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#108

猪俣公章/萬屋錦之介

演歌にほれ抜いた希代のヒットメーカー、作曲家・猪俣公章。
戦後の歌謡界に開いた「演歌」という大輪の花。古賀政男に師事した作曲家・猪俣公章は、演歌ひと筋に歩み、数々のヒット曲を手がけてきました。昭和歌謡「第三世代」の旗手として、変わりゆく日本と格闘しつつも、大衆の心揺さぶるメロディーを書き続けた、その舞台裏に迫ります。
 
●森進一との運命的な出会い、水原弘の復活劇――まだヒット曲のない新人作曲家・猪俣は、デビュー前の森進一と出会い、共にスター街道を駆け上がった。そして、名歌手・水原弘の復活劇に立ち会うことに…。(「女のためいき」「港町ブルース」「おふくろさん」「君こそわが命」など)
●酒と女をとことん愛した無頼派の素顔――銀座での武勇伝にはこと欠かない。酒と女を愛し、ひと夜のロマンに溺れながら、背中合わせのわびしさを歌に込めた。実は寂しがりで甘えん坊だった猪俣。少年時代の思いや、なかなか認められずに苦闘した修業時代に迫る。
●「第三世代」の躍進――古賀政男、服部良一らの第一世代、吉田正、船村徹、遠藤実らの第二世代に続き、猪俣は平尾昌晃、宮川泰、中村八大、いずみたくらとともに、ジャンルを超えた新しい昭和歌謡を築いていく。(「女のブルース」「千曲川」「噂の女」「空港」など)
●演歌新時代へ――勝ち抜き歌謡番組で出会った坂本冬美と、日系三世のマルシア。何事においても対照的な2人の内弟子を、厳しく愛情豊かに育て上げた猪俣。演歌冬の時代にあっても、日本人を揺さぶる歌を模索し続けた。(「あばれ太鼓」「ふりむけばヨコハマ」など)
●周囲を驚かせた結婚と死――19歳下の女性と結ばれ、一人娘を授かった猪俣。そして、訪れた突然の死。歌謡史を駆け抜けた彼が、生涯をかけて残そうとしたものとは…。
 
大らかに艶やかに、日本が一番元気だった時代を体現した作曲家・猪俣公章。時代が激しく変化しても、演歌をとことん愛し抜いた男の生きざまが、懐かしいヒット曲とともによみがえる。
 
 
「生涯役者」を貫いた最後の銀幕スター、俳優・萬屋錦之介(中村錦之助)。
出演映画は150本を超え、日本映画全盛期に東映時代劇を支えた若きエースは、「錦ちゃん」の愛称で今なおファンに愛されている。今回、その華やかな活躍の陰で錦之助の役者人生を支えた「家族の物語」に焦点を当て、波乱の生涯に迫っていく。
 
・映画スター、中村錦之助誕生…父・時蔵との約束
梨園の御曹司に生まれながら、不遇の身に甘んじていた四男坊。映画界入りに際し、父・時蔵は「行くのなら歌舞伎界をやめよ」と覚悟を促した。父子の葛藤と、若き日の決断。(代表作「ひよどり草紙」「笛吹童子」など)。
・東映城全盛期を駆け抜ける…母・ひなの偉大さ
素養に加え、研究熱心さと努力で東映時代劇のエースに躍進。大川橋蔵、市川雷蔵、勝新太郎ら同世代の映画スターとしのぎを削る。その活躍を陰で支えた母・ひなの存在。(代表作「宮本武蔵」「武士道残酷物語」など)

・中村プロ旗揚げと萬屋再興…一門の総帥として
東映を退社して中村プロを設立。理想の映画製作にまい進しつつ、テレビにも進出。亡き父の悲願だった屋号「萬屋」再興を果たし、一門の総帥としておいたちの襲名・後見に力を尽くす。(代表作「祗園祭」「子連れ狼」など)

・闘病と母の死、そして復活へ…
突如、まぶたが上がらなくなり「重症筋無力症」を発病。手術と長い闘病生活。さらに最愛の母の死を乗り越えて、舞台・テレビ時代劇に復活を果たす。そこには、妻・甲にしきの献身的な支えがあった。(代表作「花の乱」など)

梨園育ちであらゆる稽古事をマスターし、その所作や口跡は誰にもまねできない鮮やかさ。まさに「最後の銀幕スター」と呼ぶにふさわしい萬屋錦之介。その輝きを支えた家族・一門の絆の深さ。「錦ちゃん」の生き生きした姿が、懐かしい映画の一場面とともによみがえる。