番組表
おすすめ情報
スペシャルアーカイブ一覧
首都キエフを死守するウクライナ ロシア軍は無差別攻撃も
■「ウクライナ軍が頑強に抵抗」
菅原
ロシア軍の攻撃がウクライナ各地で激しさを増し、人口300万人の首都・キエフでは町を包囲するような動きを見せています。さらにゼレンスキー大統領への暗殺計画も報じられています。最新の情勢を見ていきます。本日のゲストを紹介します。ロシアの軍事・安全保障政策に詳しい東京大学先端科学技術研究センター・専任講師の小泉悠さんです。宜しくお願いします。
小泉
よろしくお願い致します。
菅原
最初のテーマはこちらです。「ウクライナ侵攻 ロシア軍の狙いは「首都キエフ包囲」か」
菅原
ポーランドに退避する人たちが増えているということですが、ウクライナ各地でロシア軍の攻撃が激しさを増しています。赤い部分が先週の土曜日、2月26日時点でロシア軍が制圧した地域。そして黄色がその後1週間でロシア軍が制圧した地域です。そしてイギリス国防省によりますと、北部の「チェルニヒウ」、首都キエフへとつながる「スムイ」、第2の都市「ハリコフ」、南部の主要都市「マリウポリ」、この4つの都市はロシア軍に包囲されている可能性が高いということです。小泉さん、この1週間のロシア軍の侵攻の状況をどう見ていますか。
小泉
そうですね。当初はやはりキエフとかハリコフとか、あっという間に陥落するだろうと見られていたわけですけども、それに対してはウクライナ軍、非常に頑強に抵抗していて、まだ占領を許してないわけですね。ただヘルソンですとか、先ほど出てきたマリウポリであるとか、南部の方はかなり占領され始めていますし、やはりキエフ、ハリコフも、いつまで持つかわからないという状況です。今は、当初予想されたよりは、ずっとよく持ちこたえているものの、やはり全く楽観はできないという状況だと思いますね。
菅原
ロシア軍は人口300万人の首都・キエフに迫っています。地図で見ますと、このように、キエフの東側と西側、両方から挟み込むように迫っています。こちらが、キエフ周辺を拡大した地図です。日本時間でけさ(3月6日)、公開された分析では、東側では一部、キエフの都市部にまでロシア軍の侵攻が及ぶようになっています。
4日のアメリカのシンクタンク、戦争研究所の報告では「ロシア軍はキエフを取り囲むことに重点を置いている。西側の包囲は停滞したままだが、東から急速に接近し郊外に到着している」「今後24~48時間以内にドニエプル川東岸の首都を、包囲またや攻撃しようとする可能性がある」。まさにキエフにロシア軍による攻撃が差し迫っているとしています。小泉さん、改めてロシア軍にとって首都・キエフの重要性はどう見ていますか。
小泉
そもそも今回、プーチン大統領が戦争を始める時に言ったのは、ウクライナを非ナチス化するんだと言っているんですよね。つまり、今のロシアの言い分では、ウクライナというのはナチス政権であって、ロシア系住民を組織的に虐殺してるんだと言っているわけです。だからこの政権を転覆しなければいけない。つまり、戦争に勝ってどうこうするというよりは、今のウクライナの政体そのものをひっくり返すことが目的なんだと、ロシアはっきり言っているわけですから。
菅原
言い換えれば、ゼレンスキー大統領ということになると。
小泉
そうですね。現在のゼレンスキー大統領を中心とする政権を退陣させる。おそらく捕まえて裁判にかけるとか、そういうところまで視野に入っていると思うんです。やはり、そのためにも何としてもまず首都キエフを落として、政治体制そのものを掌握することを必ず考えると思いますので、その意味でも、非常に大きな損害を出しながら、やはりキエフに今、ものすごい勢いで迫っているということですよね。ウクライナ側は相当、頑強に抵抗していますけれども、ちょっとこの数日は攻勢が停滞していたような雰囲気もあるんですけども、やはりまだロシア軍は兵力の予備を残してますから、どこかで予備兵力を投入して一気に片を付けようとするという可能性はあると思いますね。
菅原
最新の分析を見ても、キエフの西側に関しては停滞しているという話があります。一方で東側が迫ってくる中で、戦略としてはこのキエフをまず包囲することに重点を置いているという話があります。この戦略上、すぐに攻め込まずに包囲するというのは、一体どういうことなんでしょうか。
小泉
キエフの市内まで突入していくということになると、これは市街戦になりますから、チェチェン戦争の時もそうですし、シリア戦争の時もそうですけども、市街戦は双方にものすごい損害を出すわけですよね。突入していく部隊も損害が出ますし、一般人がまだ住んでいる所で戦うわけですから、すさまじい規模の巻き添え被害を出すと。実際にもうすでにハリコフでは、かなり一般住民を巻き込むような無差別攻撃をやっているようですが、やはりキエフというのはロシア人にとっても歴史的に非常に特別な思い入れがある街ですよね。ここに入って行って、街が廃墟になるまで戦うというのは、なかなか政治的に決断しにくい部分があるんだと思います。ですから、やはり、まずはできれば包囲して、無血開城させられればさせたいということなんじゃないかなと思いますね。
菅原
それがなければ侵攻も当然ありうると?
小泉
当然それは選択肢に入っていると思います。
■キエフ「しっかりした連携が取れている」
菅原
ロシア軍が迫っているキエフ周辺の住民の方と中継がつながっています。パルホメンコ・ボグダンさんです。よろしくお願いします。
ボグダン
よろしくお願いします。
菅原
まず大事なことですので確認致しますけれども、身の安全は皆さん、確保されていて、いつでもシェルターなど避難できる状況にあるんでしょうか。
ボグダン
はい、もちろんそうです。ご安心ください。
菅原
はい。その上で現在の生活について、まず伺いたいんですけれども、食べ物や水、それから生活に必要な物、こういった物は今どうなっているんでしょうか。
ボグダン
昨日の時点で少し市内の方に緊張が走って、我々も、一部の親戚がキエフを離れるという決断を下したんですね。今、キエフ市内がどういう状況になるかというのを注視してまして、我々が今までいたところから離れて、より安全だと思えるようなところ、場所は公開できないんですけども、そちらの方に避難しているというような状況でございます。様子を見て、今後、キエフ市内に戻ったりすることを考えています。食べ物に関しては、幸い、政府、キエフ市、周辺の都市の協力のおかげで、どんどんスーパーの方であったりとか薬局であったりとかの方に運び込まれてて、今、必要なものを全て、日用品に関しても食べ物に関しても買える状況にありますので、そういう意味では生活は安定してますし、心配はなくなってきてます。すごくしっかりとした連携が取れていると感じます。
菅原
そういった中で、電気・ガスなども、今のところ電気もついてるように見えますけれども、そういったインフラも含めて自由に外出したり、今、身の回りで不便を感じていることは何かありますか。
ボグダン
極力、外に出るということは我々はしないですし、しないように呼びかけられてます。外に出た際は、自己責任でどういう結果になっても知らないという、今の戦争のスタンスですので、非常に気をつけて身を引き締めて、外に出ているというのが現状です。インフラに関しては、テレビ塔が攻撃されてから一部の家庭でテレビがつかなくなったことは確認してます。
一部ではやっぱりまだ繋がっているところもあるみたいです。インターネットに関しては自宅のインターネットが非常に今、繋がりにくい状況です。断線した部分の修復工事であったりとか、メンテナンスが企業の方がなかなかできないということがあって、速度が落ちてます。今、大部分の人は携帯のインターネットで接続をしている状況です。幸い、携帯の通信は非常に良好で、ダウンロードであったり、動画であったり、こういう風にインタビューしたりできる状況です。ただ、いくつも僕なんかは回線を用意、昨日からして、1つで繋がらなくてももう一つの方に移れるような配慮を今、行なってます。
上山
今、お話を伺っていて、外に出るのは自己責任だというお話がありました。これは、外に出た場合、確認ですが、どういうことが起こり得るということなんでしょうか。
ボグダン
爆発が急に起きてしまったり、銃撃が急に起きてしまったり、空爆が起きた時に、避難できなかった人の命を守れないんですよね、国もキエフ市も。ですので、基本的に夜、暗い間というのはみんな出ない。明るくなったら出て、必要な行動をする。ただ、昼、空爆が起きない可能性もなきにしもあらずで、そういう意味で僕は自己責任という表現をしてますし、できるだけ外に出ないようにという呼びかけは、皆さん受けてます。
■「ロシアが言うこと、当たっていない」
上山
皆さん、携帯のネット情報などで、状況はご存じだと思うんですけども、ロシア軍がキエフの近くまで接近してきています。ご自身で身の危険を感じたり、ここ数日で何か変化はありますか?
ボグダン
昨日、キエフの市内は非常に静かだったんですね。爆撃の音もほとんど聞こえなかったし、皆さん、ゆっくり休まれたと思います。先ほどからまた爆撃の音が聞こえるようになったと聞いてます。僕の今、いる地区でも同じように爆撃の音は定期的に聞こえるんですね。今後、どういう風になるかというのは、ちょっと今回、これからの状況次第です。ただ、きょう(3月6日)、戦争11日目になるんですけども、例えばロシアが言うこと、欧米のメディアが言うことというのは当たってないんですね。ですので、我々はあまりそういう情報を信じるのではなくて、シナリオ通りに行ってないからこそ、我々11日間こうやって生き延びてるし、僕は皆さんとコミュニケーションできるという状況にあるので、皆さんが思うほど悪い状況ではないと思ってます。
上山
ということは、欧米のメディアが伝えてるところによりますと、今後、かなり攻撃が激しくなるという情報もありますけれども、それについては、どのようにお感じになってるんでしょうか。
ボグダン
ロシアの国家予算が非常に今、きついところまで来ていまして、もうあと数日ぐらいしか戦争ができないと。一部の報道では、もうあと10日間ぐらい持つんじゃないかなっていう報道はあるんですけど、ただ結局、最初の数日で包囲できなかった、侵攻できなかった。1週間経ってさらにできなかった。長期化してるわけですよね。ウクライナの男性も、女性であったり子供であったり、そういうのを避難させて、どんどんどんどん軍隊の方に加わっているし、海外からの支援物資だったりとか、銃だったりとか、そういう兵器もどんどん運ばれてますので、ウクライナ軍がどんどん強くなっていってます。ロシア国内での反発も強まっていますから、なかなかロシアが思うようなシナリオにはならないはずです。
上山
ボグダンさんがキエフ周辺に残るという選択をした理由を教えてもらえますか?
ボグダン
1つは家族全員連れて今、外国に出ることができない。それと僕は今、国民総動員で18歳から60歳は外国に出ることができないということがありますので、例えば、国境の所に行ったところで生活が今より良くなるとは僕は思ってなくて、それと一番強く守られてるエリアがキエフになるので、変に動くよりは今、ここのエリアで、例えば昨日動いたんですけども、動き続けるほうが正しいのかなと思ってます。それと昨日は、ポーランドであるとか、モルドバに逃げた人と連絡をいろいろ取ったりしたし、ポーランドの友人とも話したんですけど、やっぱり向こうにいる人の生活は今、悲惨な状況で、アパートの数も足りない、もちろん爆撃される可能性はないかもしれないけど、それ以外の、なんて言うのかな、精神的に落ち着けるような、本当に何百人で体育館みたいな所で寝泊まりをして、自分の物もほとんど満足に無いし、そういう状況に行くのであれば、このままキエフの近郊であったりとか、キエフ市内とかに残る方が賢明だと思うし、それと我々の家族が全員キエフ出身ですから、どっかに行くという選択肢がそもそもなかったんですね。
上山
ただですね、ボグダンさん、もしロシア軍がかなり激しい攻撃を加えてきた場合に、ボグダンさんの安全が心配ですが、いかがですか。
ボグダン
僕は、別にヒーローになるつもりはなくて自分の判断でここにいますから、別に配信をする、皆さまとコミュニケーションするために残ってるわけではなくて、今ここにいるのが最善だと思ってるから僕はここにいる。そして、その中で配信できる状況にあるから配信しているというだけのスタンスですので、別に皆さまに情報を届けるためにやっているわけではないです。ただ、その中で僕ができる事というのは、やっぱり皆さんに現状を伝えるということなんで、それはやっているし、もっと言えば、こうやって皆さまとコミュニケーションすることで、僕の精神的なストレスも軽減されてます。
上山
分かりました。本当に大変なところありがとうございました。ボクダンさんとそしてご家族の方々、さらにウクライナ国内の人たちに向けて本当に気持ちを送りたいと思っています。何とかここは無事に過ごしていただきたいと心から強く思っております。
ボグダン
ありがとうございます。
上山
ありがとうございました。
ボグダン
引き続きよろしくお願いします。
■「ロシアは国内の動揺が段々と…」
菅原
ボクダンさんのようにウクライナの国民の中には、退避せずに留まるという方がいらっしゃいます。河野さん、ロシアの侵攻が計画通り進んでいないという指摘がありますが、ウクライナの方々の抵抗、反発、こうした影響があるとお考えですか?
河野
もちろんですね、軍事的にはですね、おそらく一気呵成にキエフを突くというのは常套だと思うんです。第2次世界大戦の時でもソ連軍はベルリンまで一気呵成に行ったわけです。満州も一気呵成に来たんですよね。ですが、今回キエフ近郊で止まっていることは、相当な抵抗を受けたと思います。そこはやっぱウクライナ軍にとっては、純粋な祖国防衛戦ですから。ところが、ロシアの方はですね、おそらく、ナチスを倒すためにお前たちは行くんだと。だから歓迎されるはずだと、解放軍だということで、おそらく行かされたと思うんですよね。でも全然、話が違うじゃないかということになってるんじゃないかと思うんです。ですが、時間が経ってですね、被害が両者に出てきた時に、ダメージが大きいのはロシアの方ですよね。ロシアの方にだいぶ被害が出てくる。ウクライナも、もちろん被害出たとしても、彼らは防衛戦として戦いますから。ロシアは侵略国として行っているわけですよね。したがって、国内の動揺が段々段々出てくるんじゃないかと思うんですね、ロシア側の方に。
菅原
予算や武器、ウクライナ側は欧米からの支援でどうにかなるんですかね。
河野
必死で支援をしていると思いますね。ウクライナとしては助かっていると思います。
■「ウクライナ側は非常に堅固な抗戦意思」
菅原
戦力で劣るとされているウクライナ軍ですが、首都・キエフに迫るロシア軍を食い止めているとの分析もあります。こちら、キエフの北西およそ70㎞の地点で、このようにキエフにつながる橋があるのですが、オーストラリア戦略研究所は衛星写真などから、ウクライナ軍がこの橋を取り戻したと指摘。この橋は25㎞圏内で唯一の橋、川幅が40mほどですが、周囲に他の橋がないんです。つまり、ここをロシア軍が通れないと大きく迂回する必要がある要所で、その橋をウクライナ軍が取り戻したということです。
進軍していたロシア軍が補給路を断たれ、孤立した可能性もあるとしています。そして、研究所のルーサー氏はこうも話しています。「ウクライナ軍が側面から攻撃したのであれば、ロシア軍の隊列が待ち伏せや妨害にいかに脆弱か示している」。そして、ウクライナ軍の戦略について、ウクライナ大統領顧問のアレストヴィッチ氏は、「ウクライナ軍の抵抗が成功しているのは偶然ではなく、全ては軍の指導者が計算し作戦を立て軍が見事に実行したことによる 」こう話しています。小泉さん、こうした話を聞くとウクライナ軍は非常に善戦していると見ていいのでしょうか。
小泉
そうですね、今、河野統幕長がおっしゃられたように、ウクライナは純粋に、この侵略を受けて防衛戦争やっているわけですよね。ですから国民の士気、非常に高いんだと思いますし、まさにクラウゼヴィッツが「戦争が成立するためには、国家と軍隊と国民、この三要素の三位一体が揃わなければ、激しい戦争できない」と言ったわけですけども、今回やっぱり国民というところのファクターが非常に大きいような感じがするんですよね。他方でロシア軍の場合は、これも先ほどご指摘があったように、最初はただの訓練なんだと言われていたとか、それから多分、ロシア軍の初戦の攻め方を見ると、まさに解放軍として歓迎してもらえるんだというぐらいの、非常に甘い見積もりで攻めて行ったような感じがするわけですけども、実際にウクライナ側は非常に堅固に抗戦意志を持っていると。キエフもハリコフも11日間、持ち続けてるわけですよね。もしかすると交通の要路なんかも一部、取り返したのかもしれないと言われているということですから、非常に、事前の防衛計画と指揮とかがうまく働いてるんだろうとは思います。他方でやはり、ロシア軍の方が総合的には強いという現実は変わらないわけですよね。それから例えば橋を取り返したとしても軍隊というのは橋を架ける能力を持ってますから
菅原
無くなった橋をまた取り返すことですか。
小泉
橋を作ることができます。
菅原
作ることができる。この川に沿ったところに、また橋を作る。
小泉
野戦架橋することができますし、まさにあの第二次世界対戦では、ソ連軍は何回も川で進撃を阻まれたので、戦車以外は大体、川を渡れるんです、ロシア軍の装甲戦闘車両は。ですから、ウクライナ軍がすごく頑張っているということと、このままキエフを守りきれるかってことは、やはりちょっと別問題であろうと。すごく頑張って守っていること、すごく尊敬しますけども、そこはまた軍事的な現実としては別に見なければいけないだろうと思ってますね。
■民間人の犠牲者が増加「ロシアは過去にも」
菅原
そういった中で気になるのがやはり民間人の死者が増えているということです。ロシア当初、民間人は標的にしないと言っていたにも関わらず、こういった事が起きている。小泉さん、これは意図的にそうしているのか、あるいは誤射などでなってしまっているのか。この辺りはどうなんでしょうか。
小泉
両方でしょうね。2015年にシリアに軍事介入した時もロシアは、民間人は一切標的にしていないと、民間人の死者は一切出てないということ言っていて、今もそう言ってるわけですけども、都市を取ろうとすればどうしたって民間人の死者はやはり出るわけですね、人間が住んでいるところで戦争するわけですし、さらに言うと、シリアの場合は、都市を取るために無差別に砲爆撃をする。これはチェチェンもそうでしたよね。街丸ごと更地にしてしまったところを取るというやり方であるとか。それから、水道であるとか病院みたいなライフラインを意図的に攻撃して、そもそも人間が住めない状況を作り出してしまう。そういうことやってきたわけですね。ウクライナの場合は、やはり同じスラブ民族が住んでいるということで、そこまで今のとこやっていなかったように見えますけれども、先週くらいから、ハリコフなんか相当無差別攻撃やってきた感じがしますし、キエフの場合は、先ほど申し上げた理由で、まだそういうことをやってないように見えますが、攻めあぐねたら何をやるか、分からないと思います。
菅原
キエフも例外じゃないんじゃないかという見方も、過去のものを見てみると考えられるということですよね。キエフを攻めてゼレンスキー政権を倒した後に、親ロシア派政権を樹立しようとした場合、国民からの反発も相当あるわけで、その後の掌握が非常に難しくなると思うのですが、それでも侵攻する可能性があるということですか。
小泉
まさにその理由から、これまでやってこなかったんだと思うんですよね。ただ最終的にやはり、この首都を取って政権を転覆するという目的は達成されないとなれば、途中から手段を選ばなくなっていく可能性が大いにあると思いますし、これまでもやってきたわけですから、絶対そういうことしないだろうと楽観はできないと思います。
■原発を攻撃目標「非常に疑問 支離滅裂」
菅原
そして気になる情報が入ってきています。ロシア軍は、ヨーロッパ最大のザポリージャ原子力発電所を攻撃し占拠しましたが、さらにロシア軍がウクライナ2番目の大きさの南ウクライナ原子力発電所に向かって進軍していて、およそ32㎞の地点まで迫っているということです。河野さん、原子力発電所を標的にするロシア軍の動き、どういう狙いがあるのでしょうか?
河野
基本的には、電力というインフラを抑えるという作戦ではあると思うんですが、ただ、ゼレンスキー政権を倒すための作戦でしたよね、この戦争全体が。その時に、あえて、こういう原発を攻撃目標にする必要があるのか、私は非常に疑問に思います。非常に危険な作戦ですから、インフラを抑えるということでやってるんだと思いますけれども、ちょっと過剰ですね、これは。
菅原
これは電気を使えなくなるよと、そういった脅しのためということですか。
河野
そうですね、なお且つですね、要するに、庶民には被害及ばさないと言っているが、電力を押えるということは庶民に絶対に影響が及びますよね。だから全く、ロシアの言っていることは、完全に支離滅裂ですよね。理屈に合ってないと思います。
菅原
つまり、当初キエフとハリコフ、この辺りをすぐに掌握したかったけれども、それが難しい中で、作戦が変わってきている側面はあるんですか。
河野
変わってきているんだと思うんです。先ほど言いましたが、おそらく短期でやりたかったはずなんですよ。今、これはやはりお金の問題もありますし、経済制裁を相当受けているわけですよね。ですから、ロシアも苦しいと思うので、早く決着つけたいと思って態勢を立て直しているんだと思いますが、これで止まったということは、ウクライナ軍の態勢も立て直すことができているわけですね。
■ロシアとウクライナ”勝負”のポイント
菅原
小泉さんは、長期化した場合、ウクライナ、ロシア、どちらが苦しいとお考えですか?
小泉
多分、それぞれ別のところに弱みを抱えていると思うんですよね。戦場ではロシアがじわじわ有利になっていくんでしょうけれども、一方で国内では今回、非常に反戦の気運も強いですし、それから一部、有力な新興財閥なんかも、経済制裁でビジネスめちゃくちゃになってますから、もう勘弁してくれという雰囲気になりつつありますし、制裁、それから、外国から軍事援助もどんどんウクライナに入ってくることですよね。なので、ロシアがそれによってもう戦争維持できないと考えるのが先なのか、あるいはウクライナがもう軍事的に抵抗できないということになるのが先なのか、その勝負なんだと思いますね。
上山
そういった中で、イギリスメディアがゼレンスキー大統領の暗殺未遂があったと報じています。イギリス・タイムズ紙はゼレンスキー大統領が、この1週間で少なくとも3度の暗殺の危機を乗り越えたと報じています。暗殺に関わったのは、ロシアの民間軍事会社の傭兵とチェチェン共和国の特殊部隊だとしています。そして、この暗殺計画、なぜ阻止できたかについて、ロシア情報機関・連邦保安庁の内部にいる関係者がウクライナ侵攻に否定的な立場をとっていて、この人物からウクライナ側に計画の情報が提供されたロシア側からリークされ、暗殺を逃れたと報じています。小泉さん、ゼレンスキー大統領の暗殺ということも話としてあるのでしょうか。
小泉
実際、この話がどこまで本当なのかよく分かりませんけども、本当にゼレンスキーを殺してしまおうと思うんだったら、それこそ連邦保安庁とかのプロの暗殺チームがいると思うんですよね。にもかかわらず、民間軍事会社を使うとか、それからチェチェンの特殊部隊と言っても、これは要するに、カディロフ首長の手勢の連中ですよね。そういう、いかにもあんまり暗殺に向かなそうな連中を使うというのが違和感がありますし、もし本当に連邦保安庁FSBからリークがあって失敗したということなんであれば、やっぱりどうも、プーチンの戦争であって、ロシアの武力機関総力を挙げてやれてないんじゃないかって感じもちょっとする。全く今、印象論ですけれども、そんな感じがするなという風に思いますね。
■「人道回廊」機能せず…南部マリウポリの惨状
菅原
そしてもうひとつ大きなポイントとなっていく次のテーマこちらです。「停戦交渉は合意できない? 停戦違反で民間人避難できず」
3月3日に行われた2回目の停戦交渉で、ウクライナとロシアは「人道回廊」という民間人の避難ルートを設置することで合意しました。その合意について、日本時間の昨日、ロシア国防省が南部のマリウポリ、ボルノバーハで、人道回廊を設置し、21万5000人の民間人がバスなどで町から退避する予定でした。しかし、ウクライナ当局は、ロシア軍が砲撃を続ける停戦違反があったとして、住民避難を延期すると発表しました。マリウポリの副市長によると、5時間の予定だった停戦が、30分も続かなかったと伝えられています。そうした中、先ほど情報が入ってきまして、ロイター通信によりますと、ウクライナ南部のマリウポリ当局は見送っていた住民の一部避難を実施すると発表しました。その時間は現地時間の正午ということで日本時間の午後7時、つい先ほどから9時間、明日の朝4時ごろまで避難ルートを設置するということです。小泉さん、避難ルートが新たに設置されましたけれども、この一連の動きをどう見ていますか。
小泉
停戦合意したのに守られない、これは、ウクライナでもともとやってた東部紛争でも、しょっちゅうあったことで、どのぐらい現場の統制がきいているのかとか意図的なことなのか、あんまり良く分からないですけれども、上手くいくように祈ってます。
菅原
避難した後、一体じゃあ何が待っているのか、こう言ったところも気になりますよね。
上山
住民の方々が退避するための人道回路が設置されたという、マリウポリを含む南部の都市については、非常にロシア軍の激しい攻撃にあったということで情報も少なくなっていますが、アメリカ戦争研究所は4日「ロシア軍はマリウポリを包囲し、残酷な攻撃をしている」と発表。きのうのBBCの放送では住民を取材していて、アレクサンダーさんは「私は今、マリウポリの街にいて3分から5分おきに砲撃の音が聞こえる」。さらにマキシムさんは「左岸地区から来た人もいて、そこは大惨事で通りに死体が散乱していると言っていた」と報道しています。小泉さん、なぜ南部に対してはこれだけ激しい攻撃が加えられているのでしょうか。
小泉
北側の攻勢は停滞しているんですけども、南側からは比較的ロシア軍が速いペースで攻勢を続けていて、このヘルソンですとかマリウポリですとか、結構、主要都市を取とれているんですよね。やはりロシアとしてはおそらく、この戦争、最終的に有利に進めていくためには、なるべく大都市を占拠して、ウクライナがロシアの言う条件で停戦に応じなければ、耐え難いという状況を作りたいんだと思うんですよね。そのためには、なりふり構わず都市を取ってくと。実際にシリアでもチェチェンでも、都市の住民まるごと抹殺するような作戦をロシア軍やったわけですから、ウクライナでもそれやらないという理由はないと思いますし、現実にそういうことが起きてしまっているということですよね。
上山
人道回路のその後が心配ですが、河野さんは、この南部の都市の状況、どのようにご覧になってますか。
河野
おそらくウクライナ軍の総兵力は限られてますよね、ロシアに比べると。ですから、キエフとかハリコフの方に重点を置いてるんじゃないかと思うんですよ。南部地域は、ウクライナ軍が手薄なのかも分かりませんよね。従って今、非常にロシア側が攻勢かけているということだと思います。
■「ロシアが譲歩しない限り停戦合意は困難」
菅原
では、この侵攻はいつまで続くのか。AP通信によると、3回目の停戦交渉について、ウクライナ側は7日に行われると明かしたと報じていますが、場所などは明らかになっていません。小泉さん、3回目の停戦交渉ですが、まとまることがあるのでしょうか。
小泉
そもそもロシア側は、今のウクライナという国家そのものを否定してるわけですから、これは、なかなか話し合いでまとまる問題ではないですよね。ただ、先ほど申し上げたように、時間が経つと、ロシア側、ウクライナ側それぞれに苦しいところが増えていくと。ですから、ロシアが戦争を継続できなくなるのが先なのか、ウクライナが持ちこたえられなくなるのが先なのか、それによってこの戦争の交渉の行方も相当変わってくるんだろうなと思います。これまでは、この交渉がいずれもベラルーシでやってきたんですよね。
菅原
ウクライナの北側にあります。
小泉
ロシアの同盟国でやってきて、ウクライナ側は、どこか第三国でやろうと言っているわけですけども、ロシア側は頑なに同盟国でやることを主張してきたということなんで、その場所の力関係とかもあると思うんですよね。例えば、次にロシアがいよいよ他のポーランドなんかでやるとことに合意するのであれば、ちょっと形勢が変わってきたかなという感じもしますし、やはりベラルーシ開催を飲ませるんであれば、依然としてロシア側が主導権を握ってると言えます。その辺が注目点かなと思います。
菅原
河野さんは、この停戦交渉、まとまるかどうか、いかがですか。
河野
現時点で残念ながら、まとまる可能性、非常に低いですよね。なぜならロシアはウクライナの中立化、非軍事化を言っているわけですね。従って、これはもう、ウクライナの主権を否定するということですから、この条件をプーチンが下げない限り、成立しないと思うんですけれども、今のところ、プーチンこれは絶対、下げないですよね。
菅原
現状、全ての要求が満たされることが条件ということで、非軍事化、中立化を挙げています。
河野
プーチンが下ろすこと、考えられませんので、これであれば、到底ウクライナは飲めないと。ロシア側が譲歩しない限り、この停戦交渉というのは成立しないんじゃないかと思います。
菅原
まさにお話にありました。国内からの反発がどうなるのか。それともウクライナ側の交戦がどうなるのか、こういったところが注目されるということで、これ以上、本当に死者が増えないことを願うばかりです。小泉さん、ありがとうございましたございました。
小泉
ありがとうございました。
(2022年3月6日放送)
ウクライナはロシア軍の全面侵攻に抵抗し、首都キエフへの進軍を阻止しています。一方、ロシアは、欧州最大級のザポリージャ原発を占拠するとともに、南部の港湾都市マリウポリを包囲し、無差別攻撃を激化させました。2022年3月6日の『BS朝日 日曜スクープ』は、キエフ在住のパルホメンコ・ボグダンさんと中継をつなぐとともに、東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠さんと、番組アンカーの河野克俊・前統合幕僚長が戦況を分析しました。