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#10

京の夏 鴨川を歩く

京の街を貫き、静かに流れる鴨川。その豊かな水は、いにしえよりこの地の暮らしを支え、文化や歴史を育んできました。その川沿いをさかのぼり、季節の風情を感じます。
歌舞伎ゆかりの出雲阿国(いずものおくに)が見つめる四条大橋を渡り、訪れるのは京料理の店「ちもと」。江戸時代の半ばより続くこの店には、谷崎潤一郎など数多くの文化人も足しげく通ったとか。常連客の中には歌舞伎俳優も名を連ね、その寄せ書きが残る、貴重な屏風(びょうぶ)を見せて頂きます。そして京の夏の風物詩として知られる、鴨川納涼床も楽しめるというこの店で、同じく夏の味、名物の鱧(はも)料理に舌鼓を打ちます。
「宮脇賣扇庵(ばいせんあん)」は、江戸時代に始まる京扇子の専門店。古い町家そのままの雰囲気が残るこちらのお店では、橋之助さんが「中村芝翫(しかん)」襲名に合わせ、お世話になった方に配るというお祝い用の扇子を作ってもらったのだとか。その扇子を一足早く特別に見せて頂きます。さらに、涼しげな夏扇子や、歌舞伎に欠かせない舞扇子など、様々な美しい品を拝見します。
京で最も古い禅寺、建仁寺。その塔頭「大統院(だいとういん)」に残るのは、江戸時代の名高い絵師、円山応挙が描いたと伝わる貴重な「幽霊画」。ある意味涼しさを醸し出してくれる、その表情とは…。
豊臣秀吉の時代に架けられ、かつての面影を残す「三条大橋」を渡り、訪れるのは「木戸孝允(きどたかよし)旧宅」。普段は公開していないこの建物の中を特別に拝見し、そのすぐ近くでは、幕末から明治にかけて活躍した木戸孝允が親しんだ鴨川の風景を眺めます。
さらに川をさかのぼって山を登り「貴船(きふね)神社」へ。1300年あまりの歴史を重ねるというこの神社には、水神がまつられ、水にまつわる伝説が残されていました。そんな貴船神社の近くに店を構えるのが「貴船ふじや」。江戸時代に創業した料理旅館でこの季節に楽しめるのが、鮎(あゆ)料理。川のせせらぎが響く中、風味豊かな品々を堪能します。
長きにわたり、古都を潤してきた鴨川のほとりを歩きながら、夏の趣を味わいます。