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#64

韓国社会が向き合う格差の実態

元徴用工やレーザー照射の問題で悪化の一途をたどる日韓関係。2019年1月20日のBS朝日『日曜スクープ』では、韓国社会が今、どうなっているのか?反日と伝えらえるのは実像なのか?山口豊アナウンサーがソウルを緊急取材しました。

■最低賃金引き上げが裏目に

連日気温が氷点下を下回る韓国・ソウル。そんな極寒の中、韓国人がこぞって観に訪れている映画があります。現在、公開中の映画「国家破産の日」。アジア通貨危機が発生した1997年の韓国を舞台に経済破綻を防ごうとする政府関係者、そして経済危機に翻弄される人々の姿を描いています。観客動員数は370万人を突破。なぜ今、この映画がヒットしているのか?その理由を聞くと、こんな答えが返ってきました。

主婦40代
「過去の出来事というだけでなく、映画には、今の私たちにも共感できる部分が沢山あるので皆が観るのだと思います。」

飲食関係60代男性
「今の状況と少し似ていると感じます。私の勤める会社もそうですし、いま飲食店に勤めていますが、周りの会社は廃業し我々も同じ状況に直面しています。」

21年前の悪夢と今を重ねるほど経済の失速を感じているというのです。ムン・ジェイン大統領は政権発足時から雇用促進を掲げるなど経済改革を推し進めてきました。去年7月から始まった韓国の“働き方改革”では1週間の労働時間の上限を52時間に制限。そして貧困層への目玉政策として最低賃金を時給7530ウォン(約753円)から8,350ウォン(約835円)に引き上げました。しかしこの改革が、韓国社会に予想外の影響を与えていました。

山口
「文在寅政権が始めた最低賃金の引き上げ。お店への影響は?」

焼肉店経営の女性
「経営者たちが集まると、潰れる店が多くなるのではないかと話しているんです。人件費の割合が高くなったら、当然価格を上げなければならない、店の賃貸料も、材料費も高くなる、それによって一番大きな影響を受けるのは、私たち飲食業です。」

飲食店の経営者の負担が増加。その影響が最低賃金引き上げの恩恵を受けるはずの労働者を直撃していました。

焼肉店経営の女性

「従業員を実際に減らしましたよ。昼に3人雇っていましたが2人にして、夜は2人だったのを1人に減らしましたんです。」

高くなった人件費を削減するため、飲食店の経営者がこぞって導入したものがあります。それは、無人清算機です。

山口
「この無人化された機械でジュースを買ってみます。このイチゴとキウイのミックスジュース、サイズは・・これか。Mサイズ。特にアトッピングはなし。はい、行けたようですね。これ1つで2500ウォン。クレジットカードで払います。これでカードを入れればいいってことかな。カード入れて・・・これでいいのかな。」(ピコン!)

キッチンをのぞいてみると・・・ジュースを作るのは店長ただ一人・・・。

山口
「文在寅さんの最低賃金引き上げがどんどんどんどん、1万ウォンとか進んでいくとこういう流れ、機械化の流れっていうのは進みますね。」

ジュース店店長
「カフェなどのテイクアウト用のお店は、(自動精算機が)絶対必要だと思うし、さらに増えると思います。」

山口
「逆に言うとアルバイトとか働く人の場が減っていくということですよね?」

ジュース店店長
「残念ですけど、賃金が上がると仕方ないですね。」

■コシウォンに住む若者たち

サムスンや現代など一部の財閥企業がけん引し成長してきた韓国経済。大企業で働くことやや公務員になることが“勝ち組”とされ高校や大学で熾烈な受験戦争が繰り広げられてきました。しかし、こうした経済構造がある若者たちを生み出していました。

山口
「ここはどんな場所ですか?」

20代後半の男性
「ここはコシウォンです。日本にはコシウォンはないんですか?ここはソウルの中心街なので、部屋代が高いんです。ここは部屋数も多く、狭い代わりに、安くしているので60名ほどが一緒に暮らしています。」

コシウォンとは補償金のいらない家賃のみの宿泊施設のこと。韓国では部屋を借りる際、日本円で数百万円単位の補償金が必要です。コシウォンは、もともとは、受験生が集中して勉強するために使う宿泊施設です。現在、就職活動中の20代後半の男性は、3か月前から、このコシウォンに住み始め、管理人のアルバイトもしています

山口
「全部で3畳くらいですね。ベットがあってシャワー、机、ここが玄関ですから。」

トイレ、シャワーなど必要最低限のものはそろっています。家賃は光熱費込の日本円で4万5千円ほど。男性は公務員になるための準備をしていましたが、上手く行かず、今はIT系の企業に就職するために、この部屋で資格の勉強をしています。実は今、20代の失業率は10%、43万5千人にのぼり、大学・大学院を卒業しても3人に1人が就職できない状況です。こうした簡易住宅のコシウォンで暮らす若者が増えているのです。

山口
「韓国の経済をどう感じますか?」

20代後半の男性
「確実に悪いと実感もしますし。良い方向に向かってほしいですが、まだそのような見通しが立っていません。」

山口
「どんな部分で感じますか?」

20代後半の男性
「物価も上がり、高学歴の人も就職難で、資格を持っている人たちも就職できていません。」

警察官を目指す、20代後半の女性。部屋に伺うと・・・。

山口
「大体、これ3畳ちょっとぐらいでしょうか。」

家賃は光熱費込で3万5千円、トイレやシャワーなどは共同です。両親からの仕送りの9万円で家賃、食費などをやりくりしています。

山口
「公務員を選んだ一番の理由は?」

20代後半の女性
「一番大きな理由は、正直なところ親の望みが一番大きいです。親心で、この国で一番安定的な仕事が公務員だと思っているので。」

倍率の高い警察試験を突破するため、勉強は1日、15時間以上机に向かっています。これまで6回、警察試験に挑戦していますがいずれも不合格、女性には、今、ある焦りがあるといいます。

20代後半の女性
「両親からは友達の娘と比べられるんです。『あの娘は結婚して子供もいて、車も買って』みたいな。それがプレッシャーになっています。」

■格差を象徴するソウルの一角

韓国社会に広がる格差を象徴するある場所に向かいました。ソウル屈指の高級住宅街、カンナム。この地域を少し進むと景色が一変しました。

山口
「いま大通りからこの路地に入ってきたんですけど、突然景色が変わってきましたね。その先なんですが、小屋がたくさん並んでいるのが見えてきました。」

クリョン村は1970年代から80年代にかけて都市開発の影響で家を失った人々などが移り住んだ集落です。現在1107世帯が暮らしているといいます。

山口
「どの家も非常に簡素な造りですね。こういうなんて言うんですか、薄っぺらい、これ床用の素材ですよね。それを屋根に使っていますね。それからこういうブルーシートで窓をふさいだり、板で打ち付けていますね。」

この村に30年以上住む女性がインタビューに応じてくれました。

山口
「貧富の格差は感じますか?」

40代の女性
「強く感じています。私はここから、あの高層マンションに上っていく人の姿をいつも眺めていますから。遠くから眺めていても格差は感じます。貧乏は自慢になりません。でも貧しいせいで、教育を受けられないために、まともな職場に就けないし、そのようなことが積もり積もって、抜け出すことができないのです。」
「見えないガラスの壁のせいでそれを壊して進んでいくことができない。」

この女性は貧しい家庭で、満足な教育を受けられず、貧困から抜け出すことができなかったと言います。

40代の女性
「私のような人たちは夢見ることもできないんです。この瞬間も素晴らしく充実した生活を送る人がいる反面、そうではない人たちがいます。」

文在寅大統領は深刻な国内問題を抱えているのです。そんな中で見せた日本に対する強硬姿勢。しかし韓国の町の中には意外な風景が広がっていました。

■若者の街で根付く日本文化

韓国の若者が集まるエリアであるものを発見しました。

山口
「あれ、これっ!なんですかね。おいしい和食って書いてありますね。24時間営業って日本語で書いてある。」

日本語の看板がいたるところに・・・。さらにはちょうちんがぶら下がる日本式居酒屋まで、ホンデには和食専門店が1000店舗以上あるといいます。

山口
「日本料理店によく行くんですか?」

女性
「はい。しょっちゅう行きます。2週間に3、4回くらいかな~」

若者を中心に和食ブームに火が付き、日本食の店が急増しているといいます。
日本ブームはこんな所にも。

山口
「ソウル最大の書店にきています。こちらには日本の書籍のコーナーがありまして大変にぎわっています。村上春樹や夏目漱石など、日本の書籍が人気なんですね~。」

村上春樹や東野圭吾が人気で、つねにベストセラーの上位に並んでいるといいます。

山口
「いま村上春樹の『1Q84』を手に取っていますが、買いに来たんですか?」

27歳大学院生の男性
「はい。」

山口
「村上春樹が好きですか?」

27歳大学院生の男性
「文体がとても気に入っているので。」

山口
「いま手にしている本は、全部日本人作家の本ですか?」

21歳大学生の男性
「はい、そうです。」

山口
「結構はハマっているように見えますが・・・」

21歳大学生の男性
「一番好きな作家は川端康成かな。」

同じ韓国で同時に起きている、反日と日本ブーム。その理由はどこにあるのでしょうか?

21歳大学生の男性
「政治と文化は大きな関連のない二つの分野だと思います。互いの文化に関心を持てば、政治でも人同士が近くなれるんじゃないかと思います。」

■政権与党の有力議員が語る韓国の現状

韓国の現状を文在寅大統領はどう受け止め、そして、どう対応しようとしているのでしょうか。山口アナは、韓国の政権与党・共に民主党の中心人物・宋永吉(ソンヨンギル)議員にインタビューしました。共に民主党の宋永吉(ソンヨンギル)議員は、2000年に37歳の若さで国会に初当選安倍総理を始め各国首脳とも親交があり、去年は世代交代を訴え、党代表選に出馬、「共に民主党」の中心人物の一人です。

山口
「たくさん写真が飾ってありますよね、文在寅さんと相当近い親しい関係なんですね。」

宋永吉議員
「私は文在寅大統領の選挙期間に総括選挙本部長していました。」

文在寅大統領と行動を共にしてきたソン議員は厳しい状況を迎えた韓国経済をめぐる大統領の政策をどのように捉えているのでしょか?

山口
「文在寅さんが最低賃金の引き上げを始めたりとか、働き方改革で週52時間制、働く時間の制限を設けたりしました。そういう個別の政策についてはどう思っていますか?」

宋永吉議員
「相当な負担になっています。景気が良ければ賃金引上げの負担を負えますが、一番良くないときに賃金引上げの話がでるので、自営業者がとても苦しんでいます。」

山口
「文在寅さんは景気が悪いのにもかかわらず、最低賃金を引き上げとか景気に逆効果のことをしてしまっているんじゃないかと思うんですが、なぜ文大統領は、このタイミングでしたのだと思いますか?」

宋永吉議員
「他の日程もあったと思います。庶民たちの所得を上げないといけませんが、所得を上げるには賃金の引き上げだけではいけません。支出を抑え、実際の可処分所得を上げるなど、例えば、住居費を下げ、賃金引上げにならなくても、可処分所得を増やす政策を法案にしようともしています。」

韓国において、社会をも歪め若者から夢と希望を奪っているのが極端な格差社会。文政権はこの格差問題に取り組んでいるとソン議員は強調します。韓国・政権与党のソン議員は、日々悪化の度合いを増す日韓関係をどのように捉えているのでしょうか。

山口
「率直にご意見お伺いしたいんですが、今、日韓関係が特に政治の分野で対立が深まっています。現状をどうお感じになっていますか?」

宋永吉議員
「日韓関係は政治的に解決するのが難しい面がありますが、お互いの解決しにくい部分はあまり出しすぎずに尊重し合って少し置いといて、解決できる部分を一緒に努力する必要があると思います。」

そして今、最も事態が緊迫しているのは徴用工問題。日本政府は韓国に対し請求権協定に基づく協議を求めています。

山口
「日本側は1965年の日韓請求権協定で補償金を払っているので、仮に今回のような判決が出ても文在寅政権の中で、韓国国内問題として、韓国政府が対応してほしいという思いなんですよ。これはどうお感じになられますか?」

宋永吉議員
「この問題が個人の請求権の問題、慰謝料の請求が法律的にそこまで含まれるかの問題になっています。それが1965年国交正常化により解消するというのは、難しいし、法的問題もあります。」

山口
「となると日本側としては、新日鉄住金という企業がお金を払うことになると、過去の国際法で結んだ約束が違うことになってくるので、それは受け入れがたいということで、政治の対立がどんどん深まってしまうと思うんですよね。」

宋永吉議員
「その問題は、企業が当時、賠償したわけではないですよね。当事者が賠償をするのはまた別のことだと思います。」

山口
「文在寅政権の方針として、まず北朝鮮との南北融和が最大の目標だと思うんですね。そうすると日本との、対日関係を考えるのが手薄になっているんじゃないかという指摘があるんですか、そこはどう思いますか?」

宋永吉議員
「何を優先するかの問題ではなく、もし戦争が起きると、全国民の生命と財産が崩れるので、まずは朝鮮半島の戦争を防ぐのが第一にならざるを得ません。どんな大統領でも、そのために集中しています。日本は後回しとかではなく、そのような論理でいうと、アメリカ・中国・ロシアなども同じですが、外国との関係も、まずは朝鮮半島の戦争を防ぐという、優先原則に基づき動くしかないと理解していただければと思います。」