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ロシアへの抗戦奏功!? ウクライナ戦況異変と懸念
■キエフ周辺「ウクライナ側がロシアに打撃」
菅原
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって25日(3月20日現在)。ここへきて、戦況が変わり始めています。ロシア軍の損害が膨らみ、首都・キエフを制圧できないのではないかそんな見方もでています。今日は最新の情勢を詳しくみていきます。本日のゲストを紹介します。ロシア研究がご専門の拓殖大学・海外事情研究所教授、名越健郎さんです。よろしくお願いします。
名越
お願いします。
菅原
そしてもう一方、ロシアの安全保障がご専門の防衛省・防衛研究所 山添博史さんです。よろしくお願いします。
山添
宜しくお願いします。
菅原
きょうの最初のテーマはこちらです。「南部・北部で情勢に違い 戦況が変わり始めたのか」
南部・マリウポリではロシア軍が町を包囲し非人道的な攻撃を続けています。一方で北部、首都・キエフでは、ウクライナ軍がロシア軍を押し返すような状況が出てきているということなんです。
菅原
首都・キエフを包囲しようとする動きを見せているロシア軍。ウクライナ軍との「首都攻防戦」になっています。東と西、キエフ市の入り口で衝突しています(3月20日現在)。まずキエフ西部の戦況ですが、18日のリポートでは「キエフ北西にあるウクライナ軍は、局所的な反撃でロシア軍に甚大な被害を与えた」。さらに19日、ウクライナ軍が(キエフ)西部の主要ルートを封鎖したと発表しました。
そして、キエフ東部の戦況ですが、ロシア軍が近い将来「キエフ包囲」を完了したり、北東部で機動攻撃を再開することができない可能性が高いこう分析されています。
さらに、ウクライナ軍の話としてキエフ東部で2つの防衛線を構築したということです。ここ数日はキエフ周辺の西も東もウクライナ軍が押し返しているような情勢になっています。ロシア軍の作戦について、アメリカの国防総省高官は「長距離の砲撃を増やしている」と分析しています。
一方、ウクライナ軍は、「焦点はロシア軍のロケット砲を市内中心部の射程から遠ざけること」と目標を話しています。
山添さん、先週の日曜日(3月13日)までは、イルピンなどで激しい地上戦が行われているという情報がありました。それが今は、地上戦ではあまり動きがなく、ロシア軍が遠くから砲撃や空爆を続けているということです。この変化、どういう理由が考えられますか?
山添
ロシアは大軍を集結させて、ウクライナ軍の陣地を破って包囲をするとことを目指していたはずですけれども、戦力としても前に進まないし、補給もなかなか上手くいかない。元々、全然ちゃんとした大規模な包囲作戦の計画ができていなかったとみられるわけですけれども、さらにウクライナ国防省が我々に配布している資料にあるデータだと、15日から18日までの3日間でも飛行機12機落としてるとかですね、ヘリコプター22機とか、かなりの数、ウクライナ側がロシア側の戦力に打撃を与えています。ここではロシア軍はむしろ押されているという状況だと思いますね。
菅原
その結果が最前線での侵攻よりも現状遠くからの砲撃に限られてしまっている、こういった見方でよろしいですか。
山添
そうですね。それでも少しずつでもこのキエフに圧力を加えると、恐怖を与えていくことは続けているわけです。
■ロシアの損害「予想外…焦りで民間施設砲撃か」
上山
ウクライナ軍の作戦ですが、こちら、キエフ市内をさらに拡大したものです。真ん中をドニエプル川が通っていて、東側と西側となっています。防衛ラインを確認します。西側はイルピン川ということで、ロシア軍はこれまでのところ、イルピン川を渡れていない。そして東側の防衛ラインはプロバルイ郊外ということで、ロシア軍がプロバルイ郊外で行き詰っている。全体を見てみますと、ロシア軍の砲撃や空爆は、主に西部を中心に行われているようにみえます。
ロシア軍はキエフを包囲しようとしているということですが、南側について、従軍記者が16日、SNSで「南側の道路は通行できていて、キエフ市内に入るほうも出るほうも、車やトラックでいっぱいです。ガソリンスタンドや道路も比較的正常です」と、物資は南側からキエフ市内に届いていると伝えています。名越さん、今後、ロシア軍はどうしようとしているのか、どうお考えですか?
名越
ロシア軍は短期決戦で攻めようとして非常にずさんな計画だったわけですよね。戦術が非常にずさんで、膠着状態に陥っていると思うんです。この1週間ぐらいキエフ戦線にあまり大きな変化なくて、ロシアこれから今、戦線を立て直して補給を強化して、これから総攻撃出るのか、あるいは航空戦力を使うのか、あるいは、士気が低下して、なかなかあまり戦えるような状況でないのか、その辺がよく分からないですが、不気味な感じがあるんですね。ロシア側がどう出てくるかというのが重要な局面に入ってくると思うんですけれどもね。
上山
今後の侵攻を考える上で、大きなポイントがロシア軍の損害の状況です。16日には1日で5機のジェット機、3機のヘリコプター、10機のロシア航空機を破壊したとウクライナ政府は発表、ここまでロシア軍は7000人の兵士が死亡。装備品のおよそ10%を失い、そして巡航ミサイルをほぼ全供給量使い切ったとされています。名越さん、ウクライナに侵攻し始めて25日、これほどの損害が出ることはロシア軍にとっては、ある程度、計算済みだったのですか。
名越
予想外でしょ、7000人という数字は。アメリカの国防省も出しているんですけど、20日間で7000人と。これは実は、アフガニスタンとイラク戦争での、米軍の犠牲者をすでに上回っているんですね。相当の数で、負傷者が1万5000から2万人以上と言われていますよね。正確な数字わからないんですけれども、これは想定外の数字です。ロシア軍は、ウクライナに入ると歓迎されるとか、演習と言って、兵士を中に入れたわけですよね。そうしたら、こういう激しい抵抗にあったということで、誤算から今、焦ってですね、民間施設の攻撃に入ったのかなという気もするんですけどね。
上山
焦りが。
名越
焦りがあると思いますね。
■「まともな戦闘じゃない話が進む可能性」
上山
山添さん、ロシア軍は、すでに大きな損害を受けている状況、さらに他の都市でも戦いが長期化しています。首都・キエフを制圧する力が残っているのでしょうか?
山添
非常に疑問ですね。名越さんがおっしゃったように、これは普通の戦争では考えられないぐらいの損害を、すでにすごい速さで受けています。ただ、これを反省して立て直しているのであれば、兵力自体はまだ使えるものがありますし、しっかり集中させて、しっかりした戦車の運用とか、立て直してくれるのであれば、時間をかけてロシア軍が本来の力を発揮する可能性もあるということは考えておかないといけないと思っています。
上山
立て直せばまだ可能性としてはあるという。
山添
立て直すと言うのが、先週くらいにシンクタンク戦争研究所(ISW)のレポートでも言われていたので。ただ、それが遅れている、あるいは、立て直せないという焦りがある可能性もあります。焦れば焦るほど、南部の方とか色んなところで、まともな戦闘じゃない話が進む可能性があって、これの方が私としても懸念をしているところです。
上山
木内さん、あとお金の面ですが、1日、戦費が2.3兆円かかっているという分析があります。ロシアの国家予算がおよそ37兆円とされていますので、どこまでコストをかけられるのか、どうお考えですか?
木内
この数字だと16日間で国家予算使い果たすということですし、いわゆる軍事予算であれば数日で使い果たすようなペースなんだと思うんですよね。ですからこれは今までお話あったように、短期決戦で臨んだところが予想外に長引いているということで、財政の負担がかなり強まっているというところだと思います。今、海外の人に買ってもらっている国債のデフォルト懸念が出ているんですけれども、それだけじゃなくて、国内で財政がすごくひっ迫するということも出てくる。お金の面で、やはり軍事行動に制約が出てくる可能性があるんじゃないかなと。
■「泥の海」が阻むロシア軍の侵攻
菅原
さらにロシア軍を停滞させていることがあります。次のテーマはこちらです。 『ロシア軍に暗雲 侵攻を妨げる「2つの問題」』。
詳しく見ていきます。まず1つ目の問題ですが、Rasputitsa(ラスプティツァ)。どういうことかと言うと、「泥の海」という意味で、ウクライナ北部・ベラルーシ・ロシア南部で春の雪解け・秋の雨季に、土地がぬかるみ泥だらけになることなんです。
こちらの映像をご覧ください。舗装されていない道ですが、ロシア軍の戦車が動けなくなっています。
ウクライナ軍の説明では、攻撃で壊されたのではなく、泥にはまって動けなくなり、ロシア兵が乗り捨てていったということなんです。他の場所でもこうしたことが確認されていて、泥にはまってロシア軍の戦車が動けなくなっているんです。
3月後半になり、凍っていた地面が溶け始め、「ラスプティツァ(泥の海)」と呼ばれる季節に入ってきたんです。「ラスプティツァ(泥の海)」、歴史的に、この地域の安全保障に大きな影響を与えてきています。1941年、独ソ戦争ではナチスドイツは、泥で前進が遅れ、結果、ソビエトの首都は占領を免れたとされています。その写真があります。
ナチス・ドイツの車両が泥にはまり、20人以上の兵士が泥をかき分けているんです。さらに、1812年の、ナポレオンが率いるフランスのロシア侵攻でも、泥が大きな妨げになったとされています。
これまでロシアを守った泥が、今回は侵攻を妨げているということで、山添さん、近代化した車両や戦車でも、泥は大きな問題になるでしょうか。
山添
皮肉なことにモスクワの主が侵略者になったというのが大きな違いですけれども、ウクライナの地を守るのに侵略者が「ラスプティツァ」に妨害されているというのは同じことなんですね。その当時、80年前と比べても、今の方が道路網が発達して安定していますので、それを使うことであればまだ進軍ができるわけですけれども、道路に沿って行くと、道路の周りからウクライナ兵が戦車を撃つということですので、簡単にはいかない。結局、それで道路から出て泥にはまるということになります。
そしてもう一つ、今回の皮肉というのは、この泥にはまって動かなくなった時に、ナチスドイツの兵は、もう必死でなんとかしないとひどい目にあうわけですからなんとかカバーして進軍しようとしますよね。それから、ソ連兵が国土防衛のためであっても必死で立て直そうとするでしょう。でも今、ロシア兵は何のために命をかけるのかさっぱり分からない、というモチベーションのない状態で来ていますので、はまってしまったら、これ幸いと逃げるという人もかなりいるんじゃないかと思いますね。
菅原
モチベーションの問題から、もうはまった時点で一生懸命出すのではなく「もう乗り捨ててしまえ」と、こういった考え方に変わってしまう
山添
仕方なかったですと言える状態になってしまっているんで。
菅原
待ち構えているウクライナ軍の話もありましたけれども、こういった舗装したところを通っても、一列にならなければならなくて、それを外れれば、こういったぬかるみにはまるわけで、ぬかるみに入ったら入ったで、今度はまた狙いやすくなるわけで、ウクライナ軍としては叩きやすいと言えるのでしょうか。
山添
実際、戦争が始まる前に、ロシアが本当に戦争を始めることはないだろうと言っていた人々の根拠は、2月の後半の頃にはもう泥が解け始めていて、本格的な戦車戦はできない状態だということでした。それでも開戦したというのは、時期とか準備とかの意味でも、かなり無理があるずさんな計画だったわけです。
■侵攻3週間で将軍5人死亡の“異例”
菅原
そして、ロシア軍にとって、もう1つの問題があります。この1週間でアンドレイ・モルドビチェフ中将、オレグ・ミチャエフ少将2人の将軍が戦死しました。これまでもこのように3人の将軍が戦死しています。侵攻3週間で、司令官である20人の将軍のうち、5人がすでに死亡しています。
このロシア軍の将軍5人が戦死したことについて、専門家は「事故だと思わない。1件なら事故だが、これだけ多いのは狙っているから」と分析しています。
さらに「ロシア軍の将官クラスへの攻撃を専門とする軍情報チームがウクライナにある」。ウクライナの大統領顧問はこう話しています。ピンポイントで司令官を殺害しているということです。
なぜ、こうしたことができるのか。アナリストは「ロシア側が携帯電話やアナログラジオで軍幹部と連絡をとっているなら、ウクライナは全てを把握している」。ロシア軍の通信手段が解析されている可能性を指摘しています。
名越さん、将軍が3週間あまりで5人戦死する、戦況に影響を与えているのでしょうか。
名越
一部情報だと20人ぐらいの将軍が入っているらしいのですね。つまり、士気を高めるために将軍自ら前線で指揮すると。しかし、先ほど言われた通り、セキュリティ対策が施されていない携帯で電話するのだから、ウクライナ軍に傍聴されるわけですよね、そこをピンポイントで殺される。あるいは、ウクライナ軍に優秀なスナイパーがいるという、それは独ソ戦の時からの伝統なのですけれども、それが訓練されていて、スナイパーに撃たれたケースもあると。そういうことありましたね。
菅原
なぜこういった情報が簡単に傍受されてしまうのか。かなりずさんにも聞こえてしまうんですけれども。
名越
だから ロシア軍の戦略が古風で、あまり進歩してないなと思ったんですね。つまり、2008年のジョージア戦争の時も、あの時も1本道をロシアの戦車、装甲車両がダラダラ進むわけですよね。航空戦力の支援もない、ドローンも使わないと。携帯は記者団に貸してくれとかいったことがあるらしいんですよ。アメリカの記者に、ジョージア軍はどの辺に行ったか知らないかとか聞いてきたという笑い話があってですね、NATOは、ジョージアだから勝ったわけだけど、戦争目的達成したけれども、NATOの精鋭部隊と戦ったら、もうイチコロだったという報告書を出しているんですね。そこからロシア軍は、戦略を立て直して近代戦に戦うようにしたんだけれども、今回の戦闘を見ていると、全然変わっていないなと。非常に古風ですよね。
■ロシア軍の市民への攻撃「恐怖の最大化」
菅原
ただ、南部ではロシア軍による非人道的な攻撃が続いています。次のテーマはこちらです。『南部マリウポリでは「市民への攻撃」激化』。
詳しく見ていきます。マリウポリですが、ロシア軍が20日間包囲しています(3月20日現在)。その状況ですが、マリウポリ市議会によると、市内に35万人以上が取り残されている。1日平均50~100個の爆弾が航空機から落とされている、こう話しています。
市民は地下などに避難していますが、水・食料・薬などあらゆる物資が枯渇しているということです。
上山
こちらがマリウポリですが、ロシアが制圧した地域を示す赤い部分が市内を取り囲み、中心部に迫っています。
ロシア軍が2発のミサイルで攻撃した、1300人の市民が避難していたとされる劇場はこちらです。さらに400人の患者や医師を人質にしてロシア軍が占拠したとされるのがこの病院です。中学校、ショッピングセンター、住宅など、あらゆる建物が破壊されています。住居用建物の8割以上が被害を受けているとのことです。
マリウポリの東部ではおととい(3月18日)、ロシア軍が政府の管理棟を制圧。さらに、チェチェンの戦闘員が東側に配置されたということです。戦争研究所は、「ロシア軍はマリウポリを占領するか、今後 数週間以内に都市に降伏を強いる可能性がある」としています。山添さん、中学校、シュッピングセンター、住宅街、市民が避難していた劇場に続き400人の方が避難していた美術学校に攻撃が加えられたという情報も入っています。どうして民間人を虐殺するようなことをしているのか、意図は何なんでしょうか。
山添
恐怖を最大化して、出来る限り早く降伏しろと迫っているということです。人質をとっているというのもありましたけれども、戦争の大部分が戦争とは言えない人質事件ですね。犯罪者が家の中に入ってきて、人質を殺していって、降伏しろと迫っているという状態ですね。
上山
ここまで攻撃をしますと、かなり民間の方々も被害が出ますし、その前に、占拠するにあたって、逆にこの民間人を保護することもできるのではと思うんですけど、どうしてロシア軍はそういった方法をとらないんでしょうか。
山添
恐怖を掻き立てるということしか知らないという、ちゃんと考えられていない。そういうやり方をずっとやって来ていまして、もうなかなか変えられないというのが実情じゃないかと思いますね。
上山
とにかく恐怖を与えることが目的だということなんですね。
■「ロシアの孤立は戦争が終わっても…」
上山
民間市民の方への攻撃が激しくなっている南部マリウポリの状況をお伝えしているわけですけれども、街の被害の情報をさらに詳しくまとめてみました。西側の集合住宅は、去年撮影されたものと比べると、空襲や砲撃で建物が壊れているのがわかります。
南部のショッピングモールは、去年はこのような状態ですが、9日の衛星写真では屋上が抜け落ちています。木内さん、ここまで破壊すると、ロシアにデメリットも多いように思うのですが、いかがですか?
木内
市長を親ロシア派に変えるような話も出ていますよね。ということは、依然として、事実上の統治をしようという意志が強くあるわけで、そうすると、統治をしようとしている場所をどんどん破壊して、しかも、人々の生活を破壊する形ですから、統治しても人が住めないような場所になってしまうことが、まずはロシアにとっても立て直すにもすごくコストがかかります。それにやはり、民間の設備、民間の方に被害を出すのは、国際的批判がすごく高まる形になるんで、戦争が終わっても、ロシアの国際的な孤立は、非常に長く続いてしまう、それもデメリットじゃないかと思います。
菅原
市長のお話が出ましたので、ご紹介しますけれども、南部や東部では、村長それから市長が相次いで拉致されるというケースがあります。
そういった中で、マリウポリの市長は発信を続けて、ロシア軍による被害を訴え続けていますが、名越さん、今後、マリウポリも含めた、市町村長を捕まえる動きは広がっていく可能性、考えられるでしょうか。
名越
最初からロシアは、中央権力と同時に、地方の権力でも傀儡政権を作ると、親ロシア派政府を作るという方針で臨んでいますけどね。しかし、これこそまさに、ロシアが東部で起きていると言う、ジェノサイドですよね。
■執拗にマリウポリを攻撃する意図は…
菅原
マリウポリをなぜここまで攻撃するのか、プーチン大統領との間に「因縁」があるとされています。それが、クリミア危機・ウクライナ東部紛争です。
※パネル当該箇所43
2014年3月、ウクライナの親ロシア政権崩壊後、親ロシア派がクリミアの拠点を制圧。独立宣言を受け、プーチン大統領がロシアに編入。その後、2014年5月11日、親ロシア派がドネツク州とルガンスク州で「独立」問う住民投票を行い、翌日、独立宣言。新ロシア派とウクライナ政府軍の戦いの舞台になったのがマリウポリでした。
※パネル当該箇所44
そして、停戦合意後も新ロシア派がマリウポリを砲撃。再び停戦合意するも、親ロシア派が近郊に軍を維持するなど、親ロシア派は最後までマリウポリに強い執着を見せていました。名越さん、マリウポリはプーチン大統領にとって、8年前に獲れなかった街を、もう一度、獲ろうとしているそんな面もあるのでしょうか?
名越
もちろん、それもあるんですけれども、マリウポリはドネツク州の一部なんですね。親ロ派勢力は、ドネツク州、ルガンスク州のだいたい4割くらい実行支配していたんです。それを今回、ロシアが2つの人民共和国の独立を承認した時に、州全体を制圧するという方針を打ち出したんですね。
※マリウポリのインサートVTRに名越さんワイプ45
それに沿って、マリウポリもドネツク州の一部だから、それで攻撃するということだと思うんですけど、ただ、マリウポリには大型の製鉄所があるんですよ。ロシア軍はそこも攻撃して破壊したんですね。今後の経済復興発展させるためには、やっぱり製鉄所を温存しないとダメだと思うんですけれども、それをなんで破壊したのか、よく分かんないですよね。
菅原
つまり現在、ルガンスクとこの辺の、親ロシア派の支配地域は、州の中の一部に限られているが、この州全体にそれを広げていこうという意図が感じられると。
名越
しかも、マリウポリはロシア語を話す住人がほとんどなんですよ。彼らを攻撃するのは、全く分かんないですよね。理解に苦しむ。
菅原
山添さんは、ロシアがマリウポリを攻撃する意図をどう見てらっしゃいますか。
山添
これは先ほどからありましたように、ロシアの中での、閉じられた世界の中での話ですけれども、ドネツク州、ルガンスク州がウクライナ軍に攻められている、だから、ドネツク州とルガンスク州を守る、本来の、「ドネツク州とルガンスク州を領有する人民共和国」にするというのが大義名分で、キエフを占領しようなんてことは言ってないですよね。
菅原
もともとの口実がそうだったと。
山添
はい。その大義名分に沿うのがドネツク州にあるマリウポリの攻略。マリウポリが本来の「ドネツク人民共和国」の中に入るということなので、停戦を仮にやるとしたら、一番、整合性が高い拠点ですね。しかも、ドンバス地域と、今のロシア軍が出ていっている地域がクリミア半島までつながっていくということになります。
菅原
黒海沿いに見ていくと、つながるわけですね。クリミア半島までつながる。ここがマリウポリ、海沿いのところがつながるわけですね。
山添
そうですね。それで、マリウポリを制圧すれば、アゾフ海全域をロシアの海にすることができると。そして、「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の安全は守られました、ということで作戦を終えられる、そのように立てつけて、休戦の一里塚に考えている可能性があります。
菅原
停戦交渉を考えても、このマリウポリは押さえる必要があるということで、今かなり攻撃があるということですね。
■「期待できない中国の仲介」
上山
そして18日、テレビ電話での米中首脳会談が行われました。アメリカは中国がロシアを支援した場合の影響と結果を説明し、対中制裁を示しました。これに対し、中国は、「制裁で苦しむのは一般の人々だ。世界の経済や供給網に深刻な危険をもたらす」と主張しました。
名越さん、ロシアは中国に支援を求めているとされていますが、中国が支援するかどうか、戦況を大きく左右しますよね?
名越
僕も、習近平国家主席がキーパーソンじゃないかと思っていたんです。プーチン大統領と40回近く会っていて、お互い、親友と呼び合う仲ですからね。僕は、説得できるのは習近平主席しかいないんじゃないかと思ったんですけれども、これまでの動き見てみると、中国は積極的に仲介に乗り出すという感じでもないですよね。中立姿勢を取って、ロシアの安全保障の懸念にも配慮すべきだと言っていますからね。同時に戦争拡大には反対すると。中国から自ら仲介に出ることは、ちょっと期待できないんじゃないですか。
上山
今後も期待できないであろうと。
名越
さらに戦況が悪化したときは、もちろん、中国もウクライナと経済的関係非常に強いですから、ゼレンスキー大統領は、習近平主席の仲介を望んでいる、仲介に出てもらいたいだろうけども、基本的に中国にとっては、プーチン政権が倒れることが一番怖いわけですよ。つまり、中国の北に親米的な政権ができる、プーチン政権が倒れてですね、そうすると、まさに中国にとっては悪夢になるわけですね。プーチン政権の存続、僕は支援すると思いますね。軍事援助はやれなくても経済援助はやるんじゃないかと思います。
上山
今、経済的には支援するのではないかというお話ありましたけれども、木内さんはどのようにお考えですか。
木内
中国はアメリカから、軍事的に経済的にロシアに支援しないように、強く釘を刺されているわけですね。もし仮にやったら代償、つまり中国が制裁対象になる可能性もあるということだと思います。
今は、中国は慎重なんだと思いますね。中立的姿勢を維持することで、目立って支援することはしないと思います。ただ、貿易はですね、民間レベルで決まっている話でもあるので、ある意味、意図的に支援しなくても、ロシアから天然ガスの輸入増やす、あるいは、小麦の輸入を増やす、今でも行われていますので、事実上こっそりという形で、経済的に支援はすでに行われているんだろうと思います。
上山
それを止める行為までは絶対にしないと。
木内
ですから、それは政治的に制裁を無視しているわけではなくて、あくまでも、民間経済の決定の中で、そういうことが行われているということで、アメリカからの批判もかわしていく。中立姿勢は維持するんですけれども、やっぱり事実上は、経済的にロシアとの関係を維持する、ないしは関係をむしろ強化すると僕は思います。
■生物化学兵器の懸念「恐怖を最大化するために」
上山
侵攻が停滞しているロシアですが、打開するため、新たな手段をとる可能性が指摘されています。プーチン大統領は、19日、「ウクライナでアメリカが『軍事的・生物学的な活動』を行い、容認できない。ロシアだけでなくヨーロッパに大きな危険をもたらしている」と、つまり、ウクライナ側が生物兵器を使用する可能性があると一方的に主張しました。
山添さん、ロシア軍の侵攻が停滞しているとされる中、生物化学兵器を使用して状況を変える、その可能性はあるのでしょうか?
山添
核兵器の段階に行くとすれば、その前の段階として生物化学兵器の使用があるかもしれないです。というのは、さっきから出ていましたように戦況がロシア軍の正規軍とってそれほど好ましくない。それで恐怖を与えるというのが今の戦術になっています。その恐怖を最大化するためには、こういう恐怖の兵器を使うと。
これまで誰も、同胞であるはずのこの地域に、ロシア語住民に対して使うはずがないと思っていたのを使ってしまうとなったら、ロシアの中ではどんな嘘をついてもいい状態になっていますので、「生物化学兵器をウクライナが使ったから次はこれに対抗するためにロシアが核兵器を使うことが必要だ」という話を本当にするかもしれない段階にさらに近づきます。「ロシア連邦軍事ドクトリン」という公式文書には「大量破壊兵器を使われたら核兵器の使用ができる」という規定があって、これを援用すれば、核兵器が次に出てきますよという恐怖をさらに上げることもできるということなので、これは非常に憂慮すべき事態だと思います。
上山
そういった可能性も否定できない、むしろあるという…。
山添
それで、先ほど名越さんからも、私自身もそうなんですけども、理解できないような破壊をやっているという事実の深刻さがあります。この後、支配するはずなのに破壊するというのは、これはもう何するか分からないと見せることをもう決心しているので、まったく理性では止められないですよ、習近平が説得しようと思っても無理ですよというぐらいの攻撃性を見せているわけです。ですから、信じられないような、化学兵器で住民を苦しませるということは、このような世界になってくると蓋然性がかなりあって、とてもこんなのありえないとは言えないのがとっても辛いですね。
(2022年3月20日放送)
ロシア軍が撤退したウクライナの首都キーウ(キエフ)周辺で、民間人の大量虐殺が判明。国際社会に衝撃が走っています。2022年3月20日の『BS朝日 日曜スクープ』は、ロシア軍がキーウ周辺で苦戦する一方で、東南部のマリウポリなどで民間施設の砲撃を激化させている現状を特集しました。拓殖大学の名越健郎教授や防衛省防衛研究所 の山添博史・主任研究官は、ロシアの焦りや、「恐怖を最大化」する狙いを解説しました。