使用済み食用油がバイオ燃料や電気に 染谷商店が取り組む環境問題と持続可能エネルギー
BS朝日『バトンタッチ SDGsはじめてます』は、SDGsに取り組む個人や団体、自治体や企業にスポットを当て、SDGsに関心を寄せる若者がそこを訪ね、「持続可能な未来」への活動とその裏にある思いや気づきを学ぶヒューマンドキュメンタリー。若い彼らが受け取る「未来へのバトン」とは? 俳優・谷原章介がナビゲーターを務めます。
【使用済み天ぷら油からクリーンエネルギーを生み出す】
第3回目のテーマは「使用済み天ぷら油のリサイクル」。父親が料理人で自分も料理をすることから油の活用方法にも興味があるという高校3年生の石井萌々果(17)さんが、使用済み油リサイクル会社「染谷商店」と「TOKYO油電力」の代表・染谷ゆみ(51)さんから、持続可能なエネルギーを生み出すことのできる使用済み天ぷら油の可能性を学びます。
日本国内で生まれる使用済み食用油の量は、事業用と一般家庭用を合わせて年間約50万トンで、これは25メートルプール926杯分に相当する。これを捨てずに資源として再利用し、車の燃料や発電に使えるクリーンエネルギーに生まれ変わらせる取り組みをしているのが、染谷商店の染谷さん。
《世界初!使用済み天ぷら油がバイオ燃料に》
油回収業社「染谷商店」の三代目である染谷さんは、使用済み天ぷら油からクリーンエネルギーを精製することに世界で初めて成功し、2009年にアメリカ「タイム誌」で「世界の環境の英雄たち30人」の1人として取り上げられた。
きっかけは、アメリカで大豆油からバイオディーゼル燃料が作り出されたという新聞記事を目にしたこと。天ぷら油でも可能なのではと考え、工場の研究チームと共に開発し1993年に技術を確立させた。
こうして生まれた世界初の「天ぷら油によるバイオ燃料」は、軽油の代わりに一般のディーゼル車に利用可能で、排気ガス内の黒煙は通常のディーゼル燃料の1/3以下、大気汚染の原因物質である硫黄酸化物はゼロと非常にクリーンだ。
現在「染谷商店」で作られたバイオ燃料は、都内巡回バスや娯楽施設の送迎バスなどに利用されている。仮に年間50万トンの使用済み油をすべてバイオ燃料に精製すると、トラック1台が地球を2500周できるほどの量になる。廃油を廃棄せずバイオ燃料にリサイクルすることで、海や大気の汚染を減らすことに繋がる。
石井「人が食べ続ける限り使用済み天ぷら油は増える。それをリサイクルしていくのだから、持続していけるエネルギーだなって思う」
【電気のない地域で環境破壊を防ぐ】
染谷さんがこうした活動を始めたのは、マザー・テレサの言葉がきっかけ。高校卒業後にアジア放浪の旅に出た時、中国からネパールに渡る国境で土砂災害に遭った。その土砂崩れの原因が森林伐採だったことを知り、それがきっかけで環境問題について考えるようになった。その後インドの教会でマザー・テレサと出会い、その時の言葉が自分を動かしたという。
「think global act local(地球規模で考える 身近な場所で行動する)」
染谷「世界中の飢えている人のことを想いながら、自分は自分の地域で何ができるか考えなさいと言われ、それが大きな道しるべになった」
《主婦でも気軽に環境問題へ参加できるシステム作り》
レストランなどから排出される事業用の使用済み油は、家畜の餌や肥料などに利用されているが、一般家庭から出される使用済み油のほとんどがゴミとして廃棄されている。そこで染谷さんは、スーパーなどの協力を得て、使用済み天ぷら油の回収ボックスを設置した。今では東京、千葉、神奈川、埼玉など約400カ所。スーパーをはじめ、保育園、喫茶店、薬局など主婦がよく立ち寄る場所に設置することで、主婦が買い物などのついでに気軽に環境活動に参加できるようにした。
石井「使用済み油は固めて捨てれば良いと単純に思っていたけど、スーパーなどで回収ボックスを目にすることで、意識を気軽に持てるようになると思いました」
《電気のない国でイルミネーションを灯す》
染谷さんは2016年に「TOKYO油電力」という会社を立ち上げて、使用済み天ぷら油で発電も行っている。大手発動機メーカーと天ぷら油専用の発電機を開発し1日に70軒分を発電、東京電力を通して契約家庭に送られている。
しかし世界にはまだ電気が通っていない地域があり、そうした地域の多くが油をそのまま川に流し環境を汚染しているという。染谷さんは、2021年はそうした地域に自社の技術を提供したいとのこと。
染谷「それが環境破壊を防ぐことに繋がる。電気のない国でイルミネーションをやりたい」
【石井さんが受け取ったバトンとは?】
使用済み天ぷら油が車を動かし電気になっていることに、驚きを隠せなかった石井さん。
石井「油にはこんなにも多様性があるんだと知って驚いた。1人だから何も変えられないだろうではなく、ずっと続けていくことが大事だと感じた」
日々の生活の中で消費される食用油のその先や、電気が生み出される元のエネルギーは何なのか。想像し考えることが、SDGsに繋がっていくだろう。