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ロシア財政赤字が急拡大 原油価格上限の制裁で打撃
■2か月連続で大幅赤字「年末から急激に悪化」
上山
ロシアの財政状況にも異変が起きているのか、見ていきたいと思います。「ロシアの財政赤字が急拡大 戦況への影響は?カギ握る中国」ということで、戦況にも大きな影響を与えるロシア経済の最新の状況を分析していきます。
まずはこちら、ロシアの財政収支をグラフにしました。ゼロのラインを上回りますと黒字、下回りますと財政上は赤字となりますが、去年1月からのグラフということになります。点線のところが2022年2月、向かって右側がウクライナ侵攻開始以降ですけれども、ロシアの財政収支は黒字と赤字を行き来する状況が続いていました。しかし、2022年の年末にドンと落ち込んでいる状況がわかります。去年12月の財政収支はマイナス3 兆8,631 億ルーブル、日本円にしますと約7兆円の赤字が一カ月で出ているということなんです。
ただロシアでは、年末に歳出がかさんで収支が悪化するということが多いそうです。それでも去年12月に関しては、やはり過去と比べても異例と言える巨額の赤字になりました。さらにその後、この黄色のエリアの2023年に入ってからも、1月の収支がマイナス1 兆7,610 億ルーブル。日本円で3 兆1,874億円もの赤字と、2カ月連続で大きな赤字を出しているということです。1月に関しては去年の12月と比べますと、赤字幅は縮小しているようにも見えますが、深刻な水準で、今年1月の赤字額だけで、2022年1年間のトータルの赤字額の5 割以上に上りました。木内さん、ロシアの財政としては去年12月そして今年1月と続けて、大幅な赤字となっているいますが、どのようにご覧になっていますか。
木内
ロシアの統計は、信頼性が概して低いと思います。貿易統計にも発表していない数字もあるんです。例えばGDP統計は、昨年はマイナス2とかマイナス2.5とかということですが、実際はもっとマイナス幅が大きいという推定もあります。その中で財政がこれだけ悪い数字が出ているということは、実際、悪いんだろうなとは思います。わかりにくいのは、財産の数字はすごく季節性があるので、本当は季節調整値みたいな、季節性をなくした数字で見るのがいいんですけども、ロシアは多分そういう数字を出していないので、こういうところから判断しなくてはいけないのですが、12月はおそらくどこの国でも、例えば社会保障関連の支出が増えるので、財政収支は悪化しやすい月だと。
一方で1月はその反動もあって普通は戻るのかなと思うんですけども、去年、1年前でもわずかにプラスですね。そこが今年は大幅にマイナスになっているということで、季節性を取り除いたトレンドとして見たときに、年末ぐらいから急激に悪化し始めている可能性というのはやっぱりあるように思います。それは歳出がトレンドとして増えていく一方で、歳入が減ってしまうというのが多分、背景にあるんだと思います。
■ロシア産原油の上限価格「予想外の打撃」
上山
季節性のサイクルを取り除いたとしても、かなりロシアの財政収支にはダメージが来ているんじゃないかというお話ですが、では、どうしてここまで大幅な赤字が続いているのかという疑問が浮かび上がってきます。今年1月の財政収支を歳出と歳入に分けて見ると、歳出が3 兆1,170 億ルーブル、日本円で約5 兆6,400億円で、前年同期比で59%も増えています。つまり出費がかさんでいる、去年の同じ時期に比べると1.6倍に増えていることになります。
一方で歳入は1 兆3,560 億ルーブル、日本円にしますと約2 兆4,500億円。前年同期比で35%も減っています。つまり、収入は減っているのに出費はかさんでいるとい状況で、赤字が膨らんでいるわけです。では、なぜこれほどまでに歳出が増えたのか、これについてロシア財務省は詳細は公表はしていません。戦費が増大したとみらてています。一方で歳入が減った理由について、ロシア財務省は「原油価格の低下と天然ガスの輸出減が影響した」と説明しています。
ロシアは、石油と天然ガスの輸出による収入がロシアの歳入の4 割以上を占めていて、ロシアにとって非常に重要な収入源です。ところが、月ごとに、ロシアの石油、天然ガスからの収入の推移を見てみますと、今年1月は去年12月に比べて半分近くに急減していることが分かります。木内さん、今年に入ってから急激にロシアの石油・ガスからの収入が減少している現状、これはどのように分析していらっしゃいますか。
木内
予想外だったんですけれども、と言うのは、昨年、ほぼ1年を通じて原油価格が比較的高くて、これがロシア政府の歳入を予想外に助けてきたんです。ところが、年末あたりからだいぶ状況が変わってきた可能性があるように思います。特に1月にかけて急激に歳入が減っているのは、おそらく原油価格の下落の影響が大きいと思いますし、そのきっかけになったのは、12月5日に先進国が発表したロシア産原油の輸出価格の上限設定が思いのほか効果があったと、これが一番だと思います。
それに加えて、おそらくEU自体が、原油のパイプラインの一部は除きますけれども、ロシアからの原油の輸入をほとんど止めてしまったとか、ガスの調達も大幅に減ってしまった。しかもEU全体として、予想外の暖冬でエネルギー不足がそんなに深刻にならないということで、世界的にも実は天然ガスの価格は大幅に下がっているのですが、そういうところがロシアのエネルギーを輸出することから得られる政府の歳入を予想外に減らしているということが、年末から年始にかけて起こっているんじゃないかなと思います。
上山
木内さんは、西側のかけた制裁がロシアの石油ガスの収入減少に結び付いていると指摘も指摘していますが、東野さんは、ロシア財政の急激な悪化についてはどうご覧になっていますか。
東野
前が良すぎた部分もあるんだろうと思うんですよね。というのは、2022年全体の経常収支を見てみると、黒字になっているんです、貿易に関してですね。やはりエネルギーの価格が非常に上がったために、制裁をかけて、かえって儲かってしまったっていう、そういった現象が出てきているんですけども、どんどん追加的に措置が加えられていて、例えば石油の上限価格の設定などは、木内さんがおっしゃられたように一つの効果にもなったと思いますし、原油輸入の原則禁止というのもあると思うんですよね。
ロシア経済は、今まで非常にエネルギーに頼りながら生かされてきた部分があって、ロシアとしては、このようにバンと跳ね上がった時には、とにかく収入は上がるわけですけれども、下がった場合にはやっぱりひとたまりもないわけですよね。ここにきてロシアの経済の脆弱性が明るみに出てきたのではないかと私は考えています。
■ロシア産原油下落「価格の開きが異常」
上山
去年末から今年1月にかけて、ロシアの急激な財政の悪化が明らかになってきました。その要因としては石油の輸出による収入が大幅に減少したことが挙げられます。こちらは去年12月にも一部お見せしたグラフなんですけれども、この赤のラインがニューヨークで取引されているWTI原油の価格推移です。そして、この青のラインがロシア産のウラル原油の価格推移です。2022年2月24日にロシアによるウクライナ侵攻が始まりましたが、その後ウラル原油、そしてWTI原油も一時期1バレル=110ドルを超す高値をつけました。
ところが、夏以降徐々に価格は下がっていったわけです。そして、去年12月5日、西側諸国がロシア産原油の輸出価格に上限を設定しました。その後の価格、ニューヨークで取引されるWTI原油の赤のラインは、ほぼ価格を維持しているように見えます。一方で、この青のライン、ロシア産のウラル原油は、大きく値を下げています。双方の価格の差が大きく広がっています。このグラフの数値では、価格差は制裁前が19.36ドル、制裁後には25.7ドルにまで広がりました。木内さん、去年12月以降ロシア産原油が突出して大きく価格が下がってしまっている。これがやはり制裁の影響ということになるのですか。
木内
そうだと思いますね。そこに一種の段差みたいなことが起こっていて、WTIとウラル産原油のスプレッドが一気に開くということが年末年始をかけて起こっています。もともとWTI原油は比較的質の高い原油で、ウラル産原油は比較的質が低いので、変動幅が安定しているわけじゃないんですが、やはりウラル産原油は低いのが普通なんです。それにしても、やはり年明け後の開き方は異常なので、きっかけとしては、ロシア産の原油への上限価格設定という制裁措置の影響が思いのほか出たということだと思いますね。
一時期ウラル産原油は40ドル台まで、46ドル台まで下がったという指摘もありました。このグラフの数字は終値ベースだと思いますが、日々の変動の中でそこまで下がったとか、ウラル産原油も実は、色々な種類があるので、一番格の低いところだとそこまで、つまり採算ラインに結構、近づいてくるところまで、一瞬ですけれども下がったということが起こったと思います。
■“買い叩かれた”ロシア産原油「価格交渉力が低下」
上山
ロシア産原油の採算ラインが40ドル台と言われている中で、それに近いような価格もあったというお話ですが、この予想外のダメージをロシアに与えたという去年12月の制裁措置、その内容を詳しく見てみます。
菅原
まずロシア産原油の輸出については去年12月、G7、EU、オーストラリアが上限価格を1バレル60ドルとしました。またEU域内では海路を通じた輸入も禁止しています。さらに今月5日、ロシア産の石油製品に対してもG7が上限価格を設定しています。ディーゼルやガソリンなどが1バレル=100ドルに上限が設定されたということです。
こうした原油などの輸出の上限価格を守らせる仕組みというのがこちらです。以前、番組でもお伝えしたのですが、タンカーで原油を輸送するときには、油漏れの事故などを起こした場合に備えまして、条約で海上保険への加入が義務づけられているんです。ですから、この保険に入らないと輸送はできないんです。こうした保険というのは9 割をG7が拠点とする金融会社が担っていまして、制裁の発動で、1バレル=60ドルを超す取引には契約に応じなくなりました。
そのため、これまでロシアの制裁に参加してこなかった中国、それからインドも、この保険の仕組みを使って制裁に巻き込むことができたのが大きなポイントとなっているのです。そして木内さんは、去年12月の時点で、世界経済の減速から原油価格全体が下がると予測していました。しかし1バレル=60ドルという上限価格の設定に関しては、制裁発動の段階で既に価格が60ドルに近づいていましたから、その影響は限られるとお話しされていたんです。では木内さん、なぜ思いのほか制裁の効果が出ているんでしょうか。
木内
これはちょっと予想外でしたね。今ごろはもっと景気が悪くなって、WTI原油の価格が下がっているんじゃないかなと思ったのですが、例えば中国でゼロコロナ政策を撤回したことによって中国の原油輸入が増えるんじゃないかという期待もあって、WTI原油など国際的な他の価格の原油価格は今、比較的安定しているのですけども、ウラル産原油だけ大幅に下がっている。これは価格設定が昨年の12月5日の段階で60ドルということで、上限と市場の価格は比較的近かったので、いわゆる保険を無効にするようなものがあまり適用されず、今まで通りロシアから色んな国に輸出ができるのではないか、ということは、価格にもあまり影響はないんじゃないかと思ったのですが、実際はそうではなくて、大幅な下落になったということなんですね。
これは、どういうことかと言うと、制裁措置、原油の輸入の制裁は先進国だけだったものが、この上限価格設定によって、ロシアから原油を輸入する国すべてに制裁が広がったということにもなるわけですね。ですから、そこに抵触してしまった時のダメージみたいなもの、こういうものも考えたと。無理にロシアから輸入する必要もないだろうということで、これをきっかけに多くの国がロシア産原油の輸入を控えたということなんじゃないかと思います。あるいは、輸入をした時に価格が上がって上限価格を超えてしまって、保険が失効してしまうようなリスクもあるかもしれないということで、無理してロシアから買う必要もないなと。そうするとロシアは、輸出先が減ってしまい困るので、今度は昨年1年間、大幅に輸出先として増やしたインド、中国に「もっと買ってくれ」と。
ただインド、中国としても、「買うのはいいけれども、もっと値段を下げろ」という、一種、買い叩かれたということだと思うんですね。他に買ってくる人がいないから、インド、中国に話を持ち込んで「買ってくれ」と言ったら、「買うのはいいけど、もっと値引きせよ」と買い叩かれて、ロシアとしては、価格の競争力、交渉力がかなり落ちてしまった。インド、中国は、価格の交渉力が非常に高まったということで、これだけの大幅なウラル産原油の価格の下落が起こったんじゃないかなと思います。いずれにしても予想外ですね。
上山
ロシアの原油の価格交渉力が低下したということで、つまり、ロシア産の原油の商品価値が相対的に下がってしまったと言えるということですか。
木内
そうですね。多くの国にとってリスクが高まったので、インド、中国もリスクは出てきたわけですね。無理に買うと、途中で、もしかしたら保険が適用されなくなるかもしれないと。そのリスクに見合って何かお金を、その分メリットをくれということになると、価格を安くすることなので。ウラル産原油は、いわゆるリスクのある商品になってしまって、その裏返しとして、値段が買う側からすると安くなっているという調整が働いているんだと思います。
上山
ロシア側としては値引きをしないと買ってくれないようになってきているということですね。実はプーチン大統領も、ロシア産原油の値引きについては気にしているようなんです。1月11日、プーチン大統領は、副首相から「石油の大幅な値引きが基本的問題になる」という報告を受け、「予算にいかなる問題も生じないよう、この値引きに対応しなければならない」と指示を出したとされています。
東野さん、プーチン大統領としても、原油価格の下落、それから値引きをしなきゃいけない状況に危機感を抱いているということなのか、どのようにご覧になっていますか。
東野
このプーチン発言は、原油の値引きをしないで輸出をしなさいという指示なんですけれども、これは、まだロシアが価格交渉力を残していた時の発想を、そのまま引きずっていると言わざるを得ないと思うんですよね。
今、木内さんからもご説明があった通り、そういった価格交渉力はとうに失っているわけでして、特に大口顧客である中国やインドが足元を見てどんどん低い価格での交渉を持ってきたときに、ロシアはそれを拒否するような力はもうないわけですよね。特にインド、中国は、量を買うから価格の面ではということを言ってきたら、もうおそらく、それは逆らえないんだろうと思います。
上山
渡部さんはどうでしょうか。制裁の効果が出て、ロシアの財政赤字が急拡大してきたとなると、戦況にはどういった影響があるとお考えですか。
渡部
ウクライナ軍との戦いにおいても、かなりボディーブローのように効いてくると思います。まず戦費の調達が難しくなる可能性があります。例えば第一線においては、食べるものとか着るものとか、あるいは兵器とか、実際に第一線の兵士たちに様々な問題点が出てくる可能性があります。
あるいは、給料が家族に振り込まれない可能性もあります。あるいは、兵器の生産にも影響があると思います。制裁逃れの半導体等を輸入していますが、さらに制裁が厳しくなると、ますます輸入・生産が難しくなる可能性があります。以上のような理由で、ボディーブローのように戦況に影響を及ぼしてくると思います。
■中国“傍観しているわけではない”発言の意図
上山
財政赤字が急拡大しているロシアが関係を強めたいと期待しているのが、中国です。中国の外交のトップ、王毅政治局委員がドイツで開催されているミュンヘン安全保障会議で演説をしました。その中で王毅氏は「中国は危機に関与していないが、ただ傍観しているわけではない」と、和平協議を促す考えを示しました。さらに「対話は放棄されるべきではない」とも主張しました。一方でアメリカは、ハリス副大統領が演説。「ロシアが侵攻に成功すれば、世界の強権国家を勢いづけることになる」「中国はロシアと関係を深めた。ロシア支援の動きは侵攻に報いるだけだ」と警告をしました。渡部さん、中国の外交トップの王毅氏から「ただ傍観しているわけではない」という発言出てきました。これは和平協議を促す考えと見られていますが、中国の動きはどうご覧になっていますか。
渡部
私は王毅さんの発言、「中国は危機に関与していないが、ただ傍観しているわけではない」という発言に対して、もう驚きですよね。確かに外交的には対話は放棄されるべきではない、和平協議をやるべきだという、建前の外交的な言葉を発することはできます。
しかし、今まで中国がやってきたのは、傍観はしてこなかったのですが、ロシアが勝利できるように手助けをやってきた。例えば、制裁回避の半導体あるいは兵器の部品等を供与してきた。まさに中国は、ロシアに勝ってもらいたいという思いで、傍観していなかった。これが本音だろうと思います。だから王毅さんの発言は、ものすごく皮肉な表現で、彼の本音の裏を見ると、そんなに美しい世界ではない。中国に本当に和平を進めるだけの力があるのかと言うと、私はないと思います。
上山
東野さんはどのように見ていますか。
東野
和平協議自体に積極的な評価をするということは間違いないと思います。ただ、今となってはロシア側も、(中国側が)よりロシア側に立って、ロシアに対する支援を行ってほしいと考えていると思うので、仲裁役は期待していないと思いますね。さらにロシア側としては、もう交渉相手はウクライナですらないわけです。アメリカなわけですよね。中国に間に入ってほしいとは思っていませんし、またアメリカとしても、中国と交渉する気なんか、さらさらないと思うんですよね。
なので中国としては、それは重々分かった上で、傍観しているわけではなくて、心配はしていますよということを言いさえすれば、何らかの正しい立場に立つことができるということなんですよね。あと、この後のコメントが実は重要で、「中国としては和平、重要だと思っているけれども、それを邪魔する勢力がいるんだよね」と言っているわけですね。名指しはしませんけれども、おそらくアメリカのことですよね。中国としては、それは進めばいいとは思っていますけども、きっとアメリカがそうはさせませんよねと、ここまでおそらく言いたいんだろうと思うんですよね。
上山
木内さんは中国の発言、中国とロシアの関係も含めて、どのようにご覧になっていますか。
木内
今、話にあった和平については、アメリカとしては、中国がロシアとウクライナを仲介するような形で、和平交渉に出てくることをすごく警戒しているという発言はあります。あるいは、疑わしく思っているということはあります。今、先進国は色んな制裁をしてきて、先ほどお話がありましたけども、原油の輸出上限価格の設定も、思ったより効果があったということではあるんですけども、ただ、ロシア側に対する直接的な制裁というのは、もう手がなくなってきた感じもあるので、やはり残されているところは、中国とロシアの貿易を減らしていくと、輸出入ともにですね。
これが相当な効果、ロシアの打撃になると思いますし、当然、戦争の継続にも影響が出てくると思いますので、そこは次の狙いとしてあるような気がします。一方で中国としては、それを交渉材料として使いたいということで、何かアメリカ側から揺さぶられれば、貿易面で支援してそれを続けるんだみたいに、そういうような駆け引きが続いていて、簡単にはそういう方向に流れがいかない感じです。アメリカと中国側の思惑が常に食い違う形になるんじゃないかなとは思います。
上山
中国に関しては習近平国家主席が今年の春にロシアを訪問する可能性も取り沙汰されています。この可能性について東野さんはどんなご意見をお持ちですか。
東野
王毅政治局委員がモスクワに行くということは確定なんですけれども、習近平国家主席のロシア訪問はこれから決まるということなんですね。今回、王毅政治局委員は露払いといいますか、条件を整えるために行くんだろうと思います。
もし実現するとすればですけれど、非常に抑制的な発言が習近平国家主席から続くのではないかと。懸念を伝えたり、長期化に対して釘を刺すというようなことはあっても、間違っても、昨年2月4日のようにプーチン大統領に対して「上限なき協力」を約束とか、そういった非常に、中国にとって周りの国々から腹を探られるような、そういった協力的なことはあまり出てこないのではないかと思います。
■ロシアの財政悪化と戦争長期化
上山
渡部さんは今後、どのような点に注目していらっしゃいますか。
渡部
この戦争がいつまで続くかが非常に重要なポイントだと思います。今、説明してくれた通り、ロシアの財政は非常に厳しくなり、これから経済制裁の影響がボディーブローのように効いてきます。自国の兵器製造能力もそれほど大したものではない、弾薬も不足している。
こういう状況下でロシアが勝利するシナリオを描くことはできません。一方、ウクライナ軍が攻勢を開始して、どんどん勝ち進むというのも、相対戦闘力比から見て、難しいと思うんですね。ですから、双方ともに決定力はなく、この戦争が今年1年間は確実に続くし、来年も続くのではないかということを懸念しています。
上山
暗澹たる気持ちがしますけど、木内さんはどんなことをお考えですか。
木内
1年経ってロシアの経済金融環境が元に戻ってきた感じがあって、このまま財政赤字の拡大が続けば、ルーブルが再び下がって物価が上がり始めて、加速して、今度は中央銀行が利上げをし始めるということで、去年まさに侵攻直後に起こったようなハイパーインフレのリスクがまた出てきているんじゃないかなと思います。
(2023年2月19日放送)
2023年に入り、ロシアの財政赤字の急拡大が明らかになりました。石油と天然ガスの輸出による収入が激減しています。2023年2月19日『BS朝日 日曜スクープ』はロシアの財政状況と原油価格の推移を特集しました。番組アンカーの野村総研エグゼクティブ・エコノミスト、木内登英氏は、去年12月、アメリカやEUがロシア産原油の輸出価格に上限を設定した制裁が「予想外の打撃になった」と分析。このまま財政赤字が拡大すれば、「ハイパーインフレが起こりかねない」と警告しました。筑波大学の東野篤子教授もロシア経済の脆弱性を指摘し、元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏は戦況に及ぼす影響を分析しました。