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ウクライナ軍が東部戦線で反転攻勢 ロシアは輸送路を砲撃
■マリウポリ「避難」の際に「選別」か
菅原
ロシアにとって重要な意味を持つ戦勝記念日があす(5月9日)に迫る中、ウクライナ軍が反撃作戦を開始し、制圧されていた地域を奪還しているところもあるということです。戦勝記念日がウクライナ侵攻の転換点になるのか、きょうは詳しく見ていきます。ゲスト紹介を紹介いたします。ロシア研究がご専門の拓殖大学・海外事情研究所教授、名越健郎さんです。よろしくお願いします。
名越
よろしくお願いします。
菅原
そしてもう一方、国際安全保障、現代軍事戦略がご専門の防衛省・防衛研究所・高橋杉雄さんです。よろしくお願いします。
高橋
よろしくお願いします。
上山
最初のテーマはこちらです。「マリウポリで民間人の退避完了も非人道的行為が続く恐れ」 詳しく見ていきたいと思います。
こちら戦争研究所が発表した最新のマリウポリの状況です。アゾフスタリ製鉄所以外はロシア軍がほぼ制圧しています。
そのアゾフスタリ製鉄所ですが、5月5日から7日までの3日間、ロシア側は攻撃を止め、人道回廊を設置し民間人を退避させると発表しました。7日、ウクライナのベレシュチュク副首相は全ての女性、子供、高齢者が避難したと発表。ゼレンスキー大統領は「これまでに300人以上の民間人が救出された」としています。ただ、「第2段階として負傷兵、衛生兵の避難を準備しているが、ロシア側の対応が厳しく難しい」としています。民間人が避難できたことは大きな安心材料ですが、一方で、人道回廊の期限が来て、ロシア軍の攻撃が強まるのではないかという懸念があります。高橋さんはどうお考えですか?
高橋
もともと、ここで民間人を退避させていた理由の一つは、プーチン大統領とグテーレス事務総長の約束を実行したという形です。ただし、脱出した後で再び戦場に立てるような男性は脱出させないというのは一貫しているように思います。
もう一つは、民間人を移送するときに、一時、収容所で聞き取りをすることで、内部の情報を取っていたことが間違いなく言えます。そこで守備が弱い場所を確定して攻撃を行うと。そういった形でこれまで進んできたんでしょうし、そう考えるのであれば、負傷兵などの輸送というのはやはり難しいように考えられます。
上山
今、高橋さんのお話にもありましたけれども、退避した人たちがそのまま自由になっているわけではなく、ロシア側は、用意した選別収容所というところに一度、集めているということなんです。そこで、ロシア側から身体検査、それから携帯電話のチェックを受けるということですが、高橋さんによると、この段階で製鉄所内部の情報もロシア側としては集めていた可能性があると。
高橋
はい。そうですね。
■「マリウポリ全滅を狙うロシア」
上山
ウクライナ側は、ここで、例えば軍人や政府関係者だと判断された場合には、拘束されて拷問を受けるとしています。名越さんにも伺いたいのですが、今、お話にもありましたように、ここでロシア側が軍人か政府関係者と判断した場合には、これはもう逃さないというスタンスなのでしょうか。
名越
そうですね。アゾフ大隊というのは、ロシアが最も目の敵にして、ネオナチとみなしてますから。2014年の東部攻撃が中途半端に終わった8年前、アゾフ大隊が強硬な抵抗をしたということで、その恨みを晴らそうというのと、それから、マリウポリは、ドネツク州に属していますから、プーチン大統領はドンバス地方の全面制圧を言明してますから、やっぱり、ここは絶対に落とさないとダメなんでしょうね。
上山
今後のこのアゾフスタリ製鉄所への攻撃ですが、ウクライナ兵を全滅させようと思っているんでしょうか、ロシア側としては。
名越
マリウポリでは全滅させようと思っているんでしょうね。そこに籠っているアゾフ大隊を、ですね。
上山
杉田さんにも伺いたいのですけれども、ロシア軍としては、かなりの意思を持ってマリウポリの制圧をしようとしていると。その中で、アゾフスタリ製鉄所に対しても、兵士たちを殲滅するような動きがあったとすると、今後、この地域を制圧、その後は統治していこうという時に、住民感情として統治できるような状況になっていくのかどうか。それはロシアにとってプラスなのかどうか、この辺りはどのようにお考えですか。
杉田
全滅させたとしても、結局、これだけの破壊があれば、当然ながら住民の反発、あるいは、名越さんが今、おっしゃられたように、ロシアからすると、プーチン大統領からとすると、目の敵であると同時に、非常に反ロシア感情が強いアゾフ大隊支持の人々が住民に部分的には残るわけですよね、となると、制圧して統治が始まったとしても、パルチザン的な反ロシアの戦いが今後も続いていくことになると思われます。仮に全滅したとしても、非常に長期間にわたって安定は訪れてこないであろうと予想できますよね。
■戦争研究所が分析 ロシア軍「5つの行動」
菅原
ロシアが重要視する「戦勝記念日」があす(5月9日)に迫っていますが、侵攻が始まって2か月半、ウクライナ侵攻を続ける現在のロシアの動きがどのような状況なのか見てみます。
アメリカの戦争研究所は5つあると分析し、1つの主要な取り組みと、4つの支援的な取り組みに分けています。主要な取り組みは、ドネツク州、ルハンシク州支配に向け東部のイジュームからポパスナにかけてロシア軍がウクライナ軍を包囲するような戦い。最も大きな取り組みは、このイジューム、ポパスナ、この東部のエリアを取り囲むような動きだとしています。
そして、支援的な取り組みは1つが、マリウポリ制圧。そして2つ目が、ハルキウ市でウクライナ軍をくぎ付けにすること。この第2の都市ハルキウを攻め落とすことではなく、ここで攻撃を続けてウクライナ軍に守らせ、東部に行かせない動き。
そして3つ目が、制圧したヘルソンをウクライナ軍から守る。南部のヘルソン、ロシア軍が早い段階で制圧し、ロシア化を進めているとしている地域を、ウクライナ軍に奪い返されないよう守ること。そして4つ目が、ロシアとベラルーシ領内からのウクライナ北東部への威嚇ということです。現在、ロシアはこの5つの動きで目標を達成しようとしているということです。
■東部戦線“ロシアの進軍を阻止”要因は!?
菅原
ウクライナ侵攻から2か月半、続いてのテーマはこちらです。「東部戦線異変あり 最重要の戦場でロシア軍動けず」。
現在、ロシアの最重要の目標となっているウクライナ東部、ドネツク州とルハンシク州です。ロシア軍は大きな戦力をかけ制圧を目指しています。
ただ、その戦いについて、アメリカ国防総省は5日、東部ドンバス地域では「ウクライナ軍が激しく抵抗していて、ロシア軍は期待したほど進めていない」このように分析しています。その東部、拡大したものがこちらです。スロビャンスク、クラマトルシクなど、このあたりの地域に向かって、ロシア軍は包囲するように進もうとしています。
主に東部の「西」「東」「南」で動きがあるのですが、それぞれの戦況を見てみます。まず東部の「西」については「ウクライナ軍がロシア軍の攻撃を撃退し続けた」と分析。そして東部の「東」については、「ロシア軍はわずかに利益を確保」。少し進んだとしています。そして東部の「南」については、7日のキーウインディペンデントが3月中旬以降、ロシア軍が北上する動きをウクライナ軍が撃退し続けていると分析しています。3方向で、攻めるロシア軍をウクライナ軍が止め続けている、そんな状況だと分析しています。
東部での戦いですが、両軍の兵力はこのように推計されています。ウクライナ軍がおよそ4万4000人。これに対してロシア軍は7万人から8万人ではないかということです。実際にロシア軍は東部で非常に激しい攻撃を行っていて、ルハンシク州のガイダイ知事は、「4つの集落がミサイルと爆撃に耐えた。ロシア軍はポパスナを破壊するだけでなく、ルハンスク州の地図から削除している」、激しい空爆や砲撃にさらされていると話しています。
兵士の数で劣り、激しい砲撃を受け続けているウクライナ軍が、なぜ守ることができているのか?こんな分析があります。まず1つ目が、「都市の防御能力が高い」。どういうことかと言うと、ロシア軍が標的にしている。スロビャンスクやセベロドネツクなどは、「長期にわたる激しい防衛に備えられた非常に強化された拠点」「東部は、2014年の紛争もあり、要衝となる都市は、防衛の準備がかなりされていて簡単に攻め落とされないようになっている」といいます。
そして2つ目が、「ウクライナ軍の防衛戦略」。どういうことかと言うと、「ウクライナ軍は地元の地形を利用し機動防御を行っている」「圧倒されるのを避け、時に戦略的に撤退し、ロシア軍を疲弊させ続けている」「戦力で劣る中、正面衝突を避けながら防衛している」といいます。
そして3つ目が、「監視で.優位に」。.どういうことか。「ウクライナ軍は、戦場を監視する無人機でロシア軍を上回り続けている」こういう分析もあります。
■「ロシアは準備不足のまま第二次攻撃」
菅原
高橋さん、兵力で劣るウクライナ軍がロシア軍の侵攻を防いでいる要因、高橋さんはどのように見ていらっしゃいますか。
高橋
まず一つは、ドネツク州の南部から北に上がっていくロシア軍の攻撃については、2014年からずっと防御を固めてきた「防御陣地」があるので、「機動防御」というよりは「陣地防御」の形で、ロシア軍の侵攻を止めてきたと。
菅原
拠点を構築しているということですね。
高橋
そうですね。南からの突破ではらちが明かないので、ロシア軍としては背後から攻撃するために、イジュームからの、北側から南に向かっての攻撃を仕掛けてきた。ただ、その攻撃の主要な兵力は、その前はキーウ攻撃をしていた部隊ですね。キーウ攻略のために北部にいた部隊を、東周りで派遣してきて、そこから第二次の攻勢をかけているわけですよね。キーウ攻略がなくなったのでウクライナ側の部隊も東に移動したわけです。地図をご覧になれば分かるように、ウクライナの方が内側ですから速く兵力を移動できるんですね。ロシアが外側に回るわけですけれども。
菅原
距離が違うわけですね。ロシア軍はベラルーシやロシア国内を回っていく必要があるけれども、ウクライナ軍はキーウから直線的に行けるというイメージでしょうか。
高橋
はい。なので、ウクライナ側もイジュームからの南下という攻撃を予測して、イジューム南方の守りを、キーウ防衛部隊の力を借りながら、守りを固めていたというところがまずあります。
もう一つは、ロシア側がやはり準備不足の形で第二次攻勢を仕掛けてきたことです。第1に、キーウから北部攻勢に回ってきた部隊は、キーウ撤退してから、ほぼ3週間で攻撃に参加しています。それでは移動はできても、ほとんど補充と休養ができてない。消耗から回復してない状態でイジュームからの攻勢に参加しているわけです。第2に、マリウポリの攻略が完了する前に、第二次攻勢を4月18日に始めています。本来であれば、マリウポリを攻略した部隊がそのまま北上して、そのドネツクの戦いに参加することを考えていたはずなんですけれども、それができない状態で北部からの攻勢を始めなければいけなくなりました。ですから、総兵力ではロシアが勝っていたわけですけれども、戦場に集中できた兵力はウクライナのほうが多かったし、しかも、ロシア側は額面よりも消耗していた。ウクライナ側はきちんと防備を固めた状態で待ち受けることができた。そういうことが今の情勢を導いた大きな理由だと思いますね。
菅原
やはり疲弊している兵士たちを3週間で投入しなければならなかったり、マリウポリから北上する前にイジューム辺りから南下させたり、ロシア側には焦りがあるということでしょうか。
高橋
そうですね。ですから、それを待てなかった、多分それは5月9日という後ろを切った状態で作戦を始めたということが一つでしょうし、あともう一つは、マリウポリの防衛部隊が非常に勇敢に戦い続けて、ロシア軍を足止めし続けたということもまた大きな理由になっていますね。
■『数の優位』を活用できないロシア軍
上山
今、説明している東部での戦いですけども、高橋さんが最も重要としているのが、こちらイジュームからスロビャンスクに向けた戦いです。
このようにロシア軍は4月1日に制圧したイジュームから高速道路沿いに南に進もうとしていますが、ここが1か月以上動いていない。3週間前と比較してみると、このような状況です。北から南にロシア軍が勢力を伸ばしてきてはいますが、大きくは動いていません。高橋さん、ここの停滞がロシア軍の東部制圧という目標に影響を与えていると見ていいのでしょうか。
高橋
そうですね。ドネツク州の南側の方は非常に強固な陣地がありますから、ロシア側としたら北から攻めるしかなかったわけです。イジュームを攻撃している部隊は、ハルキウを最初、攻撃して、ハルキウに入らないで迂回してイジュームに向かってきたんですね、戦争始まってからずっとですけど。イジュームでかなり激しい攻防戦が3月の中旬から下旬にあって、4月上旬、4月1日にようやくロシアが制圧をした。4月6日にはスロビャンスクに1回攻撃が行われているんですけれども、それからウクライナ軍が押し戻すような形で、今の戦線になっています。
イジュームからスロビャンスクの間の距離が約50キロあって、そこがロシア突破できなかったので南西方向にバルビンコベに向けての迂回を試みたんですけれども、迂回を試みると元が薄くなるので、その薄くなったところをまた攻撃されている。結局、進みきれずに止められたというのがここ1、2週間の戦況を見てて言えることですね。
上山
まさに今、高橋さんが解説してくださったこと、アメリカの戦争研究所の分析などを元に見てみたいと思います。まずイジュームに対してはロシア軍、かなりの兵力を入れているという情報があるわけです。5月4日、イギリスの国防省ですけれども、イジュームに対してはロシア軍が22の大隊戦術群を配置している。これ1大隊戦術群がおよそ1000人ということですから、22ありますと単純計算で高橋さん、22000人ぐらいがイジュームに入ってるとイギリスは分析しているということなんですけど。
高橋
完全編成で800人から1000なんですけど、すでに戦闘を経ている大隊戦術群の場合には500人ぐらいに消耗してるケースがあるので、額面通りの兵力が多分いなかったと思います。
上山
なるほど。ここからどうして南下ができないのか。4月30日の戦争研究所の分析ですけれども、「ロシア軍の攻撃は、2つの主要道路に限定されていて、『数の優位』を活用できないため、行きづまりを解消する可能性が低い」と。先ほど、高橋さんからも指摘ありましたけれども、このイジュームからスロビヤンスクに向けて高速道路を使ったルートと、このバルビンコベを使ったルート、この2つのルートはあるんだけれども、数の優位を活用できないため、この行きづまりを解消する可能性が低いと、戦争研究所は分析をしています。これは、大量に兵士はいるけれども、2つしかルートがないので、かなり行き詰まっている、つっかえているということですか。
高橋
そこでウクライナ軍がよく守っているということですね。ただ、機械化部隊は結局、燃料がないと進めないので、進撃が道路沿いになるのはしょうがないんですよ。道路からあまり離れると、今度は補給が簡単に切られてしまいますから、この2つの攻勢軸しか取れないというのはやむを得ないところですね。
■ゲラシモフ参謀総長「視察で負傷」の情報
上山
イジュームにはロシア軍の「第1親衛戦車軍」という精鋭部隊も入っているということですが、5日、ウクライナ参謀本部は、「第1親衛戦車軍」の一部の「戦車師団」と「空挺師団」が大損害を受け、ロシアに撤退したと発表しています。さらに、イジュームに入ったとされるロシア軍制服組のトップ、ゲラシモフ参謀総長もイジュームを訪問中に奇襲攻撃を受けて負傷したという情報もあります。高橋さん、ロシア軍も力を入れてるようには見えるんですが…。
高橋
重要な戦線なんですけど、なかなか進んでいないのでおそらく、ゲラシモフ参謀総長が行ったんですよね。偉い人が来たことは電波のパターンとか車列のパターンでだいたいわかりますから、そこを狙って攻撃をしたんだと思います。ロシア側としてみれば、ここを突破できるかどうかというのは、この戦争全体に大きく影響することは分かっていながら、色んな事情があってきちんと攻撃できてない、打つ手打つ手がほぼ裏目には回っている状況になってしまっていることだと思いますね。
上山
ロシア軍の攻め方なんですけど、この地域を見ていても、例えば、この高速道路沿い、道の両側は平地と言われていて、こういったところだとロシア軍としては、戦いやすいという情報もありまいたが、その思惑通りには行っていない。どうしてなんでしょうか。
高橋
結局、やはりウクライナ軍も、同じような戦いに備えていたということでしょうね。戦争には相手がいるので、ウクライナ軍も非常に火力は重視している陸軍で、例えば陸上自衛隊よりも砲の数が多いんですよね。その意味では、やはり旧ソ連の正当な後継者の一つであることは間違いない、ソ連というのは砲撃を重視しますから。そういう状況の中で、お互いにがっぷり四つで戦った結果、ロシアとしては上手くいかなかったということではないですかね。
上山
名越さん、ロシア軍の制服組トップであるゲラシモフ参謀総長が入って、負傷したという情報もありますが、ロシアとしては、イジュームの重要性はかなり認識しているということでしょうか。
名越
参謀総長が最前線を視察するというのは、普通ならあり得ないことなんですよね。ウクライナ攻撃を最初から見ていて、ロシア軍の攻撃は非常にちぐはぐで不安定なんですよね。僕は個人的にはやっぱりクレムリンですね。プーチン大統領が色々、作戦を指揮しているんじゃないかと、軍の作戦に口出してるような気がするんですよね。
上山
ここでの作戦にもプーチン大統領が関わっていると。
名越
これは知らないですけど、キーウから撤退させたのは、やっぱりクレムリンの指示じゃないかと思うんですよね。僕が聞いている話では、プーチン大統領は5月9日までにドンバス地方を完全制圧、これはもう軍に言明しているわけなんですね。ゲラシモフ参謀総長は、むしろ南の方をやりたいと、あまり抵抗がないからと。しかし、トップの命令だから受けないと駄目ということで、ちょっと混乱して、それでやっぱりロシアの場合はトップダウンですからね、あんまり部隊に融通性がないんですよ。慌てて参謀総長が焦りを示しているんじゃないですかね、自分で見に行くということは。
上山
杉田さん、5月9日が戦勝記念日ですが、東部はとても戦果を示すことができる状況ではないですね?
杉田
そうですね、アメリカの政府の人と話すと、この戦争のアメリカの狙いは、プーチンが描いたタイムスケジュールをいかに崩すかということだと言うんですよね。プーチンはまずキーウを短期間で落とすと計画したのでその進撃を止めると。ロシア軍は補給を準備しない部隊だから、最初描いたタイムスケジュールを崩しさえすればロシア軍は進めなくなると。それがキーウでの作戦で実際、起きた。今回もやっぱり5月9日という目標のセッティングが結局、今、名越さんおっしゃられたように、5月9日までにドンバスを取るということであるならば、そこをいかに止めるかということで、そのタイムスケジュールが崩れるとロシア軍は補給や部隊の交代などを準備していないから総崩れになっていくであろうと。だからプーチンが描いたロシア軍の進軍の時間軸を崩す、そこに集中すれば、ロシア軍は兵力の数でいかに勝ってても崩れていくという見通しがあるようで、その通りにウクライナ軍と米国は共同で動いているのかなという感じがします。
上山
アメリカ側の戦略もあるんじゃないかということですね。
■戦況に大きな影響を及ぼす「榴弾砲」
菅原
東部での戦いですが、高橋さんは重要な兵器があると指摘しています。まずその前に、地上戦の基本についてですが、現代陸戦の基本として、高橋さんによれば、「諸兵科連合戦術は「じゃんけん」ということです。
こちら、対戦車ミサイルは戦車に対して優位ですが、歩兵に対しては弱い。ただ対戦車ミサイルに優位な歩兵は戦車に対しては弱い。歩兵に対して優位な戦車は対戦車ミサイルに弱い。「グーチョキパー」のような関係だということです。高橋さん、地上戦では優位性などを考慮して戦術を組むということなんでしょうか。
高橋
そうですね。ですから、「グーチョキパー」、全部の手を揃えておかないと勝てないし、どれかが失われることになると、劣勢に立たされるということですね。
菅原
つまり戦車だけ多くても、ジャベリンだけあっても、本当に優位に進めるとは限らないわけですね。
高橋
とりわけこのドンバス地方みたいな広い戦場ではそういうことになります。
菅原
ただ、こうした「じゃんけん」の図式を超える兵器があると言います。それが「榴弾砲」です。一般的に射程距離が20㎞から40㎞で、放物線を描いて射撃する「間接照準火器」ということです。戦車などは、見える敵を撃つ「直接照準火器」ですが、榴弾砲、は座標などで攻撃ができるということです。
高橋さんは、ウクライナ軍とロシア軍、榴弾砲の破壊合戦になると指摘しています。両軍の榴弾砲の状況ですが、ウクライナ軍がおよそ1100門、ロシア軍がおよそ5000門保有しているということですが、しかし、ウクライナ軍には欧米から榴弾砲が届いています。欧米から支援される榴弾砲ですが、アメリカ、ドイツ、フランスなど西側各国から榴弾砲が提供されています。これを見るだけで、現在の戦いの中で、榴弾砲がいかに重要かがわかる気がしますが、高橋さん、この榴弾砲が重要性、改めてお願いします。
高橋
先ほどの「じゃんけん」の話で言うと、戦車や歩兵、対戦車ミサイルが戦っている戦場は、広がり、奥行が何キロかなんですよね。実際に戦っているところでは長くて5キロぐらいです。ところが、榴弾砲の射程は20 キロを超えますから、その戦場の後ろから攻撃をするわけです。且つ、榴弾砲の砲弾が直撃すれば戦車でも耐えられないですから、あるいは、その歩兵はかなり広い範囲でやられますから、威力はすごく大きい。威力がすごく大きいのが分かっているので、相手の砲の位置を探して、その砲をまず叩こうとする攻撃は、当然行われるわけです。それは、制空権が取れれば航空機でやりますし、ただ制空権がそもそも取れていない、お互い、まだ戦闘機同士が戦っている状態だと、砲を探すレーダーなんかを使って、砲を探して砲で撃つという形になっていくということですね。
菅原
数ではロシア軍がかなり上回っていますが、欧米が提供する榴弾砲の性能など含めてどちらが優位なっていくのでしょうか。
高橋
ロシアの5000というのはロシア全土なので、ウクライナ戦線に全部向けられるわけではないですから、その意味では、結構、拮抗している状態ではないかなとは思います。あとは欧米からの新しい砲がどんどん入ってくるわけです。あとはドローンですね。先ほど、榴弾砲同士の撃ち合いになると申し上げましたけど、例えば、スイッチブレードとかフェニックスゴーストみたいな、自爆型で、カメラで地上を見ながら攻撃できるドローンというのは、当然それを使って相手の砲を探して、火砲を探して攻撃することができます。これはロシアが持ってない兵器ですから、こちらを数百の単位で投入できるウクライナ軍は、かなり優位な立場に立ってるということは言えると思います。
菅原
榴弾砲の直接な支援だけではなくて、こういった支援も今後、戦況に大きな影響を与えることですね。
高橋
そうですね。
菅原
名越さんは この榴弾砲の支援、戦いについてはどうご覧になりますか?
名越
高橋さんの「グーチョキパー」の話、非常に興味深く聞いていたのですけれども、これまでウクライナ軍は比較的、ゲリラ的に戦って善戦したと思うんですね。やっぱり大平原の戦い、総力戦ということで、天王山ということなんですかね。CNNテレビで、米軍OBの専門家が出てきて、NATOのウクライナ軍への兵器提供は、秘密ルートを通じて順調に進んでおり、4月に表明した武器の多くは既に届いていると言っていました。ポーランド経由だけでなく、ルーマニアからもいっているようです。武器供与は順調にいっており、これもロシア軍を押し込んでいる理由かもしれません。
■ハルキウ周辺でウクライナ軍が反転攻勢
菅原
続いてのテーマがこちら「ウクライナ軍「反転攻勢」 戦況が大きく変わる可能性も」。
侵攻するロシア軍に対して、守るウクライナ軍、こういう構図で戦いは続いてきましたが、その図式が変わることが起きています。ウクライナ軍のザルジニー総司令官は、「ウクライナ軍はハルキウ、イジューム方面で反撃に移行している」と明かしました。戦争研究所は5日、これは攻撃作戦の移行に関する最初の軍事声明だとしています。
ロシアが重要視する戦勝記念日を前にして「反撃作戦」を開始し、反転攻勢に打って出たウクライナ軍。ウクライナ政府は、4月の最終週に北東部ハルキウ州内で約2か月ロシア軍に占領されていた村のうち、少なくとも11の村を奪い返したと発表しました。詳しく見ていきます。
上山
こちらをご覧ください。ウクライナ第2の都市、ハルキウ周辺でウクライナ軍が反転攻勢をかけています。ハルキウから北東にロシア軍を追い出すように展開しています。4月30日にはルスカ・ロゾワ、2日にはスタリーサルティフ、ロシア軍によって占領されていた地域を次々奪還しています。支配地域を取り戻しています。6日の戦争研究所は、ウクライナ軍の反撃作戦について「このウクライナの作戦は、より局所的な反撃とは対照的に、より広い範囲への攻撃と発展している」「ハルキウ周辺の『広い弧』に沿って領土を奪還している」「これはこの戦争でこれまでに見られたものより、大規模な攻撃作戦を開始する能力を示している」としています。高橋さん、このタイミングでウクライナ軍が「反転攻勢」に出てきている。これはどのようにご覧になっていますか?
高橋
元々、私自身も、キーウからロシア軍が撤退した段階で、ウクライナの反撃オプションとして、ハルキウからの反攻というのはあると思っていたんです。いくつかの番組でもお話しさせていただいたことがあるんですが、それはハルキウから反攻することで、まさにイジューム周辺のロシア軍の補給を切ることができるからですね。ただ、同時にロシア領内に近い場所なので、ロシア側の再反撃の密度も相当高いですから、ギャンブル性は高い作戦になると思っていたんです。なので、ウクライナ側は、おそらく余ったキーウの防衛兵力をハリコフからの反攻に充てるのではなくて、イジューム南部の防衛に充てたんです、最初は。
上山
最初は、こちら側(ハルキウ周辺)に持ってくるのではなくて、イジュームの南部のほうにウクライナ軍は持っていったと。
高橋
そうですね。そのほうが確かに安全な作戦ですから。一方でおそらく西側からの軍事物資の援助がある程度溜まってきている。例えばポーランドからの200両の戦車は既に入っているというのは、先週の情報としてあるわけで、そういった兵力を使ってハルキウから反攻をしているのではないかというのが、今、私が考えている仮説です。現状、ハルキウ近郊から既に30キロくらいまで押し戻しているので。
上山
どちら側に押し戻しているんですか。
高橋
ロシア方面に。ロシア軍は戦争が始まってすぐにハルキウ近郊まで来て、ただ、ハルキウの中に突入するのは避けて迂回してイジュームに行っているんです。
上山
ここはウクライナの領地ですよね。
高橋
ただし、そこに榴弾砲を配備して、ハルキウを砲撃し続けていたんです。それでハルキウの中で結構な被害が出ていたんですが、30キロ押し戻したということはもうほぼ射程外です。
上山
この部分から30キロ押し戻したので、こちら側から榴弾砲が届かないと。
高橋
届かなくなった。
上山
ハルキウ自体も安全になってきていると。
高橋
そうですね。まずそれが(ウクライナの)最初の攻撃の目標だったと思います。押してみると意外と押せているので、このまま補給線を切ってしまえというような攻撃になっているようには感じられます。
■ウクライナ軍が狙う“ロシア軍の補給路”
上山
今の補給線という話を地図で改めて見てみたいと思います。
ハルキウ、イジュームは、4月1日にロシア軍が制圧したとされている地域なんですが、イジュームに対してロシア側から補給物資を送るルートは、主に2つ、大きなルートがあるわけです。この1つ、まず見たいのが、西側の紫色のルートですが、ロシアのベルゴロドからハルキウのそばを通ってずっと南下していくルートです。そしてこのルートを横切るように、ウクライナ軍、かなり奪還しているということが分かります。さらにもう1つ、補給ルートがあって、現在のロシア軍がイジュームへの主要な補給路にしていると見られるルートです。ウクライナが奪還している地域がこのまま東側に行くと、現在の補給路と見られているルートも迫っていくようにも見えますが、高橋さんの説明だと、ロシアの補給路を狙うというのがウクライナ軍にもあると。
高橋
あると思いますね、はい。補給が切れてしまうと、もう機械化部隊、戦車なんて、燃料が切れたらただの箱ですから。ほんの何日かでそうなってしまいますから、非常に重要な作戦になると思います。
上山
先ほどから説明したように、イジュームには22の大隊戦術グループがいるわけですから、相当数の人数がいる。ここの補給路を絶ってしまうと、ここが孤立してしまう。
高橋
はい、孤立して撃破される。つまりウクライナ軍を包囲、撃滅するつもりで始めた作戦が、ロシア軍のかなりの部隊が包囲、撃滅される可能性が出てきている。逆にそういう可能性が出てきたということですね。
上山
ウクライナ軍が補給路を脅かすということになれば、やはりイジュームにいるロシア軍としては、南下したいわけですが、こちら(補給路側)に縛られることにもなるんでしょうか。
高橋
当然、補給を切られないためには、戻って守りを固めなければいけないので、おそらく南側に向けての攻勢の圧力は必然的に弱くなることになります。
上山
ウクライナ軍としては今、反撃、反転攻勢に出ているわけですけれど、先ほど、お話にありました、西側の武器供与が改めてポイントになってきている。こういった地域に届き始めているということですね。
高橋
そうだと思います。このタイミングでやっぱりウクライナ軍の行動が非常に積極的になったということの背景には、時系列的に見ればやはり援助物資、援助兵器が与えてくるタイミングと上手く符合していると考えるのがいいかなと思います。
上山
この辺りに届いた兵器で、どういった兵器が有効だったんでしょうか。
高橋
まずはやはり戦車でしょうね。地面を取り戻すためには、戦車と歩兵の組み合わせが必要です。歩兵はさすがに西側から入ってこないので、戦車について、とても大きな効果があったのではないかと思います。ただ何か1つ、ワイルドカード、ジョーカーがあって、そのジョーカーがあったから戦況が変わったというよりかは、対戦車ミサイルやら戦車やら、あるいは歩兵の兵器やドローンやらといった、言ってみれば絵札をそろえて、強い絵札をそろえて戦うことができたと見たほうがいいと思います。
■ウクライナ軍の反撃にロシア軍は…
上山
今後、なかなか見通しは難しいのかもしれませんが、戦争研究所は、ウクライナ軍が大規模な攻撃作戦を開始する能力を示し始めているとしているわけです。ウクライナ軍としては、このままざーっと東側に行くのかどうか、あるいは上手くはいかないのか、ロシア軍としても何か手を考えてくるのかどうか。この辺りの見通しはどうですか。
高橋
まず、この戦争が始まってからウクライナの参謀本部は、ほとんどミスを犯していないんですよ。キーウ防衛を含めて。なので、今回のイジュームからハルキウに向けての作戦も、非常によく練られたものだと思うんです。おそらく変に深入りすることはないと思います。他方、おそらくこの段階でロシアが恐れていることは、ロシア領への逆反攻だと思います。つまりハルキウからそのまま東に進むだけではなくて、ベルゴロドに向かっての攻勢。
上山
ロシア領のベルゴロドに向かっての攻勢、これをロシア側としては恐れていると。
高橋
恐れることになると思います。実際、1週間、2週間くらい前から、ロシア側がベルゴロド周辺の防備、ハルキウ、ベルゴロド間のうち、ロシア領内の防御を固めているという情報が実はあって。
上山
ここの防御を固めている。
高橋
はい、ですからロシア側としては、その懸念はかなり前から持っていたのではないかと思うんですけれど、今の情勢を普通に見る限り、単に補給線を切るだけではなくて、ベルゴロドを占領してしまえば補給は全部切れますから。ウクライナがそれをやるとは私は思わないんですけど、ロシア側としてはそれを懸念せざるを得ないと思います。
上山
この地域については、ロシアは攻撃を受けていると主張していました。
高橋
そうですね、破壊工作みたいな謎の爆発がいくつも起こっていますね。
■「政治が関与して混乱」「米国が懸念するのは…」
上山
名越さん、あすは戦勝記念日で、ロシア軍としては何とか戦果を得たいと見られていましたが、そうは上手くいっていないわけですね。ウクライナ軍が押し戻している状況ですけれど、ロシア軍の内部としては政治的な意図と、それから軍事的な意図、この辺りが拮抗していて上手くいっていない、こういったところはあるんでしょうか。
名越
おっしゃられたように、僕は政治が関与してくるから混乱するんじゃないかと思うんです。みんな5月9日までにロシア軍が大攻勢に出て、2つの州の制圧があるんじゃないかと思ったんだけど、逆の展開になっていますよね。ウクライナ側が反転攻勢に出ている。ウクライナ軍の幹部は5月9日に向けて何かサプライズをやると、サプライズ攻撃をやる。つまりロシアの面子をつぶすために何か大きなサプライズがあるかもしれないと予告しているんです。それは陽動作戦かもしれないけれど、ロシア軍について思ったことは、強くなかったということなんですかね。
上山
杉田さんはここまでご覧になってどうですか。
杉田
まさに高橋さんがおっしゃった通り、ポーランドおよび外国からの兵器の供与がすごく功を奏しているということだと思いますね。思い出すのは4月の下旬のことです。ウクライナのクレバ外相という外国メディアのインタビューに積極的に出ている外相がいるんです。彼がアメリカのテレビのインタビューで、アメリカおよび西側からの兵器の供与について聞かれたときに、「最初この戦争が始まった時は、アメリカもNATOも、ウクライナがこの兵器が欲しい、あの兵器が欲しいと言っても何もくれなかったと。ダメダメダメだったと。それが段々少しずつこれはいいよと、でもこれはダメだよと選別して提供してくれるようになってきたと」「ところが、4月下旬の段階では、今は欲しい兵器のリストを出すと、全部くれるようになったと。だから我々はアメリカやNATOに対して不満は何もないです」と明言しているんですよ。ですから、それが高橋さんのおっしゃった通り、色々な兵器がそろってきて、6月中旬くらいから大攻勢をかけるんだというウクライナ側の発言になっているのと思うんです。
もう1つ言うと私も、高橋さんがおっしゃったロシア領内への攻撃をどうするかということがあると思ます。これはまさにアメリカが一番嫌っている戦争のエスカレーションなんですよね。プーチンとしては、ロシア領内への攻撃はまさに面子をつぶされるので、そうなったら「次の兵器」という考えが働いてしまうかもしれないと。だから今は,、ロシアを追い返すということもそうなんだけど、ウクライナをどうやってある段階のところで止める、ロシア領内まで攻め込ませないというような、そういうような別の悩みも生じているのかなという気がしますね。
上山
高橋さんは、ウクライナ側が言っている6月中旬にかなり大きく反転攻勢をするというのは…。
高橋
基本的には占領地域の奪回だと思います。まずはルハンシク州もあるし、あとザポリージャの南部、ヘルソン州もありますから。この戦いで勝てればまずはルハンシク州の北部くらいまではそのまま取りたいと思っていると思うんですけれど、もし6月中旬という形、要するに1カ月、準備期間を置くということであれば、もう1回兵力の再編成を行って、ヘルソンからの反攻というのが可能性としては考えられます。
■ロシアは輸送ルート狙うが「砲撃では困難」
菅原
そしてロシアが徐々に押し返される中、こういった懸念が高まっているんです。こちらです。「強まる欧米の武器支援 プーチン大統領『核』で対抗の懸念」です。
詳しく見ていきたいと思います。ウクライナの戦況でロシアが不利になっていくと、逆に強まるのが「核」で対抗するという懸念です。ペスコフ大統領報道官は3月、核使用について「我が国の存亡に関わる脅威にさらされればあり得る」としています。ウクライナで追い込まれた場合も「存亡に関わる脅威」と判断するのか、注目されています。
ウクライナで思い通りの展開になっていない中、ロシアが神経を尖らせているのが、「欧米の武器支援」です。ショイグ国防相は「ウクライナ軍への武器や物資を積んで到着したNATOの輸送機関は我々の正当な標的となる」と発言。アメリカ国防総省高官は4日、ロシア軍機が過去24時間に200~300回、主に輸送インフラを標的に空爆していると分析。その標的として攻撃を受けたインフラはリビウなど5つの鉄道駅周辺の6つの変電所、オデーサやドニプロの橋などです。
こちらの地図でみますと、赤い印がついている所が攻撃を受けた場所ですが、鉄道に関連した施設が標的となっています。ヨーロッパとの国境から東部に運搬するインフラが狙われているということです。
しかし、ロシア軍の「武器提供」を狙った攻撃についてアメリカ国防総省のカービー報道官「ロシア軍は精密な攻撃が得意ではない。東部への兵器の運搬は信じられないほどのペースで続いており、毎日続いている」と、ロシアの攻撃は武器提供を妨げていないとしています。高橋さん、ロシア軍が攻撃をしていても毎日、兵器の運搬続いている、輸送を妨害するということはなかなか難しいことなんですか。
高橋
難しいです。まず輸送中の車両をリアルタイムで攻撃するのはまず不可能。これはアメリカでも不可能です。鉄道ということで言うと、線路を破壊する、変電所を破壊するということが当然考えられるわけですけど、おそらくウクライナの鉄道当局も、その修復にかなりのエネルギーを割いているでしょうし、あと、まさにルートがいくつもあるので、代替ルートをすぐに組み換えをしてやっているのだろうということが想像できます。あと、空爆目標の選定は、非常に複雑な作戦なんですよ。米軍でも試行錯誤を湾岸戦争以来やって今に至っているので、そのあたりの方法論とかが、ロシア側は未発達だということも考えられますし、あとは単純に武器の精度が低いということも考えられます。
菅原
狙っていても、長距離の砲撃ではこういったことは出来ない。空爆は…。
高橋
上空に爆撃機が入れる状況ではありませんから、ミサイルで撃つわけです。ミサイルの誤差5mだとか10mだとか、どんなに精度が高くてもありますから、ロシアの場合は。ウクライナがもしロシアが使っているGPSですね、グロナスに対するジャミングなんかをやっていたりすると、命中精度はすごく落ちますから。線路を破壊するためには本当に当たらなきゃいけないじゃないですか。1mずれてもダメなことはあるわけで。
菅原
そうですね、よく見ると幅そんなに広くないですよね。施設などに比べると。
高橋
はい、そういった意味で攻撃の難しさはあると思います。
■米国はさらに軍事支援へ ロシア核使用の恐れは!?
菅原
武器の供与を止めようとしているロシア側ですが、欧米側としては支援の手を広げています。例えばアメリカです。対砲兵レーダーなど、さらに追加支援を発表しました。ドイツは自走の榴弾砲、さらにイギリスも大型のリフトドローン、さらに支援していくと発表しています。
さらに「ゼレンスキー大統領とジョンソン首相は、民間人への砲撃を防ぐための長距離兵器の提供など、ウクライナ軍が必要とするものについて協議した」と伝えられています。
そしてアメリカでは、番組内でもお伝えしましたけれど、実質的に無制限の武器支援が可能となるレンドリース法(武器貸与法)が4月28日、下院で可決されました。あす、バイデン大統領が署名すればレンドリース法が成立しますので、杉田さん、アメリカがウクライナに対して無限に支援できるということになるわけでしょうか。
杉田
そうですね、レンドリース法というのは第2次世界大戦の時にアメリカが発動した法律で、最初に英国、続いて連合国の他の国々の軍の兵器を拡充したわけですけれど、今回の問題はどこまでを天井に持っていくかということですよね。つまりエスカレーションを避けなくちゃいけないということがあるのと、実際問題として、プーチン大統領がかなり激情的になっている可能性があるので、それを避けつつ、同時に、今回の戦争におけるアメリカやウクライナの目標を達成する、という難しさがある。
要するに今回の戦争のアメリカ、ウクライナの目標は何なのかというところが改めて問われてきています。勝利は何なのかということですよね。アメリカは目標をシフトさせてきています。初めはウクライナの独立、主権を守る、つまりキーウの陥落、ゼレンスキー政権の崩壊を防ぐ、そこまでだと言っていたものが最近はロシアを弱体化させるということを言ってます。ロシア弱体化というのはプーチン政権を潰すということかということになって、となるとロシアは国家存続の危機ということで核使用の可能性も出てくるあけです。それで慌ててロシア弱体化という表現にフタをしようとアメリカはしています。侵攻が始まって以来、ずっと解決されていない、どこにレッドラインを引いて、どこを戦争の終着点にするのかということがこれから最大の課題になっていくと思います。
菅原
名越さん、ロシアがどんどん追い込まれていく中で、プーチン大統領が一体どこをラインとして、あってはならないことなんですが核を使用するのか、しないのか。どう見ていらっしゃいますか。
名越
バイデン大統領はレジームチェンジとか言い出したんです。プーチン政権崩壊までやろうとしている感じがあるんですけれど、国家存続の危機、これはロシアの核使用の軍事ドクトリンに4つくらい条件を上げているんですけれど、最近よく言うのが国家存亡の危機に瀕した時と。これは非常に漠然とした言い方で、結局は、政権存亡の危機だと思うんです。プーチン政権が追い詰められた時、つまり、これから負けが続いて苦戦が続いて、国内で政権批判の動き、あるいは、,反戦運動とか起きたりすると、そこで危機感を抱いて、国内情勢ともリンクしてくるんじゃないかと思うんです。ただ、使用する場合、軍とか情報機関の中には反対論が結構あるわけです、バランスを崩すと。ロシアの謀略装置から大統領を阻止する動きが出るのを期待したいです。
■プーチン大統領 核使用のレッドラインは!?
菅原
高橋さんは、核のレッドライン、どういったお考えでしょうか。
高橋
核兵器の使用についてレッドラインというのはないんです。これは私たちの専門家では、「ある条件が整ったら核兵器は使われると考えているのはアマチュアである」と言われています。それはアメリカでもロシアでも同じです。核兵器の使用というのは最高指導者が決めることなんです。だから事前の状況で、こうなったら使われるだろうと思っている状況で,も、最高指導者は使わない判断をすることはありえる。逆にこの状況じゃ使わないよねという状況でも、最高指導者が使う判断をすることはありえる。つまり最高指導者の能力や人格やら責任感や全てが問われた決断になるので、外から議論するのは難しい問題なんです。
ただその前提であえて申し上げると、プーチン大統領が核兵器使用の決断をするとすれば、それは核兵器使用によって戦争に勝てると思った時、あるいは核兵器使用によって戦争に負けないと思った時なんだと思うんです。かつ、それを使ってもアメリカが反撃しないという判断が出来た時に、プーチン大統領は核兵器使用の決断をする可能性はある。そこで本当にやるというかどうかはまさに本人の能力、あと人格次第ということなんだと思います。
上山
杉田さんはいかがですか。
杉田
核使用は今、高橋さんがまさにおっしゃっていただいていた通り、ロシアは、核を使えばこの戦争で勝てるのか、というところですね。勝てるための軍事的合理性となると、プーチン大統領は最後の最後で合理性を発揮すると思います。私は今の状況で核を本当に使うのかなと、つまり、押し戻されているのを押し返すために、核は役に立つのかなというのは疑問でます。使うのであれば戦争の初めの段階で使って、もっと世界を驚かせて、ウクライナ軍の抵抗を封じ込めると。アメリカが手を出せない、ウクライナに武器も提供できない、そういう状況に持っていくのであれば、核は最初に使うべきだったけれども、今の段階で戦況を変えるというような効果が果たしてあるのかどうなのか。私は大いに疑問ですね。
上山
この辺り、高橋さんはいかがですか。今、押し返すために核を使うというのは、やはり今のお話になった内容だと、ないですか。
高橋
ちょっと難しいと思います。例えば、それこそイジューム間の攻勢の時に、純粋に軍事的に言えば、イジューム間の攻勢をかける時に小型の戦術核を使うというオプションはあったはずなんです。でも、それをしなかったわけです。今、多分、一番ロシアが核兵器の使用を考えるかもしれないシナリオというのは、ウクライナ軍がロシア領内に逆反攻した時でしょうね。その時にロシア側が食い止められなかったら、かなり真剣に核兵器の使用というのを考えざるを得ない状況にはなっていくと思います。
(2022年5月8日放送)
ロシアの5月9日の戦勝記念日を前に、“天王山”とされる東部戦線でウクライナ軍が反撃を始めた。ロシア軍が支配するハルキウ郊外の集落の奪還を発表。さらに、拠点都市イジュームへの、ロシア軍の補給路も狙う。「間接照準火器」である榴弾砲が戦況のカギを握るとされており、ロシア軍は、米欧からの軍事支援に神経を尖らせ、戦線への輸送路を砲撃している。追い詰められたプーチン大統領が核兵器を使用する可能性はあるのか。