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ウクライナ国防次官が訴える“領土奪還”の重要性
■「ロシア占領地で人権侵害…法改正で養子も容易に」
上山
番組独自のインタビューをもとに、こちらのテーマを見ていきたいと思います。「ウクライナ国防次官が語る“領土奪還”が絶対に必要な理由」。
番組では、レオパルト2の提供が決まった直後、11カ月に渡ってロシアとの戦いを牽引してきたウクライナの国防省の中心的な人物、ハンナ・マリャル国防次官にインタビューを行いました。彼女が最も力を入れて語ったのが戦わなければいけない理由でした。
ウクライナのマリャル国防次官。彼女は戦闘が続くウクライナ各地に赴き、その現状を自らの眼で見てきました。
そして、国防次官としてロシアの侵攻に対するウクライナの戦いを世界に伝え続けてきたのです。
そのマリャル国防次官に、戦闘が続くウクライナの現状について直接、話を聞くことが出来ました。彼女が今、世界に訴えたいこと、それは、ドネツク州やザポリージャ州などロシアに占領されている地域の現状についてです。
ハンナ・マリャル国防次官
一時的にロシアに占領された地域とはいえ、そこにはウクライナの国民が、たくさん残っています。そして、私たちが分かっているのは、その地域で人権が侵害されている、ということです。
ハンナ・マリャル国防次官
ウクライナ国民なのにロシアの国籍、ロシアのパスポートなどを無理やり発行して、またビジネスなども全部ロシアの登録にし直そうとしています。
ハンナ・マリャル国防次官
子供たちの幼稚園や学校は、子供たちのためではなく、軍隊のために多くが使われています。さらにロシアは、占領した地域で無理やりロシアの教育をしようとしています。その学校の教科書も全部ロシアの教科書に変わっていて、ロシアに都合の良い歴史などの教育を、子供たちに行っているのです。
さらに去年2月の全面侵攻以降、ロシアがウクライナ国内の占領地域からウクライナ人の子供を連れ去るケースが多数報告されています。ウクライナ側は1万4000人弱の子どもがロシアに連れ去られたとしています。
ハンナ・マリャル国防次官
ロシアはウクライナの領土からロシアに連れて行った子供たちを、すぐに養子にできるように新しい法律を作りました。そのような行為は、現在の社会においてとんでもなく非常識なことです。
ただ歴史の中では、スターリン時代の1930年から40年代、多くの民族が強制移動させられるなど、同じようなことをやっていました。それがまさに今、ウクライナの占領された領土で行われているのです。
■「子ども連れ去り深刻」「現場を取材し思うのは…」
上山
番組で日本時間の金曜日(1月27日)午後11時から行ったインタビューでしたが、マリャル国防次官が最も強調していたのは、ロシアの支配地域で行われている卑劣な人権侵害ということです。支配地域のウクライナの子供たちをロシアへ送ったり、ウクライナの子供をロシア人と養子縁組しやすくするなどを挙げて、「現代では考えられないような人権侵害を行っている」と怒りを露にしていました。
さらに、支配地域で国籍を強制的に変更させるなど、ロシア化を進めているというです。こうしたウクライナ国民に対する卑劣な行為、とても受け入れることはできない、だからこそ、領土を奪還するために闘い続けなければならないんだと、マリャル国防次官は強調していました。
東野さん、ウクライナ側にもかなり犠牲が出ている、停戦に向けて譲歩すべきだという声が、国際社会の中にも折々、あがってきますが、まず目を向けなきゃいけないのは、ロシアが力で奪った地域で、ロシアが何をしているのか。つぶさに正確に知る必要がありそうですね。
東野
おっしゃる通りですね。マリャルさんのインタビューを聞きますと、とてもじゃないですけれども、ロシア側による支配が、ウクライナ人がウクライナ人として生きていくためのアイデンティティーを保ちながら実践されるとは、とても想像できないわけですよね。ウクライナ人はそこがわかっているからこそ、必死の抵抗を繰り広げているわけですよね。今まで指摘された主な論点は、(マリャル氏も含めて)全部指摘されていると思うのですけれども、例えばロシア化、パスポート化と言われる、パスポートの配布による国籍の変更ですね。これはもう過去、ドンバスで8年間続いてきたことが、やはり色んな地域で、南部も含めて行われているんだということです。
それから子供の連れ去りが本当に深刻な問題ですね。特にヘルソンなどはクリミアに近いこともあって、ヘルソンの子供たち、親を失った子供たちや、もともと孤児、そして場合によっては誘拐されてしまった子供たちがクリミアに連れて行かれてしまっているということなんですね。EUなども、こういった子供の連れ去りの問題を本当に重視していて、真相解明のためのネットワークを今、作ろうとしてますが、なかなか占領されてしまっている地域の実態解明自体が難しいわけですね。
上山
番組冒頭で秋田さんがおっしゃっていましたけど、本当にこの地域は、もともとウクライナだということですよね。地図で改めて見てみたいと思うんですけれども、侵攻から11カ月が経ちました。ウクライナが善戦している一方で、南部のヘルソン州、そしてザポリージャ州、さらにはマリウポリ、メリトポリといった地域では、11カ月ロシアの支配が続いています。だから戦って領土を奪還する必要があると、ウクライナのマリャル国防次官は訴えているいますが、改めて秋田さんはどのように受け止められましたか。
秋田
まず、ここまでの状況を見るだけでも、国と国が国境沿いで戦っているわけではなくて、ウクライナが占領されて侵略されて、それを押し返そうとしているわけですから、停戦で合意をしろとか、そういうようなことは外から見ていて言うのは、技術論としてはあり得るのかもしれませんが、そこで線を引いて、ウクライナの人が今のような状況で停戦に応じるとはまず思えないなというのが率直な感想です。
同時に、私もメディアの一員ですけれども、時々報道で、例えばアメリカの共和党の中では、もうウクライナへの支援を減らすべきだという声が強いとか、もしくは、事実としてドイツが戦車を供与するのをためらったとか、ウクライナの支援に対して息切れ論とか、そういったものが報じられるんですが、ちょっと誤解してはいけないと思うんですよね。現場で取材していて思うのは、例えばアメリカなんかはもちろん、もっと欧州に支援をしてほしいとか、もしくは、ドイツは最終的に戦車を供与するけど、自分が一番乗りで行くのはできれば避けたいとか、そういうようなためらいや慎重さというのはあるとは思うんですけれども、ロシアに譲ってウクライナに停戦して欲しいということとは、次元が違うと思うんですよね。
去年12月には中東で、今月はたまたまイギリスで、会議に入れる機会があったんですけれども、大体ウクライナ問題がメインテーマです。そこでもいろんな技術論はありますけれども、ウクライナに譲ってもらって停戦して欲しいというような、逆に言えばプーチンにある程度、成果をあげさせてもいいから打ち止めしようというようなことは、ボトムラインとして言っているような人は、ほとんど私は会ったことがないんですよね。そこは私の感覚でしかないのかもしれませんけれども、多分、客観的に見ても正しい一線ではないかと思います。
■ウクライナ南部 重要視される理由
上山
ウクライナ側が奪還を目指す1つがこちらの、南部ということになります。先ほど東部から立体地図を入れ替えました。南部での戦いをこの後、詳しく見ていきたいと思います。まずこのテーマを見ていきたいと思います。「ウクライナ軍が「領土奪還」狙う南部戦線 欧米の戦車提供でどうなる?」。
高橋さん、この立体地図、南部の地図も、地形の起伏なども含めて再現しました。先ほどの東部の地図よりも、広いエリアを表現しています。この東西が430km相当です。改めて確認しますと、赤枠で囲っているウクライナ南部のエリアを取り上げて、今回立体の地図に落とし込みました。
では、模型を改めて見ますと、先ほどと同じように赤いライン、これが最前線を表しています。ドニプロ川に沿って、最前線が設定されているということがわかると思います。最前線の北側がウクライナの支配地域ですね。最前線の南側がロシアの支配地域になります。
南側のさらに南を見てみますとクリミア半島があります。ですから、まさに南部の地域というのは、クリミア半島の玄関に当たるような地域となっています。そして、こちらがヘルソン市、去年11月にウクライナ軍が奪還しました。そして、このヘルソン市からずっとドニプロ川に沿って東に進んでいくと、ここにザポリージャ原発があります。さらにここから北にドニプロ川の進路が変わるところがあるんですが、ここにザポリージャ州の州都、ザポリージャ市があるわけです。
ウクライナ軍が南部に対してどのように領土奪還を行うのか。これが非常に注目されているわけなんですけれども、改めて南部の立体地図、高橋さんがご覧になって、どんなことを思われますか。
高橋
ウクライナがヘルソン州からザポリージャ州にかけて奪還する場合、やはり大きな問題になるのがドニプロ川なんですよね。川というのは攻める方が難しく、守る方が守りやすい地形ですから、ウクライナとしてはこの川を渡るのかどうかというのは一つのポイントになります。そういった意味で世界的にも、おそらくウクライナの次の反攻はここではないかと予想されているのが、川を北の方で渡ってしまって、ドニプロ市、ザポリージャ市辺りから南下してメリトポリを狙っていく可能性です。
また、全体のピクチャーを見ると、メリトポリは交通の要衝で道路・鉄道の収束点になっているので、ウクライナが仮に南下してメリトポリまで奪回するようなことになると、ヘルソン州に対するロシア側の補給にも大きな影響が与えられると。あるいはロシア側としては、クリミア半島と東のドンバス地方の2つに勢力が分断されてしまうので、守りにくくなる。ウクライナとしては、次にどちらを攻めるかを自分で選ぶことができることになるので、ここの南部攻勢、メリトポリを目指した攻勢に成功した場合の効果は非常に大きいと、そういった意味ではここに来るのではないかと予想されているというところですね。
■ウクライナ南部「戦車の運用に適した地形」
上山
それだけ南部においては、メリトポリという場所が非常に重要だということなんですけれども、ではこの模型に対して、手元のカメラを用意してみました。これで南部のウクライナ軍の目線に立って、メリトポリへの攻撃、どういった形になるのか、見てみたいと思います。このように、ウクライナ軍が青の矢印となっているわけですが、このままずっと南下していきますと、その先にメリトポリがあります。これは前線からは約80kmの距離ということなんですね。
さらにメリトポリをウクライナ軍が奪還していくとしますと、その先にずっと道路を南下していくと、クリミア半島まで高速道路がつながっていて、約120kmの距離ということなんですね。高橋さん、メリトポリが南部の戦いの焦点になりそうだということなんですけれども、改めてウクライナ軍としては、ここでどのような戦いを仕掛ける可能性があるのかも含めて全体的に説明していただけますか。
高橋
ここは地形的に見ても、やはり戦車の運用に非常に適した地形なので。
上山
この辺りはあまり起伏がないことが、この模型でもよくわかりますよね。
高橋
そうですね。一方で、ロシア側もおそらくウクライナ側の次の焦点がこちらになるであろうということは予想していますから、かなり強固な防御陣地をつくっていると言われているわけです。一方で、例えばハイマースのロケット弾ですね。射程距離が約80kmということで、先ほどメリトポリまでちょうど80kmというお話がありましたが、ウクライナとしてはドニプロ川の北側から必要な戦術的な攻撃を行うことができると。それを地上作戦と連携させて前進させていくというのが1つ考えていることだと思います。
一方で、先ほど川を渡るのは難しいという話を申し上げましたけれども、もし仮にロシア側の守備が弱いようであれば、川を渡る作戦も十分に考えられると。だから2つの可能性をロシア側に見せながら、ロシアの戦力を分散させて弱い方を突いていくという形になるのではないかと思いますね。
上山
では、このメリトポリへ繋がる前線には今、お話もありましたけれども、両軍が部隊を集めているという情報があします。それを整理してみたいと思います。まず、ウクライナは、ロシア軍が他の部隊や進行方向を犠牲にして、ザポリージャ州の人員を強化したと警告したということです。ロシア軍部隊の人員を強化しているという、ウクライナ側の分析です。
そしてロシア軍ですが、25日、ザポリージャ州の前線全域で小規模な地上攻撃を続けていて、ザポリージャ州のウクライナ防衛陣地を分散させようとしているということです。ロシア軍が散発的に攻撃をして、ウクライナ軍の守りを分散させているという分析です。南部の最前線、3月か、その前なのか分かりませんけれども、春の攻防を前に、この辺りでは散発的な戦いが続いているようなんです。ウクライナ軍と、そしてロシア軍の状況を高橋さんから見ると、今どういう状況なんでしょうか。
高橋
おそらくは、ここが次の焦点になるとお互い考えている上で、相手を牽制するための小規模な攻撃を行っているのではないかと。昨年2月下旬に戦争が始まった時に、キーウ周辺は、まだまだドロドロだったんですよね。ところが、この地域の、例えばヘルソン市であるとかメリトポリは結構、あっと言う間にロシア軍が制圧しているので、おそらく戦闘が行えるような状態になるのは南部の方が早いです。そう考えていくと、もう多分2月中旬、下旬には何かが起こる可能性はあって、その準備をしながら相手を牽制しているという状況ではないかと思いますね。
■動き出した欧米からの戦車供与
上山
ウクライナ南部での奪還作戦ですが、成功させるためには重要な戦力だと、かねてから高橋さんが指摘していたのが戦車です。ここに来て、ご存じの通り、一気に動き出しました。
菅原
欧米各国が次々と提供を表明しています。まずドイツです。1月25日、レオパルト2の提供をウクライナや欧米各国から強く求められてきましたが、ついに提供すると発表をしました。第1弾としまして、4月上旬までに14台が提供されるということです。さらに、ドイツは、他の国がウクライナに提供することも承認したため、ヨーロッパ各国から100台以上が提供、供与される見込みだということです。
欧米からの戦車をめぐっては、さらに動きがありまして、アメリカからはエイブラムス31台が提供される見込み。イギリスからは主力戦車チャレンジャー2、14台が3月末にウクライナに到着するよう、供与されるということです。
こうした中で新たな情報が入ってきています。27日のフランスの国営テレビで、駐フランス・ウクライナ大使がこう話しています。「欧米諸国はロシア軍に立ち向かうために、キーウに321台の戦車を約束した」と。321台、かなりの数ですけれども、東野さん、この真偽、評価は難しいところではありますが、どう見ていますか。
東野
この321台がどの程度のタイムスパンで提供されるのかというところが重要かと思うんですけれども、例えばレオパルト2だけではなくて、いろんな種類の戦車が提供されるわけですよね。アメリカのエイブラムスは今、作っているものを提供するわけですから、今年中にという話もありましたが、それは全部含めて非常に楽観的な数として、その321台というのが取らぬ狸の皮算用みたいな形ですけれども出てきたんだろうと思います。
ウクライナ側からの情報発信を見るときに、我々は非常に有利な状況なるのだというロシア向けの非常に強いメッセージと、それから米欧側に対する、我々こんなに困っているからもっとくださいという、2つの種類のメッセージがあるんですけども、 これはおそらく、ウクライナは米欧諸国にこんなに味方してもらっていますという、ロシアに対するメッセージだと思います。ただ、それを文字通りに受け取るかどうかというのは、結構リテラシーが問われるところだと思いますね。
■国防次官「残酷な戦争…民間人を守るために」
上山
ウクライナが半年以上要望していました戦車レオパルト2の提供が決まりましたが、その直後に番組ではウクライナのマリャル国防次官に話を聞きました。
Q 戦車のレオパルトの供与が決まりましたけれども、ウクライナでは、皆さん、どう受け止めてらっしゃいますか。
ハンナ・マリャル国防次官
ウクライナはどの支援に関しても非常に感謝しています。ウクライナ人は十分勇敢で、もちろん最後まで戦いますが、私たちの勝利は、他の国のパートナーなしではできないのです。そして日本の政府の支援にも非常に感謝しています。特に医療器具や薬です。医療に関しては日本から頂いたものに非常に感謝しています
Q お答えになれる範囲で良いのでレオパルトを、いつ頃何台ぐらい欲しいか、マリャル国防次官の受け止めを。
ハンナ・マリャル国防次官
すべて交渉中なので、具体的な話をここで言ってしまうと、交渉がうまくいかなくなる場合もあるので…。本当にどんな支援でも感謝したいと思います。もちろんそれを大切にしています。
ハンナ・マリャル国防次官
まさかこの戦争が、このような残酷なものになるとは、思っていませんでした。特に民間人への残酷さに驚いています。皆さんもご存知のように、民間施設への1日100発ものミサイル攻撃が起こっているのです。当然のこと、対ミサイルのウクライナの防空システムが非常に今、重要な役割を果たしています。それは民間人を守るためです
ハンナ・マリャル国防次官
そしてプーチンを止めるには、戦争を止めるには、まず一つは、やはり長距離の兵器が必要です。そして、先ほども言ったように、対ミサイルの防空システムがたくさん必要です。
■「(西側戦車の)逐次投入は避けるべき」
上山
ウクライナのマリャル国防次官、番組のインタビューに対し、レオパルト2も含め戦車の提供が決まったことについては感謝の言葉を述べていました。ただ、提供される時期や台数については、希望を質問しても、「こういったことについては交渉中であるから話せない」と言っていまして、かなりシビアな状況にあるということが伝わってきました。
一方で、プーチン大統領を止めるためには「長距離兵器が必要だ」といも発言をしました。高橋さん、レオパルト2も含め戦車の提供については、想像するにデリケートな話だと思うんですけれども、高橋さんから見て、ウクライナとしては何台欲しいのか、そしていつまでに欲しいのか。この辺りはどのようにご覧になっていますか。
高橋
一言といえば1台でも多く、1日でも早くだとは思うんですけど。例えば、今年の夏までに現実的な形で戦力化できる規模ということで言うと、140~150台。200弱というのが期待される数字ではないかと思います。それは、訓練スケジュールとの関係で、実際に使いこなせる数ということになると、それぐらいかなと。
あと国防省の立場から言うと、おそらく日本とかでもそうですけど、兵力を「作る」部門と「使う」部門は結構、厳格に分かれているので、「作る」部門としては、そういう前線のニーズをむしろ知らない可能性もあるので、とにかくできるだけ多く調達するというのが多分目的なんじゃないですかね。
上山
夏までというお話がありましたけども、春の大攻勢と言われている中で、夏で間に合いますか。
高橋
春のロシアの攻勢に対しては、ウクライナは現有戦力で対応する必要があると思います。少なくとも例えば、今、米軍が行っている訓練を見ても、2月下旬の段階で、西側の戦車がまとまった形で戦線に投入できるとはちょっと思えないので、むしろ最初の、第1歩の攻勢は現有戦力で戦った上で、改めてそこがある程度、膠着した段階で、西側の戦車戦力がまとまった形で投入されるというような形のイメージになるのではないかと思いますね。
上山
2月下旬にも緊張状態が変わるんじゃないかという話がありましたけども、これに対しては西側の戦車で対抗することはできなくて、ウクライナ軍としては今、持っている中で対応していくという。
高橋
もちろん今も戦車はありますから。そして、ここで考えていたとすれば、西側の戦車の供与は前提としない形で計画を立てていたはずなので、その意味では、もしかしたら西側の戦車の到着を待つという考え方もあるかもしれません。その場合は逆に、ロシア側から仕掛けてくる可能性というのも出てくるので、戦場の状況次第ではないかと思いますね。いずれにしても、2月の段階で西側の戦車はおそらく間に合わない。間に合わせるようにしたとしても、それこそ10両とか20両単位になってしまいますから、逐次投入して消耗していくだけなので、そういう形での投入は避けるべきだと思いますね。
上山
100台単位で集めた上で、大規模に展開していく。
高橋
そうですね。大規模で戦線を突破するような戦いに一気に投入して戦局を大きく変える。そこまで我慢できるかどうかというのは、1つのポイントではないかと思いますね。
■西側とロシア側戦車を比較すると…
菅原
それではウクライナ軍、ロシア軍、双方の戦車を比較していきたいと思います。先の話になる可能性が高いですけれども、まずウクライナ軍は欧米からの提供が決まっているチャレンジャー2、エイブラムス、さらにレオパルト2、そしてチェコで改修されましたT-72戦車などを揃えています。一方で、戦車王国とも呼ばれているロシア軍は、T-80、T-90、T-72、さらにT-14アルマータ、こういったものなどがあるということです。
高橋さんは。常々こういった戦車だけではなく、使う側の人間の知恵も必要だとおっしゃっていますけれども、単純に戦車だけで比較をしますと、それぞれ特徴としては、どういった面に優位性があるのか教えていただけますか。
高橋
MBT(主力戦車)と呼ばれているものは、基本的に火力と、装甲と、機動性のバランスをできるだけ高いレベルで取ろうとするものなんですけれども、西側の戦車は特にそれが非常にレベルは高いです。あえて言えば、恐らく装甲の素材は西側戦車の方が強いと思われます。攻撃力についてはほぼ互角である。ただ、例えば湾岸戦争、イラク戦争で例えばエイブラムスであるとか、イギリスのチャレンジャー1、チャレンジャー2がイラクの戦車と戦っています。イラクの戦車は当時T-72が主力だったんですが、ほぼ装甲をいている撃ち抜いています。ですから攻撃力と防御力のバランスでいうと、西側戦車の方が多分勝っている。
ただし、T-72の写真をもし拡大できればと思うんですが、T-72の砲塔の脇に出っ張って付いている、ホタテガイの二枚貝みたいなものが付いているんですけれども。これが爆発反応装甲という増加装甲で、この増加装甲は1回であれば西側の戦車弾の直撃に耐えられる可能性がある。なので、装甲防御力も意外と互角に近いです。
ただ、西側の戦車の優位性は、そこに出てこないソフトウェアであるとか、火器管制システムの優位があります。例えば戦車の砲弾が一番、命中率が高いのは、止まっている状態で撃つことなんですが、西側の戦車は走っている状態で、あるいは蛇行しながら撃ってもかなり高い命中率がある。実戦で止まって撃ち合うよりは、動いて撃ち合う状況が大きいので、そういう意味で、実戦で使うことを考えると、西側戦車には数字に出ないところがあると。あともう一つ付け加えて言うと、西側の戦車は弾を人力で入れるんですよ、多くの戦車は。
菅原
アナログ的に入れていくというか。
高橋
そうです。日本の戦車は違いますけど、レオパルト2もエイブラムスも人力なんですよね。ロシア軍の戦車は自動装填なんです。ですから、ロシア側の戦車の方が連射能力は高いということはあって、そういう意味でこの比較というのは、メッシとエムバペを比べるようなもので。
菅原
サッカーで言いますと、ということですね。
高橋
どちらにもメリットはあるというところではありますね。
■重要性を増す「諸兵科連合」
菅原
こういった戦車の使い方なんですけれども、改めまして高橋さんが一貫して重要だとおっしゃってきているポイントがあるんです。諸兵科連合というものです。どういったものかと言いますと、歩兵、戦車、大砲などをバランスよく組み合わせた戦い方ということです。
これに関して、ランド研究所のコーエン氏によりますと、複数の異なる種類の兵器を統合して攻撃と軍事的効果を達成することだと話しているわけです。高橋さん、戦車だけあっても当然、諸兵科連合としてはバランスが悪いわけで、バランスが非常に重要だということですね。
高橋
そうですね。戦車だけでは土地の占領確保ができないのと、戦車だけだと対戦車ミサイル、ジャベリンなどの対戦車ミサイルの的になってしまうので、周辺を警戒する歩兵が必要。ただ、歩兵だけでは当然、相手の戦車などには全く勝てないので、その両者をうまく組み合わせて連携させて戦うことが必要になるということですね。
上山
今、複数の異なる種類の兵器を組み合わせながら連携していくことが重要というお話があったんですけれども、今回、様々な兵器の提供が欧米からは決まっています。例えば歩兵に関しては、ウクライナ軍の歩兵、そして、その歩兵を運ぶのが、アメリカの歩兵戦闘車、M2ブラッドレー。戦う戦車はドイツ製のレオパルト2、その後方から砲撃で支援していくのが、スウェーデンのアーチャー自走榴弾砲という形です。
つまり、戦うのは確かにウクライナ兵なんですが、装備はアメリカ、ドイツ、スウェーデンと、このように本当に多国籍に連携をしていくということが必要になってきそうです。こういったことはこれまでにもあったんでしょうか。
高橋
NATO軍自体が多国籍軍ですから、NATOの中では何十年もかけて、標準化とか相互運用性というんですけれども、違う国の兵器を組み合わせても、ちゃんと使えるように規格などを揃えてきているんですよね。なので、それに基づいてウクライナ兵に訓練をすれば、致命的な問題にはならないです。ただ、訓練が必要ですね。
上山
対抗するロシア軍の方は、西側の諸兵科連合に対して、ゲラシモフ総司令官は戦車部隊の出身という話を聞いたことがあると思うんですけれども、これは例えば西側に対してロシア軍は対抗するいうことなんでしょうか。
高橋
諸兵科連合自体はもう現代戦というか、第2次世界大戦以降の戦車戦の基本なので、そこはロシア側もきちんと訓練はしてきている。戦争が始まってからのロシア兵の熟練兵の損耗ですよね。その消耗が激しいということを考えていくと、新しく動員された兵隊におけるその連携度は多分弱い。そういった意味で現状、ロシア軍は諸兵科連合の戦闘の熟練度においては、やや課題があるという状態で、今年の春を迎えることになるのではないかと思いますね。
■ロシアが核で対抗する可能性は…
上山
続いて見ていきたいテーマがこちらです。「欧米の兵器供与にロシアは… 核で対抗する可能性も?」ということで詳しく見ていきます。
欧米からの戦車提供が次々と決まる中、ロシア側の反応です。ペスコフ報道官はこのように発言しました。「欧州諸国や米国から戦車などを含む様々な兵器システムをウクライナに供与する行為は、戦闘行為に自国や同盟が関与することにならないとの発表が相次いでいる。我々はこの考えに全く同意しない。同盟が行うことは、全て紛争への直接関与と受け取られそれは増大している」、兵器の提供は紛争への直接関与だというふうな見解を示しました。
秋田さん、ロシアがこのまま欧米からの次々とした兵器提供を黙認していくのか。この辺りはどういうふうにお考えでしょうか。
秋田
まず繰り返しになるんですが、欧米は、ロシアとウクライナの喧嘩両成敗的な戦争に対して、ウクライナに肩入れしているのではないわけですね。あくまでもロシアがウクライナの領土を侵略して、そこから追い出すために支援しているので、ウクライナの軍がロシア領内に行くのを支援しているわけではないわけですよね。そこを間違えてはいけないので、そういう文脈からすると、ペスコフ氏が言っていることは全く意に介する必要はないというのが原則だと思います。原則はですね。
ただ、もちろんこの戦争で一番起きてはいけないのは、ロシアが核を使用して第3次世界大戦になってしまうことは避けなければいけないというのは、一方であると思います。したがって、戦車が投入されることによって、きょう、本当に詳しく解説をしていただきましたけれども、ウクライナが攻勢を強めて最終的にロシアがもう止められないと思ったときに小型核を使うということを、これは脅しもあるので全部、真に受けることは向こうの術中にはまってしまうわけですけれども、ただ、そういう可能性についても、我々は忘れてはいけないということはあると思うんですね。そこはむしろ、高橋さんは核の保有にお詳しいので。
上山
高橋さん、こういった可能性についてはいかがですか。
高橋
戦車の供与に対して核兵器を使うというのは明らかにバランスを失しているので、そういう判断はしないと思うんですよね。あともう1つは、戦車も所詮は戦略のための道具でしかなく、核兵器もやはり戦略のための道具でしかないんですよね。ですから、それをどう使うかというのは人間の知恵が決めるものですし、特に核兵器について言えば、それがどう使われるかというのは戦略的な状況によると。
例えば、私この戦争で一番、核のリスクが高かったのは、9月にウクライナがハルキウ周辺で反攻に成功した瞬間だと思っていますけれども、同じような形でザポリージャ、ヘルソン方面での大戦果を挙げたと。そのときにロシア軍が崩壊状態にあって、通常戦力ではどうにも食い止められそうにないというような状況になったら、またそこで再び核のリスクが上がります。ただ現状では、動員が比較的、色々トラブルはありましたけれども、何とか機能はしていて、通常戦力の立て直しには多分、ロシアは成功した。だからこそ戦線が動いていないわけですし、通常戦力の立て直しに成功した現状では核のリスクは低い。次に動くとすれば、戦線がまた大きく動いたときということなんだと思いますね。
■「ファーストチョイスは動員か」「欧米への攻撃は分けて考察を」
上山
今の秋田さんのお話ですが、このまま戦車が提供されて、戦況がロシアにとって苦しくなってきたら、これはまた状況としてはわからないということですか。
高橋
その時ロシアは2つの選択があるわけです。もう1回動員をかけるか、核兵器で戦場で対抗するかです。動員がとりあえず1回うまくいっている以上は、まずファーストチョイスは動員なのではないかとは思います。ただ、そこは、その瞬間でのプーチン大統領の判断なので、ウクライナはリスクフリーで反攻はできないということではあるわけです。
上山
東野さんどうでしょうか。ウクライナ軍が攻勢を強めると、ロシア軍の反応というのを気にしてしまうところあると思うのですが、ロシアとしては欧米に対抗するカードとして何かあるのか。この辺りはどのようにご覧になっていますか。
東野
ウクライナに対する攻撃と、欧米に対する攻撃と、分けて考える方がいいかなと思っています。ウクライナに対しては直接的には今、高橋さんがおっしゃられたように、やはり動員が1度成功しているということで、ロシア側は数で押してくる。まだそれが可能なんだと考えていると思いますので、この春などに予定される大規模侵攻などに賭けてくると思うんですね。米欧に対してですけれども、やはり戦車提供国に対して、このままではおかないというような、そういった勇ましい意見がロシアの中では聞こえてくるわけですね。
それがどのような手段なのかということなんですが、軽々に核は使えないですし、提供国に対して直接攻撃をすることは、NATOの第5条事態になってしまいますので、これも避けると思います。なので、考えられるとすると、サイバーなどの攻撃とか、それから以前、ガスパイプラインの攻撃などもあったように、誰が行ったか、すぐにはわからないけれども、西側の重要なインフラに対する攻撃、工作などがやはり恐れなければならない事態かなと思います。
上山
やはり何らかの反応はあるかもしれないということですね。秋田さん、いかがですか。
秋田
最悪の事態を想定しなきゃいけませんけれども、繰り返しになりますが、ロシアは脅していて、脅せば後ずさりすると思って脅している面もあります。それが本気と紙一重なんだと思うんですけれども、そこは、我々は過小評価も過大評価もしないで見ていかなきゃいけないということだと思いますね。
■国防次官「私たちは皆、同じ地球に住んでいます」
上山
ロシアの核兵器使用の懸念もある中で、ウクライナのマリャル国防次官は私たちの取材に改めて、ロシアに対抗する必要について、国際社会と日本に対してこのように語りかけました。
ハンナ・マリャル国防次官
私たちは皆、同じ地球に住んでいます。その地球で皆、団結して、戦争や侵略を止めるという方法を見つけなければなりません。日本も高い技術を持っていますが、私たち人間は宇宙まで行ける高い技術を使っている時代です。
ハンナ・マリャル国防次官
そんな時代に、平然と戦車で隣の国に入って、ただ破壊と殺人を続けている人たちもいる、そのギャップはあってはならないのです人間は皆、進歩に向けて、進化に向けて、努力をしなければならないのです。
ハンナ・マリャル国防次官
それに対して今、ロシアがやっていることは全く進化とは言えない、進歩とは言えない。その逆で、破壊としか言えません。私たち自身が、それを止めるために団結しなければならないのです。
上山
ウクライナのマリャル国防次官ですが、この時代に隣国に戦車で押し入って人々を殺害する、こうしたことは絶対に許してはいけないんだと、国際社会に、そして日本に対して、本当に私たちに訴えていました。東野さん、私たちはウクライナの戦況にどのように向き合うべきなんでしょうか。
東野
まず、最初のVTRでマリャル国防次官が日本に対する感謝を口にしていました。あれはよく批判的に見る人たちだと、リップサービスなんじゃないかとか、もっと支援を引き出したいからなんじゃないかという、非常に斜に見たような見方があるんですけども、全くそうではないということなんですね。本当に日本の支援というのは、とても感謝されていて、我々は武器支援はできないですけれども、例えば浄水器の支援とか発電機とかですね。そういったものに対して皆さん非常にきめ細かく感謝をしてくれている。
それに対して、我々は今、このように理不尽な立場に立たされているウクライナに対して、本当にやらなきゃいけないことは何かということを真剣に考えているだろうかということを、私は1年間たって感じますね。やはり斜に見るのではなくて、ウクライナに対する支援と連帯というのは、日本外交の原理、原則の問題だと思うんですね。そこの基本を忘れてはならないと本当に思います。
■ウクライナ情勢の今後は…重要ポイント
上山
高橋さんはここまでご覧になっていて、どんなことを感じになっていますか。
高橋
これからまた、一部を除いて一旦、膠着状態にあった戦闘がおそらく激しさを増していく。その中で都市爆撃なんかもまだ引き続き行われていくんだとは思うんですが、1つ、その状況を展開させるかもしれない動きとして、この新型の西側戦車の供与というのが決まったと。
ただ、あくまで西側戦車というのは無敵の超兵器ではないので、これをどう使うか、あるいは、それがそのゲームチェンジャーとなりうるだけの準備をして使うことができるかというところがウクライナは問われてくるでしょうし、それをロシアは妨害しようとしてくる。だから、そこでウクライナ側の知恵と、あと我慢ですね。忍耐力が問われてくるということではないかと思いますね。
上山
秋田さんはいかがですか。
秋田
私は仕事柄、新聞記者ですから毎日のニュースを追いかけて報じることが職業なんですけれども、やはり歴史家としての視点というのが、すごく自分自身大事になってきたなと言い聞かせています。
ナチスドイツがポーランドに侵攻したのが1939年で、約2年後にチャーチルとルーズベルトが大西洋憲章という名前で、戦後秩序の原則を打ち出すんですが、その半年以内に日本の真珠湾攻撃が起きて第2次世界大戦になってしまったということは、やはりウクライナにロシアが侵略してから間もなく1年になりますけれども、そういう歴史の流れは結構速く進む時があるということを肝に銘じる必要があるというふうに思います。
上山
東野さんは最後に何かございますか。
東野
これから戦車の提供がこのように決まってきて、もしかしたら米欧の支援が、例えば戦闘機などに踏み込むような、そういった段階もあるかもしれないですね。やはりその時に我々は、今回も話し合いましたように、激化するんじゃないかというところを懸念するところもありますけれども、これは、長引く戦争を早く終わらせるための提供なんだという、この原点は忘れちゃいけないんじゃないかと思いますね。
(2023年1月29日放送)
ロシアによる執拗な攻撃に徹底抗戦の構えを崩さないウクライナ。2023年1月29日『BS朝日 日曜スクープ』は、ウクライナのハンナ・マリャル国防次官の番組独自インタビューを放送しました。マリャル国防次官は、ロシアの占領地では、子どもたちの連れ去りをはじめ、重大な人権侵害が横行していると指摘し、領土奪還の重要性を主張しました。