今回は、小田原市板橋の醤油醸造業を営んでいた「内野邸」を訪ねます。板橋はかつて商家町として栄えた旧東海道沿いの町。今も当時の面影を残す町家が点在しています。中でも今回訪ねる内野邸は最大級の規模を誇り、まさに町のシンボル的存在です。旧街道に面して建つ店構えは重厚そのもの。耐震や防火に特化して造られたと伝わるだけに、堅牢な蔵造りを基調とした和洋折衷の外観は、見る者を圧倒します。小田原では大変貴重な関東大震災前の建物として、平成２９年に国の有形文化財に登録されました。内野家の醤油醸造業としての歴史は明治後期、初代当主・内野種三郎の代から始まります。その後、昭和５５年までのおよそ１００年間、「武功醤油」の名で多くの人々に親しまれました。醤油工場の跡には現在も巨大な樽や圧搾機が残され、店内に残された商売道具などと共に、小田原商家の暮らしを知る上で貴重な資料となっています。主屋の居室部分には上品で落ち着いた和の空間が広がり、内野家の繁栄ぶりを留めていました。現在では商いを閉じましたが、内野家の現当主は、建物や工場跡の維持管理を続けています。往時の板橋を偲ばせる貴重な遺構として、今後も守り続けてほしい名建築です。