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#39

藤田まこと ~番狂わせの役者人生~

テレビ放送受信契約数が1000万を突破した、昭和37年。雨後の竹の子のように、新たな娯楽番組が出現したその時代…。コメディーの聖地・大阪から、スターへの階段を駆け上がった男がいた。「俺がこんなに強いのも、あたり前田のクラッカー!」男の名は、藤田まこと。テレビ初主演のコメディー時代劇「てなもんや三度笠」で、64%という驚異の視聴率を獲得。時の人気者へと登りつめた。
しかし、「てなもんや三度笠」終了とともに、藤田の人生も大きく変貌。巨額な借金、キャバレーのステージ回りの日々、そして出会った「必殺」シリーズの中村主水。後年、藤田はこんな言葉を残している。「私が演じてみたいのは、人生経験をしながらダメになっていく男。出世第一主義者より、こういう人生の落後者のような人物の方に、はるかに人間としての魅力があると思うのだ。完全無欠なんて面白くもなんともない。(自叙伝「年をとるのも悪くない」より)
ハードボイルドとコミカル、笑いとペーソス…大衆の心をひきつける俳優・藤田まことには、どんな物語があったのか。今回、人間・藤田まことの魅力にスポットを当て、出世作である「てなもんや三度笠」や「必殺」シリーズの制作舞台裏、当時を知る関係者の証言、役者人生の原点となったエピソードなどに基づき、テレビ黄金時代のニッポン、大衆が求めたものとは何だったのかを見つめ直す。