ほど増えているということなんです。そして、アメリカからウクライナへの支援が足りていないと回答した人が20%ということで、去年3月の42%から半減しているということなんですね。駒木さん、こうしたアメリカ世論の国内の変化ですけれども、ロシアとしてはこれをどう見ているんでしょうか。

駒木

ロシアはやはり、トランプ氏の復権を心待ちにしている。そこに賭けていると言ってもいい状況だと思いますね。秋田さんがおっしゃったように、今は共和党もウクライナ支援でまとまっているけれども、おそらくトランプ大統領がまた戻ってきたら景色は一変するだろうと、ロシアは思っていると思います。

実際にトランプ氏は、プーチン大統領のことを賢いと言ったり、あるいは天才だと言ったり、これは侵攻の直前ですけれども、そういう姿勢ですよね。そして2018年にプーチン大統領とトランプ氏は会談したときに、2016年の選挙介入疑惑についてトランプ氏は情報機関から、これはロシアがやっているという情報を得ているにもかかわらず、プーチン大統領は否定していたということで、(プーチン大統領の主張に)耳を傾ける素振りをした。

あるいは1番大きいのは、NATOの結束にひびを入れる。つまり、トランプ大統領にとってみると、先ほどアメリカで問題になっているような人道上の罪とか、そういうものは全く関係ないわけですよね。どれだけ費用をNATOにかけていて、それだけの価値があるのか。つまり、価値観を守るのではなしに、そこの損得勘定で物を見る。そういう大統領が出てくると、ロシアとしては付け入る隙があるということだと思います。

菅原

都合がいいということですね。

■反転攻勢“成功”で想定すべき懸念も

上山

きょうの番組アンカー、日本経済新聞の秋田さんですが、これまでの取材をもとに「ウクライナの大規模な反転攻勢、上手くいけばいくほど想定しておかなければならない懸念」として挙げているのがこちらです。「『ロシアの核使用』の懸念」です。

ロシアからは、連日のように核に関する報道が出てきています。4月25日、前大統領のメドベージェフ国家安全保障会議副議長は、「核戦争の予兆はあるだけでなく大きくなっている」「ロシアの敵は、ロシアが核兵器を使用する可能性を過小評価してはならない」と、こういった発言が出てきています。

さらに4月26日、ロシア国防省はロシア国内で、核弾頭を搭載することが可能な短距離弾道ミサイル「イスカンデル」の操作訓練を受けるベラルーシ軍の様子を公開しました。

ロシアの核については、これまでこの番組でも、あくまで威嚇に過ぎないのではないかという議論もあるとお伝えしてきたんですけれども、秋田さんは実際に色々な方に取材をして、欧米で懸念する声も多く聞かれたと伺いました。どういった内容だったのでしょうか。

秋田

まず欧米の当局者、軍の幹部が自戒をしているのは、気をつけなきゃいけないと思っているのは、ロシアによる核の脅しに過剰反応したり、これを深刻に受け止めれば受け止めるほど、ロシアの思うつぼになるということは十分理解していると思います。

上山

そこが前提ですね。

秋田

ただ、その上で、もしも大攻勢が上手くいって、クリミアの手前ぐらいまで、もしくは一旦停戦するかもしれないけれども、最終的にウクライナが攻め込み、攻勢をかけたときにロシア側が通常戦力ではもう守り切れないというような状況になった場合。もしくは、クリミアやもしくは4州の併合した部分を通常戦力では守りきれないと思った時に、ロシアが威嚇として小型核を爆発させたり、使用するということについては、やはり深刻な懸念が米欧にあるのは事実だと思います。

例えば、ミュンヘン安全保障会議では、メインの会議と別に、色々なオフレコの分科会があるんですが、私が出た1つは、核のドミノに関する分科会というのがありまして、10数人ぐらいで、米欧の関係者らが議論していました。そこには結構、米欧の軍備管理の当局者も来ていました。

そこでそれらの議論などをまとめれば、可能性は高くはないけれども、万が一ロシアが核を使えば広島、長崎以来の核のタブーが崩壊する。そのときに、NATOは2つの選択を迫られる。1つは徹底的にロシアに報復をして、ウクライナの中と黒海のロシア軍を殲滅させて、もう二度と核を使っちゃいけないという核のタブーを再生する道を選ぶ。か、もしくは、そこでそうなれば欧州大戦のリスクがありますから、それを避けてロシアに大きな報復をしないを懲罰しないと。その場合は逆に北朝鮮や中国が、核は使っても大丈夫なんだねと、小型核だったらいいんだねというふうになりかねません。そこで、なってしまうということで、大勢は、米欧の議論では、ロシアが核を使ったら通常兵器が中心だと思いますが、徹底的に報復するという意見が多い。でも、それは本当に繰り返しになりますが、欧州大戦の一歩手前までリスクが高まるわけですね、というような議論がされているということです。

■「デモストレーション的な核使用も研究」

上山

駒木さんはどうでしょうか。ウクライナの大規模攻勢が上手くいけばいくほど、リスクとして、ロシアが核を使用する可能性が高まるんじゃないかという懸念。これについては、どのように評価していますか。

駒木

リスクとしては高まるんだろうと思います。というのも、この番組の中でも紹介があったと思いますけれども、ロシア軍の中で検討されている1つのシナリオとして、決定的に負けないために、自分たちの都合がいい条件での停戦を求めるために、デモンストレーション的に核を使うという使い方自体は研究されているということですよね。

これまでずっと、先ほどのメドベージェフ前大統領の発言なんか典型ですけれども、基本的には単なる威嚇であって、こけおどしであって、ブラフであるんですけれども、それに真実味を持たせるためにベラルーシへ核を配備しようとしたりするわけです。

そうすると、仮にベラルーシに使わせた場合に報復が限定的になるかもしれないということは、本当にそれを見込んで、ロシアは使っちゃうんじゃないかというふうに相手に思わせるということで、そういう心理戦ではあるんですけれども、そうやって真実味を持たせることによる緊張の高まりというのは、やはり無視できない形で高まってきていると思いますね。

上山

渡部さんはどのように捉えていらっしゃいますか。

渡部

まず、ゼレンスキー大統領とウクライナの国民は、ロシアの核使用を恐れていません。だから、今回の春から夏の大攻勢の大勝利を目指しているわけです。だから西側諸国の指導者は、プーチンの核使用に関する脅しに負けてはだめです。徹底的にウクライナを支援すべきだというのが私の意見です。

上山

さらに秋田さんはロシアに関しては、核が使われないということがあったとしても、危惧しておかなければいけない重大なリスクもあるとお話しになっているんですが、それはどういうことなんでしょうか。

秋田

一言で言えば、ロシアが巨大な北朝鮮のようになっていくと。要するに核を持って、孤立して、国力がどんどん衰退していく。そういう国というのは、欧州で、もしくは他の国と安定的に共存できるのかどうかと言えば、恨みから復讐をしようとしたりとか、さらには通常戦力がかなり一旦は消耗しますから、その代わりにサイバー攻撃とか偽情報とか、そういった攪乱をし続けるという意味で、欧州に恒久的に準戦時状態のような緊張をもたらすのではないかという見方があると思いますし、そのリスクは私もあると思います。

上山

ロシアの国力が落ちることに対しても、また警戒が必要だということのようですね。

秋田

そうです。

上山

ウクライナの大規模な反転攻勢、目前に迫っているとされています。まず渡部さんは、戦況も含めて、今後はどんな点に注目されているでしょうか。

渡部

これから春から夏にかけての大攻勢は、ロシア、ウクライナ戦争の帰趨を決定する最も重要な戦いになると思います。プーチン大統領のロシアに勝利させてはいけない。そのためには、西側諸国はゼレンスキー大統領、ウクライナが望む兵器、弾薬、これを徹底的に供給し続けることだと思います。この戦いは、ウクライナ軍の大勝利で終わらせるべきだと思います。

上山

現状では十分だとお考えですか。

渡部

十分じゃない。明らかに十分じゃないです。

上山

駒木さんはどんな点に注目されているでしょうか。

駒木

ウクライナのレズニコフ国防大臣が4月27日の報道ですけれども、非常に興味深いことを言っていて、この戦争はマラソンであると。短距離走ではないと。したがって、いつ終結するかということを言うことはできないんだと。戦況で言うと、例えば今回の大攻勢でクリミア半島まで取り戻すということは、ほぼ不可能だと思いますね。さらに言えば去年の2月24日の開戦時までのラインまで押し戻すということも極めて難しいと思いますね。

ただし、だからといって失敗とは言えないということですし、さらに言うと、仮にそういう日がいつかやってきたとしても、例えばロシアがウクライナという国を言いなりにしなくちゃいけない、あるいはそのためには武力を使ってもいいんだ、あるいは領土を分捕ってもいいんだと、そういう考え方をしている限り、この戦争は終わらないわけですね、仮にロシア軍が撤退したとしても、我々も一喜一憂というか、そういうことで姿勢を左右するのではなくて、大きな世界的な秩序と安定を取り戻すと、その取り組みというのをもっと大きな視野で考えなきゃいけないと思います。

上山

秋田さんはいかがでしょうか。

秋田

前回、この番組に出させていただいたときも強調したんですが、この戦況を一生懸命分析すると、ついつい戦況戦争の戦闘の分析という方に、それは大事なんですけども、そのほうにのめり込んでいきがちです。くわけですが、しかし、やっぱり忘れちゃいけないのは。これは喧嘩両成敗の戦争じゃなくて、全部ウクライナの領土内でロシアが侵略行為を行っている結果、生じていることだということを、毎回毎回、肝に銘じる必要がありますね。

これはもう単なる戦争、戦闘じゃなくて、一方的にロシアが侵略をしている。その上で大事なことは、私は今回の戦前、欧州の戦争が最終的にアジアにも広がって、第2次世界大戦になってしまったという意味では、ウクライナの教訓を台湾海峡やアジアにどう捉えるかという視点も大事だと思います。

 
(2023年4月30日放送)